パパ黒が親バカだった世界線   作:限界社畜あんたーく 

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今月仕事ギチギチ過ぎんよ〜。
来月もギチギチなので投稿は週一ペースになるかも。


中学生恵編
17.ペッパー君って反転覚えれんの?


 

 2017年4月───京都府立呪術高等専門学校

 近くにある教師用寮にて───。

 

 

 

 

 

 カーテンの隙間から朝日が差し込み、瞼越しに瞳を照らす。

 生温い夢から覚め、重い身体を起こすと一回だけ大きな欠伸をする。そして脳全体に酸素が行き届いたタイミングで、いつもの鋭い眼光へと戻る。

 

 

「───ダリぃ……」

 

 

 開口一番そう呟きつつもベッドから降りると、着ていた寝巻をスルスルと脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 着替えを済ませ朝食を食べ終え、いよいよ仕事へ向かおうというタイミングで、玄関とは真逆の寝室へ向かう。

 そして寝室へ入るとすぐ、頭上にある神棚へと視線を向けた。

 

 寮に備え付けてある神棚はその殆が安物であり、何年も触られていないため埃が何層にも積もっている。だがその中でも唯一、右手前に飾られた小さな写真立てだけは埃を被っていなかった。

 写真立てに入っているのは、学生服を着た恵と津美紀のツーショット。

 それに身体を向けると、静かに手を合わせ目を閉じる。

 10秒間、その短い間にこの世の数多の祈願を捧げた後、パチリと目を開く。

 

「いってくる」

 

 そう小さく呟くと、甚爾は玄関へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 

 呪術高専へと向かう途中、背後からある男が近付いてくる。

 足音を聞くだけでそれが誰かを特定することができる甚爾は、その者に対し面倒そうな溜息を一つ吐いた。

 

「伏黒さん!おはようございます!!」

「…今日も元気だな灰原」

 

 声を掛けてきたのは同じく高専教師の灰原。

 青のライダースジャケットと青のレザーズボン。ジャケットは前のボタンを閉めておらず、中に着ている黒のシャツを視覚的に押し出している。

 学生時代の服装のほぼ色違いなのだが、実際眼の前にするとその身長も相まってかなり大人びた雰囲気を感じる。

 しかし口を開けば熱血灼熱明朗快活。学生時代よりも落ち着きはあるが、熱が冷める気配はない。

 同期の七海を少しは見習ってほしいものだ。

 

「今日は新入生が来る日ですよね!いやー楽しみだなー!」

「俺は全く興味ねぇな」

 

 灰原も甚爾も既に高専に入学する生徒の情報は──書類上ではあるが──既に頭に入っている。

 灰原の場合は「実際に会うのが初めて」だから楽しみにしているのだろうが、甚爾からすれば書類上のデータだけでも十分。それ以上知りたいようなことは一切ない。

 

「特に僕はメカ丸君に興味あるなー!やっぱりロボットは漢のロマン!ですよね!!」

「別に俺は好きでも嫌いでもねぇよ」

「そうなんですか…。あ、そういえばメカ丸君には結局反転術式の習得訓練はするんですか?考えとくって前言ってましたけど」

「それか…効果があるにしろないにしろ、やるかどうかは本人に聞いてからだ。俺一人じゃ決められねぇよ」

 

 因みに反転術式習得訓練を行う際は東京から家入を招集している。当然治療の為なのだが、当人の都合もあるため呼べるのは週に一回程度。それ以外はただの戦闘訓練を行っている。

 

 話を戻すとして、メカ丸が仮に反転術式を覚えられるとしても、それが傀儡操術になんのメリットがあるのか、というか消耗品である傀儡(くぐつ)の方を何度もボコっていいのかという疑問が浮かぶ。

「流石に壊し過ぎなので修理費を給料から差っ引いておきます」とか言われても普通に困るし…。

 

 そんなわけで判断は一先ず本人に聞くまではお預けだ。

 

「…そういやお前、反転術式のアウトプットは出来るようになったのか?修行中だとか聞いたが…」

「いやーそれがダメダメで…」

「そうか。つっても俺は反転術式どころが呪力すら操作できねぇしな。助言もなんも出来ねぇが…まぁ頑張れ」

「はい!」

 

 そんな他愛もない話を続けていると、ようやく高専への入口──正門へ入るための階段が見えてくる。百数段ある石階段はそれぞれ段差の高さと幅が異なり、一歩一歩着実に体力を毟り取る設計になっている。

 だが甚爾と灰原は息が上がることはもちろん、会話が一瞬でも止まることすらなく、頂上まで辿り着いた。

 

「それじゃあ、僕は生徒達に挨拶があるので、一足先に教室に行ってきますね!」

 

 灰原は校舎へと走り去った。

 甚爾も新入生達に挨拶の一つはしておくべきなのだが…。

 しかしその足は校舎へと向かおうとせず、そのまま突っ立って空を見上げた。

 

 

 

「……ハァァァ……」

 

 

 

 肺が空になるほど、大きな溜息を吐く。

 

 甚爾が京都校にいるのは上層部からの指示だ。

 指示内容は京都校への長期出張。つまるところ、「東京ばかり構ってないで、京都にも来てよ〜」というものだ。

 当然ながら甚爾は恵と離れたくないので、指示を受けるつもりは毛頭無かった。

 

 はずなのだが───。

 

「『いい加減子離れしてほしい』……なんて本人に言われるなんてな……」

 

 文字通りの意味でもあり、言葉通りの意味でもある。

 

 恵のことを、甚爾はいつまでも"子供"として甘やかそうとする。

 だが恵は、甚爾には"子供"ではなく"一人の術師"として認められたいと思っている。

 

 その乖離から思わず漏れた一言。甚爾にとってかなりの衝撃だった。

 

「いつかこういう日が来るのは思っていたが…いざ来たとなると中々辛いな…」

 

 ショックもデカかったが、同時に恵の成長に感慨深くなる。

 痛感した甚爾は子離れする決意を固めた。

 

 といっても「いきなり子離れするぞ!」となるハズも無く。

 というかそもそも甚爾には子離れという概念が存在しないためどう子離れをするのかすらも理解していない。

 

 と、そこで手元に来たるは京都校への長期出張依頼。

 丁度良い機会だと甚爾は一年のみの契約でそれを承諾した。

 それから二ヶ月経ったのだが───。

 

「…早く会いてぇな…」

 

 やはりと言うべきか慣れない。

 いや、慣れる慣れない以前に3日に一回、せめて一週間に1回は会わないと普通に精神が持たない。

 

 一応土日に入ったら爆速で東京に帰るので、恵不足で暴れ回ることは一応防げてはいるが…。将来的に恵が甚爾の下から離れるだろうし、そうなれば一月以上──いやなんなら一年以上会えなくなるだろう。

 

「…それは死ぬ」

 

 5日会ってないだけで身体が震え出すのだ。

 もし一月も会わないようなことがあれば…多分甚爾の四肢は爆散する。

 

 それは防ぎたいところではあるが……しかしそれは逃れられない運命(ディスティニー)。恵であれば必ずその未来は来るだろう。いつまでも嫌だと言ってはいられない。

 そろそろ覚悟を決めなければ。……でも今月はまだいいでしょ。

 

 

「……よし、そろそろ行くか」

 

 

 ほんの少し、キレの戻った瞳で校舎を見ると、止まっていた足を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達への挨拶を適当に済ませ、早速実戦用の砂場へ向かう。

 生徒は東堂を除き、あまり乗り気ではなさそうな表情を浮かべている。当然といえば当然だろう。

 

 だが、流石の甚爾も今回ばかりは鬼ではない。

 入学したての新入生を半殺しにするのは流石に問題があるだろうし、何より今日は家入を呼んでいないので治癒ができない。

 

 そのため甚爾が行うのは、普通の、極一般的な戦闘訓練だ。

 

 

 ───甚爾目線の話だが。

 

 

 

 

 

 

 実戦用の砂場。

 甚爾にとっては仕事場、生徒にとっては拷問場であるその場所に、甚爾達は集まった。

 

 甚爾は肩から腰にかけた格納呪霊から、特級呪具「万里の鎖」を取り出すと、持っていたナイフ状の呪具をカラビナで取り付ける。

 呪具はわざと刃こぼれさせており、触れても切れることはない──かといって怪我をしない訳では無いが。

 

「早速だが一年共、お前ら三人で俺を倒してみろ」

『倒す…とワ?』

「倒すというか…そもそも触れることすら無理じゃない?」

「え?そんなに強いんですかこの人?」

 

 三輪にそう聞かれた真依は難しい顔をする。

 

「私も人伝だから詳しくは知らないけど。実力は化け物クラスらしいわ」

『詳しいナ』

「親戚だしね。実際に会ったのは今日が初めてだけど」

 

 へー、と二人は思ってもいなさそうに感心する。

 そのタイミングで甚爾は鎖をジャラ…と少し鳴らし視線を集めた。

 

「そうだな…オマエらの内誰か一人でも俺に傷を付ければその時点で勝ち。そっちは戦闘続行が不能になった時点で負けだ」

「傷を付けたら勝ち…?」

 

 いくらなんでも舐め過ぎだ──そう言おうとしたタイミングで、背後で腕を組んでいた東堂が声を張る。

 

「伏黒先生(ティーチャー)。それでは少々、勝ち目が薄いのでは?」

 

 よくぞ言ってくれた──そう相槌を打とうとしたのも束の間。

 

 

「確かにそうだな…なら、俺はこの場から動かねぇで戦うか」

 

 

 甚爾は膝を手で打ちそう宣言する。

 何言っているんだ──と東堂の方を見るが、東堂もそれで納得したのか頷いている。

 

「ほ、本気なんですか?!」

「私も初めて先生と闘った時は同じことを思ったよ。……懐かしいな、あの頃が…」

「そうね…あの頃の、自分の血なんて数えられる程度しか見て無かった自分が懐かしいね…」

 

 遠い目をして青空を眺める加茂と西宮。

 自分もいつかこうなるのか…と震え上がる三輪と真依。

 

『だガ、ヤツはその場から動かないのだろウ?三輪は兎も角、俺と真依は遠距離での攻撃が主体。倒すことが不可能だとしてモ、傷を負わせる程度なら困難なことではないハズダ』

 

 冷静なメカ丸の言葉に若干の落ち着きを取り戻す二人。

 しかしその背後で素敵な笑みを浮かべる二年ズに、メカ丸は嫌な予感しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

「じゃ、早速かかってこい」

 

 右手で鎖を回し、左手でクイクイと三人を煽る。

 

 甚爾のその挑発に対し、真っ先に飛び出したのはやはりというべきか、メカ丸だった。

 

「扱いやすいなお前」

『挑発に乗った訳じゃ無イ。この中で一番勝率が高いのガ、俺だと判断したまでダ』

 

 前進していたメカ丸だが、その足は甚爾と20m程の位置で止まり、右手を甚爾目掛け突き出した。

 

『この距離ならバ、確実に当たル』

「へー。なら本気で撃てよ。その方が盛り上がる」

『勝ち戦に本気で挑む程、俺に熱はなイ』

「あっそ」

 

 掌が開き、その中に光が集中する。

 激しい熱気と呪力がメカ丸の右手に集まる中───

 

 

大祓砲(ウルトラキャノン)ッッ!!!』

 

 

 高密度の光が放たれ─────

 

 

 

 

 ───メカ丸の右腕が一瞬で砕け散る。

 

 

『なニッッ!?!?』

 

 

 右腕を通過した銀色の影。

 その正体は鎖───0.02秒前まで甚爾の手に握られていたソレが、メカ丸の右腕を粉砕していた。

 

「もう少しギリギリを狙いたかったが…俺はチキンなんでな。許してくれ」

 

 何を言ってるんだコイツ?と最早呆気にとられてしまう。

 

 音速以上の速度で鎖を、それも正確に狙ったという事実もそうだが、それを為して尚平然としていられるのが化け物という他ない。メカ丸からすれば十分すぎるほどの神業なのだが…思わず戦慄してしまう程の余裕ぶりである。

 

『警戒はしていたガ……まさかこれほどとハ…』

 

 破壊された右腕を見ながら、呻くように呟く。

 

「もう10m離れてれば、結果は変わったかもしれねぇがな」

『寧ろ30m以内ならば結果は変わらないのだナ』

 

 チラリとメカ丸が真依と三輪の方を見るが、二人共戦意を既に喪失している様子。メカ丸の腕が粉々に吹き飛んだ所を見たので、当然の反応とも言えるが。

 

「つまんねぇな。お前等の先輩はもっと気概があったぞ?」

「それは東堂だけですよ」

「私達はただ東堂君に無理矢理付き合わされただけです」

「そうだったか?」

 

 尋ねるように首を曲げると、東堂以外の二人がブンブンと勢いよく頷く。

 東堂は無理矢理付き合わせた記憶は都合良くないらしく、不思議そうな態度を取っている。…正直虐めている側の甚爾もムカツク態度である。

 

「ま、これが俺の仕事なんでな。悪く思わないでくれ」

 

 そう言い切った所で、丁度甚爾の携帯から着信音が鳴り響いた。

 六人に断りを入れてから携帯を取り出すと、なんと電話の相手は相手は愛しの恵からだった。

 

「恵!?」

「…恵?」

 

 思わず大きい声を出してしまう甚爾。

 対して恵を知らない1年3人は首を曲げ、逆に知っている──というか甚爾に無理矢理理解させられた──二年3人は不思議そうに甚爾を見た。

 というのも甚爾の話では、甚爾から電話を掛けることはあっても、恵から電話が来ることは滅多に無いらしいのだ。…尚、単に会話をしたくないだけでは?と聞いた加茂はメッタメタに殴られたらしい。

 

 そんな三者三様の反応を取る中、甚爾は心を落ち着かせ携帯を耳へ近づける。

 

「どうした恵。何かあったのか?」

『…津美紀が倒れた』

「津美紀が?何が原因だ?」

『まだ病院で検査を受けてるから詳しくは分からない。…けど五条先生曰く、恐らく呪いが原因らしい』

「呪い…」

 

 呪術の世界では、原因不明の呪いにかかること自体は割とよくある話である。

 基本的に心霊スポット巡りや廃校探検が主な原因だが、津美紀の性格的に一人でそのような場所に行くとは考えにくい。友人と一緒に向かったのか、或いは偶然何かの拍子に呪われてしまったのか。

 

 ただ気になるのは、六眼を持つ五条ですら「恐らく」という曖昧な言葉を使っていることだ。

 呪いを呪いだと断定することは素人の術師には難しいが、熟練の術師──それも五条クラスであれば一目見ただけでも特定することができるはず。

 とすれば、呪いと断定できない何か──裏がありそうだ。

 

「…分かった。俺も今すぐ東京に戻る。恵は津美紀の側についてやってくれ」

「分かった」

 

 携帯を懐に仕舞うと、電話の内容を大体聞いていたのであろう6人へ向く。

 

「聞いてた通りだ。今から俺は東京へ帰る。お前らは適当に自主練でもしとけ」

 

 そう言い放つと生徒達へ背を向け───たが、走る前に言い忘れたことがあったので首だけ後ろに曲げる。

 

「それと加茂、灰原に事情を説明しといてくれ」

「なんでわたs」

 

 加茂が言い終わる前に、砂煙のみを残して走り去った甚爾。

 

 

 6人が呆気にとられる中、密かにガッツポーズを取るものが何人か居たのは内緒である。

 

 

 

 




『…デ、恵とは誰ダ?』
「それはだな…」
「やめておけ加茂。恵に関する説明は伏黒先生(ティーチャー)がその内行うだろう。その機会を潰すのは野暮というものだ」
「そう……いや、今説明を聞いても伏黒先生の説明が無いだろう」
「何を言う。伏黒先生(ティーチャー)が恵を語る際の、熱き情熱!深き感動!それに事前情報なぞ、上等な料理にハチミツをブチまけるが如き思想!!」
「ゲテモノの間違いじゃない?」
「少なくともアレを上等な料理とは、私は呼びたくはないな」
『……そこまで言われると寧ろ興味が湧くのだガ』
「やめておけ。いや、本当に」




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