さて、エヴァの外見でしばらく過ごすことに決めた俺は門番のアレクさんにお勧めの宿屋に向っていた。
「ふぅ、やっと落ち着いて街を見てみたけど、アレだな、中世ヨーロッパって表現がしっくりくるな」
石畳の通路にレンガ造りの建物。ゲームのグラフィックでもわからなかった細かい表現が
実際に見てみると違和感なく表現されている。
他にもゲームでは無かった場所に井戸が有ったり、生活に必要なものが増えていたりする。
「それにしても、この胸・・・・重い」
ゲームや漫画では重くて良いことなんて何もないっていう表現を見かけるがなってみると分かる
巨乳の悩み、まずバランスがとりにくい。石畳の段差に躓いて何度転びそうになったことか。
ドジっ子巨乳は別にドジなのではなく、バランスが悪いのと足元が見えないのが原因だ、今分かった。
あと一番の問題が、めっちゃ見られる。
すれ違う男性女性関係なしに100%見てくる。
ぽっちゃりだった頃もよく見られていたが、それとはまた別の視線だ。
前は「うわぁ・・・」と言った目線で、今は「うおぉ・・・」と言った目線だ。
そんなこんなで好奇な目線で見られながらも到着した宿り木亭。
1階は食堂をしているようだ。つくりからして2階が宿屋で1階が食堂と裏が自宅になっているのだろう。
「いらっしゃいませー、お食事ですか?」
食堂で給仕をしていた赤毛の女の子がこちらにやって来た。
ここの娘だろうか?
「いや、門番さんに紹介されてね。泊まりたいんだけど、部屋は空いてる?」
「あ、アレクさんですね?よく食べに来てくれるんですよ。部屋は空いてます。何日くらいご利用ですか?」
あ、考えてなかったな。確かゲーム内では1月30日の12ヶ月、1年360日だったはずだ。
1日は60分だったはずだが今日はすでに何時間もたっている。おそらく24時間ではないだろうか。
「そうですね、とりあえず1月お願いします」
「はい、1月ですね。えーっと200Gの30日ですから・・・銀貨6枚?」
「ははは、疑問形で聞かれても。それであってますよ。」
「ああ、よかった、食事は朝晩ついてます。昼は別料金になります。
体をふく場合は中庭の井戸を使う場合は無料、部屋までお水を運ぶ場合は
50G、お湯の場合は100Gになります。」
中庭には女性用に体を洗うための小屋も建てられているようで、その中で体を洗うことも
出来るようになっているそうだ。
「こちら部屋の鍵になります、外出するときは受付に預けてください。」
鍵を受け取ると2階の部屋に案内された。
少々狭いがベッドと小さな机が有る。
荷物は空間倉庫にほぼ全てしまってあるので手荷物程度が置ければ問題ないため
十分な広さと言えるだろう。
「それでは何かあったら声をかけてください、えーっと・・・」
「あ、エヴァです、よろしくお願いします。」
「エヴァさんですね、私はサーシャと言います。それでは失礼します」
部屋で一人になり、考える時間が出来た。
気が付けば森の中に投げ出され、夢でも見ているような感覚でここまで来たけど
落ち着ける場所に来るとやはり今のこれが現実なんだと実感させられる。
目の前に手を持って来てグーパーグーパーと動かしてみる。
今までのポッチャリハンドではなく女性らしさのあるほっそりとした手だ。
意識すると一瞬でレイの姿になる。こちらは子供らしさの残る小さい手。
ジェントルは歳を重ねた職人らしい手になる。
シャドーの手には何か刺青が入っている。ゲームではそこまでしていなかったが
これはおそらく「う、鎮まれ俺の右腕!」的なアレだろう。
誰かに見られる前にエヴァの姿に戻る。
「はぁ、これからどうしよう・・・」
ボッチプレーヤーだった俺は全ての事が出来るようなキャラのスキル構成で
5キャラを作った。つまり、全てのスキルが統合された今の俺なら
何でも一人でできるという事。
逆に選択肢が多く何をすればいいか迷ってしまっている。
狩り、冒険者、武器防具屋、エンチャント屋、テイマースキルを使えば
ペット屋や酪農なんかもできるだろう。
普通ならこんなチートな体を手に入れたら冒険者一択だろうが、それは
アニメやゲーム、二次創作なんかの世界の話だ。
実際こんな状態になるといかに安全に暮らすか、その考えが一番最初に来る。
空間倉庫からメモを取出し今後の方針を書き上げていく。
1、できるだけ戦闘とは無関係の仕事を探す。
2、カンストを超えているスキルをばれない様にする。
3、戦闘が避けられない場合は中二キャラのシャドーの姿で行う。
4、変身できるシャドー以外のキャラは親戚や家族と言う設定にする。
5、早めに家を買い、そこを住居兼お店にする。
6、変身能力がばれた場合、呪いのせい?で4人(シャドーを入れると5人)が1人の体にされたことにする。
7、ばれた場合全員が記憶を共有しているということもばらす
8、呪われる以前の記憶は呪いのせいであいまいになっている。
「さて、あとは・・・その都度追加修正していけば良いか」
大体の方針を決めた頃にはすで夕方から夜に移る時間になっていた。
夕飯を貰いに1階へ移動する。
一階の食堂はそこそこの人入りの様で、大体半分の席が埋まっていた。
「あ、エヴァさん。夕飯ですね、こちらに座ってください」
通されたのはカウンター席だった。
食堂は6人のテーブル席が6、カウンター席が8人の
前の世界で言うとフランチャイズのラーメン屋位の広さだ。
「はい、今日の夕飯です」
サーシャが運んできたのはパンが3つと豚肉っぽい肉の入った野菜炒め。
それとスープだった。
「いただきます」
特にいただきますに反応はしなかった。この世界はいただきますの挨拶は有るのだろうか?。
まずはパン、少々固めだが少し甘い味が付いていてなかなかおいしい。
問題は野菜炒めとスープだ。
味が薄い、おそらくこの世界の標準的な味付けなのだろうが、日本の味付けに
成れてしまった俺にはどうにも薄くて物足りない。
周りから見えないところで空間倉庫から調味料を取り出す。
AMOの世界では生産系のスキルに料理が存在する。
ステータス上昇の効果や罠と言った使用方法があるスキルだが、
そのスキルのおかげかイメージした味には何が必要か直感でわかるようだ。
空間倉庫には各種素材や調味料が大量に入っているのも助かった。
スキル上げで大量に買っていたものがそのまま自宅倉庫に眠っていた分だ。
「うん、俺好みの味になった」
食事を終えると自室に戻る、宿の二階からは中庭が見渡せた。
井戸の近くに掘っ立て小屋が立っている、おそらく女性用の洗い場だろう。
井戸はロープの付いた桶を投げ入れて引き上げるタイプの様だ。
手漕ぎポンプとか無いのだろうか?
その向こう側には畑のような場所が広がっている。
ような場所と言うのは少々荒れ果てているからだ。
見た感じはこの宿屋の敷地の様だが、畑まで手が回らないのだろう。
「・・・寝よ」
窓を閉めてベッドにもぐりこんだ。