パパ黒が親バカだった世界線   作:限界社畜あんたーく 

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今更感

尚今回は説明パートです。


19.術師の人ってマトモじゃない!

 

 4月中旬。

 呪術高専東京校に、新しい生徒が転入した。

 

 その名を乙骨憂太。

 彼に憑いている怨霊"折本里香"は無尽蔵の呪力を宿しており、その脅威度は呪術規定にて定められた最大の等級"特級"に分類される程である。

 

 上層部は彼を秘匿死刑にするよう思案していたが、五条の提案により高専で保護、観察することとなった。

 

 

 現状折本里香について現在判明していることは───

 

 ・乙骨憂太を攻撃、或いはその意志を見せた時、その行為を行った対象へ呪いが発動する場合がある

 ・呪いの強弱にはブレがあるが、基本的に攻撃又はその意志の強さに比例して強くなる

 ・本人の意志によってそれを抑えることは現状不可。そのためその場にいる術師によって呪いを対処しなければならない

 

 ───以上三箇条である。

 

 

 

 

「───てなわけで、皆里香ちゃんを刺激しないように気をつけながら、彼と仲良くするように!」

「それ先に言えよ!」

 

 そうとは知らず折本里香によって怪我を負った真希は、頬を撫でながら五条を怒鳴る。

 同じくパンダと狗巻も抗議するが、それを五条は飄々と受け流した。

 

「兎にも角にもこれで一年が四人になったわけだ。つまりそれに伴って、呪術実習は2-2のペアで分かれて行えるようになった」

「いつもは棘と真希との三人一組だったからなー。二人になったら中々歯応えありそうだな」

 

 人数が多いと、それだけ一人あたりの実践回数も減ってしまう。

 かといって一人で向かわせるのは危険も多く、中々厳しいところがある。

 またサポートや後衛の勉強も出来るので、組むのであれば二人一組が最も良いとされている。

 これまでは三人一組、又は棘が単独任務に向かい残ったパンダと真希で組む、という手筈を行っていたが、それも乙骨が来たため解消されたわけだ。

 

「で、ペアは?」

「そうだな…それじゃ、棘とパンダペア、真希と憂太ペアで!」

「げ!」

 

 露骨に嫌そうな顔をする真希。

 乙骨としても真希のことが怖いので、あまり積極的には関わりたくないのだが…致し方なしと腹を決める────

 

「よ、よろしくおねがいします…」

「……」

「………あ、あのー…?」

「オマエ、中学の頃イジメられてたろ」

 

 ───しかし、その覚悟は一瞬で砕かれた。

 

「な、なん…!?」

「図星か。分かるわぁ、私でもイジメるわ」

 

 グサグサと刺さる言葉を更に吐かれ、乙骨のメンタルがズタボロに崩れる。

 

「真希!それくらいにしろ!」

 

 と、そこでパンダが止めに入る。狗巻も同様真希を注意──「おかか!」としか言っていないが──しており、真希は頭を掻きながら「わーったよ」と面倒くさそうに返事をした。

 

「すまんな。アイツは少々他人を理解した気になる所がある」

「……本当のことだから…大丈夫」

 

 そうか?とパンダが首を傾げるも、同様「大丈夫」と返答する。

 

 真希の発言に訂正する余地は無かった。

 全てが正しく、全てが当てはまっていた。

 

 

 ────高専に来た意味…目的……。

 

 何も無い。

 意志も信念も無い。

 

 そんな自分に変わる余地があるのだろうか。

 

 

 

 その疑問は払拭し切れぬまま、乙骨は呪術実習へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『というわけで傑、学校の方に呪霊の手配よろ〜』

『あぁ。…だが、生徒の成長のためとはいえあまり気は乗らないね』

『センセーの拷問よかマシだろ』

『それを京都校の子たちは受けてるんだけどね』

『ヒエー』

 

 

 電子の空間にてやり取りされたメッセージ。

 尚この後、夏油が放った呪霊に真希と乙骨が取り込まれ、危うく真希が死にかけるという事件が発生。

 乙骨が里香を発動させたため解決はしたものの、人知れず夏油に新たなトラウマが刻まれることとなった。

 

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆

 

 

 

 

 

「……?」

「どした憂太?」

 

 

 学校での呪術実習───そして乙骨が里香の呪いを解くと決意した日から早一月。

 珍しくパンダと組み手をしていた乙骨は、ふと視線を反らし校舎の方を見た。

 

 乙骨の目線の先。舗装された石畳の道には、歩く人影が四つあった。

 最前列を歩むのは夏油。そしてその背後──横一列に並ぶのは恵とミミナナの三人組。

 

 恐らく三人は任務に向かうために高専に、そして夏油は三人の面倒見役として抜擢されたのだろう。

 

「夏油先生の後ろの…あの人達は…?」

「えーっと?…あぁ、恵のコトか。そういえば憂太は初めて見たのか。そりゃ知らないハズだわな」

 

 そう言うとパンダは腕を組み「何から話したものか…」と悩む素振りを見せる。

 

「恵?それって手前の女の子?」

 

 恐らく乙骨は察した訳では無いとは思うが、説明するにはうってつけな質問だ。

 

「いや、奥にいるツンツンボーイが伏黒恵。中三だけど既に二級で、単独任務も許されてる。ちなみに真希とは親戚らしい」

「ツンツンボーイって…」

 

 確かに髪が遠目でも分かる程度にはツンツンしているが…。少々失礼ではないだろうか。

 まぁ、それを言い出したら名前だけで女の子だと判断した乙骨も同罪ではあるが。

 

「で、手前から美々子と菜々子。恵と同じ中三で、等級は三級術師。アイツらは傑の親戚」

「前にも聞いたけど、術師の人ってこの界隈に親戚が多いらしいよね」

 

 家族ぐるみで術師というパターンもよく聞くし、それこそ御三家なんかは比較にならない程規模が大きいのだとか。

 

 ちなみに乙骨は御三家という存在に少しばかりの興味を持っている。が、如何せん真希は話したがらない様子であり、五条は聞いても適当に答えるだけ。

 残る加茂家の者にも会ってみたいものだが、二人の様子を見る限り期待は出来ないなと心の何処かで思っている。

 

「有名な術師だかの先祖返りって奴らも多いし。意外と知らないだけで、身近なやつが実は遠い親戚だったってパターン多いらしい。…もしかして、俺に悟の血が流れてたり…」

「…反応に困るボケはやめてよ…」

「すまん」

 

 しかし世間は狭いとよく聞くが、術師となるとそれも日常茶飯事らしい。

 もしかしたら自分も誰かと親戚だったり…?

 

 

 と、そのタイミングで背後から足音が迫ってくる。

 誰だろう?そう思い振り返ると、やけに上の空な様子の五条がいた。

 

 自分達に意識が向いていないのか、それともただ単に気付いていないのか。

 天を仰ぎながらブラブラと歩く様は、まるで浮浪者のようである。

 

「五条先生…?なんというか、『心ここにあらず』みたいな感じだけど…」

「何か悩み事でもあるんだろ。無視だ無視」

「人の心無いの!?」

「パンダだからな」

 

 そういう話ではないのだが…。

 

「それに、特級術師様の悩み事なんて、聞いたところで俺達が解決できるわけないだろ?」

「それはそうだけど…」

「………あ、そういえば憂太は悟と同じ特級か。なら別に聞いてもいいんじゃね?」

 

 掌返しが早すぎる。

 呆れたように溜息を吐いていると、その間にパンダが五条を呼びに向かっていた。

 

「悟〜。憂太が聞きたいことあるらしいぞ〜」 

「…憂太が?別にいいけど、愛の告白なら遠慮させてもらうよ?」

 

 どうやら冗談を言う気力はあるらしい。

 

 五条は乙骨の方へ向かうと「どったの?」と声を掛ける。

 

「さっきから五条先生、なんだか悩んでる様子だったから、何かあったのかなと思って」

「え?…あぁ、大したことじゃないんだけどね。ちょっと考え事してて…」

 

 へらへらと笑いながらそう答える。

 杞憂に済んだか…と安堵する一方、その悩みの種というものに興味が湧いた。

 

「その考え事、というのは?」

「実は九月に姉妹校交流会ってのがあってね。いつもなら東京校と京都校の二年以上の生徒同士が、ガチンコで闘いあう予定なんだけど…」

「…?それがどうかしたんですか?」

 

 すると五条はそこで口を閉じ、上から下までマジマジと舐め回すように乙骨を見始める。

 まるで「君が原因ってことに気づいていないんですか?」みたいなムカツク顔で。

 

「憂太はさ。自分の等級がどれだけ凄いかって把握してる?」

「『特級』のことですか?そのことなら以前、夏油先生との呪術実習で習いましたけど…正直僕には不相応ですよ」

 

 

 夏油先生の話では、特級というのは術師や呪物、呪霊の中でも特に強大な力もを持つ者のことを指すという。

 中でも特級術師は一般の術師との力量差を明確に分かつために、『国家転覆が単独で可能であること』がその等級に選ばれる条件である──という話だった。

 

 尚、これは余談ではあるが───

 前述した条件というのは、確かに強さの指標としては分かりやすいものの、一概にそうとも言い切れない場合がある。

 

 例えば一級術師が特級術師に勝てるほど強くなったとして、その者が特級術師として認められるだろうか。

 答えは否。

 実力では圧倒していても、『国家転覆可能』という条件を満たせなければその者は特級として認められることはない。

 

 では乙骨はどうだろうか。

 確かに特級として認められてはいるが、それは折本里香の危険性を危惧した結果である。本人の技量は蚊帳の外であり、評価の範疇にすら入っていない。

 

 詰まる所、自身に定められた特級の称号は正確には里香の物であり、乙骨自身のことではないわけだ。

 だから──というわけでもないが、乙骨は自身の等級に慢心も自負もしていない。補助監督からはよく「謙虚だ」と言われるが、乙骨はそれが事実であると思っている。

 

 

 ───閑話休題。

 

 自信もなく呟く乙骨の肩を叩くと、五条は慰めるように優しい笑みを浮かべる。

 

「そう卑下しないでよ。それに里香ちゃんの力であれ、君が特級術師であることには変わりない訳だしね」

 

 正直慰めるための回答としては間違っている気もするが…事実であるため受け入れるしかない。

 

「…それで、僕が特級であることが姉妹校交流会で何か問題でもあるですか?」

「というか、そもそも乙骨は一年だから参加しねーじゃん。何で問題発生してんの?」

「パンダの言う通り、()()()一年生は交流会に参加できない予定だったんだけどね〜」

 

 嫌な予感がする。

 今自分が想像した未来にならない可能性もあるが…。と、そんな一縷の望みをかけて聞いてみる。

 

「…今年は、それが違うんですか?」

「うん。二人は知らないかもだけど、京都校の方が生徒の数が多くてね。その人数合わせとして、一年を一人出さなきゃいけないんだよね」

「………まさか、僕じゃないですよね?」

 

 固唾を呑み、か細い希望を一心に強く祈る。

 

 

 

「え?憂太だけど…当たり前じゃん」

 

 

 

 一瞬、辺りから一切の音が掻き消える。

 だが次の瞬間───

 

「いやいやいや!!無理ですよ!!」

 

 その静寂は乙骨の悲痛な叫びによって破られた。

 

「さっき言ったじゃん。『君が特級であることには変わりない』って」

「だから僕を入れたんですか!?」

「うん」

 

 満面の笑みで応える五条。その曇りの無さは怒り恨みよりも呆れが先にくる程だ。

 

 ───ほんとこの人適当だなぁ。

 

 二人揃って五条に呆れた目線を送ると、「そう見ないでよ」と照れるように後頭部を掻いた。

 

「…はぁ。まぁ、僕はいいですけど…こういうことは事前に伝えといてくださいよ…」

「え?僕はコレを当日に伝えて、無理矢理連れてくつもりだったんだけど」

 

 本当のろくでなしとは、この人のことを指すのだろう。

 

 と、乙骨が心の中で呟いていると、ふと五条は素に戻ったように真顔を浮かべる。

 

「なんか肝心なこと忘れてる気がするな。何だろ」

「五条先生が悩んでる理由ですよ。僕も一瞬忘れかけましたけど」

 

 寧ろここまで話しといて、本題が一切進んでいないことに驚く。

 そういえばそうだったね、と五条は呟き、ゴホンとわざとらしい咳をする。そして改めて、乙骨の方へと向き直った。

 

 

 

「姉妹校交流会で里香が暴走した際、その対処役を誰にしようかってことを悩んでたんだ」

 

 

 

「「対処役…?」」

 

 怪訝そうにパンダと乙骨が首を傾げる。

 

 言葉自体の意味は分かるし、対処役を立てなければならない理由も分かる。

 ──が、それよりもまず真っ先にある疑問が浮かぶ。

 

「五条先生じゃ駄目なんですか?」

 

 五条に別の仕事や任務があるのであれば兎も角、無いのであれば五条が里香の対処役を買えばいいのではないか。

 その方が確実だろうし、何より信頼できる。

 

「僕じゃ駄目だ。…いや、別に僕でもいいんだけど。それだと憂太の成長に繋がらないからさ」

「成長…ですか?」

「そう。現状里香は憂太の意思に従わない、いわば暴走状態にある。だからこそ顕現させないように抑え込んでるわけだけど…それがもし自分の意志で扱える、力の加減ができるようになれば、戦闘の幅も君の自由も更に広がる。…まぁ同時に君の危険度も上がるけど」

 

 最後の一言のせいで嫌な予感しかしないが。

 しかし、五条の言葉には小さな希望があった。

 

 里香ちゃんが僕の言葉に耳を傾けてくれるなら───

 

 呪いが解けるかもしれない。

 解呪までの道のりを今より縮めることができるかもしれない。

 

「で、僕だと勝負にならないから、里香にギリギリ勝てそうなラインの術師を呼ぼうと思ってたんだけど……それが難航しててね」

 

 うーむと唸る五条。するとパンダが首を傾げた。

 

「?甚爾呼べばいいんじゃねぇの?」

「そりゃセンセーなら勝てるだろうけど。でもあの人手加減知らないからなぁ。憂太ごと殺っちゃうかもしれないよ?」

「えぇ…」

 

 "甚爾"という知らない人物の名を挙げられ困惑する乙骨。

 話を聞く限りその甚爾もかなりおっかない人のようである。

(前から聞いてたけど…強い術師の人って、ちょっとおかしい所があるのかな…?)

 五条先生然りその甚爾という者しかり。

 唯一の光は夏油先生ぐらいなものだ。

 

「傑はその日別件で用事があるし…けど、()()()呼ぶのもなぁ…でも他に宛もないし…うーん」

「アイツ?」

 

 そう聞くと、五条は腕を組んで難しい顔をした。

 

「ソイツは一応里香にも勝てるポテンシャルはあるんだけど…如何せんねぇ…」

「?何か問題があるんですか?」

 

「それがねぇ…」と中々に渋る五条。

 だが覚悟を決めたのか、それとも何か吹っ切れたのか、溜息を一つ吐く。

 

 

「ソイツさ、僕ですら引くほどのカスなんだよね…」

 

 

「…え?カ…え?」

 

 教師の口から出たとは思えない程の暴言に、思わず瞠目する乙骨。

 聞き間違いかと隣を見れば、赤べこのように頷くパンダの姿があった。

 

「悪い奴では無い……と僕は思ってるんだけどね。実力は確かだし、僕とか傑の言う事はちゃんと聞くし。ただそれを踏まえた上でも、極力ウチや京都校の生徒には会わせたくないかな」

「そんなに…なんですか?」

「うん」

 

 力強く頷く五条。

 恐らく絶対的な自信を持って頷いているのだろうが、こちらからしてみれば不安しかない。

 

「…ま、別にソイツと戦え…なんて強制してる訳じゃないし。そもそも里香が暴走した時の保険として呼ぶわけだから、戦わず終いになる可能性もあるわけで」

 

 確かに戦う前提で話していたが、これはあくまで里香を顕現させた時の話。

 戦わない可能性は大いにある。

 

「どうする?嫌なら別の人呼ぶけど?」

 

 

 

 

 

 

 俯き、考える乙骨。

 

 断る権利は乙骨にある。

 一言「嫌だ」と告げるだけで、この悩みは一瞬で解消される。

 

 だが、乙骨は相手のことを何も知らない。

 どれだけ強いのか。どんな性格なのか。五条やパンダの様子を見る限りある程度予想はできるが、実際に会ってもいない者をとやかく言うのはそれこそ野暮であろう。

 

『百聞は一見にしかず』そのことわざがあるように、「知らない人間だから」「あの人がこう言ってたから」という理由だけで他人を拒絶したくない。

 

 

「…その人でお願いします。里香が暴走するようなことがあれば、その人に対処をお任せします」

 

 

 強く宣言する乙骨。

 パンダは止めとけと言いたげに顔を歪ませるが、対する五条はクツクツと笑いサムズアップを掲げる。

 

「オーケー。でもさっき言った通り、戦わない可能性もあるからね。そんな肩の力入れなくてもいいよ」

 

 深呼吸をしてリラックスする乙骨。

 その様子を見ながら、「あ、そうそう──」と五条が呟く。

 

「ちなみにソイツの名前だけど────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────禪院直哉って名前だから。忘れないでねー」

 

 

 悩み一つ無い足取りでその場から去る五条。

 

 

「禪院…直哉さん……」

 

 

 名前からして真希と同じ御三家の者だろう。

 

 乙骨はその名を噛み締めながら、パンダとの組み手を再開した。




「ちなみにその甚爾さんってどんな人なの?」
「さっき傑と一緒にいた恵の父親でな。元々こっちで教師してたんだが、今は京都の方に出張中だ。ちなみに眼の前で恵のことを褒めると機嫌が良くなるぞ」
「最後の説明要る?」
「死にたくないなら覚えといたほうがいいぞ」
「………え?」
「二年の秤は恵を貶したせいで文字通り半殺しにされてたからな」
「えぇ……」


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