孔に呼ばれ、近場のバーガー屋へと赴いた甚爾と恵。
近場といっても徒歩一五分程は掛かる。その上恵も連れているため、恐らく倍近い時間が掛かると予想される。
「…これだから外は嫌いだ」
恵を連れて歩く甚爾の姿は、傍からすれば893か不審者にしか見えない。
棘のように刺さる視線に若干嫌気が差しつつも、信号の先に見えたその店へとその足を伸ばした。
店内の角に鎮座するテーブル席。そこにスーツ姿の孔がいた。
恵を連れてその席まで向かうと、早速席へと腰を掛ける。
ちなみに恵は膝の上だ。
「で?ここまで呼んだ用件は?」
孔が呼ぶ時は何か要件があるときだけ。
先程の依頼の件はないとして、それ以外に何か頼みたい仕事があるのだろう。
恵の分のバーガーセットを頼みながら孔を見ると、何故かキョトンとした顔で見られた。
「別にないが…電話で言ったろ?ただ飯が食いたかっただけだ」
「はぁ?お前に限ってそんなことねぇだろ」
「お前俺を何だと思ってるんだ?それに、お前が「殺しはやめた」って言ったんだろうが。フリーターに殺しの依頼なんざ出さねぇよ」
確かにその通りだが…と甚爾は首を傾げる。
昔から仕事か地獄でしか甚爾とは付き合わないと言っていた孔が、まさかそれを曲げてまで会うだろうか。
物腰は柔らかいが一度決めたことは死ぬまで曲げないのが孔という人間だ。だからこそ信用できるし信頼できるのだが…。
「それに恵の顔を一回拝んでおきたかったからな」
「それが本命か?」
「大正解。しかしお前から生まれたとは思えない程いい面してんな」
「だろ?」
「いやそこは少しでも否定しろよ」
間接的に自分の顔を貶されたのだ。普通であれば否定するところなのだろうが、甚爾は心の底からそう思っているため嘘でも否定する気はない。
呆れる孔を無視し届いたバーガーを頬張る恵に癒されていると、そうだと孔は何か思い出したかのように手を打つ。
「そういえば、お前恵を高専に送るためのツテを作りたいんだろ?ならよ、そっちの当主様にでも頼めばいいんじゃねぇか?」
「馬鹿言うな。あの家からは俺の足で出たんだ、今更戻って頼み込みなんざ死んでも嫌だね」
──変にプライドの高い人間だなコイツ。
孔は顎に手を置き別の手を考える。
禪院家に頼めない──正確には頼みたくないとなると、手段も確実性も少なくなる。
「他の御三家──例えば五条家はどうだ?」
「五条家?あのな、同じ御三家だからって簡単に敷居跨げるほど親密な関係じゃねぇんだよ。ってか、仮に五条家に頼むとしてもだ。俺が頭下げることになんのはあの六眼のガキだろ?」
「嫌か。なら加茂──」
「上層部と密って噂じゃねぇか。恵が染まったらどうすんだ」
「だよな」
孔はうーむと唸る。
御三家は全滅。他に頼れる手となると高専関係の呪術師になるが、その殆どは無能か雑魚かろくでなしばかり。恵を安心して預けられる者は一握り、否最早いないまである。
「そもそも御三家以外は諸々の手続きが面倒だからな。しかも親が元呪詛師のお前じゃな。金で術師も雇って全部解決ならまだ楽だが、途中でトンズラこかれりゃ全部パーだ」
「安心しろ。そうなったら俺がソイツを末代にしてやる」
「お前ならやりかねんな…やっぱりそっちの当主に頼み込むのが一番だろ。元とはいえ禪院家の端くれ、その立場利用しなきゃ損だ」
「だがなぁ……」
「じゃあ強いて言うなら、御三家の中で頼むとしたらどこだ?」
甚爾は頭を抱え悩む。
「………加茂家はナシ。五条家はマシだが、アレに預けんのは気が引ける」
「ということは消去法的に言や、禪院家になるってことか。…けどよ、そんな言う割には当主とは仲いいんだろ?」
「仲がいいわけじゃねぇ。アレが唯一マトモだっただけだ」
マトモといっても、一般の視点から見れば下から数えたほうがマシな部類なのだが。
それでも他のカス共と比べれば十分すぎるほど人ができている。
「いいじゃねぇか、それに他の手段は嫌なんだろ?」
「だがな…うー。むー…」
「……恵の未来と自分のプライド、どっちが優先なんだ?」
「ふざけんな恵に決まってるだろうが!」
机を拳でドンと叩きながらそう叫ぶ。
内心ビクッとしつつも、孔は甚爾の心に未だ迷いがあるのを見抜く。
「じゃあ本人に聞いてみたらどうだ。恵はどこがいい?」
「え?えーっと!…えーっと……どこって、どこ?」
それまですっかり話を聞いていなかった恵は、口元のソースの汚れを拭きながら甚爾の方へ困り顔を向ける。
一瞬浄化されそうになった甚爾。だが鋼の意志で元の心を取り戻すと、笑顔で恵へ対応する。
「恵がお世話になる人のところだ。父さんの父さん…恵にとってはおじいちゃんか?そのおじいちゃんとスゴーイ親戚のお兄ちゃん。恵はどっちがいい?」
正確には禪院直毘人の方が親戚であり、五条悟は最早赤の他人なのだが。しかし恵にも伝わりやすく言うのであれば、まぁ最適な回答であるだろう。
我ながら完璧な択を出せたと悦に浸っていると、すると恵は目元に涙を浮かべ始める。
「…パパどっか行っちゃうの?」
甚爾はどこからともなく取り出した釈魂刀を自分の首筋へと近づける
「ごめんな恵。子を泣かせるなんて親失格だよな」
「ちょっと待て早まるなただの勘違いだ。恵くん、君の父さんはどこにも行かないとも。ただ君のおじいちゃんと親戚のお兄ちゃんに、ちょっとだけ力を借りるだけさ」
「…ほんと?」
「ほんとだ!絶対だ!指切りげんまんで約束してもいい!!」
釈魂刀を仕舞いながら、恵と指切りをする甚爾。
なんとか窮地は脱したか、と孔は額に浮かんだ汗を拭いながら溜息を吐く。多分寿命が5年は縮んだ。
「じゃあ僕、じいちゃに会ってみたい!」
「そうかそうか!じゃあおじいちゃんに一回会ってみるか!」
甚爾は携帯を取り出すと連絡リストの一番下に位置するその名へとカーソルを合わせ、迅速にメールを送る。
その指の速度は残像すら残るほどで、携帯から鳴っているとは思えない程のガガガという連打音が店内に木霊する。
「会うのは……駅近くの居酒屋なんかでいいか」
「あそこの居酒屋のタコの唐揚げ不味いよな」
「そうか?頼んだことねぇから分からん」
打ち込み終えると、そのままメールを送る。
恵がいつの間にか頼んだ、3人分のデザートパンケーキを眺めながら、二人は直毘人からの返事を待つ。
「会うのはいつにしたんだ?」
「明後日の18時半だ」
「いやそれでも早いな。それに何年も連絡取り合ってないんだろ?仮にも当主なんだし流石に忙s」
「返事きたぞ」
「…流石最速の術師だな」
最速の術師と返信速度は多分関係無い。大方このメールの着信音で起きてそのまま返したとかだろう。
約束は取り付けたので、後は時間が過ぎるのを待つだけ。あまり気は乗らないが、恵のためだ。
家で待つか──そう考え退席しようとしたが、恵が頼んだパンケーキがまだ2人分余っていることに気づく。
「恵が頼んでくれたんだよな?」
「うん!」
「仕方ねぇ、食べるか…」
「よく食う気になれるな…」
恵が頼んだパンケーキはハチミツと生クリームのパンケーキ。
ただでさえ甘ったるいシロップが掛けられているのに、その上から追い打ちをかけるかの如くハチミツとバター、生クリームが乗せられている。比率は最早パンケーキが負けているほどだ。
流石に孔は食べる気になれないのか、そのパンケーキを恵へと近づける。
「恵、パンケーキいるか?オジサンダイエット中で食べれないんだ」
「いいの!?ありがと!!」
恵は受け取るとすぐに頬張り始める。
フォークの使い方はあまり成ってはいないが、あまり周りを汚さずに食べれているだけ十分上手と言えるだろう。
「しかし禪院。二年前にも言った気するが、ほんと変わったよな。別人みたいというか、もうほぼ別人だ」
「そうか?変わった実感は無いんだが」
「傍から見りゃ、唐辛子からこのパンケーキぐらい変わってるぜ」
「なんだ?前の俺のほうが好みだったのか?」
「いや?むしろ今のお前のほうが人間味あって好きだぜ?」
クサイ笑みを浮かべる孔を鼻で笑うと、まだ8分の7以上残っているパンケーキにフォークを突き立てる。
「そんなに食べたくなかったら残してもいいだろ」
「恵が頼んでくれたんだ。神が許しても俺は許さねぇ」
「あの禪院が殺しより飯食うことに苦労してるってのがもうな」
「弱くはなってねぇはず……だ」
すると甚爾の膝の上でパンケーキを食べていた恵は、口元をクリームで汚しながら大きく叫ぶ。
「オジサン!!」
「パパの名前はぜーいんじゃなくてとーじ!間違えないで!」
フォークの先を孔の顔めがけ突きつけ、満更でもないドヤ顔を決める恵。
急なことで驚いたものの、孔は笑うとその訂正をキチンと受け入れた。
「そうだな。お父さんの名前は甚爾、禪院甚爾だな」
「…伏…黒、だ」
「ん?」
「…今は伏……黒…だ」
「なんだその喋り方」
「………ッハァ!ハァハァ…悪い、今肺と心臓が二、三個破裂してた」
「…やっぱ弱くなってねぇか?」
同時刻──
「傑、監視に出してる呪霊は?」
「冥さんみたいに視覚共有できればいいんだけどね。それでも異常があればすぐに───
──クシュン!」
「昨日扇風機つけっぱで寝たろ」
「……多分ね」
今日は多分投稿ないかも