フリーナ様に原石を捧げる準備だ!
私は長い旅路の中で、数えきれないほどの城を目にしてきた。一才の装飾を廃し、戦に特化した無骨な城。広大な敷地に堅固な城壁を敷き、民を守り育む街としての姿を持つ城。その国とそれを治める王によって、城の姿は千差万別である。
この自由の国の中心である『モンド城』。私は今、その眩しい街並みの前で呆然と立ちすくんでいた。何故なら、この城は私が知る中で最も活気に満ち溢れた『美しい城』だったからだ。
「やっと着いたー! まだアルベドお兄ちゃんは帰ってきてないかな……早く探しに行かなきゃ!」
「帰ってきたとしたら、騎士団本部の方にいるんじゃないかな。とりあえずそこに行ってみよう」
「そうだな──って、クレーがもういない! 元気いっぱいだな、まったく……おい甲冑野郎、そんなにぼんやりしてると今度はお前が置いていかれちゃうぞ」
「ん……ああ、すまないな。この素晴らしい情景につい見惚れていたんだ」
私が今まで見てきた多くの城や砦の類は、どれも荒廃し死が蔓延る魔窟と化しているものが殆どだった。というより、こんな風に普通に人の営みが築かれる場所を訪れること事態、実に久しぶりのことなのだ。ただ、私は何やら周りから注目されているようで、四方から奇異の視線が注がれているのが分かる。その原因は私の甲冑姿だろうか。
「大道芸人かコスプレイヤーと思われてるんじゃないの? その鎧、ちょっと古臭い意匠だし」
「こすぷれいやー? ……まあ、後で着替えるか。こうも注目されては落ちつかない──特にそこの影から見てる貴公、そう疑惑の視線を向けないでくれるか?」
私が後ろにある家屋の影に向かって声をかけると、少しの間を置いて一人の男が現れた。褐色の肌と眼帯をしたその男は、一瞬鋭い眼光を見せたかと思えば、どこか胡散臭い笑みを浮かべる。
「ああ、気を悪くしないでくれよ。モンド城に見慣れない異邦人がいたら、西風騎士として警戒の念を抱かずにいられないのさ。そういうわけで栄誉騎士殿、この御仁が何者か説明してもらえないか?」
およそ私の感性では『騎士』とは思えぬ風貌だ。隣にいる空とパイモンが何やら渋い表情をしてるのを見るに、食えない人物という第一印象に間違いはなさそうだ。そしてもう一つ、私には見過ごせないことがあった。それは、男の腰に装飾が施された『神の目』が吊り下げられていたことである。
(『神の目』……この男もまた、神となる資格を持っているのか)
吊り下げられた薄い淡青色の神の目、恐らくは氷元素の神の目だろう。しかも、私にはこの男がクレーと同じ光を持っているように見えた。クレーの暖かく眩しい光とは違い、どこか冷たく陰りのある光だ。そういえばクレーも、神の目を持っている。先刻、爆弾で戯れている時に、背中の鞄に炎元素の紅い神の目が取り付けられているのを見たのだ。
ソウルの色、というには少し違う気がする。やはり神の目から発せられているのか? まあ、色々と気になるところはあるが、これについて考えるのは一旦後回しだ。あとでじっくり考察するとしよう。
「なーんだ、誰かと思ったらガイアか……」
「おいおい、つれない反応だなパイモン。そんなに嫌われるようなことをした記憶はないんだが?」
「どの口が言ってんだか、オイラはもう騙されないんだからな……甲冑野郎、コイツには気をつけろよ。上手いこと口車に乗せて面倒な仕事を押し付けてくるんだ」
「話術に長けているのか……ガイア、と言ったか? 君は私の苦手なタイプのようだ」
「ふぅん、中々はっきりとした物言いだな、俺は嫌いじゃないぜ……それにしても、随分と仲が良さそうじゃないか。璃月に旅立つ新しい仲間、ってところか、空?」
「いや、別にそういうわけじゃないよ」
「……」
私ははっきりと言い切る空にグサリと胸に突き刺さるものを感じながらも、私もつい先ほど知り合っただけだ、とガイアの言葉を肯定する。
しかし、やはりガイアは私を警戒しているようで、一瞬周りに何か目配せをしていた。気付けば、周囲の人混みにはチラホラと鎧を着込んだ騎士の姿が見て取れる。きっとガイアが呼んだ西風騎士団の仲間だろう。私が何か怪しい所作を見せたら、すぐにでも捕えるつもりかもしれない。
「実は先ほど、星落ちの湖の付近で古めかしい甲冑を纏った怪しい人物がいたと連絡があってな。そのすぐ後には何やら大きな爆発音も聞こえたとか……俺はてっきりその御仁が騒ぎを起こして、我らが栄誉騎士にとっ捕まえられたのかと思ったんだがね」
「あぁ、うん……確かに騒ぎは起きたけど。でもこの人は……」
何か言いかけて言葉に詰まる空がチラリと私の方を見る。さっきは仲間ではないと言い切った割には、律儀に私の素性は明かさないでいるのか。どうやら空は思った以上にお人好しのようだ。
ただ、このまま黙っていてはそれこそ怪しい奴だと思われるだろう。私が自分で弁明すべきか──そう思い口を開く寸前、甲冑のサーコートの裾が後ろに引っ張られる。
「もう、早く着いてきてよ皆んな〜! アルベドお兄ちゃんを探しに……あっ‼︎ガイアお兄ちゃんだ!」
「おっ、クレーじゃないか。お前も一緒だったのか」
サーコートの裾を引っ張っていたのは、着いてこない私たちを探しに戻ってきたクレーだった。同じ西風騎士ということで、クレーとガイアは面識があるようだ。
「ガイアお兄ちゃん、アルベドお兄ちゃんが何処にいるか知ってる?」
「なんだ、アルベドを探していたのか? なら丁度よかったな」
そう言ってガイアが城門の方を顎でしゃくると、そこにはもっと大勢の西風騎士の一団がいた。なにやら馬車に大荷物を乗せており、遠出から帰って来たという印象だ。
そして、その中心には白いコートを纏う褪せたブロンドの青年がいた。私には、その青年が件の人物なのだと直感で分かった。何故なら彼もまた、その内に光を秘めていたからだ。
「紹介するぜ。彼が西風騎士の首席錬金術師、兼ドラゴンスパイン調査小隊隊長、有智高才の『白亜の申し子』ことー
「あっ! アルベドお兄ちゃんだー!」
「……そう、アルベドだ」
ガイアの言葉を遮って掛け出すクレーは、そのままアルベドに勢いよく抱きつく。それを優しく抱き止めたアルベドは、僅かに口元を緩めてクレーの頭を撫でるのだった。
「お帰りなさい、お兄ちゃん!」
「ああ、ただいま。わざわざ迎えに来てくれたんだ」
「うん。えっとね、お兄ちゃんに会ってほしい人がいてね、それでお兄ちゃんを探してたの」
「……その会ってほしい人というのは、そこにいる彼らのことかな。彼らはクレーの友達かい?」
「クレーと一緒にボンボン爆弾でドカーン! ってしたから、もうお友達だよ。お爺ちゃんは今日初めて会ったけどね」
「ふむ、なるほど……」
クレーを抱えたまま静かに視線を空、パイモン、そして私へと向ける。その時、私にはアルベドの水色の瞳が、彼が内に秘める光と同じように輝いたように見えた。
「ガイア、すまないけど後片付けは任せてもいいかな」
「ん? おいおい、俺はただの出迎えだぜ。大事な実験器具の数々を俺みたいな素人に任せていいのか?」
「そんな大事な器具はないよ。それに、これらは全て調査に出発する前に君がスクロースを補佐して手配してくれたものだ。どこに片付ければいいかは、君もよく知ってるはずだろう」
「おっとっと……代理団長のようにはいかないか。了解した、ここは俺に任せてくれ」
「頼んだよ。さて……僕はお客さんたちを案内しようか」
抱えていたクレー下ろしながら私たちの前に立つアルベドは、変わらず無表情のままだ。しかし、何を考えているかはよく伝わってくるのだから、不思議な青年だ。
「初めまして、クレーの友人たち。妹が世話になったみたいだね。僕にどんな用事があるのかは知らないけど……何やら面白い話が聞けそうだね」
そう、彼は今大いに期待を抱いているようだ。顔には出なくともそれが分かる。彼の目に宿る輝きは、彼が首にかける岩元素の『神の目』と同じ光。そしてそれには、強い『探究心』が込められているように感じたからだ。私も同じ探究する者、もしかしたら彼とは結構気が合うかもしれないな。
今回はちょっと書き方を変えてみました
こっちの方が読みやすかったりするでしょうか?
なお、誤字は減らないもよう