「ーーエッ!?本当に魔法石を探しにドワーフ鉱山へ行ったんですか?」
「へっ?」
「いやぁ、まさか本当に行くなんて……しかも魔法石を持って帰ってくるなんて思っていませんでした。粛々と退学手続きを進めてしまっていましたよ」
夜も更けた静かな学園に戻った私達はちょうど鏡の間で忙しなく通り過ぎようとしていた学園長をと捕まえて、ドヤッと魔法石を掲げながら任務達成の報告をしたのだが、まさかそんな返答が返って来るとは思わず、ズコーッと昭和的なずっこけリアクションを披露する羽目となった。
私が晒したあのエクストリーム駄々っ子や、結構命懸けだったあの激戦を…このおじさんは自分が提示した条件達成うんぬん以前に成し遂げるとは露ほども思わず、私達が奮闘してる間に粛々と追い出す準備してたんだから驚愕だよ。いくら問題を起こした生徒だからって、指導者の中でも大変責任ある立場でこんなに生徒に無慈悲なことある??さすがにデュースとエースが気の毒だ…。
「なんて野郎なんだゾ!オレ様たちがとんでもねーバケモノと戦ってる時に!」
「バケモノ?」
「モンスターが出てきたんスよ。ほんと、めちゃエグいわ強いわで大変だったんすけど!?」
「そうそう、走って転んで飛んで大半は地面に転がったりしてもう…しんどかった…」
「そう言えばアナタは特に小汚くなりましたねえ…詳しく話を聞かせて貰えますか?」
生徒に対してクソ無関心であった学園長もさすがに魔法石入手の経緯は気になったようで、私達は学園長室まで移動して長々とドワーフ鉱山での出来事を懇々と語り聞かせてあげた。
ゲンドウポーズで静かに話を聞いていた学園長は時折頷きながら、恐らく退学手続きに必要な書類か何かが雑多に散らばる洒落た執務机の前、横並びに立たされた私達を端から端まで見渡した。
「ほほぅ、炭鉱に住み着いた謎のモンスター。それを4人で協力して倒し、魔法石を手に入れて学園に戻ってきたと?」
「や、協力したっつーか……」
「たまたま目的が一致したというか……」
「え、何なん?お前らは素直になったら死ぬんか?」
ここまで来てまた取ってつけたようにツンツンしてる2人に呆れつつ、急に震え出したかと思えば咽び泣き始めた学園長にめちゃくちゃ引いた。
「お…おお……おおお………………!!!お〜〜〜〜〜〜〜ん!!」
「なんだコイツ!いい大人が突然泣き出したんだゾ!?」
「ウワァ…」
年上のおっさんに突然泣かれるとこんな…どうしていいかわからないやるせない気持ちにさせられるなんてな…モンスターのグリムでさえもこの反応だ。見ててキツいものだな…てか何を見せつけられているんだろう、我々。
「この私が学園長を務めて早ン十年……ナイトレイブンカレッジ生同士が手と手を取り合って敵に立ち向かい打ち勝つ日がくるなんて!」
「えぇ…この学園の生徒ってそんな協調性ないんすか」
思えばエースのあのファーストコンタクトや、いつまでも横でキャンキャン揉めている退学予定(仮)の生徒2人を見ていると、学園長の言葉に真実性が伺えて辟易してしまった。
「私は今、猛烈に感動しいます」
「はぁ、そすか。よかったですね」
「今回の件で確信しました。幸緒くん。貴方には間違いなく猛獣使い的才能がある!」
「えっ、突然何…」
急な猛獣使い認定に別に自覚も目指してるつもりもない私は困惑するしかない。至って普通の女子高生におじさん何言ってんのとしか…。
しかし学園長がペラペラと説明し出したナイトレイブンカレッジ生の特性を聞いてるとなるほど感動していた訳を少し理解できた。ナイトレイブンカレッジ生の能力は、いつか私の存在を全否定して来たあの闇の鏡とやらに選ばれるほどに優秀ながらもクセ強でプライドも富士山級で基本的に我儘、他者と協力しようという考えを持たない個人主義の自己中心的な生徒が大半を占めるそうだ。…要はしっかり能力のある厨ニ病患者が多いってことかな?確かにそんな生徒が共闘してたら感涙するか…いや、するか?やっぱりしないわ。
しかしまさに話に聞くナイトレイブンカレッジ生の項目に当てはまる部分も見受けられる退学予定(仮)の生徒2人を横目に見てると納得せざるおえない。まぁ、学園のトップが胡散臭い覆面おじさんなんだからまともな学校な訳がない。それとも異世界ではこの民度が普通なんだろうか。
「あなたは魔法が使えない」
「アッ、ハイ」
唐突に生徒に向けられていた矛先が私に向いて面食らうが、私にはそれが当たり前だから学園長の話が続いてることを察せず、つい咄嗟に同調してしまった。
「ですが、おそらく使えないからこそ、魔法を使えるもの同士をこうして協力させることが出来た。きっと貴方のような平々凡々な普通の人間こそがこの学園には必要だったのです!」
「学園長…」
何かちょっと深いこと言ったみたいな雰囲気に一瞬キリッとして流されそうになったが、めちゃくちゃ普通の人としか力説してないな、これ。
「いや、全然いいこと言ってなくね!?」
エースも思わずツッコミを入れちゃうし、よく考えたらこの3人が協力したのって私が癇癪を起こしてめっちゃドン引きさせたからなんだよね…身一つで来た異世界で失うモノも命くらいだし、あの時の数々の行動を思うと自覚なき無敵の人になっていたのかもしれない。
「幸緒くん。貴方は間違いなくこの学園の未来に必要な人材となるでしょう。私の教育者のカンがそう言っています。トラッポラくん。スペードくん。2人の退学を免除するとともにーー」
ようやく退学予定を取り消して貰えた2人が嬉しそうに顔を綻ばせていたのを見て、他人事ながらも嬉しく思った。出会ったばかりだし、この2人のこと何も知らないけれども、一緒に闘った戦友だから報われて良かったと心から思えたのだ。
後は私とグリムが変わらず学園に居候させて貰うだけだが、学園長は私の猛獣使い能力をやたらと過信しているみたいだし、もう少しいい立場に置いてくれる気がする。そう確信めいたものを感じていた私はキリッとした顔で元気に返事をする準備万端だった。
「幸緒くん。貴方にナイトレイブンカレッジの生徒として学園に通う資格を与えます!」
「はい!私、幸緒は生徒として頑張りッ……へぁ?」
「えぇっ!?」
結構乗りかけた所で思わぬ返答をいただいたことに気づき、間抜けな声を上げてしまった。一瞬空耳かと思ったが、驚き慄く2人と一匹の様子から気のせいではなかった。
「えっ…エッ、生徒??仰る通り普通の人なんですけど、私…後入学試験も受けてないんですけど」
この世界に馴染みない私でもエースやデュースがやたらと名門名門と言って退学処分を取り消そうと奮闘していたのを思うと、いくらか優遇してもらえるとは期待してたけどここまであからさまに優遇されたら恐れ多くなって、途端にオロオロキョドキョドと不審な動きをとってしまう。
そんな落ち着きのない私に学園長は咳払いをしてとりあえず話の続きを聞くように促してくるので、ひとまずは不審な行動を取りそうになる自身を抑えた。
「1つだけ条件があります。貴方は魔法が使えない。魔法士としては論外です。満足に授業を受けることすら出来ないでしょう」
真剣に語るので私も真剣に聞いていたが、そんな時でもつい同じことを何回も繰り返すのはおじさん特有の何かなのかなと…早くも邪念に思考が囚われる。
「そこでーーグリム君」
学園長が私から隣のグリムへと視線を移すと、突然名前を呼ばれたグリムは思わずシャキッと姿勢を正した。
「君は今日、魔法士として十分な才能を持っていることを私に証明しました。よって、幸緒くんと2人で1人の生徒として、ナイトレイブンカレッジの在籍を認めます」
「ふな゛っ!オ……オレ様も、この学園に通えるのか……?雑用係じゃなく、生徒として?」
グリムはどうなるのかと少し疑問に思っていた所に学園長からの思わぬ提案に私もグリムも顔を見合わせて驚いた。
「はい。ただし、昨日のような騒ぎは二度と起こさないように!いいですね?」
「ふな……ふなぁ………幸緒、オレ様……」
「やったなぁ!諦めずに頑張った甲斐あったじゃんか、おめでとう!」
「ふなぁ〜〜〜!!やったんだゾ!!」
感激のあまり涙を浮かべて飛びついてきたグリムを受け止めて喜びを分かち合った。
しばらく喜び勇んだ後に学園長はナイトレインカレッジ生の証であるらしい宝石のような綺麗なブローチを差し出してきた。本来ならマジカルペンにつけるそれはいつ作ったのか、グリム専用にあしらわれててなんとも可愛らしい。
しかしまさか異世界で名門校の生徒になってしまうとは予想外だったと、グリムにブローチを付けてあげた後に学園長がやたらと私にグリムの面倒を見ろと口酸っぱく命じてきて、やっぱりこの人の行動原理には純粋な優しさではなく裏があるんだなぁとしみじみと思い知らされたわ。
「あはっ!すげーじゃん、お前。入学したばっかで、もう監督生になっちゃったわけ?」
「えっ…そう、なるんか…?」
入学資格のない私とグリムが何やかんやで学園長の独断で入学許可を頂いたとんでもない場面をこの学園の生徒である2人はどう思うのかと、割と戦々恐々としていのに、思いの外柔らかい態度で笑みを浮かべるエースとデュースに面食らった。ナイトレイブンカレッジ生はもっとこう…プライドが高くて突っかかって来るもんだと思い込んでいたが、今更ながらこの2人とは今日一日色々と共に乗り越えた確かな信頼が出来上がっていたんだなと、即座に疑った自分を恥じた。
「なるほど。お前たちの寮に寮生は2人だけなのか……つまり、学園長にグリムの監督を任された幸緒が監督生ってことになるんだな」
そんなデュースの呟きにそうか、あの廃墟に住むのかぁ…と異世界の拠点がとても風通しが良くてゴースト付きなのかと気がついて少しがっかりした。まぁ、グリムが念願の生徒になれたのは喜ばしく思ってるし、いいか。それにしてももう使われてない寮に寮生2人って何というか…ホント今さっき考えたんだろうな、学園長。
「プッ……前代未聞なんじゃねーの?魔法が使えない監督生なんてさ。いいね、クールじゃん。魔法が使えない監督生!」
「ははは、褒めてるようでさり気なく貶してるな?もう、何でもいいや」
「あははっ。頑張れよ、監督生どの!」
「ははは、いてっいたっちょっ…イッテーんだよ、お馬鹿っ!」
和気藹々とした良い雰囲気でこの2人はバシバシと肩を叩いてくるのだが、男同士の馴れ合いのつもりか結構力強くて普通に痛くてついキレてしばき返してしまった。だがしばかれても相変わらず笑ってるからマジで男同士の馴れ合いのようで、私は女子と見られていないのでは…?と新たな疑問が生まれた所で首輪兼リボンにキラキラ輝くブローチを下げた浮かれグリムが自慢げに見せつけにきた。
かっこいい〜男前〜と適当に褒めてグリムを調子に乗せていると、オッホンとまた咳払いをした学園長は今度は私にありがたい魔法道具を授けてきた。
それはゴーストカメラといって、撮影した人物の魂の一部を抜き取るとか何とか…そんな眉唾物の話はさて置き、被写体と撮影者の魂の結び付きが強いと写真からその人物が飛び出してくるびっくりカメラらしい。エースのおばあちゃんの昔話に聞き覚えがあるくらいに、このカメラ結構な骨董品みたいだけど、効果の真偽はともかく可愛らしいデザインだし、この世界に来てから初めて自分の物と言える所持品が出来たのは中々嬉しいので口元が緩んだ、が…ついでに監督生と言う名目にかこつけて何故か学園の記録係も申しつけられた。
ちょっとグリムに比べて私何か色々責任負わされすぎでは?と思わんでもないが、家に帰る方法も探してもらえるし、それまでの生活を保証してくれるのだから多少は…多少はね。
「とりあえず、退学取り消し入学記念に一枚撮っとく?」
「おう、かっこよく撮るんだゾ!」
気分を変えるようにゴーストカメラで早速写りたがりのグリムへレンズを向けると、側にいたエースとデュースもノリノリで映り込んできた。あまりの撮られ慣れている様に、欧米ノリ〜と一枚パシャリと撮ればその場でカメラが震えて写真が現像された。チェキと同じ仕様に懐かしさを覚えながら写真を覗き込むと若さ溢れるフレッシュな生徒の背後に残像になりながら映る仮面の不審者が写り込んでいたのが心霊写真のようで残念な仕上がりとなった。
そんなこんなで記念すべき初めの一枚を撮り終えたら、もう用件も済んだのだろう学園長に早く寮に帰るよう促されてダラダラしていた私達は早々に学園長室から締め出された。
「はぁ〜〜〜〜っ…………退学免除……力が抜けた」
「やれやれだねー」
外廊下へ放り出された瞬間、緊張の糸が切れたようにへなへなとデュースがへたり込み、エースも続くように長いため息をついた。この2人にとってはホントしょうもない行動をとったせいで退学からの実家に強制送還ルートだと思えば、この必死さも理解できる。逆に入学許可が降りたグリムはと言えばご機嫌で生意気にも学年主席になる気でいるからとんでもないポジティブモンスターだ。
「幸緒と2人で1人の半人前のクセしてよく言うぜ……まー、良かったんじゃないの?」
「明日から同級生だな。幸緒、グリム」
「おっそうだな。改めまして、夢原 幸緒15歳!今後は同じ生徒としてよろしく!」
「改めてそういうの、ハズいからやめない?」
「何でや」
「フッ、そうだな。これから嫌でも毎日顔を合わせるだろう」
相変わらずの天邪鬼で私の爽やかな発言に水を刺して来るエースにデュースも同調して来る。心の距離が近づいたかと思ったら急に遠ざかって行く…この面倒な感じがこの学園の生徒の癖の強さを思い知らせて来るぜ!
「特にこいつとは同じハーツラビュル寮だし……」
「毎日こんな真面目くさった顔を見なきゃいけないかと思うと、やんなっちゃうね」
しかも所属組織が同じ者同士でもこのささくれ具合ときた…私、女の子なのにこんなに荒んだ学校でやっていけるのかしら?始まってもいないのに現生徒を見ているだけで先の不安を煽られるわ。
「それはこっちのセリフだ、サボり魔エース」
「はいはい、退学に半べそかいてた泣き虫デュースくん。んじゃ。また明日ね、幸緒」
「あ…うん、また明日!」
同じ帰り道でまだ言い合ってる2人の背が見えなくなるまでヒラヒラと手を振って、残っていた私とグリムは顔を見合わせて少し笑い合った。
「なんだかんだいいコンビなんだゾ。ケンカするほど仲がいいってヤツかもしれねーな」
「そうかもね」
なんだかんだでしっかりと名前を覚えてくれたり、当然のように明日も会えると確信させてくれる別れは何とも心強いことか…急に距離もとって来るが、今日限りで終わる縁じゃないと約束してくれた2人のおかげで明日からの学園生活に確かな希望が見えた気がする。
「さっ、オレ様たちも寮に戻るんだゾ!明日からは雑用係じゃない。ついに…ついに!ナイトレイブンカレッジの生徒として、オレ様たちの輝かしい学園生活が始まるんだゾ〜!」
「大袈裟だなぁ〜言うて昨日の今日じゃんか」
まるで浪人生が入りたかった大学にようやく受かったような口ぶりでついつい笑ってしまうが、気持ちいいくらいの喜びっぷりを私は静かに見守ったーーー。
…………
………………
グリムの有頂天っぷりに感化されたか、この世界に馴染んできたのか、まだ見ぬ強敵達が次々と現れるOPの幻覚を見ていてしばらくして気がついた。
「ちょっと待って、ここって…やっぱり男子校かっ!?」
とてもとても今更ながら、出会って来た全員男だったと気づいて危機感を覚えてグリムに訊ねるととても興味なさげに小首を傾げた。
「知らねーけど、それが今更どうしたんだゾ?」
「大問題だよッ!!私、女の子だもんっ!!」
「フーン、そうなのか?まぁ、オレ様も入学出来たし…メスでもきっと大丈夫「いや、でも女の子と男の子は色々違うから!隠し通せるとも思えないから、今直ぐ学園長に相談だ!」え〜〜、面倒くさいんだゾ。オレ様は先帰って寝る!!」
一緒にいてくれる気をさらさら感じさせないグリムは慌てる私を置き去りに、すたこらさっさと寮に戻って行った。野郎は学園に入学出来たことだから私の問題など微塵も興味ないのだろう、相棒甲斐のないやつ!
「学園長!」
「ほあっ!幸緒くんっ!??!貴方まだ帰ってなかったんですか。それと入室前にノックなさい、非常識ですよ!」
慌てていた私はノックもせずに学園長室へ飛び込み、勢いよくバァンと机を叩いた。ビクッと思わず椅子から浮いた学園長は大層驚きながらもプンプンと膨れているが、構っている暇はない。
「私!見ての通り、乙女なんですけど!」
「はい?…ああ、はい。心が乙女な生徒も学園には沢山いらっしゃいますから、問題ありませんよ」
「いやそうじゃなくて、本物の女の子なんですよ!性別がっ!」
「……えええっ!!??幸緒くん、女の子なんですか!?いつから?!」
「最初からです!てか髪も長いし、胸は…まだ発達途中だけどないわけじゃないし!てか声とかで普通気づかないかなぁ!?」
「いや〜男の娘って言うんですか?最近そう言った女の子のような見た目の男子生徒は結構いるので。幸緒くんもそうなのかと…確かに言われてみれば女の子に見えてきました」
言われなきゃ見逃すレベルで男の子に見えるのか、私は!?思えばエースもデュースも全く私を女の子と認識してるようには見えなかった。デュースに関しては結構密着したけど、気づいてないのか…?
さすがに女子としてのプライドが傷ついてしまうのだが、それよりこれからの生活についての話し合いを優先せねばならない。
「さっきはなんか雰囲気に呑まれちゃって何も言えなかったんですけど、ほらここ男子校でしょ?そんなとこにいるの…こう、色々とヤバくないすか」
「まぁ…ヤバいですね」
少女漫画やちょっとエッチな漫画にありがちな設定だけども、いざ自分がその枠に収まると思うと女の子に全く理解ないプライドが高い思春期男子達の中に放り込まれるのはキツくない???生理とかプールとか…体育の着替えの時とか、てかトイレとか風呂とかどうすればいいんだ??????
「まぁ………幸緒くんは振る舞いからも一見男の子に見えますし、今の所バレてないようですし?何かの拍子でバレるまではとりあえず男の子のフリをしましょう!バレたらバレたで、異世界からの特別枠という事で押し通せばいいでしょう!」
「えぇ…そんな大雑把でいいんすか」
「いいの、いいの!ホラァ私、学園長なので!この学園で一番偉い人なんですから、何とでもなります!!」
ニコニコと誇らしげに権力をかざして笑う学園長には不安しかないが、幸い寮はグリム以外にゴーストしか同居人は居ないし都合がいいか。
「まぁ、とりあえず出来るだけ頑張ってみますけどぉ…あのぉ〜…」
私は恥じらいながらも決死の覚悟でトイレや風呂、下着類などの重要性を語り、その日の内に激闘の末の汚れを綺麗さっぱり洗い落として、直ぐに用意してもらった学園の体操服(ジャージ)に着替えて、学園長と一緒にサムさん(やべーファンキーなおかしな人)の何でも売ってるミステリーショップとやらでとりあえず必要になる下着を急遽買い揃えてオンボロ寮まで送り届けていただいた。
「あの…色々揃えたり、相談乗ってくれてありがとうございました」
「いえいえ、構いませんよ。なんせ私、優しいので!」
「ソッスカ…この恩に報いれるように明日から頑張りますから!」
「ええ。期待していますよ、幸緒くん。では、おやすみなさい」
「はーい!学園長、おやすみなさーいっ!」
胡散臭いながらも結構手厚く扱ってもらった恩義にすっかり気を良くしてしまった私は玄関前で、帰って行く学園長に大きく手を振りながらその背が見えなくなるまで見送った。
しっかりと玄関の戸締りをして、暗くて荒れ放題の寮の廊下をギシギシと音を立てながら昨日も休んだ比較的綺麗にした寝室へと向かう。
「ただいま〜…て、静かすぎる…もう、寝てるの?」
今日はゴーストも空気を読んだのか、襲撃されることもなく無事に部屋まで辿り着いた。そおっとドアを開けるとベットの上にはまんま猫のように丸まって寝息を立てるグリムの姿があった。
よく部屋を見ると宙に揺蕩いながら寝ている様子のゴースト達もいて、異様な光景なのに不思議と平和的に思えた。
「ゴーストも寝るんか…」
そっと部屋の隅にある机に貰った制服類やその他の荷物を置いて私も布団に潜り込んだ。ド真ん中に陣取っていたグリムを少しずつ横にずらしながら寝るスペースを確保し、枕に頭を埋めながら目を閉じると改めてこのクソデカ学園の生徒になったのかとようやく実感が出てきた。
「明日からは労働者じゃなくて学生かぁ…」
今までは落ち着いて異世界に来たことを考える間もなかったけども、いざ魔法学校というと私の中では映画で見たハリーポッターのイメージが強くて少なからず憧れもあった。喋る絵画とか鏡とか結構イメージに近いながらも、何だか別に馴染みあるような不思議な部分が多く見受けられるおかしな学校だけどもやっぱり興味はそそられている。
第一に帰る目的があるので中退が決まってるようなもんだけど、異世界でも今の私は華の女子高生に変わりないので、限りある10代を大事に過ごさなくては!
親愛なるお父様、お母様ーー
頑張った甲斐あって、明日から私はグリムと一緒にこのナイトレイブンカレッジの生徒になりました。男子校だし、初めての寮は廃墟同然で不安は尽きないけども学園長が必要なものは用意してくれたので何とか暮らしていけそうですので安心してね!
残念ながら色んな観点から卒業は難しそうだけど、共に苦難を乗り越えた友人も出来たので、これからの学園生活は結構楽しみです。
「…おやすみなさい」
異世界なら異世界なりに思い出に残るような青春を送りたいなぁなんて、楽観的に妄想を膨らませながら私は気持ちよくまどろみ夢の中へと旅立った。
………
……………
まるで視界いっぱいに絵本の中のような世界を眺めているようだった。
私はリボンが可愛らしい青いエプロンドレスを着たブロンドの少女が、だだっ広い庭園で得体の知れない生き物に話しかけている様子を眺めていた。
人なのか、何なのかいまいち判別のつかない得体の知れない生き物はトランプに顔と手足がついてる明らかな変態だが、何処か既視感があった。
そんなトランプの不思議な生命体共は背の低い木に咲く綺麗な白薔薇を何故かペンキで赤く塗りたくっていた。
何でそんな植物に厳しいことしてんのかと疑問を抱けば、ブロンドの少女が何故薔薇を赤く塗っているのかと問いかけてくれた。
それに対してトランプ達は忙しそうに白薔薇に赤を塗りたくりながら、ハートの女王が赤い薔薇を好むからうっかり間違えて植えた白薔薇を誤魔化すために色を塗り替えているんだという。そうしないと怒りを買って首がどうとか……と説明されても頭の中には????が永遠に浮かび続ける私の視界はやがてぼやけて、ドンドンと何かを叩くような物音に微睡の中にあった意識が現実に引き戻された。
「うっ…何」
覚醒したてでボヤけて歪む視界はまだ薄暗い部屋を映し出し、異世界生活に胸を膨らませて眠った時と変わりない光景とだったのでまだ夜中のようだ。
「うぅ…風邪引いた時に見る変な夢見た気がする…」
「むにゃ……オイ、幸緒。こんな夜中に誰か来たみたいだゾ」
いつの間にか私の膝を枕にしていたグリムが眠た気に目を擦って起き上がった。
絶えず響いてくる物音はよく聞けば戸を叩く音のようで、うるさいし夢見も悪かったから二度寝も出来そうにない。
「なんだあ?お化けのヤツらか?諦めわりーんだゾ」
「ゴーストだったらすり抜けて入ってくるでしょ…こんな時間に来客って…絶対怪しいじゃん」
通常の感覚を持ち合わせている私はこの非常識な来訪者に危機感を覚え、掃除に使った箒を装備して一階へ降りた。
付いてきたグリムと共にノックされ続けるドアへ近づき、ガラス越しに何者かわからないかと目を凝らしたが外の様子は一切わからなかった。
このオンボロな扉を破ってこないのを見るに、純粋に来訪者の可能性もあるため、仕方がないのでとりあえず声をかけてみることにした。
「……はい、こんな夜分遅くにどちら様ですか?」
恐る恐る声を掛けると叩かれて振動していたドアがぴたりと静かになって、ちょっと不貞腐れていたがつい先ほどまで聞いていた声が返事を返した。
「……オレ。エース。ちょっと中に入れてよ」
「エース!?あの別れから再会が早すぎるだろ、お前っ」
あんなに爽やかな別れをした後だってのに!警戒心がすっかり霧散した私は一体どうしたんだと開錠するなりすぐさまドアを開けた。
「エース?こんな時間にどーした……げげっ!その首輪はっ!!」
先にエースを見たグリムがあまりに狼狽えるので、何事かと様子を伺うと玄関前に立っていたエースはブスくれた不満そうな顔をしていた。それよりも気になる点は先ほどはなかったハート型の赤と黒の手錠のような無機質な、何ともロックな首輪をしていた。一瞬、趣味かなと思ったが表情から違うんだと察した。
「え…エースさん?この短い間に何が…」
「も〜、絶対ハーツラビュルには戻んねえ。今日からオレ、ここの寮生になる!」
「ええええー!?何でーーっ!?」
この訳のわからない状況とエースの突然の宣言に私もグリムもすっかり目が覚めるほどの衝撃に思わず大きな声をあげてしまった。
穏やかで楽しい学園生活を夢見ていた矢先、風邪の日に見る悪夢やこのエースの来訪でまだ始まってもいない私の学園生活は早速暗雲が立ち込めたようだ。
お父さん…お母さん…
前言撤回です。
幸緒の異世界学園生活は初日を迎えるより前にとんでもない嵐の予感がするよ…。