パパ黒が親バカだった世界線   作:限界社畜あんたーく 

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私は寝る(夜勤明け)


20.聞いてたのと違うんですけど…!

 

 姉妹校交流会前日───

 

 交流会に向け新幹線に乗り込んだ乙骨一行。

 フカフカの座席に腰を下ろすと、それぞれ長旅に備え持ち込んだ物を取り出す。

 ある者はトランプ。ある者は駅弁。ある者はアイマスク。

 そしてある者は脳内に作り出したCR真・北斗無双に諭吉を1枚投入していた。

 

 

 それから約三時間───

 

 

 凝り固まった身体を解しながら早速新幹線を降りた一同。

 視界に映る京都の二文字。疲労感と達成感により湧き上がる感情を抑え込みつつ、次に向かう場所はとそれぞれ首を回す。 

 と、その時───

 

「待ってたよー!!東京校生徒諸君!!」

 

 開口一番出迎えたのは京都校教師の灰原と、その背後に並ぶ京都校生徒達。

 

(アレが明日戦う相手…京都校の人達…)

 

 といっても最初からバチバチに火花が散っているというわけでもなく。

 互いに軽く自己紹介と挨拶を終えると、早速宿泊予定の生徒寮へ灰原が案内することになった。

 

(はぐ)れないようにちゃんと付いてくるんだよ!」

『はーい』

 

 乙骨達はそれぞれ持ってきた荷物を運ぶため京都生達に背を向ける。

 

 

 

「乙骨憂太…噂に違わぬ異様な呪力。流石特級術師と言われるだけはある」

 

 背後から掛けられた声。

 振り向けばそこには疵面の男。彼は舐め回すように乙骨を見つめ、満足げな笑みと共に腕を組み頷いた。

 

 ───東堂葵。

 先の挨拶でそう名乗っていた男だった。

 

(この人…相当強い……かも)

 

 190は行くであろう巨大な体躯に後頭部に束ねた黒髪。左目を裂くように残る一筋の古傷。

 だが何よりも、そのワイルドな見た目以上に圧迫感と緊張感を生む歴戦のオーラ。

 同じ学生とは思えぬ立ち姿に、乙骨は思わず固唾を呑んでしまう。

 

 …といっても呪力量は乙骨以下なのだが。

 そこは野暮なので考えないことにする。

 

「そ、そうですけど……」

「フ、そう固くなるな。ただ俺は一つ、聞きたいことがあるだけだ」

 

 東堂は吟味するかのように顎を触りだす。

 勿体振っているのか、それともその『聞きたいこと』とやらを思い出しているのか。何故かは分からないが話し出すのに結構な時間を掛けている。

 その間約数十秒。

 乙骨も「早くしてくれないかな」…と思い始めた頃に、ようやく東堂は口を開いた。

 

「……好きなタイプ。お前の好きなタイプはなんだ?」

「好きなタイプ……ですか?」

 

 唐突だな…と思いつつも、真面目に考える乙骨。

 

 といっても正直な所、乙骨にははっきりとした理想の女性像のような物があるわけではない。

 いや、正確にはやんわりと「コレがあると好きだなぁ」と思えるポイントこそあるものの、それ自体が決め手にはならないだけだ。

 

 好きな女性に拘りがないといえば聞こえはいいが…客観的に見れば、そういった色恋沙汰に興味がないと言う方が正しいだろう。

 

「…拘るようなことは特には…ないんですけど…」

 

 消え入るような声を零すと、東堂からは大きな溜息と失望の面が帰ってきた。

 

「つまらん。つまらんよ乙骨憂太。特級術師と聞き期待した俺が………ん?」

 

 すると、ふとなにかに気付いた様子で乙骨の顔をジロジロと見てくる。

 何か付いているのだろうか。手で払うべきか困惑していると、東堂はするとフッと吹き出すように笑い出す。

 

「……成程成程。前言撤回だ、お前に拘りがないのも頷ける。聞くほうが野暮だったか」

「…はい?」

 

 頭に?を浮かべる乙骨。

 だが対して東堂は満足げな顔で去っていった。

 

 釈然としないまま会話が終わった。

(…本当になんだったんだろあの人…?)

 怒りとも違うが、それに近い困惑の感情が心中を占める。

 

「術師って…ああいう人ばかりなのかな…」

「そう言うなよ。少なくとも、アレ以上はいねぇ…ハズだがな」

 

 背後から特にフォローにもならないコメントをする二年の秤。

 そうだといいんだけど…とすっかり疲れた様子の乙骨は力無く溜息を落とす。

 

「…あ。そういえば秤先輩。直哉さん…って知ってますか?」

「直哉?…あぁ、禪院家のか?てかそれがどうしたよ」

 

 藪から棒にどうした?と秤が目を丸くする。

 

 生徒は乙骨を除き直哉が来ることを知らない。当然このような反応を取られるのもおかしくはないだろう。

 …普通五条が事前に説明しておくべきだろ、というツッコミは一先ず置いておく。

 

「秤先輩から見て、直哉さんはどう…ですか?」

「どうって…あぁそういう。別に、俺にとっちゃただのクズ男だ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」

 

 特に何か思う所は無いのか、詰まることもなく淡々と答える秤。

 嘘は言っているようには見えないため、やはり直哉がそれほどの評価を受ける程の性格であることに間違いはないらしい。

 

「…五条さんはその直哉さんのことを…その、人として何か欠落してる人と言ってまして…」

「素直にカスって言えよ。…だが"アレ"のカス度合いは相手によって変わる。まぁお前には普通に接してくるだろうな」

「?」

 

 秤が直哉のことをアレ呼びしている…という点は一先ず置いておくとして。

 気になるのは『お前には普通に接してくる』という点。

 

(何か、直哉さんをそうさせる逆鱗…引き金?みたいなのがあるってことなのかな?)

 

 恐怖が和らいだような、和らいでいないような…。

 

「…にしても急だな。会う予定でもあんのか?」

「えーっと…それが色々ありまして…」

「ふーん。よく分かんねぇけど、お前も大変なんだな」

 

 話しても良いとは思うが、本人の嫌われようを鑑みるに面倒事が起きる可能性がある。

 流石に乙骨自身そんなこと起きないだろうとは思ってはいるが、念には念を入れておくべきだろう。

 

 それに、これ以上直哉の話題で良い顛末に向かうとは思えない。

 

(…やっぱり、会うの嫌だなぁ…)

 

 しかしここまで来たからには断るものも断れない。

 やる気は一向に上がらないが、そろそろ覚悟を決めなければ。

 生唾を飲み込み拳を固く握ると、駆け足気味で走り出した。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、姉妹校交流会は毎年京都校で行っているんですか?」

「いや、勝ったほうが翌年の交流会の場を受け持つ決まりだ」

「つまり去年の東京校は負け…」

「あーいや、実は何年か前からずっと東京の圧勝が続いてるらしくてな。流石に負星を晒し続けんのも癪ってんで今年は特例として京都校で行なうことにしたらしい。ま、験担ぎみたいなモンだろ」

「成程…でも何年も勝ち続けるって凄いですね」

「まー負けたら何されるか分かんねぇしな。…いや、てか今年はアッチに伏黒先生付いてんのか。こりゃ今年は中々手強いんじゃねぇの?」

「それってどういう…?」

 

 不穏な言葉を残す秤に増々不安の積もる乙骨だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆□◆□◆

 

 

 

 

 

 

 姉妹校交流会当日────

 

 

 京都校に集結した乙骨一向。

 出迎えたのは昨日と同じく京都校の生徒と教師。

 そして両校の学長である夜蛾と楽巖寺。あとついでに五条とマッチョとカスが並んでいる。

 

「いやー、今年は粒揃いですね!」

「灰原君、それ毎年言ってるわよね…」

「え?そうでしたっけ?」

 

 灰原と歌姫の何気ない会話を傍目に、それぞれ生徒たちは顔を合わせて挨拶を交わす。

 といっても基本昨日と大して変わらないが…唯一変化があるとすれば、全員の眼にやる気があるかないか程度だろう。

 

 

「いい加減、こちらも勝ちたいのでな。これまで京都校側が敗れて七年、その積年の怨みを私達が晴らす」

「いつになくやる気だな。まぁ今年はそっちに先生付いてっから当然か。同情はするがこっちも負けるわけにはいかねぇんだ」

 

 両校の三年が静かに火花を散らす。

 

 どちらも甚爾の教育により研磨された精鋭揃い。

 その等級は両校どちらも平均したとて準一級。実力、等級、覚悟共にそれ程の差は両校には無い。

 故に拮抗。どちらも驕ることも昂ることもなく、冷静沈着に闘志を燃やしていた。

 

 

 一方、コチラの二年&一年ズは…

 

「……ハァ……」

「なんか、凄く重いため息が聞こえたんですけど」

「…あぁいや、すまない。……少し、疲れているんだ。気にしないでくれ」

 

 特に燃え上がることもなく──と言うよりは既に燃え尽きているように見えるが──何人か除き、互いにあまり乗り気でない様子で並んでいる。

 

 特に死んだ目の加茂が千鳥足で歩く様は、社畜かゾンビか違う程だ。

 

「金ちゃん、なんだかあっち一人除いて元気無さそーだけど。どうしたんだろ?」

「どーせ伏黒先生の授業のせいだろ。…東堂についてはノーコメント」

「あーそっか、甚爾先生の…え?じゃあ尚更なんであの人元気なの…?!」

「……ノーコメンツ」

 

 東堂は加茂とは真逆で、清々しい程の表情でアップをしている。

 真面目に答えるのであれば、東堂の戦闘スタイルと成長観念、そして元々の性格が甚爾のスパルタ教育と相性が良かった結果なのだろう。

 だが客観的に見れば東堂はドМにしか見えず、また元の性格も相まって綺羅羅達は若干引いた目で東堂を見ている。

 

 

 そんな中、乙骨は東堂達には目もくれず秤達に寄る。

 

「あの、先程からずっと気になってたんですけど…」

「?なんだ?」「なーにー?」

 

 乙骨は五条の方に指先を向けた。

 

「あそこの…五条さんの横に立っている人って誰なんですか?」

「んー?」「なんのこと?」

 

 同じく秤と綺羅羅も五条の方に目を向けた。

 

 視線の先───五条の傍に立つのは二人の男。

 一人は筋骨隆々の腕を惜しげもなく見せつけるジャージ姿の男。

 もう一人は和服を着て右手を懐に収めた、だるそうな目で空を見上げる男。

 

 言わずもがな、前者が甚爾、後者が直哉である。

 

「見んのは初めてか。後で紹介はあるとは思うが…まいいか。あのマッチョが伏黒先生…さっきから噂してた人だな。で、横の着物着たやつが噂の禪院直哉だ」

「あの人が直哉さん………え?あの人が!?」

 

 

 驚いたような口ぶりで直哉の方を二度見する。

 

 今の直哉はクズ呼ばわりされていた人物とは思えぬ程の、聖母すら失神する程の優しそうな表情を浮かべていた。

 その理由はシンプル。ただ久しぶりに甚爾と会えた喜びで浄化されていたからなのだが、当然事情を知らない乙骨は啞然としていた。

 

 

「優しそうな顔してるだろ?だかな。アイツ呪術界最凶のクズ男なんだぜ?」

「全ッ然見えませんけど!?」

 

 人は見かけに寄らないとはよく言うが、あそこまで優しそうな顔をしているとそうも思えなくなる。

 

(……それにしてもあの人……)

 

 過去高専で見てきた術師達とは比較にならない程の呪力。

 遠目から見ても分かるほどに、太く鍛え抜かれた腕と首、揺らぐことのない重心とそれを支える両脚。

 

 距離はある。経験も不足している。人を評価するには乙骨はあまりに足りていない。

 だがそれでも確信を持って言える。

 

 強者。圧倒的強者。

 異質過ぎるほどの実力を兼ね備えていることが、一目見ただけでも理解できた。

 

 

「しっかし…なんでここにアイツが居んだ?昨日の乙骨の反応といい…キナ臭ぇな。お前、なんか隠してんのか?」

 

 秤から発せられた言葉。

 見なくても分かるほどの圧の掛かったその言葉に、思わず冷や汗を掻いてしまう。

 

(流石にここで知らない…なんて言えない…!)

 

 観念した乙骨は事の次第を説明し始めた───。

 

 

 

 

 

「──つまり、お前の里香が暴れ出した時の保険としてアイツが呼ばれたってわけか?」

「はい。…別件で五条さんが呼んだという可能性は流石に無い…と想います」

「ふーん……なら俺達は会話する必要も顔を合わせる必要もねぇってこったな?」

 

 秤からそう問われ、乙骨は確信は無いものの小さく頷く。

 

 流石に戦うことになるとは思えないが、会話や顔合わせ等は絶対にしないとは言い切れない。

 しかしここで「いいえ違います」と言うのは場違いにも程がある。空気を読むのであれば、肯定しておいた方が良いだろう。

 

「そうかそうか。なら心配する必要はねぇな。な?綺羅羅」

 

 すると秤は綺羅羅の横へ行き肩を組む。

 ふと綺羅羅を見れば、何やら不安げな表情を浮かべていた。

 

「金ちゃん…」

「大丈夫だ、仮にアイツが二度も()()()()()しようモンなら、その前に俺がアイツをシバいてやる。だから安心しろ」

「……?」

 

 二人の会話に首を傾げる乙骨。

 何か過去にトラブルでもあったのだろうか。

 

 疑問。そしてそれを解明したいという好奇心が心中に湧く。

 聞いてみようか──口を開きかけた乙骨だったが、それは未遂に終わってしまう。

 

 

「はーい、みんなしゅーごー!」

 

 

 ───集合の声掛け。

 声の主は五条。秤達と共に五条の元へと歩き始める。

 その最中、先程の綺羅羅達の会話を反芻する。

 

(…気になるけど…その話がもし綺羅羅先輩にとってトラウマならそれを掘り起こすことになるし…やっぱり聞かないほうがいいかな…?)

 

 下手に刺激するよりかは何も聞かず穏便に済ませたほうが良い。

 少なくとも本人に聞くよりかは、秤に間接的に聞いたほうがまだ安心できる。

 

(……でもなんというか…それって卑怯じゃ…?)

 

 綺羅羅の性格を考慮するのであれば、直接聞いて欲しいと思うはず。

 ただだからといってわざわざ気まずくなるような会話をするのは───

 

 

 うーんと唸る乙骨。

 集中しすぎて話を聞いていなかったのだろう。

 

「チョーップ!」

「痛ッ!?」

 

 頭頂部へ強い衝撃が走った。

 

「……憂太、どうかした?」

「…へ?」

 

 五条の呼び掛けと共に我に返る。

 

「これから交流会の説明するところなんだけど…大丈夫そ?」

「だ、大丈夫です!」

 

 そうだ。

 今は交流会に集中しなければ。

 

 頬を両手で叩き喝を入れ、交流会へと望んだ──。

 




「いやー久しぶりに甚爾クンに会えてほんま嬉しいわ〜」
「さっきまで般若の相をしてた直哉君が、まるで召されたかのような優しい笑みを浮かべてる…!」
「センセーに久々に会っただけでこれなら、今恵に会ったらどうなるんだろうな?」
「…想像しただけで蒸発できるわ」
「キモ」


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次話から姉妹校交流会編
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