ねじれた世界のオンボロ寮より   作:蒼桜満

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※ネットスラングがいつもより多用されてます。
「www」←特にこれ、表現のために使わせていただいてますが、苦手な方はご注意ください!



熱血青春boysと企てる楽しい犯行阻止プラン

 

 

 

グリムが授業をバックれて以来の追いかけっこ。

体育教師バルガス先生の過酷な肉体強化授業のおかげで多少は体力が付いた私であったが、ついていけたのは中盤に差し掛かる辺りで早々に脱落した。

ラギーさんの脅威的な足の速さや身のこなし、特に障害物らしい障害物のない校内でパルクールでもしてんのかってくらい派手な動きでグリム達は翻弄されていた。いくら魔法を放っても軽い身のこなしで避けられての無駄撃ちを繰り返していると、グリム達は途中からノーコンになってまた私はフレンドリーファイアでダメージを受けて途中で力尽きた訳である。

しかしここで終わってたまるかと、フレンドリーファイアを受けた恨みをラギーさんへと全集中させた私は肖像画ネットワークを駆使して先回りして罠を張る方向へと舵を切った。

派手に魔法をぶっ放す追いかけっこをしてるので、まぁ目立つ目立つ。

移動しつつ、各地点にある肖像画さんからリアルタイムで入る情報を聞きながら、肖像画さんにどの辺りで罠を張るのがちょうどいいかと相談しながら作戦を立てた。このルートならば最終的に中庭に出て撒かれるだろうと予測し、校舎から広々した中庭に繋がる出口の側面にいい感じに常備アイテムとなった学園長の愛のムチ紐を結びつけ、結んでない方の紐をしっかり握り反対側の壁際にしゃがんで待機する。

本来足を引っ掛けるタイプの罠だが、それでは怪我をさせてしまう恐れがあるのでピンと張った時に腰に当たるようにして確保を優先する形にした。しっかり足元を見られてしまえば、いくら保護色と言ってもダルダルの紐が落ちていて確実に怪しいし、簡単に避けられるかもしれないが、あの3人が魔法を放ちながら気を引いているのできっと引っかかってくれると願っている。

やがてバタバタと慌ただしい足音とグリム達とラギーさんの騒がしい声が聞こえて来たので、私は息を潜め紐をしっかり握りタイミングを見計らった。

 

「ま、待てーっ!ぜぇ、ぜぇ、待つんだゾー!!」

 

「待てって言われて待つお馬鹿さんはいないッスよー!シシシッ!」

 

間際まで迫った足音が最大に達したと判断したその瞬間、私はゴールテープのごとく思いっきり愛のムチ紐を強く張った。

 

「今だあっ!オラァアッン!!」

 

「うわっ!?危なっ!!」

 

「ファッ!?」

 

完全に不意をつけたはずなのに、このラギーさんは咄嗟にサッカーの試合で点を決めて喜び勇みカメラに向け、両膝でスライディングを決める選手のように張った紐の下を、さながらリンボーダンスを華麗に決めるかのようにスィーッと潜り抜けて行った。まさかそんな身体が柔らかいとは思ってなくて呆気に取られていると、

 

「ちょっ、何この紐ーっ!うわわっ!」

 

「エースどうしっ…うおおっ!?」

 

「フォアッ!?!反動がすごいっ!!」

 

ラギーさんを追って突っ込んできたエースとデュースが愛のムチ紐ゴールテープトラップに引っかかり、(お前らが引っかかるんかーい!)と内心ツッコむ私はその2人分の勢いにムチ紐を絡ませていた手を引かれて、あれよあれよバタついた末に3人まとめてぐるぐる巻きになってすっ転んだ。地面が柔らかい中庭の芝生の上で助かったが、流石学園長の魔法の愛のムチ紐…吸着力が半端じゃない。ちなみにグリムだけは余裕で下を潜っていたので無事だった。

 

「お、お前ら!何やってるんだゾ〜〜ッ!?」

 

「プーッ!クスクスッwwちょっwwwアンタらw間抜けッスねぇ〜〜〜wwww」

 

簀巻きになって転がる私達にグリムが必死に紐を解こうと踏ん張るが優秀すぎる紐は解ける様子はなく、ラギーさんはちょっと離れたところでこちらを指を差しながらありえんほど大爆笑していた。くっ…悔しい…何たる屈辱!

 

「幸緒何してくれてんの!?超サイアクなんですけどー!!」

 

「くっ…ダメだ。まったく解けないぞ、この紐」

 

「ぐぬぬっ…こんなはずじゃ…」

 

ラギーさんに笑われる上に味方側からもブーイングが炸裂して来てもう立つ瀬がない…いや、フレンドリーファイアしてくるような奴らに申し訳なく思う気持ち、微塵も湧かないわ。

一頻り草を生やしまくったラギーさんはスッと落ち着くと、まるで子供と視線を合わせるようにしゃがんで上から目線でこちらを見やる。

 

「つかさぁ、もしここでオレを捕まえたってアンタらオレが犯人って言い切れなくないッスか?」

 

「なんだと?」

 

「だって、オレが怪我させたって証拠、ないッスよね。誰かオレが魔法使ってるとこ見たんスか?そんで、それ写真に撮ったりしたんスか?してないッスよねぇ?」

 

「うぐっ………そ、それは」

 

確かに私とグリムが見ただけで確証はないが…エースもデュースも押し切られそうになっていて不甲斐ない。もっと悪知恵働かせろよっ!こうなっては私が自前の灰色の脳細胞をフル回転させるしかない。

 

「証拠が何さっ!そんなモン…あれだ。アンタを大会開始日まで監禁して、その間事件が起こんなきゃそれが証拠になるでしょーが!」

 

「はぁっ!?」

 

「幸緒…お前っ、天才か!?」

 

「冴えてるんだゾ〜!さっすがオレ様の子分!」

 

「で〜しょ〜〜!もっと褒めてっ」

 

その手があったかとポンと手を叩いて納得するデュースとグリム(単純)、なんか空気がフワフワしてきて謎の無敵感を持ち始めた私に驚きのあまり声を失っていたラギーさんがハッと意識を取り戻し、激しく反論してきた。

 

「ちょっとちょっと何勝手なこと言ってるんスか!?疑惑の段階で監禁とか、過激すぎでしょ!」

 

「でも疑わしきは罰せよってジンも言ってたし」

 

「誰ッ!?」

 

「正直オレもどーかと思うけど、ここは一つ監禁されてくださいよ〜。ねっ?」

 

「ねっ?じゃないんスよ。大人しく監禁されますなんていう訳ないでしょ!絶っっ対お断りッス!」

 

エースの後押しもあったがキッパリとお断りされてしまった。時間の無駄すぎる会話で時間稼ぎして絡まった愛のムチ紐が解けるか、リドル先輩達が駆けつけてくれることを期待していたけども無意味に終わった。

 

「まったく…次にオレを追い回すときには証拠揃えてから来てくださいッス。ま、いwまwのww君たちじゃ次も無理だろうけど」

 

「なにを〜!くっそ〜動けーんっ!学園長の紐優秀スギィッ!!」

 

「んじゃ、今日の追いかけっこはここまで。あ、さっき盗ったマジカルペンはここに置いとくッスよ。ばいばーい♪」

 

結局紐は解けないし、自由の身のグリムだけでは追いつけないし歯が立たないしでラギーさんはリドル先輩達のマジカルペンを芝生の上に放って、手を振りながら立ち去って行った。

しばらく3人で簀巻きのまま転がったりしてすったもんだしていたが、グリムの助けもあり何とか紐が緩み解けたが、その時にはすでにラギーさんの姿を完全に見失ってしまった。

 

「くっそ〜!腹立つ〜!」

 

「ローズハート寮長に首をはねられる……」

 

「怒られる所の話じゃないでしょ。あの人、またなんかやらかしそうな雰囲気あったんだけど」

 

芝生の上に転がる先輩達のマジカルペンを回収して私は背後で頭を抱える2人に今後のことを相談しようと振り返ったその時、

 

「てめーら、まだ懲りずに犯人捜しやってんのか」

 

「うおっ!?びっくりしたぁ!…ジャック、君じゃん。こんにちは」

 

急に木の影からスッとどでかい図体が真横から迫って来たことに恐れ慄いてしまった。一体どこの不審者かと思えばサバナクロー寮の期待のルーキーで連続傷害事件被害者候補のジャックが相変わらずブスッとした仏頂面で体格に見合った高圧的な雰囲気を醸す。出会い頭にはちょっと心臓に悪い。

 

「んだよ。見てたんなら手伝えよな。おたくんとこの先輩、超悪いヤツなんですけど?」

 

「お前ら、何故そんなに他人のために必死になれる?」

 

どうやらジャックは昨日はサバナクローでボコボコにされ、今さっきも無様に簀巻きになってまでも懲りずに事件解決のために奔走する私達のことが不思議で不思議でならないようだ。怪我をした人々のため、健気に頑張ってるように見えているらしい。

 

「怪我したダチの仇討とうって気持ちはわからなくもねぇが……」

 

「は?なに言ってんの」

 

ここにいるのはナイトレイブンカレッジ生。当然ながらそんな善性の塊など、この場には私以外に存在しないのだ。

 

「だーれが他人のためなんかにやるかっつーの」

 

「僕たちはこの事件の犯人を捕まえて手柄を立てたいだけだ」

 

「そーそーあわよくばマジカルシフト大会の選手枠に入りたいし。で、世界中にイイとこ見せたい」

 

「オレ様だって、絶対アイツを捕まえてテレビに映ってやるんだゾ!」

 

「私はトレイ先輩、他被害者のために動いてるよ♡コイツらと違って清廉潔白な人間です」

 

「はい、ダウト〜〜!清廉潔白な人間は監禁するとか言わないんだわ!」

 

「幸緒…これで学園長に恩を売るんだって言ってたじゃないか。嘘は感心しないぞ」

 

「柵に引っかかって泣きべそかいてた奴がなんかほざいてるんだゾ」

 

「ぐぬぬっ!」

 

各々好き勝手に利己的な目的を赤裸々に口にするので、グループの過半数が自分勝手な人間だと私も巻き添えでそう言う人間であると思われそうだ…だからちょっと盛ってはいるけどやられた皆の無念を晴らすために動いてるのは事実なので、善人であることをアッピルしただけなのに…間髪入れずに全否定された上に全部事実だから言い返せない。人の足を引っ張るのだけは激ウマな連中だぜ!

 

「ハッ!他人のために動くようなヤツは信用ならねぇと思ってたが……お前ら、思ってたよりひでぇ奴らだな」

 

「なんだよ。オレらよりお前のほうがひでーじゃん。その様子じゃ知ってたんだろ?アイツが事件の犯人だって」

 

「あっ!そうか。同じ寮だから『自分は狙われない』って言ってたのか?」

 

あの発言、近くにいた私にしか聞こえなかったと思っていたけど、グリムも聞いてたんかい。やはり獣ゆえ人間より耳がいい。しかしこうなると新入生とはいえ、やはりラギーさんと同じ寮であるジャックは色々と情報を持ってそうで、私は不服であるがどうやらエース達が曝け出した自分勝手さが逆に好感持てたのか、強面を破顔させれたことで協力してくれそうな雰囲気さえ漂っている。

 

「…………オイ、てめーら。俺と勝負しろ」

 

そんな中で彼が言い放った一言がこれだ。

これを聞いた時、私は視界に映るジャックの左上に「!?」と言うマガジンマークを幻視した。唐突に何を言いだすんだろう、この人。当然エース達も動揺する。

 

「男が腹割って話すんなら、まずは拳からだろ。てめーらが口だけの輩じゃないと俺に証明できたら俺の知ってる話を教えてやってもいい」

 

彼は男の中の男というか、筋骨隆々の肉体に見合う男気溢れる青春熱血野郎だったことが判明。まぁ、見るからに脳筋タイプだとは思っていた。

 

「げっ。オレそういう汗臭いの苦手なんだけど」

 

「俺はそういうの嫌いじゃねぇぞ。わかりやすくていいじゃねぇか!」

 

「ふな゛っ!?デュースのワルスイッチが入っちまったんだゾ!」

 

嫌がったり乗り気だったりで三者三様の反応を見せるエース達であるが、勝利条件なしに勝負に乗るだけで情報が貰えるなら乗らない理由がない。

 

「拳での語り合い大いに結構!行け、男ども!存分に殴り合ってこいっ!」

 

「おうっ!任せろ!」

 

「ちょっと待った!なんで幸緒は当然のように参加しない流れなわけ!?納得いかないんですけど!」

 

「いや、私非戦闘員だし、いた所でねぇ…。それに私はグリムとニコイチなわけだからさ。グリムは暴力担当!私は頭脳担当♡」

 

…そもそも私は男じゃないから元から参加資格などないのだ。てかこの学園、私闘禁止ってデュース言ってなかったか?まぁええか…どっちにしろ私は関係ないし。

 

「ふなな゛っ!?だからってオマエは見てるだけなんてズルいんだゾー!!」

 

「安心しろ。今日の私は医療班☆保健室から救急箱借りてくるから、存分に青春しな!」

 

グダグダと文句を垂れるエースとグリムに怪我の治療は任せろ!とサムズアップして私は即座に身を翻した。すぐさま背後で闘争が始まった激しい打撃音と主にエースの悲鳴が耳に届くが、私はダッシュで校舎に駆け込んだ。

 

 

 

***

 

 

 

数分後、購買で買った人数分の飲料水と保健室で借りた救急箱を抱えて中庭に戻って来ると、ちょうど勝負がつい様子でボロボロの男どもが大の字で芝生の上に転がっていた。

 

「はぁ、はぁ……な、なかなか鋭いの打ち込みやがる……」

 

「はー、そっちこそ……はー、やるじゃねぇか……」

 

「オマエのパンチ、オレ様のハートに響いたんだゾ……」

 

「ぜー、はー……お前ら空気に飲まれすぎじゃね?もう選手枠とかどーでもいーわ……しんど……」

 

「お疲れお疲れお疲れ〜、ほい水。青春を満喫したみたいで何よりだよ。じゃぁ…手当しよっか」

 

デュース達は今にも劇画調で夕陽に向かって走り出しそうなほど仕上がっていたが、エースだけは乗れてない上に1番ボロボロになっていて可哀想だったので、最初に手当てをしてやることにした。隣に腰を下ろし、私は救急箱の蓋を開けた。

 

「……よし。これでケジメはつけた。俺の知ってる事は話してやる」

 

「ケジメって、なんのケジメだよ」

 

私が持って来た水を飲みながら、大人しく手当てを受けるエースが面倒そうに訊ねると、ジャックは静かに語り出した…それはもうすごく熱がこもっていた。

 

「俺自身の心のケジメだ。所属寮を裏切ることには違いねぇからな。だが、俺はもう我慢ならねぇ!!どんなに強い相手だろうが、自分自身の力で挑んでこその勝負だろ。今回の大会だって、俺は自分がどこまでやれるのか挑戦するつもりで自分を鍛えてきた。卑怯な小細工なんて反吐が出る!そんな勝利になんの意味がある?俺は、自分自身の力で勝ち上がってテッペン獲ってやりたかったんだ!」

 

「あ、こいつスゲー面倒くさい奴だ」

 

「あの不正を小細工で片していいんかい」

 

「わかる!俺はわかるぞ!!その気持ち!!」

 

「コッチにも面倒くさいヤツがいるんだゾ」

 

どうも胸に熱い想いを秘めた男であるジャックにデュースはえらく波長が合うらしく、すごく親近感を寄せている。手当の最中も共感したら急に相槌を打つものだから絆創膏の位置がズレて面倒だった。

 

「ラギー先輩のユニーク魔法は……『相手に自分と同じ動きをさせることができる』ものだ。操りたい相手と同じ動きをすることによって本人の不注意にみせかけて事故を起こしてきた」

 

「急に本題入った」

 

「なるほどね。だから食堂ではバレないようにグリムと同じ動きをしてパンを交換したってわけか」

 

「クソ〜!その話が出るたび腹が立つんだゾ!食べものの恨みは恐ろしいんだゾ!」

 

ついにラギーさんのユニーク魔法の謎が明らかになったことにより、パンを奪われた件の真相を知り悔しがり、憎しみを燃やすグリムであったが私はこの獣の手当の仕方がわからず、とりあえずウェットティッシュで拭きながら毛並みを整えてやった。

 

「でも、待てよ。ターゲットのそばで階段から飛び降りるような動きをしたら、すぐ怪しまれそうなものじゃないか?」

 

「一連の事件は、ラギー先輩が単独でやってるわけじゃねぇ。おそらくサバナクロー寮のほとんどがグルだ」

 

「ふな゛っ!?」

 

「サバナクロー寮まっ黒くろすけやないかい」

 

デュースの言うように今までの被害者のそばでラギーさんが毎回不審な動きをしていれば目撃情報もじゃんじゃん入ってきたことだろうが、そうはならなかった。事件現場ではサバナクローの寮生がラギーさんの壁になって目隠しをしてたから、一連の犯行がバレることなくここまで来たのだとジャックは語った。それはそれで目立たね?後で肖像画さんに聞いてみよ。

 

「寮ぐるみの犯行……どうしてそんなことを」

 

「んー。マジカルシフト大会での順位や活躍ってかなり将来に響くんだろ?だったら気持ちはわからなくもないけど」

 

「グルルル……!」

 

「うわ恐っ。歯ぁ剥き出して唸るなよ。冗談じゃん」

 

エースには冗談でも言っていいことと悪いことあることを学んでほしいもんだ。忌憚のない意見って奴はハーツラビュル騒動では頼もしくあったが、今回はそうでもない。そもそも将来のために活躍したいなんて願いを持ってる人はサバナクロー以外にも沢山いることだろう。今回の被害者の中にもいるかもしれないし、自分に自信があって正面からのぶつかり合いを好むジャックはより一層その卑劣な行為が許せないのだろう。

 

「フン!将来より今だろ。今の自分の実力を見せつけなきゃ意味ねぇだろうが」

 

「うんうん、そうだね。そのための大会だね」

 

「俺が特に気に入らねえのは寮長、レオナ・キングスカラーだ!アイツはすごい実力があるはずなのにちっとも本気を出しやしねぇ」

 

「………ん?」

 

「確かに、アイツダラダラしてるのにめちゃくちゃ強かったんだゾ」

 

「だろ!?せっかく持っている力を何故磨かない!?俺はそういうヤツが一番嫌いだ」

 

「うんうん」

 

「3年前、レオナ先輩が大会で見せたプレイは本当に凄かった」

 

「………ん?」

 

「だから、俺はこの学園に入れて……サバナクロー寮に入って、あの人と本気(ガチ)でマジフトの試合がやれるんだと思ってたのに……」

 

めちゃくちゃ饒舌にサバナクローの寮長について語るジャックに圧倒されて時々困惑しながら相槌を打っていると、いつの間にか横にいたエースにブレザーの裾をくいくいと軽く引かれる。

 

「あのさー……幸緒」

 

「ん?」

 

「コイツ、さっきからずっと自分トコの寮長に文句を言ってるようでいて……」

 

「ああ、うん。ただのファンボーイだね」

 

今は憎しみ過多らしいが、語り口からしてレオナさんに憧れていた故に色々と許せないんだろうなと言う気持ちがこれでもか!と伝わってくる。ファンからしたら憧れの人がカッコいい姿を見せるどころか、しょーもない不正に勤しんでるから尚更ショックが大きかったんだろう。

その後、大きく脱線した話が元に戻ったのだが、ジャック言うには今までの事件はついでなだけで、連中はもっと大きな事件を引き起こす気らしい。それがディアソムニア寮の寮長であるマレウス・ドラゴニアさんを襲うことではないかとのことだ。

このマレウスさん、バケモノ並みのスーパーパワーでディアソムニアを2年連続優勝に導いた流れで、サバナクローは無得点のまま轢かれてトーナメント初戦敗退したので、その時に味わわされた屈辱を女々しくも引きずり続けて、今回はそのマレウスさんへ恨みを晴らそうと言うわけらしい。

 

「(なるほどね)しょうもね〜〜〜場外乱闘に持ち込むところがダサすぎんよ〜筋肉は飾りかよっ」

 

「オマエ…心の声がダダ漏れなんだゾ」

 

「幸緒は正直だな」

 

サバナクローが優勝候補と期待されてる寮ならば、千歩譲って異世界版大谷翔平のマレウスさんを場外戦で退けるのはアリとしても、他の寮の有力選手達にも手を出しているのが救えない。だってもう他とも真面目に試合する気皆無じゃないか、そんな手抜き選手共を将来起用した所で戦力になるわけない。大会で不正優勝してスカウトされたとして、そんな見下げた根性持ちの奴らがプロチームでやっていけるわけないのだから、やっぱり大谷翔平ってすごいわ。努力しか勝たん……努力が報われないこともあるけど。

 

「大会当日、ディアソムニア寮になにか仕掛けるつもりってことか」

 

「そうだ。だから、俺はその計画をぶっ潰す!」

 

「話は聞かせてもらったよ」

 

ジャックが意気込みを熱く語った所で、私達以外の第三者の落ち着いた声が会話に割って入ってきた。

校舎の方を振り返れば、リドル先輩とケイト先輩がゆったりとした足取りでこちらへやって来る。結構前から会話を聞いていたらしく、伝統を重んじるリドル先輩には大切な行事を私怨で台無しにしようとするサバナクローに対しては大変お怒りの様子であった。

しかし今の段階ではサバナクローを糾弾するにも明確な証拠がない以上は断罪出来るわけもなく、やはり犯行現場を押さえるしかないだろうと結論が探偵団結成時の方針に帰ってきたが、そこでリドル先輩が何かを思いついたように口を開いた。

 

「ボクに少し考えがある。まずは……」

 

「待て。知ってる情報を話はしたが俺はお前らとツルむつもりはねぇ」

 

そう言えばさっきラギーさんが放っていったマジカルペンを預かっていたんだったと思い出して先輩達に渡しに行こうと立ち上がったところで唐突にジャックがそう吐き捨て背を向けた。いきなり殴り合いの勝負を挑んできたり、寮長を上げたり落としたり、最終的に犯行予定をバラすだけバラして、かと言って協力するつもりはないと…自由すぎる所はやはりナイトレイブンカレッジ生だと感心するまである。

 

「自分の寮の落とし前は自分でつける。じゃあな」

 

「ぅひひひっひぃっ!っんふっ!ンッげほげほごほっ!」

 

「「「!?」」」

 

「笑い方ヤバ」

 

「幸緒ちゃん!?突然奇声出したと思ったらそんな咽せてどうしちゃったの!?大丈夫そ?」

 

「す、すんませんっ…ちょっと、ツボに入っちゃって…んふふっ」

 

「何がそんなにおかしいんだゾ?」

 

リドル先輩の次にケイト先輩にマジカルペンを手渡した瞬間、私はジャックの行動を思い返していたら猛烈に吹き出してしまい、めちゃくちゃケイト先輩に心配されてしまった。笑いすぎと咽せた勢いで滲んだ涙を拭きながら先輩には大丈夫だと手を振って、いまだに笑いが込み上げる歪む口元を押さえる。

 

「いや、ジャック君って、色々知ってる割に事件ひっとつも阻止出来てないじゃん?それで『自分の寮の落とし前は自分でつける』って言うんだもん。ここまで来て単騎突撃とか勇者かよって、面白くなっちゃった」

 

ドラクエの勇者は今でこそパーティーを組むのが当たり前だけど、初代は勇者1人だけだったな…ジャックはまさに初代勇者。

 

「……あ?」

 

「で、出たんだゾ……幸緒のグサッと鋭い煽り……」

 

「確かに1人対寮全員じゃ、勝算が低いよな」

 

「わかるけどさ〜…言い方がめっっちゃくちゃ腹立つんだよな〜」

 

「いやさ、ジャック君がよっぽど強いなら止めるのも野暮だけどさ。一騎当千て言葉もある…けど…あ、実際やってのけた身内もいたわ………まーでも、一匹狼ってだけなら、群れで動いてるサバナクローの皆さんのが賢いよねって話。セコいけど」

 

身内である双子の従兄弟がすごい兄弟喧嘩をした時のエピソードがちょうど例外の方に当てはまる感じだったので、あり得ない話ではないな…と一瞬言葉に詰まってしまったが、普通は戦略もなく正面からぶつかるなら多勢に無勢で勝敗なんて火を見るより明らかだろう。そして目の前ですごい形相で睨んでくるジャックは絶対正面からやり合うタイプなのは先ほどの殴り合いで察せる。

 

「………………」

 

「それに賢い狼ってのはやっぱり群れで狩りをすると思うんだけどナー」

 

狼は群れで効率よく狩りをするんだとかなんとかドヤ顔で私に語る中二病を患っていた時の幸景君を思い出しながらチラッチラッとジャックの反応を伺った。今更ながらこれで怒って単騎突撃されたらどうしようと心配になってきた。

 

「いいだろう。話くらいは聞いてやる。だが。もし気にくわねぇ作戦だったら、俺は抜けるぜ」

 

「うん、それで構わないよ。ありがとね(ホッ…)」

 

「コイツ、マジめんどくさ……」

 

「頑固さではエースちゃんたちもどっこいだけどね〜」

 

何はともあれ、めちゃくちゃガンを飛ばすジャックを仲間に引き入れるのに成功したので私達は改めてリドル先輩の作戦に耳を傾けた。

 

 

 

***

 

 

「なるほどね。いーんじゃね?」

 

「さすがローズハート寮長です」

 

「んじゃ、オレは当日までにいろいろ根回ししとくね♪」

 

リドル先輩の作戦内容を聞いたハーツラビュルの面々は好印象のようで乗り気であった。肝心のジャックはと言うと眉間に皺を寄せ、しばらく黙っていたがケイト先輩にどうするか聞かれると渋々ながら口を開いた。

 

「卑怯な作戦ではなかった。……今回は、協力してやってもいい」

 

「コイツ、いちいち素直じゃねぇんだゾ」

 

「よかった〜」

 

終始表情に変化が見られないから、ジャックの単騎突撃死亡フラグが立ったらどうなるかと、少し不安だったから心底安心した。

 

「じゃ、今日のとこは寮に帰ろうぜ。はぁ、もうクタクタ」

 

「オレ様も腹減ったんだゾ〜」

 

「そうだ、1年生たち」

 

各々いい感じに解散の空気が漂っていた中、リドル先輩に呼び止められた私達はぴたっと足を止めて自然と横一列に並ぶ。リドル先輩の声色がそうさせたのだ。

 

「今回は情報提供に免じて校則第6条『学園内での私闘を禁ず』の違反を見逃してあげるけれど……次に見つけたら全員首をはねてしまうよ。おわかりだね?」

 

本音では今すぐにでも首をはねる気満々の激情を乗せた声色と、いつかの騒動を思い起こされる鋭い眼光に射抜かれた私達は震え上がった。

 

「「「はい。すいません」」」

 

「…スミマセン」

 

「……ッス」

 

内心私は決闘に参加してないのに怒られるの理不尽では?と思いつつ、決闘推奨する発言をしたり微塵も止める気なかったのは事実なので、ちょっぴり不服ながら小さな声で謝った。ずっと厳しい顔をしていたジャックでさえ返事をするほどだ。

従順な後輩達にリドル先輩は満足そうに頷くと寮へ戻ろうと、さっと身を翻した姿を静かに見送っていたジャックがエースの横で小さな声で呟く声が耳に入る。

 

「弱っちそうだと思っていたが、お前らのところの寮長こえーな」

 

「そーだよ。か弱いハリネズミと見せかけた、超攻撃型ヤマアラシだから。マジで逆らわないほうがいいぜ」

 

「うっ…折れた腕が疼…く……」

 

例の騒動でリドル先輩にブンブン振り回されて折れた左手首を反射的に押さえてしまったが、いつだったか中二病を患っていた幸景君と同じ行動を取ってることに気付くと急にスンッとなってしまった。

解散の雰囲気の中、私は帰る前に保健室へ救急箱を返しに行かないとなとこの後の予定を立てつつ、皆に続いて帰ろうとする白い耳と尻尾が揺れる大きい背中を引き止めた。

 

「ジャック君」

 

「あ?……なんだよ」

 

「右手、出して」

 

先ほどの決闘の時に擦りむいたであろう血の滲んだ傷を目ざとく見つけた私はジャックのブレザーの裾を掴みながら、もう片方で救急箱を持ち上げてニコッと微笑みかけた。

グリムまで手当(?)が完了したところで先輩達が合流して空気が変わってからも、ずっと手当のタイミングを見計らっていたのだ。皆顔はボッコボコに殴り合った様子ではあるが至って綺麗だし、多少の擦り傷とかくらいしか怪我が見当たらないくらいに丈夫だから絆創膏を貼るくらいしかやることないけど。

 

「別にいらねぇ」

 

「うん。右手出して」

 

「……だから必要ねぇって」

 

「うん。右手出して」

 

「おい」

 

「うん。右手出して」

 

「!?何だコイツっ!狂ってんのか!?」

 

「おっ、無限ループ入ったな。こうなった幸緒は『はい』以外の答えを決して受け付けてくれないぞ」

 

「幸緒は善意ならいくら押し付けてもいいと思ってる節あるんだよなぁ」

 

「あっ、オレ様もやられたんだゾ!謝るまで笑顔で頭押さえつけてきて超恐かったんだゾ!」

 

「あれはグリムが先生に迷惑掛けたからだろう」

 

失敬な外野がワイワイ騒いでる間も絶対にブレザーの裾を離さないよう指に力を込めつつ、再度救急箱を見せ付けて右手を出すように要求した。

しばらく困惑した後にドン引きされてるような渋い顔をされたが、ジャックは諦めたように渋々と右手を差し出した。よしよし。

 

こうしてジャックの手当てを強行したのには私なりの理由がある。まず友人を手当てしてあげるのは当然だけど、ジャックが出会って間もない相手だからってしないのは違うと思うのだ。

怪我してる人がいたらどんな立場でも手を差し伸べられる人でありたい…て言う気持ちの裏で緊急時の救護スキルが身につけたらと練習がてらに沢山手当したい思惑で行動している。なんなら恩を沢山売っておけば、いつか石油王に見初められるような幸運が舞い込むはずと期待する気持ちがデカい。私は善行を積めば見返りに良いことが起こると思っているタイプの人間。

 

「はい、これでオッケー」

 

「………」

 

「私、救急箱返してくるからグリムは先帰ってなよ。じゃあ、皆また明日ー」

 

丁寧に傷口を消毒して大きめの絆創膏でしっかり傷を覆い、私は今日も良いことをしたと自己満足に浸りながら救急箱を片付けた後に帰宅する皆とは別に校舎へと向かった。

 

保健室に向かう最中に私は思案していた。

作戦決行日がマジフト大会になるため、結構期間が空く…その間のほほんと過ごしていいものかと。

今朝も夢見が悪かったし、ハーツラビュルの時のような事件が起きそうな何とも嫌な予感がするのだ。

 

「何かしら対策…した方がいいよなぁ」

 

「対策…?何のだ」

 

「うぇあっ!!ジャック君!?皆と帰らなかったの?」

 

すっかり考え込んでいたせいで独り言に返事が返ってくるまで背後にジャックがいたことに全く気付かずにまた飛び上がって情けないデカい声が漏れ出た。てっきり皆と一緒に鏡舎から寮に帰ったもんだと思っていたが、校舎内にまだ用事があったのかもしれない。

さっきまでは雰囲気にあてられてめちゃくちゃ失礼な態度だったと自覚が芽生えた今、彼と2人きりは正直気まずい。だってジャックから見た私って絶対印象良くないし、そんな相手に声を掛けてくるのは何か裏があるのではとこの学園の生徒故に疑ってしまう。それに会話がしたいなら去り際に声を掛けてくる方が自然だから、本来は進行方向が一緒で単に私の独り言が気になって声が出ただけで会話する気は全くない可能性の方が高い。

そうして悩んでる間に目的地に着いたので、ジャックにぎこちなく微笑みつつ会釈をしてドアを開けて保健室に入った。ジャックも続いたので、本当に私と会話する気があるのだと気付いた。

 

「あーっとね…対策ってのは…ほら、先輩の作戦が上手くいったいかないに限らず想定外のことが起こるかもじゃん?そんな時に対応出来るようにしたいなって」

 

「…その考えはわからなくもない、が…計画的に不測の事態にも十分対応出来る内容だった。わざわざお前が対策を考える必要性を感じねぇ…非戦闘員なんだろ、お前。何すんだよ?」

 

ごもっともすぎるトゲのある返答にやはりヘイトは溜まっていたかと苦笑した。

 

「だからだよ。私に出来ることなんて限られてるから出来るだけ選択肢を多くしときたいの。暴力沙汰にでもなったらグリム達に頑張ってもらう前提だけどね」

 

しかしいざ何をするかと問われると、何をすればいいか悩ましいものである。

 

「そうだなぁ…緊急時に備えて役立ちそうな魔法薬を用意してみるとか、サムさんから有用なアイテムを仕入れるとか、本番までにグリム達の成長を促すとか…」

 

「………」

 

何が出来るかと顎に手を添えて考え込んでいたのだが、ジャックのちょっと呆気に取られたような顔を見て無意識にまとまりのない案を片っ端から口に出していたことに気が付き慌てて口を塞いだ。実行に移してもいないふんわりした予定を自信満々に語ってしまい恥ずかしくなってきた私は早々に戸棚に借りた救急箱を戻して、戸棚のガラス戸を閉めた。

 

「とりあえず本番まで皆の足引っ張らないようには備えとくから安心してってこと!ジャック君には迷惑かけないからさ。それじゃ、またねーー!」

 

チクチク言葉で刺される前に予防線を張り、早口で捲し立てながら自然な足取りで保健室の出入口に移動し、私はジャックが何かを言う前に別れを告げて保健室を飛び出した。やや強引だったかと思いつつ。2人きりで鋭い切れ味の言葉を放たれたら最悪悔し泣きする醜態を晒す可能性があったから仕方ない。

しかしジャックはあの問いをするためだけに保健室までついてきたのか…?まぁ、犯人探しの訳を問いかけに来ていたぐらいだし、疑問を解消しなきゃままならない性格なのだろう。

だからこそ曲がったことが嫌いそうなジャックの性格的に口走ったとはいえ発言した手前、行動に移さねば確実に白い目で見られる未来が予測できる。

Xデー前に無駄に自分を追い込む状況を作ってしまったことに頭を抱えて廊下を歩きながらも、もうやるしかないと決意を新たにするのだった。

 

 

 




ジンは名探偵コナンの黒ずくめのジンです。
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