「あーくそっ、腹立つ!!あの赤毛のチビ暴君!自分がハートの女王にでもなったつもりかよ」
「エースはともかくとして…幸緒は全然関係ないのにキレすぎなんだゾ」
「だってよぉ!!皆あんな頑張った作ったのに酷いじゃんか!ルールが重要なら今日は食べないで後日食べようね!とか言ってくれるならまだしも問答無用で捨てるってさあっ!?」
私はおばあちゃんからお米には七人の神様が宿っているから残してはいけないと教わってきたし、田舎のおじいちゃんおばあちゃんが苦労しながらお米や野菜を育てている様子を身近で見る機会があったから、食卓まで美味しく食べられる料理には色んな人が関わり、沢山の想いがこもっているのを知っているのだ。
まぁ私の思想を押し付けるつもりはないが、昨日の栗拾いからの受難を乗り越えてやっとの思いで作り上げたマロンタルトをただ一目見ただけで跳ね除けた態度はどうしても許容できない。人の気持ちを汲むってことが全く出来ないリーダーってどうなのよ!?
低く唸る私を宥めるようにデュースが背をさすってくれたので、少し冷静さを取り戻したもののやはり納得出来ない。
とりあえずは固く閉ざされてしまった門の前で騒いでも仕方ないので私達は薔薇の色塗りで沢山走らされた迷路と繋がっている広い庭を当てもなく彷徨った。
「しかし、寮長に逆らって追い出されるなんて……どんどん優等生から遠ざかってる……」
横でため息をつき、憂うデュースの呟きに当事者じゃないのに何だかまた巻き込んでしまったなと少し申し訳なくなった。
と言うか冷静になってみるとあの追放される瞬間、なんか昨夜見た夢と重なる部分があるなと今更気づいた。夢でもハートの女王がどうとか言ってた気がするし、もしかして予知夢だったりするのか?と言うか、ハートの女王とかなんか以前の世界でも聞き覚えがある気がするんだよな…何だっけ?
「うぅ、首輪が苦しくて重たいんだゾ〜……」
グリムの言う通り、首にかかるハートの首輪は無駄にジャストフィットするし、鉄の冷たい感触と無駄に重たくて肩が凝りそうだ。
「その首輪の重ね付け、イカしとるにゃぁ〜」
「あっどうも………!?!?!?」
鬱々とした雰囲気の中、いきなり目の前に現れた陽気に喋る生首の登場で背景はまるでメルヘンだってのに突然のホラー展開に主に私とグリムは恐怖のドン底へと突き落とされた。
「うっ、うわーーーーっさらし首だっ!!?!?」
「ふぎゃーーー!!!生首お化け〜〜!!」
「おっと、身体を出すの忘れとったわ」
今のところメルヘンチックな世界観強めだったから元の世界でもそうそう見ることのないナマの生首を見て冷静な判断は出来ず、一瞬このハーツラビュルで獄門に処された寮生の哀れな姿かと錯覚し、心臓バクバクで動揺してしまう。そんなこちらの様子に気づいた生首さんは思い出したようにパッと生首と繋がる胴体を出現させた。どうやらしっかり生者らしい、よかった。
紫と派手めな髪の毛に対して意外と胴体は落ち着きのある白の上着とストライプ柄のインナーがお洒落ながら、少しヘアピンとピアスの数が多いくらいでこの学園の生徒にしては結構平凡な方に思う。
異世界なので当然のように派手な紫髪とぴこぴこ揺れる大きな猫耳、当然のように整ったお顔はまぁモブキャラではないなと判別できるが、ニマニマとイタズラが好きそうな笑みを浮かべて細めた瞳は妙に胡散臭い。
しかしハーツラビュル寮生でないならばここに他寮生がいるのはおかしいのでは…連れてこられた私達は除外するとして、急に生首になって脅かしてくるのは裸コートの不審者と大した違いがないので不信感しかない。胡散臭いし。
しかしこの自分を猫のような人のような不思議な生首こと、アルチェーミ・アルチェーミなんとか……とりあえずチェーニャと名乗る男はあの暴君ことリドル寮長の知り合いであるっぽい雰囲気をすごく醸し出してくる。
その割には何寮か尋ねてもクイズ形式にしてきてはぐらかすし、いつまでものらりくらりとこちらの質問には曖昧に答えてくるので、エースが益々イライラを募らせる悪循環が生まれている。
「あいつはリドルがちっちゃい頃からよう知っとるよ。リドルについて知りたいなら俺ならまずあの眼鏡にきくにゃあ」
「幼なじみってことか。そんな感じはしなかったが……」
「おみゃーがそう思うなら、そうなんじゃにゃーの。ほんなら、俺に聞く必要はないにゃあ。ほいじゃあ」
最終的に訳知り顔だけした彼は眼鏡に聞けとヒントを残して、鼻歌を歌いながらスゥッと身体から頭にかけて風景へと溶け込んでいなくなってしまった。
知り合いっぽかったけど、結局不審者だったのだろうかと謎は残るものの、メガネで思い当たる人物は今のところ1人しかいないので授業の後でその人物を捕らえて情報収集しようと方針を定めた。
しかし筋肉痛は昨日よりも和らいだものの早朝労働の後の体育ではやはりゲロり、後の座学は疲れのせいで居眠りしてしまい先生にこってり叱られ、揃って首輪をつけた4人組はどの授業に顔を出してもクスクス笑われたりと散々だった。
先日マロンタルトのレシピ本を図書館で借りていたことを思い出したデュースやそこら中にいる絵画の幽霊さんネットワークを頼りに居所を把握して休み時間に図書室へと本を返しに行く情報を掴み、私達は先回りして異世界の本がその辺に漂う不思議な図書室内で待機していた。
「………」
「クローバー先輩」
「!お前たち……」
疲れているのか、ぼんやりと本を小脇に挟んで歩いていた眼鏡ことトレイ先輩は間近でデュースが声をかけるまでまるでこちらの様子に気づかず、驚いていた。
「オレたち、やっぱ寮長のやり方に納得いかねーんだけど」
「………だろうな」
「アンタ実際アイツのことどう思ってんの?小さい頃からずっとそうやってアイツにぺこぺこしてきたわけ?」
「!誰から聞いた?」
私達が知り得ないはずの情報にトレイ先輩はまたも驚いた様子であったため、あのチェーニャと名乗る不審者の言ったことは本当のようで彼の名を出すとトレイ先輩は納得したような反応を見せた。
「つーかよぉ、リドルよりオマエのほうが年上なんだろ?ピシッと怒ってやればいいんだゾ」
誰もが思っていたド正論をかますグリムが獣のくせに常識的な意見を述べるので、ちょっと感心した。その調子で余計な行動を慎んでくれればありがたいのに…。
「もちろん、必要があればそうするさ。でも……俺にはあいつを叱ることなんか出来ない」
「なんで!」
「リドルの全ては、厳しいルールのもとで“造られた”ものだからだ」
グリムに対しての一瞬で矛盾する情けない返答にエースが当然の疑問を投げかけ、トレイ先輩は静かにリドル寮長について語りだした。
リドル寮長の両親は地元では有名な魔法医術士…つまりは偉いお医者さんであり、特にエリートな母親が自分の子であるリドル寮長にも同じレベルか、それ以上の優秀に育つことを求めるような厳しいお母さんなんだと言う。
「だから、リドルは起きて寝るまで学習プログラムが分刻みで決まってるような生活をしていたんだ」
「げ……分刻み?」
「わぁ……異世界の教育ママ」
「食べるもの、着るもの消耗品から友だちまで、全部決められてた」
「ワァ……異世界の教育ママレベル高すぎ…」
「…それでもリドルは両親の期待に応えるために黙って全部をこなし、10歳にしてあのユニーク魔法を完成させた。成績もミドルスクールからずっと学年首位を保持し続けてる。それがどんなに大変なことか、想像もつかない」
「はぇ〜〜…すっご」
「…………」
「じゃ、リドル寮長があんなんなのは毒親によるものってことですか」
「…リドルは、厳しいルールで縛ることが相手のためになると思ってる。厳しいルールで縛られて恐れで支配してこそ成長できると信じてるんだ…かつて自分がそうだったように。そして、ルールを破るのは絶対的に悪だと思ってるだって……」
リドル寮長がどうしてあんなにルールに厳しく、自身もストレスを抱えながらも罰するのか不思議だったが、その行動が本当に相手のためにもなると信じてるからこそだと知ると行動原理は納得できる。振り回すルールがまともで罰則も手心があればもう少し理解を示せたんだけど。
「ルール違反を肯定すれば、ルールによって造られた自分の全てを否定することになる……ってこと?」
エースの言う通りならば、私達がリドル寮長に反発することは彼が今まで培ってきた全てを根底からひっくり返すようなもので、到底認められないことなんだろう。先輩がリドル寮長を御さないのも、近くで彼が頑張っていたことをよく知ってるからこそ注意できないんだろうか。
「……。お前たちがリドルを横暴に思うのはわかる。リドルのやり方が正しくないことも。だけど俺には……やっぱりあいつを叱ることなんて出来ない」
「ふなぁ……」
「寮長にそんな過去が……」
「……」
グリムとデュースはどうもトレイ先輩の言葉に大分絆されてるようにも見えるが、私はそれもどうなのと思う…だって先輩に同意するのは現状を放置することで問題は結局解決しないのだ。リドル寮長は横暴なままだし、ハーツラビュルも歪なまま…本当にそれでいいのか?
思いの外デリケートで難しい話になってしまい、しゅんと何とも気まずい空気が流れる。
「今の話を聞いて、よーくわかった。リドル寮長があんななのは、アンタのせいだわ」
沈黙を破ったのは終始神妙な顔をしていたエースだった。
「「「えっ!?」」」
この空気の中で突然トレイ先輩へと向けられた直球に皆驚きの声を上げる。
「リドル寮長が親を選べなかったのはしょうがない。でも、アンタは少なくとも寮長の親が寮長にやってたことは間違ってるって昔から思ってたんでしょ?」
エースはトレイ先輩を見据えて淡々と詰めていく。タルトを盗み食いしたり、調子乗って人を怒らせる男の口から出てくるとは思えない正論っぷりで面食らっていたトレイ先輩も痛いところを突かれたように俯いて口篭っている。
「それは……」
「今の寮長が親と同じ間違いをしてるって思ってるならちゃんと言えよ。直してやれよ。可哀想な奴だからって同情して甘やかして、どうすんの?アイツがみんなに嫌われて孤立していくの見てるだけ?」
「………」
言われっぱなしのトレイ先輩は何も言わないが、今まで優しい表情ばかりの先輩の顔が怒りからなのか、ひどく歪んで鋭い視線がエースに向けられている。
「お、おい……エース!」
トレイ先輩の様子にデュースが慌てて止めに入ろうとするのを私は咄嗟にがっと腕を掴んで静止した。このまま放っておくと先輩は激昂するかも知れない…それでも今誰よりもリドル寮長のことを想っているのはトレイ先輩ではなくエースであると思うから、変わる気のない先輩にはエースの叱咤を聞かせる必要があると思った。
「それともなに?アンタも首をはねられるのが怖くて黙ってるって?ダッセえな!!なにが幼なじみだ。そんなんダチでもなんでもねえわ!」
「コラ!君たち!図書室では静かにー!!!」
熱くなりすぎたエースが最後の方で怒鳴り上げた瞬間、聞き覚えのある大声が突然意識の外から投げかけられてシリアスな雰囲気が吹き飛んで行ってしまった。
「アンタが一番声でけぇんだゾ」
呆れるグリムに突っ込まれて我らが保護者のクロウリー学園長は相変わらずシルクハットに仮面と怪しい出立ちで明らかに図書室から浮いているが、学園長の登場で一触即発だった険悪な空気は解消されてちょっとホッとした。
「おっと、失礼。ゴホン。まったく、図書室は静かに勉学や読書に勤しむところですよ」
「学園長はここで何してるんですか?」
「幸緒くんが元の世界に戻る方法について調べに来たんですよ。ちゃんと忘れていませんとも」
「えっ!?マジすか??サイコー!ありがとで〜す」
「私、優しいので。やはり調べ物と言えば図書室ですからね。別に新しく入った小説の続きが気になって誰よりも早く借りにきたわけではありませんから」
「はぁ〜〜〜ぬか喜びかよ。サイアク〜…」
「オッホン。ところで、みなさんお揃いで険しい顔をしてどうしたんです?」
「それが……」
デュースが学園長に騒がしくしていた経緯を説明するのを私は心無い嘘をつかれてテンションダダ下がりになりながら隣で聞いていた。
ブチギレ寸前だったかもしれないトレイ先輩も熱くなっていたエースも相手をしてると気の抜ける学園長のおかげで冷静さを取り戻したのか、大人しくなっていた。
事情を完全に理解したらしい学園長はふむふむと頷き、ハーツラビュルが嫌なら転寮もできる知らない新制度を教えてくれた。ハーツラビュル以外にも寮はあるので、肌に合わなければ所属寮を移ることが出来るのだそうな。しかし最初に配属された寮は入学式の時の例の喋る鏡が魂の資質を見てその生徒にあった寮を決めてくれたものだからよく考えた方がいいとのこと、やはりデメリットは存在するようだ。
転寮に対してエースはまるで敵前逃亡をするようで気に入らないと突っぱねたところで学園長はそれならとある提案をしてきた。
「ではローズハートくんに決闘を申し込んで君が寮長になっちゃえばいいんじゃないですか?」
それは現寮長に新たな寮長の座を賭けて、決闘を申し込むと言ったシンプルな下剋上のすすめだった。
決闘と言うあんまり聞く機会のない言葉や、入学したての生徒にも寮長の座を狙えるチャンスが当然のようにあること、当然のように勧めてくる学園長に皆動揺していた。
聞けば寮長になる方法は決闘以外にも色々あるらしいが、噂のリドル寮長も例に漏れず入学一週間で寮長に就任したと言うのだから力がものを言うのは間違いない。
当たり前だがハーツラビュルに所属していない私とグリムは対象外であるので挑戦できるのはエースとデュース…トレイ先輩もその権利はあるだろうが、やる気があるのはやはり赤青コンビである。参戦出来なくてグリムは残念そうだったが、間違ってもこんなグータラなわがまま獣が寮長になる権利なくて私は静かに安心していた。
最早勝った後のマニフェストを語るエースに魔法勝負はともかく、腕っぷしならリドル寮長に勝てるかもとデュースもノリノリで次なる行動指針が定まり私達はノリに乗っていた。
「やはり暴力!最終的に暴力は全てを解決する!」
先日デュースの暴れっぷりを間近で見ていたから、あれならば拳でリドル寮長に勝つのは不可能ではないだろうと私はめちゃくちゃ楽観視していたのだが、背後に立つ学園長の遅れてきた一言に現実に引き戻された。
「この決闘では魔法以外の攻撃は使用禁止ですからね」
「うぅ…ルール…ルールがあるんじゃあ、暴力の出番はねぇ…」
「よ、よーし!魔法にはちょっと自信ないけど……なんとかなるっしょ!」
「お、おう!」
「オレ様の首がかかってんだから!きばるんだゾ!」
「お前たち……」
先ほどの威勢はどこへやら、怖いものなしで強がる様が入学式一週間もない新入生のフレッシュさな感じであまりに頼りないし、もう失敗の予感しかしない。
しかし我らとってもフレッシュな新入生だし年上の先輩達よりも時間と退学処分を退けた謎の行動力があるのだ!
成功率が低そうでも何でも試して、それがダメなら新たな方法を試せばいい。多様性を認められなくて否定されたら立ち直れないと思われてるリドル寮長と違って、デュースエースグリム皆ビックリするほど諦めが悪いしただでは転ばない奴らだ。
出会ってそう時間は経ってないのに不思議と信じられる友人であるから、2人にやる気がある内はとことん付き合ってやろうと作戦会議だと騒がしく図書室を出ていく2人と1匹の後に続こうとした。が、思わぬ展開に呆気に取られているトレイ先輩を視界の端にとらえて私は少し足を止めた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あ…ああ、大丈夫だ。それよりもお前たち…本当にリドルに挑むつもりか?」
「逆にあのテンションでアイツらが挑まないと思います?」
「いや…だが」
「みなまで言わないでくださいよ。まぁ私も十中八九負けると思いますけどね!!…でもだからって何もしない訳にもいかないでしょ」
「………」
「先輩、エースに言われたこと気にしてます?」
「いや、俺は別に…」
そう言いながらもばつが悪そうに俯くトレイ先輩、やはりエースの言葉はなかなか効いているようだ。
仲良く出来るなんて大ボラを吹いた挙句、リドル寮長との関係を拗らせてくれた上に堂々といたいけな後輩達へ裏切りムーブをかました先輩方には、責任もってリドル寮長をどうにかするために手を貸してもらいたいのだけども、揺らいではいてくれても依然この様子では手を貸してくれそうにないな。どうにかなんねーかな…。
「先輩…私の従兄弟に叱らない育児って言う言葉通り何をやっても怒られることなく、甘やかされて育ったお兄さんがいるんですけど」
そう言えばと私のいた世界でのことを思い出し、私は訝しげな先輩へとある男の話を聞かせようと語り出した。
「ん?…急に何の話だ?」
「まぁまぁ…それで大人になったそのお兄さんは社会人になって大手の有名な会社に入ったんですって」
「そうか、いいことなんじゃないか」
「でも半年で仕事を辞めてお家に帰って立派なニートになっちゃいました」
「それは…随分急展開だな」
「それからはもうネトゲ三昧の親にすら顔を見せないような引きこもりですよ〜もう7年くらいかな?」
「何というか…気の毒な話だな」
「でしょ〜。お兄さん、小さい頃から何をやっても怒られないし、他人に叱られたら親が守ってくれるもんだから自分のやることは全て正しいと思い込んでたんです。なまじ優秀なもんで学生の頃は自分の言い分に周りが合わせるのが当然でさらに親が怒ってくれるから、肯定するから、自分が正しいと信じて疑わなかった。ですがそのまま社会に出たら環境は激変しました。会社は新人のお兄さんの意見を全く聞いてくれないし、よかれと思ってやった行為が周囲の人に迷惑かけてめちゃくちゃ反感を買ってしまうしで、自分の思い通りにならない環境と日に日に同期には差をつけられてしまったんです。プライド高くて癇癪持ちのお兄さんはついに上司にすら冷たくあしらわれるようになってろくに仕事の成果も上げられず…結局会社に馴染めなくて、1年も経たない内に退職したんです。悲惨でしょー」
「……」
語り始めは訝しげな顔をしていたトレイ先輩であったが、私が何を言いたいのかちゃんと理解してくれたようでより一層苦悩の表情を浮かべていた。こちとらいわれなき理不尽な目に遭わされているので、先輩にも同じく苦しみを味わせられて私は大変満足した。
「これが私の知る叱らない教育をされた人のお話ですね。…先輩は否定されたらリドル寮長がどうなるかって怖いみたいですけど、好きにさせたところでいい結果にはなりませんよ」
個人的な感情を抑えつつ、叱らない結果の一つの未来が如何に悲惨であるか分かってもらえればと忠告の体で話を終えるとまたも意識の範囲外から再登場した第三者が話に乱入して来た。
「幸緒くん、その引き篭もりの従兄弟は7年後結局どうなったんですか!?私、気になります!」
「うわっ学園長帰ったんじゃなかったんすか!従兄弟のお兄さんのその後はまぁ私と言うかわ「幸緒ーーー!!」おわっグリムうるさっ。めっちゃ呼ばれてるんで、続きはまたの機会にお話しますね」
「えーーーーっ!!」
静かにしろと言っておきながら大きな声を上げてガックリと肩を落とす学園長といきなり話が有耶無耶になったせいで再び呆然としているトレイ先輩のカオスな空間からいち早く脱出するために私はいそいそと図書室を後にする。
「先輩!先輩達にどんな事情があるかは知らないですけど、友達なら本音で話し合える仲になった方がいいですよ。引け目のある友情なんて長続きしませんからねー!」
意地悪だったろうけどあわよくば味方に、一緒に戦ってくれる気がないのならせいぜい苦悩してほしいと言う気持ちがどうしても抑えられなかった。
図書室を後にして、廊下に出ると少し離れたところからまたグリムが私を呼ぶ声がして急いで向かった。