パパ黒が親バカだった世界線   作:限界社畜あんたーく 

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スイカゲームにハマってました(自白)





18.呪いVS親バカ

 

 京都から走って東京まで向かった甚爾。

 流石の甚爾の身体能力を持ってしても京都から東京までは一時間以上は掛かり、──とはいえ十分速い方なのだが──着いた時には太陽が真上に達する頃合いだった。

 

 

 若干の空腹感に苛まれつつも最寄の病院に着いた甚爾。

 入口から入ると丁度視線の先──受付の横にあるベンチには、恵と五条が神妙な面持ちで座っていた。

 二人は甚爾と目が合うとすくと立ち上がる。

 

「父さん…」

「津美紀は?無事なのか?」

「あまり芳しくはないね」

 

 五条はそう言うと顎でエレベーターの方を指す。

 取り敢えずついてこい、と言っているのだろう。手続きを行うと早速エレベーターへ乗り込んだ。

 

 

 

 

「呪いは人の数だけある。当然解くための手段も同様、元を断つだけの簡単な呪いもあれば、固結びされた幾本の紐を全て解くような難解な呪いもある」

 

 病室へ向かう途中、五条は指を立て解説を始める。

 呪いに関しては甚爾も恵も知識が浅い。聞いておいても損は無いだろう。

 

「津美紀ちゃんがかかったのはその中でもとびきりの代物。しかも根強く結び付いてるせいで無理矢理解くのも至難の業。その道のプロでも解呪は難しいだろうね」

「そんなに強力な呪い、放置しておいて問題は無いんですか?」

「現状はね。ただ呪いも様々だからね。何かのキッカケで…それこそ最悪な未来になるかもしれない」

 

 五条の説明により、二人の脳裏に「死」の一文字が過る。

 二人の顔に曇りが差す。

 

 だが甚爾もそう安々と絶望を抱くほどヤワではない。それに目の前に御座すは現代最強の術師。何か解呪の方法は考えているはずだ。

 

「で?解呪の手は?」

「勿論ある…けど正直、100%呪いを解けるかは怪しい」

「そうか…」

 

 津美紀とは十年近く一緒に過ごしてきた。流石の甚爾にも家族の情が湧く。

「出来れば救いたい」や「恵が悲しむから助けたい」等の余分な感情を含まない。

 

 

 "禪院甚爾"には持ち得なかった、"伏黒甚爾"の純粋な想いである。

 

 

 強い意思を胸に秘めると、五条へと視線を戻す。

 

 

「で、その方法ってのは?」

「それはね──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 五条の説明を聞き終えた甚爾は、話を理解できていないような、呆けた顔をする────尚一方の恵は理解した上で困惑とした表情を浮かべている。

 

 暫くして、甚爾はようやく話を理解できたのか、腕を組みながら気味の悪い笑みで五条を向く。

 

「おい五条。お前は海と山、どっちが好きだ?」

「…良ければ質問の意図を聞いても?」

「単に土が好きか塩が好きかってだけだ」

「絶対違うだろ」

 

 五条は溜息交じりに頭を掻く。

 

「いや、別に他に手段がないって訳じゃないよ。ただ今すぐにできて、最も可能性が高いのが《コレ》ってだけで───」

「言い訳は要らねぇよ。取り敢えずその首切らせろ」

「いや話聞けよ。…さっき言った通り、僕も別にこの方法を強制してる訳じゃない。今すぐ呪いを解くか、時間が掛かってでも解くか、その違いしかないわけだしね」

 

 面倒そうに説明する五条。

 その姿にむかっ腹は立つが、一先ず冷静に深呼吸をする。

 

 拒否権は甚爾にある。

 津美紀が眠っている以上当然の権利であり、断ることは容易だ。

 

 しかし五条の言う通り、何かのキッカケで呪いの進行が進み、最悪な未来へと行き着く可能性がある。逆に何も起きない可能性もあるが、だからといって視野に入れない程甚爾も馬鹿ではない。

 

 当然ながら時間を掛ければ掛けるほどそのリスクを招く危険がある。そのため即座に解呪できる"件"の方法を、この場合はするべきなのだろう。

 

 だが、甚爾の理性が()()を拒絶する。

 十年前の自分であればいとも容易く行うのだろうが、生憎今の甚爾にはそれ程の冷酷さは持ち合わせてはいない。

 

 

「…だが…」

 

 

 ここで断って、本当に良いのだろうか。頭を抱え悩む甚爾。

 

 すると丁度、そのタイミングで津美紀の居る病室の前へと辿り着く。考える暇はどうやら無いらしい。

 

「で、どうすんの?僕はどっちでも良いんだけど」

 

 考え、悩む甚爾。

 正直な所、既に答えは出ている。ただ、それを実行に移す覚悟が甚爾には無い。

 

 口元に手を当て、肺から空気を絞り出す。

 

「………悪ィ、俺は───」

 

 

 

 と、五条に断りを入れようとしたタイミングで、横から甚爾を抑えるように、恵が手を差し出した。

 

 

 

 

「俺がやる。父さんにだけ辛い思いはさせられない」

 

 

 

 

 ハッとした顔で恵を見れば、瞳には覚悟の光が据わっていた。拳もギュッと固め、震える唇を見せまいと噛み締めている。

 息子の成長。息子への愛情。

 心中に湧く喜びの感情。いつもであれば狂喜乱舞を繰り広げるところだが、それよりも先にある感情が心を染める。

 

 

 ───情けない。

 

 

 本来"コレ"は、甚爾がやるべきことである。親である甚爾が、誰にも茶々を入れられず堂々と受け入れるべきことであった。

 なのに甚爾が地団駄を踏んだせいで、恵に気を遣わせてしまった。

 親としてこの上なく恥ずべき行為だ。

 

 

 

「……ごめんな、恵。気ィ遣わせちまってよ」

 

 

 

 恵の手を優しく退かすと、頬を両手でバチンッ!と叩き、身体に喝を入れる。

 

 ───二度とそんなことは言わせねェ。

 

 茹でダコよりも赤く咲いた紅葉を無視して、決意と覚悟で煌めく瞳を五条へ向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいぜ。その話受けてやる」

 

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 

 呪術高専東京───その地下にある安置室には家入と甚爾、そして解剖台の上で横たわる津美紀の姿があった。

 流石に病院で解呪をやるわけにはいかない───正確には解呪ではなく解呪の方法が原因なのだが───。それに、こちらの方が設備も整っている。

 アレをやるならこちらの方が色々と都合が良い。

 

「…本当にやるんですね」

「二言はねぇ。さっさと取り掛かるぞ」

 

 あまり乗り気ではなさそうな家入を無視し、肩に掛けた呪霊から特級呪具「天逆鉾」を取り出すと手元でクルクルと回転させる。

 

「……思ったんですけど、別に伏黒さんがやらなくても良かったんじゃないですか?別に私一人でも出来ますよ?」

「あ?……………あ」

 

 まるで思いつかなかったのかハッとした顔で天を仰ぐ甚爾。

 

 

 五条から提案された解呪の方法。

 それは天逆鉾で津美紀を串刺しにする──というなんとも残虐的なモノだった。

 

 

 天逆鉾は術式の強制解除が行える。当然それは呪いにも有効であり、理論上は一突きするだけでも解呪は可能である。

 

 だが五条も説明した通り、津美紀の掛かった呪いはその道のプロですら困難な程。その上呪いは基本、被呪者の命が続く限り継続し続ける。そのため天逆鉾を一回刺しただけで処理できるか否かは、実際に試してみなければ分からない。

 

 だからこそ、五条は家入の反転術式に物を言わせた、"一度で無理なら解呪出来るまで刺せばいいだろ作戦"を提案したわけだが───。

 

 

 確かに考えてみれば、別に天逆鉾を刺すのは甚爾でなければならない、なんて訳は無い。使用者が限定されているわけでも、扱いにこれといって腕力が必要なわけでもない。

 それより寧ろ、家入が一人で行った方が意思疎通を行わない分効率も良い筈。

 

「選択ミスったか…」

 

 だが来てしまったものは仕方ない。

 それに、あまり人に自分の呪具を───特に特級呪具を貸し出すマネはしたくはない。破損のリスクもそうだが、何より貸し出している間甚爾の手札が一つ減るということは、直接的に甚爾の戦力を弱めるということだ。

 特に天逆鉾は五条さえも倒す可能性のある呪具。それを場合によっては一日だけとはいえ失うというのは、かなりの痛手と言える。 

 まぁ、その戦力が弱まっている一日の間に、甚爾達の生命を脅かすような、大事件が起こるわけはないのだが…。

 

「……まぁ、いいか」

「あのミゲル?さんが来るのを待つという手段もありますよ?」

 

 ミゲルは天逆鉾と同じく術式に直接干渉できる効果を持つ黒縄を持っている。

 天逆鉾では津美紀を直接刺さなければならないリスクがあるが、

 黒縄の場合はただ縛るだけでも効果がある。反転術式で治癒が間に合わなかった場合のリスクも考え、本来はミゲルを呼ぶ予定だったのだが……。

 

 ミゲルは孔曰く一週間程何処ぞの国の王子のボディガードを頼まれているらしく、日本に来るのは最低でも二週間弱掛かるのだとか。

 流石にそこまで待っていられないので足代わりに五条を使おうとしたが、生憎五条には宮城県へ出張する予定があった。

 

 どちらにせよミゲルを呼ぶにはそれなりの時間が掛かってしまうわけだ。

 

「それまでに悪化しないとも限らねぇ。それなら、とっととやるのが先決だろ」

 

 それまで待つぐらいならすぐにでも治療した方が良い。

 津美紀の安全のためにも、甚爾や恵の心の平穏のためにも。

 

 すでに覚悟は決まっている。

 

「いいんですね?始めますよ?」

「さっき言ったろ、二言はねぇって」

 

 首に掛けたマスクと頭巾を被るとギュッと縛る。

 そして天逆鉾を構えると、津美紀の無防備な肌へと近づけた───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高専の待合室で待つ恵。

 焦燥と不安により震える手を抑えながら、姉の無事を強く祈る。

 

 特別仲が良い訳ではなかった。

 寧ろ邪魔に思うことが多々あり、喧嘩をした時なんかは目障りだとも思ったことがある。

 

 だがその一方で、人として強い尊敬を抱いていた。

 絵に書いたような善人。自分の不幸より人の幸せを願うの姿勢に、自分にはない光を感じた。

 

 誰よりも幸せになるべき人。

 誰よりも救われるべき人。

 

 その光は誰にも奪われてはいけない。

 

 守り通す。家族として。呪術師として。

 そう恵は誓った。

 

 

 

 だが───津美紀は呪われた。

 

 

 

 不平等という現実のみが平等に降り掛かる。

 呪術師として生きる上で、その覚悟はしていたはずだった。

 

「………頼む……」

 

 神などいない。奇跡は信じていない。

 

 しかしこの瞬間だけは、神にも奇跡にも縋る思いで祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一心に祈り続けること一時間────遂にその時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 背後の扉が開く。

 焦る心の動くままに、勢いよく立ち上がり背後へと身体を向ける。

 

「津美紀──ッ!!」

 

 

 

 恵が振り返るとそこには─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま…で合ってる?」

 

 

 ────そこには甚爾の押す車椅子に座った、しかしいつもとなんら変わらない笑顔を浮かべた、津美紀の姿があった。

 

 

「えーっと…友達と肝試しに行ってからの記憶があまり無いんだけど…もしかして、迷惑掛けちゃった?」

 

 

 不安げな表情を浮かべる津美紀。

 

「……あぁ。本当に、いい迷惑だったよ」

 

 対して熱くなる目頭を抑えながら、意地悪な笑みで返す。

 

「そこは男前に言ってよ」

「して得でもあんのか?」

「損得で動く男はモテないよ」

「別にモテたくねぇよ」

 

 普段と何も変わらない、特別でもないただの会話。

 なのに、その会話すらどこか心に染みるものがある。

 

「…で、その車椅子は…?」

「あぁこれ?ずっと寝てたからか、歩こうとすると少しふらついちゃうんだよね。でもすぐに元気になれるって」

「つまりそれまで父さんがお守りってわけか」

「そ。正直私はこの生活が何日続いても嬉しいけどね〜」

 

 頬を少しばかり赤らめながら、チラリと甚爾の方を向く。

 数日振りとはいえ久しぶりに会うからか、表情にも若干の喜悦が見える。

 尚甚爾は面倒そうに頬を掻いている。

 

「俺は仕事放って来た身だからな。それに一日もすれば普段通りの生活が送れるって話だ、暫くしたらすぐに京都に戻るからな」

「えぇ〜〜〜………」

「文句言うな。それに、俺も好きで離れるわけじゃねぇよ」

 

 津美紀の頭を撫でながら優しく宥める。

 恐らくこれで許してくれ程度の認識で甚爾は撫でているのだろうが──当の本人は蕩けそうな表情で満悦している。

 本当にさっきまで呪われてたヤツの姿か?

 

「そういえば、お父さんは京都から私の様子をわざわざ見に来てくれたんだよね。結構時間…とお金も掛かったんじゃない?」

「あ?…あぁ、まぁな。娘が倒れた手前惜しむ必要もないだろ」

「そっか……」

 

 あくまで津美紀にはただの教師という設定を突き通しているので、超人らしく走ってきたとは言えない。だが見栄を張る訳では無いとしても、嘘を吐いたという事実には若干の罪悪感を感じる。

 呪術師のことを言えない手前仕様がないことではあるのだが…。なんとも歯痒い限りである。

 

 

 

 

 

 

 それから時間が過ぎること三十分。

 

「…そろそろ戻らねぇとな。これ以上時間掛けるとアイツが五月蝿そうだしな」

 

 時計を覗いた甚爾は二人から離れ扉へ向かう。

 物悲しそうな視線でその背を見る津美紀。

 だが涙は見せまいと静かに呼吸をすると、元気よく手を振った。

 

「いってらっしゃい!」

「応」

 

 後ろに手を振りながら、そのまま待合室から退出する甚爾。

 

 甚爾が席を外して暫く、二人には静寂が走っていた。

 といっても、何の音沙汰もない訳では無い。例えば津美紀が車椅子から立ち上がり試しに歩いてみたり、若干転けそうになって恵が心配の声を掛けたり、そういった一悶着は挟まれたりはした。

 

 だが、それでもいつもと比べると会話がかなり少ない。

 只単に気まずいだけではあるのだが、それ以上にやることが無い。

 学校には休むと伝えているので戻る訳にも行かないし、かといってこの場に居ても精々が津美紀の歩く練習を見る程度。

 このまま家に帰ってもいいが、それだと車椅子を返す手間が面倒臭い。なのでなるべくこの病院内で時間を潰したいところではあるが…しかしやることがない。

 

 ───暇だ。

 

 だが少しでも有意義な時間を過ごしたいと、静かに掌印の練習をし始める───と、そのタイミングで津美紀が「ねぇ」と口を開いた。

 

「私、お父さんと話してる時、ずっと気になってたことがあってさ。もしかしたら変なこと言うかもしれないけど…いい?」

「?いいけど、そんなに気になることあったか?」

 

 別にいつも通りだったような……と思いながら、目線だけ津美紀の方を向けた。すると何処となくモジモジとした、恥ずかしそうな雰囲気を出し始める。

 

 ───あー、いつもの父さんがカッコいいって話か。

 

 いつものように聞き流そうと、意識は掌印へと向く。

 

 

 

 

 

 

「…あの肩に乗ってた化け物って、恵も見えてた……?」

 

 

 

 

 

 

「あぁ見え……………え?」

 

 

 驚きのあまり、掌印が絡まって指が攣りそうになる。

 

 確かに津美紀の言う通り、甚爾の肩には格納呪霊が乗っていた。天逆鉾を使うため巻き付けていたのは当然、恵にとっては最早見慣れた光景でもあった。

 

 だが問題なのはそこではない。

 

 津美紀は非術師───つまり呪霊を目視することは勿論、感知することすら出来なかった、そのハズだった。

 

 なのに今は呪霊が見えている。

 

 十中八九あの呪いが原因なのだろうが、解呪までに一体何が起きたのか。

 

 

 

 いや、そんなことよりもまず先に考えるべきは───

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ〜ん……やっぱり知ってたんだぁ〜……へぇ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 この状況をどうやって打開すべきか、である。

 

 

「……詳しい話は、五条先生に聞いたほうがいい……俺はナニモシラナイ」

 

 

 そっぽを向いて、すべての責任を五条へ託した恵であった。

 

 

 

 

 

 

 尚数日後、五条含め伏黒家内で家族会議が行われることになるのだが………これはまた別のお話…。

 





???「さーてこの肉体に受肉するまではゆっくりして…イタッ⁉ナニコレ凄く痛イんだけ痛タタ!死ぬ!マジで死ぬ!チョッマジコレ、洒落にならな(遺言)」


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