ねじれた世界のオンボロ寮より   作:蒼桜満

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有能証人と盗賊と無能探偵団

 

 

また夢を見た。

行進するハイエナ達と共に何処かに向かっていた。

やがてだだっ広すぎる洞窟内に所狭しと集まったハイエナ達がとある一点を見上げる。

私も同じように見上げれば高台みたいな高所で皆の視線を一身に受ける黒い立て髪の何だかちょっと悪そうな片目に傷のあるライオンが選挙活動期間中の政治家みたいに演説している。

……あのライオン、妙に既視感がある。

話の流れは全くわかんないんだけどシンバっと言う王様らしい誰かを暗殺して王に成り変わる計画の発表現場らしくて、この場に集まったハイエナ達は皆共犯者らしく私はとんでもない場面に居合わせたもんだとハッキリしない頭でぼんやり思う。

やけに偉そうな片目に傷痕のあるそのライオンは響めくハイエナ達と一緒に特に計画を相談し合う様子もなく、とりあえず俺の言う通りにすれば全てうまくいくと雑に話を締め括った。

 

そうして視界は暗転して次に視界に映るのは薄汚れた天井。

剥がれかけの壁紙、壁の隅には逞しい蜘蛛が1日ではった立派な蜘蛛の巣に、朝日に照らされてキラキラと頭上を舞うホコリ…紛れもなくオンボロ寮のベッドの上で私は目覚めた。

 

「ウッ…頭イッテェ…」

 

頭と耳がジンジンする痛みに昨夜鉄柵に頭がハマった事件は紛れもなく現実だったと思い知らされて恥ずかしくてベッドの上で身悶えてると、早めに起きていたグリムが今日は食堂で朝食を取るぞと私を呼びに来た。

そういえばナイトレイブンカレッジ、実は朝食を食堂で出してくれる事実をクルーウェル先生に教えてもらって初めて知った。あの飢えに苦しんでいた日々は何だったんだろう…まぁ、朝早く起きれないから大体寮で食べちゃうんだけど、今日はそうはいかない。

昨日探偵団解散の間際にケイト先輩に明日は朝から調査したいとのことで一緒に朝食を取ることになったのだ。めちゃくちゃ眠いが、マジフト大会が近いし当然授業もあるために空いてる時間にしか調査出来ないから致し方ない。さっさと顔を洗って制服に着替えてゴースト達に髪をセットしてもらい、グリムと共に寮を出た。

 

「そういやオマエ、昨日の夜のアレ…何だったんだゾ?」

 

寮を出てすぐにすごく怪訝そうな顔をしたグリムに忘れたい昨夜の恥ずかしい出来事を掘り起こされて、ただでさえ低かったテンションがさらに下降した。

 

「……いや…何となく寝付けなくて、散歩してたんだ…」

 

「散歩〜?それでなんでああなるんだゾ?」

 

「いや…それで…変な人に会って…それで」

 

「……もしかしてソイツにやられたのか!?オレ様の子分にっ…許せないんだゾ!」

 

「…いや…その…その人とはちょっと話しただけで、手も出されてないというか…いや…驚かされはしたんだけど」

 

「?」

 

「…その…ただビックリしたはずみであの隙間に頭が入っちゃったというか…」

 

「?…??…はぁっ?…つまり自分で勝手にハマって抜けなくなった、ってことなんだゾ?」

 

「…そう…ゆうことになる…」

 

「………」

 

黙ってしまったグリムを薄目でチラリと見やると、あまりに馬鹿らしい真実に衝撃を受けたように目を見開いて絶句していた。グリムは顔に出るタイプだからわかる…コイツ、ガチでアホちゃうか?と顔がすごくそう言ってる。グリムからすると本当に理解できない行動だったんだろう…いつもならちょっとヘマしたぐらいで意気揚々と罵声を浴びせて来るのに、言葉も出ないような反応を見せられると余計にダメージが入る。

 

「なんだよっ!アホだと思ってるんでしょっ!?だったら罵倒してよっ!黙られる方が傷付く!!」

 

「お前…たまに怖いくらい間抜けなことするから、俺様すげー引ぃちまうんだゾ」

 

「まさかのマジレスッ!!」

 

本能に忠実な獣だとばかり思っていたグリムにガチ目にドン引きされて私は膝から崩れ落ちた。効いた…朝から精神ダメージがすごい。

 

「……で、夜に会ったそいつは何だったんだゾ?」

 

「知らない…名前教えてくれなかったし……あ、でも何か好きなように呼べ的なことを言ってた気がするわ。あのツノの人」

 

「ツノ!?ほぇー…ふーん、じゃあ……『ツノ太郎』だな!」

 

「ツノ太郎!?……………いーじゃん」

 

あまりに安易な名前だと思ったけど、桃太郎に金太郎、ハム太郎にウルトラマンタロウとか色んな創作物に昔からよく登場する名前だし、アリだな!そもそも人に名付けを委ねる方が悪いのだと、少し意地悪な気持ちも込みで私はグリムの名付けにイイねを送った。

満足そうにしているグリムを見てふとコイツの口から「太郎」って出てきたのはおかしくないか!?と違和感気付いた。日本暮らしの私には自然な名前だけどどちらかと言うと西洋風な異世界で出てくる名前じゃない!しかし異世界で日本語しか喋れないはずの私の言葉が普通に通じるし、文字も読めるし書いた文字も普通に通じるので勝手に翻訳でもされてるのか…だから私には太郎的ニュアンスで聞こえてるだけでツノ+異世界の馴染みある名前なのかもしれない。

そう自己解釈して頷いてと、突然肩にポンっと背後から手を置かれて、反射的に振り返るとブスッと肩に置かれた手から伸びる人差し指が頬に突き刺さった。あれだ、肩をトントンされて振り返り様に頬をプニっと指で突かれるあのイタズラだ。

振り返った先にはイタズラが成功して嬉しそうに無邪気な笑顔を浮かべるケイト先輩。

一見後輩に可愛らしい悪戯をする先輩のコミュニケーションと言う爽やかな光景だろう…しかし私がわりとびっくりして勢いよく振り返ったもんだから、大して尖ってないはずのケイト先輩の指先、しっかり整えられた形のいい爪がブッスリと頬に食い込んだ痛みに眉間に皺がよる。

 

「おはおはー!幸緒ちゃーー」

 

「いっーーー…っ…ぅ…」

 

「!?ごめん!大丈夫!?」

 

タイミング悪いことに頬にできた思春期ニキビに思い切り刺さったのも相まって、鋭い痛みに本当に深刻そうな呻き声が出てしまった。

ちょっとしたイタズラが多大なダメージを与えるような予想外の事態にケイト先輩は大慌てで、この状況を目撃していたグリムとケイト先輩と一緒に登校していたリドル先輩は冷ややかな目をしていた。

 

「何をしているんだい。君たちは…」

 

「いやぁ〜こんなに場が盛り下がるとはね。ホントごめんね?」

 

「いえいえ、むしろこっちが申し訳ないです…すんません…」

 

何だか一瞬お通夜みたいな雰囲気になったものの、ふとリドル先輩がずいっと近付いてきて何事かと少し慄いた。

 

「キミ、少しタイが曲がっているよ。ルールの乱れは衣服の乱れからだ」

 

「えっ…そうですか?自分じゃよくわからんですけど…?」

 

ジッと私のネクタイを凝視するリドル先輩の視線を辿り、自身で直そうといじくり回し、???を浮かべていると先輩がサッと私の手を退けてネクタイを整え始めた。何だか距離が近くてソワソワする…身長が同じくらいなせいで息が…当たる距離なんすわ…。ちゃんと歯磨きしたし臭いつもりはないが、私は自分の口臭が気になってそっと息を止めた。

 

「まったく、監督生がそれでは寮生に示しがつかない……といってもキミの寮の寮生は1匹だけだけどね」

 

「…ゴーストさんたちもいます」

 

「彼らは生徒じゃないだろう……うん、これでよし」

 

「ありがとうございます」

 

慣れた手つきでテキパキとネクタイを整えてくれたリドル先輩は満足そうなので、美しい仕上がりとなったのだろう。おかしなルールさえ絡まなければ面倒見のいい先輩だ。と言うかハーツラビュルの先輩達は平時は基本的に面倒見がいい。

まともな学生生活の環境が整っていくことに喜びを噛み締める私の隣でグリムがキョロキョロと辺りを見回しながら小首を傾げた。

 

「エースとデュースは一緒じゃねーのか?」

 

「そう言えば…いないね」

 

「彼らはハートの女王の法律第249条にのっとってピンクの服でフラミンゴの餌やり当番中だ」

 

「ピンクの服で…餌やり当番…ンフッ」

 

寝坊かと思えば全く違った上に何だか絵面が面白そうなイベントをこなしてるみたいだ。ちょっと見たい。

 

「ところで、昨晩また1人怪我人が出たらしい」

 

「ふな゛っ!?本当か?」

 

リドル先輩のその言葉で和やかな朝は終わりを告げて、シリアスな調査パートが始まる。

ケイト先輩の仕入れた情報によると、事件現場を目撃していた肖像画から話を聞けたらしく、彼によると今回怪我をしたのはスカラビア寮の2年生だそうで調理室で事故に遭ったらしい。

 

「肖像画の監視カメラって…」

 

今回に限っては特にありがたい情報になるし、役立つんだけれど、改めて学生生活を送る様子を終始観察されてると思うと校内ではプライバシーはないものだと思って過ごす方が良さそうだと生活態度を改めようと思い直した。

ちょうど朝食の時間帯で件のジャミル氏が大食堂にいるかもしれないとのことなので、調査の方針が決まった私達はスカラビア寮のジャミル・バイパー氏に話を聞くべく早速大食堂へと向かった。

 

 

***

 

 

朝からザワザワとかなり賑わっている食堂の一角にターゲットはいた。

黒に近い暗い色の茶髪の長い髪をお洒落に編み込みつつ、頭の後ろで一つにまとめている浅黒い褐色肌の細身のクールな雰囲気の生徒とその正面に同じく褐色肌によく映える短髪の銀髪に煌びやかな装飾の入ったバンダナを巻いた活発そうな印象の生徒と2人いて、ターゲットのジャミル氏は長髪のクールな生徒の方みたいだ。この人達、以前ケイト先輩の寮説明時に見たアラビアンな人達だなと、話しかけに行っている先輩達の後ろでジャックといい、関わる人が案外見覚えのあるな世間の狭さを感じつつ様子を伺っていたのだが、そうしているとまたもトラブルメーカーの獣が真っ先に飛び出していった。

 

「よぉ。オマエ昨日調理室で怪我したヤツだろ?ちょっと話きかせてくれよ」

 

ファーストコンタクトだってのに自己紹介も挟まず不躾に声をかけるのだから相手は当然眉を顰めて訝しげにこっちを見やる。

 

「はぁ?急になんなんだ、あんたら」

 

(あぁもう、グリムのバカバカ印象最悪だよ〜!)

 

「あ〜っ!この狸、入学式でオレの尻燃やしたヤツ!」

 

さらには銀髪ターバンの連れの方には危害を加えていた新事実が発覚。終わった…サバナクロー以上に敵視されても致し方ない。

問題を発生させる行動力だけはあるパートナーに対して頭を抱えて諦めかける私とは対照的にリドル先輩は落ち着き払った様子で余計な口を挟もうとしたグリムを押し退けてジャミルさん達との間に立った。

 

「グリム。キミは少し口の利き方に気を付けたほうがいい…すまないね、朝食中に」

 

「ハーツラビュル寮の寮長と、入学式で暴れた狸。あっはっは!なんか面白い取り合わせだな」

 

「オレ様は狸じゃねえ!グリム様だ!んで、コイツは幸緒なんだゾ」

 

「あっ、ど、ども…一応オンボロ寮の監督生やってる幸緒です。グリムがなんだか迷惑かけたようで、すみません」

 

銀髪ターバンの方はナイトレイブンカレッジ生とは思えないほど陽のオーラがすごい…ケイト先輩のような陽キャな感じとはまた別方向に圧倒的陽キャだ。お隣のジャミルさんが見た目も喋りも陰の気を醸すので余計に光が眩しい。被害にあっているにも関わらず、グリムのことも大して気にしてないようで懐が広い…私もケツ燃やされた挙句に退学騒ぎになったけど、こんな広い心で許してやれない…何なら今でも許せねぇ。

 

「へぇー、そうか!オレはスカラビア寮寮長のカリム。こっちは副寮長のジャミルだ。よろしくな」

 

「お、おう。なんか調子狂うヤツなんだゾ」

 

「お前はまず謝罪しろ!」

 

「……で?何故俺が怪我した話を聞きに?」

 

「そのですね…最近こう言った事件が多発してるのを気にしてる学園長に調査を依頼されたんです。だから差し支えなければお話伺えればなーと」

 

いまだに警戒心MAXの猫ちゃんみたいな距離感を醸すジャミルさんのジト目を受けて、ここは正直に調査理由と真面目にやってる感を出すために私はメモとペンを取り出して必死にアピールする。

 

「学園長が?ふーん……まあ、いいだろう」

 

「ありがとうございます!」

 

少々気になる間があったが、比較的友好的な態度を見せてくれたから媚びた甲斐もあったなと安堵しつつ、そのままメモを取る態勢に移る。

 

昨夜、ジャミルさんはカリムさんの要望により羊肉の揚げ饅頭という、何やら美味しそうなお夜食を調理室で作っていたらしい。カリムさんが脇から絶賛するから余計に料理に気を取られそうになるが今は事件の内容に集中せねばいけない。

 

「具材を細かく刻んでいた時に何故か手元が狂って手を傷つけてしまった」

 

「ヒエッ…痛そう…」

 

多少料理の経験があるせいもあってザックリ手を切った姿をリアルに想像して身震いする。他人事でも痛い話は辛い。

 

「ジャミルの包丁さばきはウチのコック長も舌を巻くレベルなんだぜ。マジフトの練習で疲れてたのか?」

 

「いや、俺はその程度で手元を狂わせたりはしない。だけど、調理中に一瞬、意識が遠くなったような感覚があった」

 

「うーん…それはめまいとか、眠気とかですか?」

 

「殆どの奴らはそう思うだろうが……俺にはあの感覚に少し覚えがある。おそらく、ユニーク魔法の一種だ」

 

「「!!!」」

 

正直今までの怪我人達の証言みたいに犯人への足がかりにはならないと思っていたが、ジャミルさんの見解で思いの外調査が大きく進展してしまった。

 

「そっか、ジャミルのユニーク魔法はふぁっフガフガ!」

 

何でこの人こんなに詳しいん?と言う疑問に答えるようにカリムさんが大きな声で話し出したのをジャミルさんが素早く口を塞いでいたが、ユニーク魔法の系統が似通ってるかなんかで勘付いたんだろうなと察せた。

 

「とにかく、犯人が使ったのは相手の行動を制御できるような魔法だと思う」

 

「マリオネットってこと〜!?めちゃつよ魔法じゃないすっか!」

 

「なるほどね〜。だから目撃者的には本人の不注意にしか見えなかったってことか」

 

「もしそれが一瞬のことなら、被害者自身も自分の不注意から操られたのか判別がつかないかもしれない。ボクも階段から落ちかけた時、無理矢理操られたような感覚はなかった」

 

こう言う魔法ってゲームだと大抵操れない確率の方が高いのに、寮長のリドル先輩を操れる上に一瞬だったら術にかかってるかも判別出来ない魔法とか、最強じゃねーか!

 

「ってか、そんな魔法……犯人を捜すの無理ゲーじゃん。どうする?」

 

「そうなんですよねぇ…手口がわかったのは大進展なんですけど」

 

いまだに犯人の見た目とかは全くわからないし、遠隔操作が可能な魔法なんてものがあるから犯人の特定が難関すぎる。

推理のためにメモをめくりながら思案する。

ライバルを減らすための犯行ならば被害にあった寮を見るにハーツラビュル、ポムフィオーレ、スカラビアの寮生がわざわざ自分達の寮を襲う理由はないと思うから外していいと思う。

残るはサバナクロー、オクタヴィネル、イグニハイド、ディアソムニアだ。このディアソムニアは聞いた話だと確か去年も他の寮を圧倒して優勝していたらしいので、普通に試合して勝てるほどの実力を持つ優勝候補の寮が姑息な手段に出る理由が見出せないから除外していいだろう。そうなると残る3つの寮に犯人がいると思うのだが、誰か1人と特定しようにもまだまだ人が多すぎる!

 

「人を操れる魔法……ハッ!オレ様もそれを習得すれば、毎日人を操って学食のパンを独り占めできるんだゾ!」

 

「パンを独り占めって……もう少しまともな目標を持ったらどうだい?」

 

私が頭を悩ませながら推理してるってのに、相方の獣はメシのことばかりで本当に頼りにならない。リドル先輩も呆れて助言するが、グリムは聞いちゃいない。

 

「そしたらDXメンチカツサンドも食べ放題………ん?」

 

「まだ言ってんのかよ。あん時ちゃっちいあんパンと逆わらしべしてたのお前…じゃ…ん………あっ」

 

グリムと見つめ合いながらおそらく同じタイミングで回想に入った。

ホワホワと脳裏に蘇るのは先日DXメンチカツサンドを掲げて小躍りするグリムとニヤニヤと妖しい笑みを浮かべてミニあんパンを差し出すタレ目のケモ耳の学生。

 

『こっちのミニあんパンとそっちのDXメンチカツサンド、交換してくんないスか?』

 

と厚かましすぎる申し出に当然ながら反発していた強欲のグリムが相手の言うまま、相手と全く同じタイミングで素直にパンを渡していた。当時のグリムは勝手に身体が動いたと意味不明な証言もしていたし、思えば今回の怪我人達と同じことを言っていた。そしてその時のケモ耳の生徒はーーー

 

 

 

「あ゛〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

 

「「!!!」」

 

「なんだ!?急に大声出して」

 

耳をつんざくようなグリムの野太い悲鳴はスカラビア寮の人とハーツラビュルの先輩達を驚かせ困惑させるが、私はさすがのコイツも真相に辿り着いたかと逆に冷静になった。

 

「犯人特定出来ましたわ…先輩」

 

「えっ」

 

「オ、オレ様、知ってるんだゾ!そのユニーク魔法を使うヤツ!」

 

「なんだって」

 

「…と言うかもう会ってましたよ。選手候補連続傷害事件の犯人はサバナクローのラギー・ブッチだ!」

 

展開の速さに驚くリドル先輩とケイト先輩に私はさながら推理ものの探偵のように高らかに事件の犯人の名を告げた。気分はまさにシャーロック・ホームズである。

 

「ラギーって……昨日の?」

 

「そうですよ!涼しい顔してなんて腹黒い…あんにゃろう〜!許せねぇ!」

 

昨日のマジフトいじめを思い出して激しい憎悪が湧き上がって握り締めた拳が怒りで震える。とりあえず詳しい話は犯人確保の道中でと言うことで、まずはラギーさんを引っ捕らえて話を聞き出そうと早速私達はケイト先輩の情報に従いラギーさん所属のクラスである2年B組へカチコミを仕掛けに行く方針で決まった。

 

「2人とも、ご協力感謝する!」

 

「本当にありがとうございました!ジャミルさん、お大事に〜!」

 

「…ああ」

 

「おお。なんかよくわかんねーけど、頑張れよ〜!」

 

調査協力してくれたカリムさんとジャミルさんにしっかり頭を下げお礼を告げてから私達は慌ただしく食堂を後にラギーさん確保に向かった。

 

 

***

 

 

「たのも〜〜〜〜!ラギー・ブッチはどこなんだゾ!」

 

バターンっと大きく教室の扉を開け放ったグリムに教室にいた生徒達が騒々しくなり、こちらに集中していた視線が名前の上がったラギーさんへと向かった。

視線の先、机に突っ伏していたラギーさんの丸い耳はこちらへ聞き耳を立てていたようで起き上がるとのそのそと気怠げに教室の扉の前で仁王立ちするグリムと私の前までやって来た。

 

「うぃーッス。……って、また君らッスか。何度言われてもDXメンチカツサンドはもう返せないッスよ〜」

 

「DXメンチカツサンドはどーでもいいんですけど…まぁ、その時のことをよーーーく覚えてるみたいで幸いですよ」

 

「…?」

 

内心では散々コケにしといてよくもいけしゃあしゃあとほざきやがる!と憎々しく思いながらも、逆転裁判ならここからは犯人をギャフンと言わせる尋問パートだと腰に手を当て不敵な笑みで返して見せた。うんうん、探偵みたいでカッコいいぞ!私っ!

 

「ラギー・ブッチ。今学園内で起こっている選手候補連続傷害事件について聞きたいことがある」

 

「おぉっと……そいつぁ穏やかじゃなさそーッスね」

 

「ちょーっと、表に出てくんない?」

 

私の背後から姿を現したド直球に詰めるリドル先輩とニコニコしながらも笑顔と声色が恐いケイト先輩にさすがに気怠そうに対応していたラギーさんは表情を大きく変えることはないものの、分が悪い状況であるのは察したようだ。

 

「わかったッスよ。だから、乱暴な真似はやめてほしいッス」

 

「変なことされなきゃ何もしませんよ。サバナクローの皆様とは違ってちゃーんと理性的にお話が出来るのでね」

 

「へぇ、言ってくれるじゃん。中々いい性格してるッスね、君」

 

つい反射的に嫌味を言ってしまったがノーダメージみたいでホッとした。いらんことを言ってしまうこの性格で何度状況を悪化させたことか、反省せねばと頭を振りながらあまり人気のない廊下をラギーさんを前後で挟む形で囲むように歩いていると隣のリドル先輩の物騒な呟きが耳に入る。

警戒しているんだろうけど、ラギーさんのシュレディンガーのユニーク魔法を発動される前に行動不能にしてしまおうとしてる考えがめちゃくちゃ声に出てる。

 

「ボクの『首をはねろ(オフ・ウィズ・ユアヘッド)』で……」

「ちょっとリドル先輩、まずは普通に話聞きましょうよ」

 

こっちは理性的に会話出来ると言った手前、初動で魔法封じとかあっという間にサバナクローの皆様と同じレベルに落ちてしまう。それだけはプライドが許さないぞと身を翻してラギーさんへと向き直るリドル先輩に慌てて声を掛けたが、ニヤァと悪い笑みを浮かべたラギーさんがわざとらしく声を上げた。

 

「あれれ〜?リドルくん。マジカルペンなしにそんな強い魔法を使って大丈夫ッスか?」

 

「えっ?……あ、あれ!?ボクのマジカルペンがない!」

 

「ファッ!?」

 

「オイ、ケイト!オマエのペンもねぇんだゾ!?」

 

「うそっ!マジで!?」

 

気付いた時には先程まで先輩達の胸ポケットに収まっていたマジカルペンが忽然と姿を消していた。

何が起きたのかと混乱していると背後からシシシッ!と響く独特な笑い声に振り返ると先程まで私とリドル先輩、ケイト先輩とグリムで挟み込んでいたはずのラギーさんが2本の赤い魔法石の光るマジカルペンを片手にブラブラさせ、こちらを小馬鹿にしたような笑みを浮かべて立っていた。

 

「アンタら、さてはお坊ちゃん育ちッスね?懐ガラガラ。隙ありすぎ。楽勝で盗れちゃったッス」

 

「ふな゛っ!?アイツ、いつの間に魔法を使って2人のマジカルペン盗んだんだ!?」

 

「嫌ッスねぇ。こんなの魔法使わなくたって余裕ッスよ!ってわけで、こんなところでボコボコにされちゃたまんないで、退散させてもらうッス!ばいばーい♪」

 

さらに屈辱を味わせる口撃を放ち、ラギーさんは颯爽と逃げ去って行った。何…だと…魔法など一切使ってないんじゃ、スリ技術は生まれ持っての才能ってこと!?それでは魔法使いじゃなくて実質盗賊じゃねーか!ここは魔法使いしかいない学園だと思っていたのに違うジョブを掛け持ちしてるなんて聞いてないんだが!

 

「コラー!待つんだゾ〜〜!」

 

「待て!止まらないと首をはねるぞ!オ…「ちょっと待った、リドルくん!やっと身体からブロットが抜けたばっかりなんだから、ダメだって!」

 

「つーか窃盗を許した上に包囲網も抜けられるってマ!?無能集団スギィ!」

 

わちゃわちゃしながらラギーさんを追う最中、強いユニーク魔法持ちの先輩が2人もいるからと余裕こいてたことを猛省するはめになるとは思わなかった。

こんなことならケイト先輩に影分身してもらって倍の人数でがっちり囲んでいればとか、最初から魔法封じの首輪してからとか、スリ防止のためマジカルペンにダサくてもウォレットチェーン付けてもらっておけば!と対策が浮かぶも今は魔法を行使出来ないのだからもう後の祭りだ。

大分距離を稼がれながらも真っ直ぐ逃げるラギーさんを追うそんな時、前方の曲がり角から聞き覚えのある2人組の声がした。

 

「やー、お前のフラミンゴ当番用のピンクの服スゴかったわ。ドピンクのヒョウ柄って」

 

「し、仕方ないだろう。ピンクの服がそれしかなかったんだから……」

 

「つーか、結局変なルールがたくさん残ってるよな。前よりマシだけどさ」

 

「あっ、エースちゃん、デュースちゃん!いいところに!」

 

「え、どーしたんスか?そんなに慌てて」

 

暢気に歩いて来た2人をケイト先輩がガッと肩に手を置いた。若干キャラが崩壊し掛けていた慌てるケイト先輩の顔が怖かったのか、2人とも声が上擦って戸惑っていた。途中参加のエースとデュースが状況を理解出来ずに驚くのは当たり前なんだが、真っ赤な顔で怒り狂うハーツラビュルの寮長様には関係ない。

 

「連続傷害事件およびマジカルペン窃盗の犯人が逃げた!キミたち、今すぐラギー・ブッチを捕まえろ!さもなくば、おわかりだね!?」

 

「えぇえ!?」

 

「オレら、とばっちりじゃん!」

 

「先輩がド無能になっちまった今、頼れるのはお前らしかいねーんだっ!」

 

「ウギィーーッ!!」

 

「幸緒ちゃん!?リドルくんを刺激する発言やめよーね!?」

 

「とにかく大会に出たいなら気張れーーッ!!」

 

そうこうわちゃつきながらも、私以外は魔法が使える3人と1匹のお馴染みのメンツによるラギーさん捕獲部隊が結成されたのだった。

 

 

 

 

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