原神の探究者 〜伝説任務 渡鴉の章〜   作:刀の切れ味

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原神のストーリーとしては、序幕であるモンド編が終了したところです。
プレイしたのがもう何年も前のように感じるぜ…


序幕 そのニ

 

(やれやれ、召喚されて早々に慌しいことだな……)

 

 動かなくなった単眼の巨人からツヴァイヘンダーを引き抜くと、ようやく周りが静かになったことにため息を一つ。そして、改めて自分が置かれている状況を整理すべく思案にふける。

 さて、まず私はサインを通じてこの世界に呼び出されたのだが、どうやらここは『火の時代』ではないらしい。後の時代か完全な別世界か、確かめる必要がありそうだ。

 そして、私を呼び出したこの世界の主であるあの金髪の少年。彼は不死人ではないのは確かだが、普通の人間でもないらしい。少し目にしただけだが、底知れぬ不可思議なソウルを感じた。それとも、この世界では彼のようなソウルを持った人間が普通なのか。

 

(私が復活した時には、既に彼の姿はなかった。まあ……彼には私が頭を砕かれる瞬間を見られている。中々に凄惨な場面を見せられたに違いないからな、死んだと思われてるだろう)

 

 周りに転がる単眼の巨人たちの残骸の中央には、まだ乾いていない血溜まりが滑りのある光沢を放っている。もちろん、あの血溜まりは私のものだ。ついさっき、この単眼の巨人に叩き潰されてできたものだ。

 だが、死すとも死なぬのが不死だ。少し間を置けばすぐに復活してしまう。無論、不死の呪いを超越した私は死んでもソウルを失うことも、人間性を失うことも、呪いが溜まることもない。全ての不死が羨む究極の親切設計なのだ。

 

(何はともあれ……ここにいても話は進まないな。まずはこの遺跡の外へ……この世界の姿を見に行こうとじゃないか)

 

 さりとて油断は禁物だ。復活した後は一体ずつ屠ってやったが、この単眼の巨人たちは中々の脅威だった。まず、一般の兵士では太刀打ちできない強さだ。そして、そんな単眼の巨人が人工物であり、それを製造できるだけの技術力がこの世界にある、ということだ。この先、何が出てくるか分かったものではない。

 ただ、それはそれで胸が踊るではないか。きっとこの世界は私が見たことも聞いたこともないような未知と驚愕で満ちている。そう考えるだけで楽しみで仕方ない。私ははやる気持ちを抑えつつツヴァイヘンダーを担ぐと、遺跡内を照らす不思議な植物の灯りを頼りに歩を進める。

 

「……むっ?」

 

 しばらく狭い通路を進んでいくと、その先から光が漏れているのが見える。それに加えて、何やら人の話し声も聞こえてくる。先の少年、ではなさそうだ、気配は複数人ある。

 残念なことにこの世界の言語は私の知るものとは異なる。誰がいるにしても会話はできないだろう、なんとかジェスチャーで意思疎通を図ってみるとしよう。

 

「もし、誰かそこにいるのか。私は敵ではない……といっても伝わらないだろうが、どうか怖がらないでほしい」

 

 私はなるべく優しい声色で敵意がないことを示しながら、人の気配がする方へ近づく。そして、曲がり角の向こうへ足を踏み入れると──そこには見るからに怪しい身なりをした男たちがいた。

 人数は六人、皆一様に布マスクで素顔を隠し、武器を手にしている。明らかに盗賊の類、悪党であることは間違いなさそうだ。しかし、誰かにこっ酷くやられたのか擦り傷やら青あざができている者ばかりで、なにやら意気消沈しているようだった。しかし、そんな彼らは特大剣をかつぐ私を見るや否や、警戒心を剥き出しにして武器を構える。

 

「──っ、────‼︎」

 

「──……──⁉︎」

 

 あの少年と同じで何を喋っているかはまるで分からない。だが、私に対して敵意を向けていることは分かる。私はツヴァイヘンダーを地面に投げ捨てて、両手を上げ降参の意を示してみる。

 しかし、男たちの態度が軟化することなく、私を指差しながら口早に何かを叫んでいる。もしかしたら、命が惜しければ有り金を全部置いていけ、とか言ってるのだろうか。

 これでは埒があかない、そう思い、私はあるジェスチャーを試してみる。両手を左右に広げ相手を迎え入れる仕草、『歓迎』のジェスチャーだ。

 

「──‼︎」

 

 だが、私のこのジェスチャーは気に食わなかったようだ。彼らのうちの一人、クロスボウを持った男が何かを叫ぶと、私に向けてボルトを放ってきたのだ。

 当然ながら、歓迎のポーズをとって無防備そのものだった私は回避できるはずもなく、ボルトは装甲に覆われていない右の腿に突き刺さった。更に、一際大柄な男が錆びついた斧を振りかぶると、私の鎧の胸甲に叩きつけた。

 背中から仰向けに倒れた私を踏みつけながら、再度斧を構える大柄な男。今度は頑丈な装甲部分ではなく兜と胸甲の隙間、私の首筋を狙って斧を振り下ろした。

 無骨な斧の刃が首筋に食い込み、肉が裂け、首の骨が嫌な音を立てて砕け折れる。四肢から力が抜け、私の意識はあっという間に暗闇に滑り落ちていった──が、すぐに僅かな熱と火の粉と共に目が覚める。

 

「──っ⁉︎」

 

 瞬く間に蘇生した私の視界には、驚愕した表情の大柄な男が映る。私は大柄な男が気を取り直す前にポーチから投げナイフを取り出し、素早く投擲した。

 

「……まったく、言葉が通じないとはいえ、無抵抗の相手をよくもまあ……」

 

 眉間に投げナイフの切先が突き刺さり、そのまま力無く倒れる大柄な男。それを文句と共に押し退けるながら、私は太腿に刺さったボルトを引き抜いて立ち上がる。その様を見た他の悪党たちは、戦々恐々といった風に表情を歪めて慄いていた。

 

「すまないが、刃を向けた以上は覚悟してもらおう。なに、苦しいのはほんの一瞬よ。それに安心したまえ、そのソウルは余さず糧にすると約束する。悪しからず……!」

 

 右手にロングソード、左手にバトルアクス。ソウルから取り出した武器を構える私に、残った悪党どもが死に物狂いで襲いかかってくる。

 真っ先に跳びかかかってきた短刀を持った悪党の一撃を、半身を逸らして躱わす。そして体勢が崩れたところを、ロングソードの鋭い切先で胸を刺し貫く。男の口から血反吐が吹き出し、四肢から力が抜けるや否や、乱暴に蹴り飛ばしてロングソードを引き抜いた。

 更に、私は目の前で返り血を浴びて固まる男に向けてバトルアクスを振り下ろす。男は錆びた剣で受け止めようとしたが、バトルアクスの分厚い刃は容易く錆びた剣を砕き折り、そのまま男の頭を叩き割った。

 私が手にしているこの二振りは、一見すれば何の変哲もない直剣と戦斧だ。しかし、数多のソウルを注ぎ込み、鍛え上げ、極限にまで研ぎ澄まされたこの二振りは、文字通り神をも屠る。そのような(なまくら)では受け止めることも罷りならん。

 

「──ッ⁉︎────‼︎」

 

 瞬く間に二人も殺され、残った悪党どもは既に戦意を失ったのか尻餅をついて必死に何か喚き散らしていた。手にしていた武器も放り出して泣きじゃくる様から、命乞いをしているのは想像に難くない。それでも、私は剣を下げることなく歩み寄る。

 

「後から背中を刺されても困るのでね。言葉が通じるのならまだしも……まったくどうしようもないな。そう、どうしようもない。だから、精々私を呪うといい。貴公らのソウルと共に、私が背負ってやろう」

 

 私は直剣と戦斧の柄を握りしめると、なるべく痛みを感じないように残った三人の悪党の首を刎ねる。無論、痛みはなくとも死の間際に感じたその恐怖は計り知れない。それを証明するように血濡れた刃が振り下ろされる瞬間、薄暗い洞窟に死の間際の慟哭が鳴り響いた。

 もしここに他の誰かがいたのならば、その者は悍ましい光景を目にした事だろう。命だけでは飽き足らず僅かに残るソウルまで奪い尽くす不死の、その惨憺を極める悪鬼の如き所業を。だが、彼らのソウルは断片的にでも教えてくれるはずだ。ここは私の生きた火の時代とは別の時代なのか、それとも根本から異なるのか、我が主人の生きるこの世界は如何なるものなのか──

 

 

 

 ──

 

 

 

 狭い洞窟と崩れかけの遺跡を進み続けた私の前に、遂に大きな石造りの扉が姿を現す。先の私が殺した『宝盗団』と呼ばれる悪党共の記憶によれば、この扉は彼らがこの秘境に足を踏み入れる際に最初に通った扉だ。つまり、ここは入り口なのだ。

 彼らのソウルは多くの事を教えてくれた。この世界『テイワット』と点在する七つの国。それらを治める七神。世界のあらゆる現象を起こす元素の存在。人々の渇望からもたらされる『神の目』……まったくどれを取っても興味が尽きない。私には全てが未知と謎の塊だ! 

 ただこれらの知識は一般常識らしく、彼ら宝盗団のソウルでは深く理解するには至らなかった。しかし、それはそれで構わない。あとは己の目で観て、耳で聴き、肌で感じ取るまでだ。

 

(色々と思案を張り巡らせたいところだが、まずは確かめたい事がある。この扉の向こうにある景色……本当に彼らの記憶にあるような景色が広がっているのか……?)

 

 はやる気持ちを抑えながら、私はゆっくりと石扉を開けていく。土埃を立てながら動く扉と壁の間から光が差し込み、私の視界は一瞬真っ白に染まる。目を瞑りながら扉を押し開き、ようやく視界が開けると──そこには眩いほどの躍動する命が色付いていた。

 青々と繁り風に揺れる木々と草花、どこまでも伸び伸びと広がる草原。時折聞こえてくる小鳥の囀る唄と獣たちの息遣い。澄み渡る空を駆ける柔らかな風。そして何より、煌々と、燦々と降り注ぐ、大きく熱い『太陽』の光! それに照らされるこの世界(テイワット)は、ただひたすらに美しかった。

 

「あぁ……まさかこんな美しい景色を見られるとは……」

 

 宝盗団たちの記憶によれば、ここいらはテイワット七国のうちの一つ、自由の国『モンド』の東部に位置するらしい。まだモンドがどういう国なのかは詳しくは分からないが、この穏やかな情景がモンドの気風を物語っているようだ。

 だかしかし、こういった美しい景色の裏には何か悍ましいものが隠されているのが世の常だろう。今は平和な時代なのかもしれんが、数百年前は血に塗れた凄惨な時代だったやもしれん。先の機械仕掛けの巨人が良い証拠だ。

 美しい景色に感動しつつもそんな不穏な考えを巡らせながら、私は少し離れた場所に見える小高い丘を目指す。あの宝盗団の記憶によれば、あそこには彼らのキャンプがある。きっと役立つものが残っているだろう、それらを拝借してくとしよう。

 

(む、アレが件のキャンプか。早速物色させてもらおうか)

 

 秘境の入り口から数分ほど歩くと、小高い丘の上に立つ大きな杉の木の根元にボロボロのテントが立ててあった。垂れ幕を除けて中を見てみると、いくつかの麻袋と木箱、そして寝床がわりに敷かれた藁と実に簡素だった。

 手始めに麻袋の中身を漁ってみると、中身はりんごやら小麦やらの食料が入っていた。ただ、私には食事は必要ないので、こういった食料は私にとってあまり価値がない。

 続いて木箱の蓋を開けてみれば、そこには書物やら巻物やらが雑多に詰め込まれていた。こういった文書類はこの世界の知見を深めるのに大いに役立つ、さっきの食料などよりもずっと価値があるものだ。元の持ち主には申し訳ないが、後でじっくり拝見させてもらおう。

 ……なに? これでは私も盗人と変わらないのでは、だと? 今更何を言うか。私は既に神殺しのような大罪まで犯している、今更盗みなど大した問題ではないだろう。

 

(まあ、盗人の残したものなどこの程度か。せめて周辺の地図でも手に入れば、そう思ったのだが……ん?)

 

 木箱の中身を探っていると、何やら高価な装飾で彩られた小箱が私の指に触れた。これもきっとどこかの金持ちから盗んできたのだろう、そう思ったが、私は興味本位で箱を手に取ってその中身を確かめる。

 すると、箱の中身には灰色の宝石が埋め込まれた装飾品が収められていた。しかし、これはただの装飾品などではない。炎のような紋様が刻まれているその宝玉は、色褪せて見えるが尋常ならざる不思議な気配を纏っていたのだ。

 

(これは呪物の類か? 人がどうこうして作れるものではなさそうだが……いや、もしやこれが例の『神の目』と呼ばれる……)

 

 宝玉を手に取って、太陽の光にかざしながら観察してみる。当然、それで何か分かるというわけではないのだが、何故かこの宝石に惹きつけられるのだ。

 しかし、そうやって私が宝玉に夢中になっていたその時だった──私の後ろから、突如柔らかなハープの音が響いた。

 

「やあ、この葡萄酒は君のもの? 違うよね、ここは宝盗団の拠点だったみたいだし、それもきっと盗品でしょ。つまりそれは誰のものでもないってこと、だから僕が飲んじゃってもいいよね?」

 

「──っ⁉︎」

 

 ソウルから取り出したロングソードを構えながら振り向くと、そこには翡翠色の旅装に身を包んだ少年……いや、少女? とにかく、性別も年齢も判断つかない謎の人物が、ハープを片手に葡萄酒の入った瓶を物欲しそうに指さしていた。

 謎の人物が纏う翡翠色の装束は、手に持つハープと合わさって詩人や旅芸人といった雰囲氣を醸し出している。なのに、感じ取れるその気配はまたしても異質なソウルの気を放っている。その上声をかけられる直前まで、このソウルの気配は微塵も感じなかった。

 直感で分かる。目の前にいるこの人物は──恐らくは『神』と呼ばれるような人智を超えた存在だ。

 

「よかったら君もどう? 今日は外でのんびり呑むのにピッタリないい天気だもの」

 

 転がすように奏でられるハープの音は、そよ風に揺れる草のように柔らかな音色をしていた。しかし、それとは裏腹に私を見つめる翠の瞳には、微かな『敵意』が籠もっていた。

 




⚪︎今回の死因
宝盗団にジェスチャーを披露しているところを攻撃され、頸椎を錆びた斧に砕かれて死亡。
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