ねじれた世界のオンボロ寮より   作:蒼桜満

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主な登場人物
トレイン先生、トレイ先輩
主人公の身内の話が大分長い回。


魔法史の課題と思い出話(ハートの女王編)

 

そう言えばハートの女王って不思議の国のアリスの登場人物だったな…とトレイン先生がハートの女王にまつわる話をしている授業中にふと思い出した私は途端にこの世界とアリスの繋がりが気になりすぎて、授業そっちのけでノートに思い出せる限りのアリス登場人物を書き出した。

アリス、白ウサギ、チェシャ猫、ハートの女王、帽子屋、3月ウサギ、眠りネズミ、ハンプティ・ダンプティ、ジャバウォック…パッと浮かぶのはこの辺…後はトランプ兵、イモムシとかなんかいたような気がするが、基本的知識が原書の不思議の国のアリスよりも従兄弟の部屋にあった名作漫画のARMSよりだから何か違う気がするし、とても偏りを感じる。こんなことならちゃんと読んどくんだったなぁ…元ネタである原書。

とりあえず書き出した登場人物の反対側には印象深いハーツラビュル生の名前を書き、共通点がありそうな登場人物と線で繋げてみることにした。

まず一番わかりやすいのはハートの女王とリドル先輩。

理由としてまずはオーバーブロットした時に何かかなりそれっぽいのが出たし、ハーツラビュルの寮服の見た目が王より女王っぽい。そしてハーツラビュルの意味分からん規律に詳しくてトップだから。

次にトレイ先輩は…とりあえず何かクローバーの化粧してるし、トランプ兵とあと帽子も被ってるから帽子屋(安直)。

次、ケイト先輩…ダイヤの化粧でトランプ兵…他は該当なしか…?

次、エースとデュースと温玉先輩達その他寮生…トランプ兵でしょうね…。

 

「うわっしょうもねー…」

 

ノートに書いたトランプ兵の線がリドル先輩以外の誰でとでも繋がり、その他に考え出した面子がまるで誰とも繋がる気配がない。と言うか考察も雑すぎて説得力が微塵もない。

アリスが関係してる世界なんかと思ったけど、現状トランプ兵とハートの女王しか登場人物が当てはまらないじゃねーか!!主要キャラはどこだよ!?アリスは?白ウサギは?チェシャ猫は??

てか、明確に不思議の国のアリスの登場人物を把握していないので、もしかしたら超マイナーなキャラに当てはまっていたりするのかも知れない。

自分で書いたくせに馬鹿みたいなノートの図を見てそんなことを考え出すともう何もまとまらなくて、頭を抱えてた。

ダメだ…元の頭に有益な知識が無さすぎる…もっと別方面から…なんかヒントがあったはずなんだ。

あの時期に毎日見てた風邪引いた時に見る夢を思い出そう。朧げにしか覚えてないが、夢には確実にハートの女王が登場したしアリスらしき少女も出てきていた気がする…きっとこの世界を紐解く鍵になるはずなのだ…思い出せ、私!

 

「降り注ぐトランプ兵…怒れる女王…荒れる法廷…縞模様の猫…」

 

「!?幸緒…?大丈夫か…?何か様子がおかしいぞ…」

 

「恐怖政治…同調圧力…パワハラを受けるトランプ兵…物理タイプのパワハラ女王…」

 

「また頭おかしくなっちまった…コイツのこーゆーとこ、たまにこえーんだゾ」

 

「自然破壊…カブト虫…トランプ兵による植物イジメ…ブロンド髪の少女…カブト虫!…カブト虫っ!?」

 

「あーあ、完全にイっちゃってんじゃん。先生ー、監督生が発作起こしましたー」

 

「わかっている…監督生は授業が終わった後、職員室に来るように」

 

断片的に思い出せるあの夢のキーワードを拾っていたのだが途中から存在しない記憶が介入して夢の手掛かりは一瞬で霧散し、しかもどうやらその全てを声に出ていたようでいつもの3名含むクラスメイトをドン引きさせ、トレイン先生の授業を妨害してしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

「すみませんでした…」

 

ちょうど昼休み前の授業だったために、長めの休み時間が災いしてトレイン先生の長めの説教を受けてこってり絞られた。

 

「まったく…しかし堪え性のないグリムではなく、君が問題を起こすのは珍しい…悩み事か?」

 

「えっ、悩み…と言えばそうかも…その、先生の授業で元いた世界とこの世界に共通点があるかも知れなくて…」

 

「ほう…君の世界にも偉人であるハートの女王の逸話があると言うことかね?」

 

「ん〜…逸話…逸話〜?…??」

 

私の世界では偉人ではなく、不思議の国アリスの登場人物だし大分ニュアンスが違う気がするぞ…と言うか普通に悪役側だから尊敬されるタイプじゃないんだよな…この世界で何で偉人なの?あの人。

考えれば考えるほどドツボにハマって、ルチウスを抱くトレイン先生の前で私は頭を捻りながら百面相を繰り広げていたことだろう。

 

「偉人…とはちょっと立ち位置が違うと言うか…そもそもあんまり知識がなくて」

 

「…そうか。君の世界に関して私から言及出来る事はないが、ナイトレイブンカレッジ生としての君はグレート・セブンの知識がなさすぎる」

 

「それは…はい、私もそう思います」

 

仮にも学園のメインストリートに銅像が立つほどの偉人に対して無知すぎるのを生徒として指摘されたら何も言えねぇ。

それにナイトレイブンカレッジはいわゆる名門校であるし、学園に深く関係ある偉人に対してリスペクトの欠片もない私みたいな生徒がいちゃ先生も困っちゃうよね〜と納得する。

 

「わかっているなら話が早い。授業妨害の罰としてグレート・セブンの一人、ハートの女王について自身で調べ、ノートにまとめて提出しなさい」

 

「えっ!?レポートっすか!?…こう、穴埋め問題文のプリントを埋めてくるとかのが助かるっつーか…」

 

「これは決定事項だ。口答えをするんじゃない、まったく…ちなみに自分が身を置いている学園、延いては賢者の島については当然知っているな?」

 

「………はいっ!もちろんでぇすっ!」

 

「ふむ…追加課題として自分が今身を置いている学園と賢者の島についても調べて提出するように」

 

「増えた!!」

 

あっさり嘘を看破されて、ドッサリと宿題を課されたことにヒンヒン喚き縋る私にトレイン先生はルチウスを抱えながら職員室を去ろうとする。

 

「ちょちょちょっ!!そんないっぱい課題出されてもどうすりゃいいかわかんないですって!」

 

「ナイトレイブンカレッジの図書室にはあらゆる蔵書が揃っている。そして賢者の島についてはフィールドワークでも大体のことはわかるだろう、その身で体験してくるといい。提出期限は月曜日とするから、その間にまとめなさい!」

 

「そんな殺生なー!!」

 

せっかくの休日を宿題三昧にされる悲しみを訴えてもトレイン先生が折れるわけもなく、地面にうずくまって泣く私を置いてさっさと職員室を出て行かれたし、しばらく泣いてたら他の先生に邪魔だと言われて私も悲しみを背負ったまま職員室を追い出された…。

 

 

こうなれば頼れるのは奴らしかいないと食堂に向かって唯一の友二人と相棒に助けを求めたが、

 

「あっオレ、今日の放課後から土日の間は用事あるんだよねー。いや〜、力になれなくて残念残念!」

 

「す…すまない、幸緒…今回ばかりは僕はお前の力になれない…本当にすまない!!」

 

「面倒くさいんだゾ!オレ様しーらねっ!」

 

「嘘だろっ、おーーーいっ!!急に距離とんなって!ちょ待てよっ!」

 

私がトレイン先生に出された課題の話をして、協力を仰いだ瞬間にエース達は光の速さで埋められない心の距離(物理)をギューンと開けて遠い場所からそんな言い訳をして去って行った。

私はあのくそ面倒なタルト作りにも協力したのに!

何なら悪いことしてねーのに炭鉱探索まで付き合ったのに!

てかグリムは私とは一蓮托生、運命共同体の二人で一人の生徒なんだから付き合えよぉ!

そんな泣き言を零してももう彼らが戻ってくることはなく…宿題は一人でやるしかなくなった。

仕方なく私は放課後に図書館を訪れ、まずはハートの女王について調べることにした。

 

「魔法史関連は…この辺か」

 

だだっ広い図書館の項目を確かめながら、おそらく目的の情報が載っているだろう本がある一画に辿り着いたのはいいものの…この図書館天井が高くて、その分壁際の本棚も上に伸びるわけで。

 

「ハートの女王に関する本…上にあったら困るぅ…」

 

とりあえず自分の身長の届く範囲で探してみることにした。改めて見る膨大な本の数にこの世界にもちゃんと歴史があるんだなぁなんて当たり前のことに思ってしまう。

どうもグレート・セブン以外にも偉人は多くいるようで色んな人物の名前が本の背表紙に書いてある。

グレート・セブンみたいに曖昧な称号みたいなものだったり、明らかな個人名だったり様々だ。個人名が把握されてるのは結構近代史だったりするのだろうか…そうだとしたらグレート・セブンってどんだけ昔の人になるんだろうか?少なくともナイトレイブンカレッジの創立前なのは間違いないんだろうけど。また思考が脱線し始めたので早々にハートの女王の記述がありそうな本を片っ端から集めることにした。

 

「これと…これもか。後は…あっ!あれはっ!」

 

何冊か手に取ってそろそろいいかと何気なく本棚の上の方を見上げると一冊だけ飛び出た赤い本の背表紙に『やさしい魔法史(ハートの女王編)』と実に私向けの絵本みたいなうっすい本を見つけてしまった。あんなん取るっきゃないだろと手を伸ばすが、身長160㎝とわずかな腕の長さでは全然届かない。

飛び跳ねても後50㎝くらい足りなくてもどかしい。

女子としては決して低身長ってわけではないと思いつつも、今だけは基本的に高身長の周りの男子生徒が羨ましい…エースとデュースなら届くんだろうな、しかし今はパーティーを解散しているから私の力でどうにかするしかない!

大体図書館には脚立みたいな踏み台がその辺にあるものだ。それを利用すれば高さなどどうと言うことはない。

 

「……って、どこにもねーじゃねーか!」

 

辺りを見回したり、歩き回って探してみたがどこにも踏み台がない!思わず大きな声が漏れて慌てて口を押さえるも、出した後では意味がなくて訝しげに向けられる視線から逃れるように再び『やさしい魔法史(ハートの女王編)』のある本棚の下まで戻ってきた。

 

「踏み台がない理由…この学園の人が魔法使いとゴーストだから基本的にいらない、てコト!?ちくしょ〜…つくづく一般人に優しくない学園だこと」

 

テキトーな結論を出して勝手に納得した私はではどうするかと、解決策を導き出すために脳をフル回転させる。

いつだったか動物の知能テストで高い所に吊り下げられたバナナを取る猿の話を思い出していた…その猿に今の自分を重ねた。その猿は部屋の中にある箱と棒を使ってバナナを取るのだが、それに習うのならば、箱は無いものとしても棒だ。棒を使って落とした本をキャッチすればいいのだ!

 

「ヨシッ!まずは棒の確保だ!」

 

ちょうどさっき歩き回った時に、近くに立てかけられたまま片付け忘れたであろうホウキがあったのでそれを使わせてもらうことにした。後でちゃんと片す。

 

「これで…本を引き出してキャッチ。うん!作戦は完璧だなっ!」

 

シミュレーションはバッチリだと、ホウキの持ち手の部分の先っちょを少しはみ出している本の下から上にトントンと持ち上げて少しずつ引き抜く、のだが…いざ決行したはいいものの…

 

「かっっった!どんだけギチギチに詰めとんねん!」

 

隙間がなさすぎて中々動いてくれないので少し強めにガッガッと下から突き上げるが、中々動かない上に思ったより横に長い本みたいで現実はまったく想像通りにいかない。

ひたすらこの地味な作業を続けているとようやく急にするっと動き、本がグラっと傾いて落ちて来た。

ホウキを左手に持ち、位置的に顔の上に落ちてくる本を右手でカッコよくキャッチするつもりだったがここでも予想外の事態が起こる。なんと落ちて来た本が空中でバラっと開き上手く手に収まらず、手から滑り落ちた本の背表紙がゴッと鈍い音を立てて顔面にめり込んだ。

 

「ぉあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 

想定外のダメージを顔面に受けた私は低く唸りながら膝から崩れ落ちて顔を両手で覆い悶えていると、近くで誰かのプッと吹き出して堪え切れず笑うような声を聞いた。

 

「っ!?何奴っ!」

 

「はははっ!何奴って…ふっ!…あー、いや笑って悪かった。俺だよ」

 

「トレイ先輩!?えっ、何故見てるんです!?」

 

本棚の角から現れたのは真面目な顔をしようとしたが失敗したにやけ顔のトレイ先輩だった。

 

「前と同じ理由さ、本の返却だよ。そうしたら幸緒が『どこにもねーじゃねーか!』て大声出していたから気になって様子を見てたんだ」

 

「エッ!?そんな前から見…て………えっじゃあ、私が本取れなくて困ってたのも気づいていながら傍観していたって、コトっ!?」

 

「いや、最初は声を掛けようとしてたんだぞ。だけど幸緒が自分で解決すると張り切っていたから…見守ることにしたんだ。そうしたらまさかあんな見事に…ふっ…ふふっ…ふっ!」

 

どうにか笑いを堪えて真面目に話をしようとしていたトレイ先輩だったが、先ほどの私を思い出したんだろう眼鏡を曇らせながら吹き出して肩を震わせていた。

トレイ先輩って八方美人の気がありそうだとは思っていたが基本的に後輩に当たるエースにデュース、獣のグリムにさえ何だかんだと寄り添ってくれる兄貴分だとも思っていた…しかしそれは私の理想像だったらしい、先輩もやっぱりナイトレイブンカレッジ生だったって訳ね!

それに普通に失態を見られていた恥ずかしさもあって私は再び床を見つめて呻くしかなかった。

そんな私にしばらく爆笑した後に落ち着いたトレイ先輩は一度咳払いをすると私の前にしゃがんで床に落ちたままの本を拾い上げ、私の頭をポンポン撫でた。

 

「なっ…なんすか今更ぁっ!?気安く頭ポンポンしないでください!つーかDV彼氏みたいな動きやめてくださいよっ!」

 

「うん?ちょっと何言ってるかわからないが悪かったって…本当に馬鹿にして笑った訳じゃないんだぞ?それよりぶつけたところ痛いだろ…ほら、見せてみろ」

 

「ぬうう…」

 

羞恥と悔しさで少し滲んだ涙を拭きつつ、情けない表情を晒さないようにぐっと口を噤みながらトレイ先輩を見上げる。

 

「ははっ、そんな睨まないでくれ。酷いことしないから」

 

先輩はそう苦笑すると、片手を私の顔の前にもう片方の手を胸ポケットに入れていたマジカルペンに添えると、眼前に翳された手から突然眩しい光が発生して反射的に目を瞑った。

何をされてるのか理解出来なかったが、本を打ちつけてズキズキ疼いていた部位が温かな光によって痛みがすっと引いた。

 

「??あれ…?痛くなくなったかも」

 

「回復魔法ってヤツさ。まぁ、応急処置みたいなものだよ」

 

「えっ!?すごっ!んっ…?じゃあ私が骨折した時もこれで治せたんでは!?」

 

回復魔法なんてパーティー全員に覚えさせたい有用な魔法の存在にめちゃくちゃ食いついたけども、だったらリドル先輩にボッコボコにされた時に何で使ってくれなかったん?とトレイ先輩への新たな疑念が生まれた。

 

「そんな都合のいい魔法はないんだ。実質、痛みを緩和して治りを早めているだけだから完全に治せる訳じゃない」

 

「そっかぁ…魔法って意外にも万能じゃないんすね」

 

RPGみたいに回復魔法で全ての傷を癒せるなんて万能な訳なかった。しかし同時に先輩が意地悪で私を苦しめていた訳でないことに安心したし、さすがに疑いすぎたことに少し申し訳なくなった。

 

「はははっ、ガッカリしたか?」

 

「いや、現実的だなぁって…まー、一瞬で治る方がメカニズムが謎すぎて怖いし、理解できるくらいのが受け入れやすいです」

 

「へぇ…お前は魔法のない世界から来たわりに、うちの後輩より聞き分けがいいな」

 

「そうです?…まぁ、入学式の時にエース達の魔法の残念さを刷り込まれたせいですかね」

 

今思えばユニーク魔法とか魔法らしい魔法が出てきたけど、あの怪物と対峙した夜にLv1魔法使い×3と死ぬほど頑張って闘ってから魔法にはあんま期待しなくなった…MP尽きると木偶の坊になるし、やっぱり腕っぷしが大事だよな!

と、私が個人的な戦闘に関する思想に浸ってるとトレイ先輩が拾っておいてくれた本をスッと差し出してくれたので、受け取るとニコッと笑った先輩はまたも頭をポンポンしてきた。

き、気安く頭ポンポンすんなっつったのに!!

癖か?癖なんか?この…弟妹にするような自然すぎる仕草なせいか、頭ポンポンを嫌悪してる私でさえも下心とか不快感を感じないせいでむしろ心地よささえ感じて…!?

いやいやいや、この程度のことで私は絆されていない!…ちょっとお父さんとか、従兄弟のお兄ちゃん達に可愛がられたことを思い出して懐かしくなっただけなのだ。それと揶揄われたのとは別に回復魔法もかけてもらったことに恩を感じるので、些細なことで噛み付く気にもなれない。

 

「……」

 

「……(ポンポンッ)」

 

どうするか渋い顔で悩んでいる間にも先輩は頭ポンポンを続行…え?もしかして私がキレるまでやる気なの?チキンレースしてるの?

しかし恩義が…キレるか否かの葛藤で険しい顔をしてるだろう私を見ながら余裕の笑みを浮かべる先輩は何を考えてるか本当にわからない。先輩の出方を待つだけ無駄なのはよくわかった。

 

「あ、あの……」

 

「…うん?どうした?」

 

「…あ…ありがと…ございましたっ」

 

恩義を感じてしまうならばさっさと感謝を述べてからキレればいいじゃない!と閃き、ペコっと頭を下げてからん?このタイミングで礼を言うと頭なでなでされて嬉しいみたいになるのでは?と急激に恥ずかしくなった私はばっと顔を本で隠しながら、隙間から反応が無くなった先輩の様子を伺った。

トレイ先輩はやはりチキンレースをしていた自覚でもあったのか、予想外の私の反応に度肝を抜かれたらしくポカンと口を開けて惚ける珍しい表情をしていたからやっぱりここで礼を言うのはおかしいよな!?と羞恥心で顔が熱を帯びてしまう。

 

「あ、あの…その、痛みが取れたことに対しての感謝でしてぇ…」

 

ガチギレモードのリドル先輩ほどではないにしろ、かなり真っ赤な顔をしてると思うとさらに恥ずかしくて本で顔を隠しながら自分が何に対して礼を言ったのかしなくていい言い訳が口から溢れ、この行動もクソダサいのでは!?と何をしても恥ずかしくなるスパイラルに陥った。

 

「だから、その…頭ポンポンするのは…さっきも言いましたよね?やだからやめてくださいねっ」

 

とにかく余計なことばかり言ってしまう口を閉じるために再度その行為は許していないことを結びの言葉にして口を噤んだ。

もう私から出せるアクションはないからトレイ先輩にはさっさとこの空気を打破してほしいと期待してると、先輩は何を思ってかポンと手を一度私の頭に置いてた後に撫で撫でし始めた。

 

「??!?」

 

「頭を撫でるのはセーフだろう?」

 

「なっ…なっ…なぁ〜〜っ!!」

 

ポンポンに対して嫌って言ったが、だからと言って撫で撫ではいいとは一言も言ってないが?!

ダメとは言ってなかったのも確かだが、聡い先輩のことだからさっきので十分に揶揄ったと手を引いてくれるもんだとばかり思っていた私にはこの先輩の行動には愕然とさせられた。

 

「はははっ!本当に揶揄い甲斐のある後輩だなぁ、幸緒は。しかし先輩としてはその反応は危なっかしくて心配になるよ。この学園には俺以上に悪い先輩も多いから、騙されないように気をつけるんだぞ」

 

「……実際、悪い先輩に言われると説得力しかないですね…キヲツケマス」

 

「はっはっはっ、そうだろ?(ナデナデナデナデ)」

 

「…うぅ…この何を言っても上を取られる感じ…異世界に来ても幸晴君と同じことされるなんて…」

 

もしかしなくても私がナメられているから悪い大人のお兄さんにいいように遊ばれちゃうんだろうか?

 

「幸晴?」

 

「例の従兄弟のお兄ちゃんです」

 

「ああ、引きこもりの…そう言えば7年後そのお兄さんはどうなったんだ?」

 

話題がボソッと呟いた幸晴君に移行した途端、先ほどまでの後輩で遊んでいた先輩は少し真面目な顔つきで訊ねてくる。幸晴君の行く末、結構気になっていたのか…。

 

「ニート生活をしてはや7年…幸晴君は何やかんやあって大暴れした後に実家を出て、学校の先生やりながら元気に暮らしてますよ」

 

「そうか、元気にやってるならよかった。しかし…大暴れ…って、どういう?」

 

「えっとですね…大分長くなりますけど、聞きます?」

 

尻餅をついたまま本を抱えて一応人が通れるように通路の隅に移動すると、先輩も隣にすっとしゃがんだので私の昔話に付き合ってくれるのだと判断した私は自分語りを始めた。

 

「あれは私が12歳の夏休みの出来事でした。暇だった私は近所に住んでた幸晴君家によく入り浸ってました。その日もいつものように昼過ぎに遊びに行ったんですけど…内容はあんま知らんのですけど幸晴君がおばさんおじさんと大喧嘩したらしいんですよ。で幸晴君が家を飛び出してくのと同時にドア開けようとした私は弾き飛ばされました」

 

「…幸緒は昔からそんな感じなんだな」

 

「私は植木に突き刺さってたんですけど、幸晴君はそのままどっか行っちゃって…おばさん達に救出されたんですけど、なんか…当時すでに5年も引きこもってた幸晴君に不安を覚えたんでしょうね…珍しくリビングにいた幸晴君に今後に関して小言を言ったら、その日はとんでもなくブチギレられておばさん達もつい思いの丈を吐き出してしまったらしくて大喧嘩しちゃったんですって」

 

「…それは大変な場面に居合わせたな」

 

「すんごい暑い日だったから、引きこもりニートの幸晴君が外に出るにはとんでもなく辛い日になると思って私はおばさん達と別れた後に幸晴君の捜索に出た訳です」

 

「おばさん達は捜しにいかなかったのか?」

 

「心配してたけど、そんな風に育てたの自分達ですからねぇ…どうしていいかわかんない様子でしたね。だから私、おばさん達を安心させてあげようと思って代わりに捜しに行ったんですよ。で、近くの土手で暑さにやられて死にかけてる幸晴君をわずか5分で見つけました」

 

「早いなっ」

 

「何年も部屋に引きこもってましたからね。ほんで死にかけの幸晴君を日陰まで引きずって、持参した麦茶とおやつのお菓子を与えて体力回復したら一緒に帰ろうと思ったんですけど、幸晴君ってば汗ダラダラなクセに黙り込んだままずーっと膝抱えて動かないんすよ…これ30歳間近の大人の行動です。ヤバくないっすか?」

 

「い…居た堪れないな」

 

「ま、そんな幸晴君に付き合うことにしまして…ちょうど今みたいな感じで横に座って、何も言わないからとりあえず目の前の川を眺めながら自分の話をしてたんですよ。学校であったこととか、友達の話とか、幸晴君が一緒に遊んでくれたゲームの話とか、漫画やアニメの話とか色々。お喋りな子どもでしたから日が暮れるまでずーっと1人で喋ってて…お腹空いて来たなーって思い始めた頃に幸晴君が急に喋り出したんです」

 

「…なんて?」

 

「俺は悪くねぇ…って」

 

「ええ…」

 

「そっから世間が悪ぃ、社会が悪ぃ、俺を理解しない世界と人類が悪いとか延々と愚痴を聞かされて…当時の私はまだ知能が足りなかったからですね。全然何も理解できなかったもんで隣でテキトーに相槌打って、途中から啜り泣き始めちゃったんで頭とか背中とか撫でて慰め続けてました」 

 

今思えば12時過ぎのお昼ご飯食べた後から陽が落ちて暗くなるまで6時間くらい飽きもせずによく付き合ったな小学生の私…あの日の自分の忍耐力に感心する。

 

「疲れたのかやっと帰る気になってくれた幸晴君の手を引いて帰ったんですよ。そしたら帰り道の途中で幸晴君は警察に連行されました…」

 

「急展開じゃないかっ…どうしてそんなことになったんだ?」

 

「あの時の幸晴君は完全に不審者でしたから…私といることで誘拐犯と間違われて通報されたみたいで、その後警察署に一人暮らししてた幸景君が幸晴君を引き取りに来て、兄弟で一緒に暮らし始めました」

 

「兄弟がいたのか?」

 

「はい。双子のくせに死ぬほど仲の悪い兄弟だったんですけど幸景君いわく、これ以上幸晴君を甘やかす環境におけねぇっておばさん達から引き離すためにしょーがなく幸晴君と暮らすことにしたんですって。そっから2年後に幸晴君はなんやかんやあって非常勤講師として私の通う学校で雇われて何とか社会復帰した訳ですよ」

 

「急に話飛んだな…しかし社会復帰できたのなら安心したよ」

 

「性格は歪んだままですけどね」

 

幸晴君が社会復帰したことにトレイ先輩は安心していたが、私はニートの時は暗くて癇癪を起こしたやすい性格が幸景君と暮らすようになってからは意地悪いことばかり言う皮肉屋の面倒くさがりに進化してしまったことでぞんざいに扱われるようになって少し残念だった。それでも尊敬できる部分もあるし、ダルいの面倒だの言いつつ結局面倒見てくれる大好きな従兄弟のお兄ちゃんだから高校に上がってからもよく遊びに行っていた。

幸晴君は自立するのに7年もかかったことを思うと、リドル先輩は周りにトレイ先輩やエース達がいてよかったなとしみじみ思った。

 

「…リドル先輩、先輩が言ってたような結果にならなくてよかったですね」

 

「…ああ。俺が思うよりずっとリドルは強いやつだった。お前たちの突飛な行動には驚かされたが、色々気付かされたよ…ありがとう」

 

「なんすか突然。そーゆーのは身体張って闘ってたエースとデュース、ついでにグリムに言ってあげてくださいよ。私はムカついたから文句言いたかっただけで礼を言われるようなことしてないですよ」

 

「はははっ…一番身体張ってたのは幸緒じゃないのか?誰よりも重症だったぞ」

 

「あれはぁ…本当は華麗に先輩を抑えてスムーズに攻略する予定だったんですけどねぇ…オーバーブロットってめっちゃヤバいんすね。二度としない」

 

あんな身体張れたのは入学時の化け物との戦闘による成功体験のせいだろう…今後は痛い思いをしたくないから安全圏からグリム達には指示だけ送ろうと心に決めていると、またもポンポンと頭に手を置かれた。

 

「……先輩さぁ…」

 

「あっ!悪い悪い。つい…な?もうしないようにするから気を悪くしないでくれ」

 

「いやもういいっすわ…別に嫌な訳でもないんでどーぞお好きにしてください」

 

「…!そうか、はははっ。可愛げのある後輩が出来て先輩は嬉しいよ」

 

きっと弟妹のことを懐かしんでいるんだろうと思わせるいい笑顔でめちゃくちゃ撫でてくるトレイ先輩にもう意地を張るのも億劫になって先輩の気が済むまでされるがままになることにした。

そのおかげか気を良くした先輩は私の調べ物に付き合ってくれてハーツラビュルや女王の歴史も色々と教えてくれた。その日の内にハートの女王に関するレポートを書き上げることができたので、こう言う扱いを受けるのもたまにはいいかと私はすんなりとトレイ先輩の所業を許したのだった。

 

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