原神の探究者 〜伝説任務 渡鴉の章〜   作:刀の切れ味

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ついにver4.0実装!
新エリアはワクワクが止まらんですなー

とりあえずAC6が来るまでの一週間で遊んどかないと……


序幕 その三

 

「もう、そんな物騒なものをこちらに向けないでよ。おっかないなぁ……で、コレは飲んじゃっていい?」

 

 ロングソードの切先を向けられて、大袈裟におどけて見せる謎の人物。私はさらにソウルから別の武器を取り出す準備をしながら、静かに葡萄酒の瓶を顎で指す。

 

「……勝手にするといい。私には不要なものだ」

 

「お酒が不要なものだって? 君の元いた世界にお酒の文化は無かったのかい? こんなに美味しいのに……」

 

「……!」

 

「まあ嗜好は人それぞれだからね。とりあえず、この葡萄酒はありがたく頂くよ。僕は吟遊詩人のウェンティ、お酒のお礼に一曲歌ってあげようか?」

 

 ウェンティと名乗ったその人物は、優雅に一礼してから手に持つハープで美しい旋律を奏でる。私は変わらず警戒を厳にしていたが、とりあえずロングソードは鞘に収める。

 

「貴公の唄には興味あるが、またの機会にしてもらおう」

 

「まあまあ、そう言わずに♪ 君にピッタリの英雄譚を聞かせてあげよう。かつてこの自由の国『モンド』に現れた紅い悪霊と風来の旅の騎士、二人の壮絶な戦いを讃える唄さ。ほら、こっちの陽だまりに座ってよ」

 

 唄は無用と断ったにも関わらず、美味そうに葡萄酒をあおるウェンテイは上機嫌でとある英雄譚について語り出す。なんと自由気ままな奴だろうか。

 

「──紅い悪霊は人々の魂を貪り喰らう怪物だった。その暴虐ぶりは文字通り厄災そのもの、モンドの人々は絶望に打ちひしがれていた。そんな中、紅い悪霊と対峙した旅の騎士は、太陽の光を帯びた剣を引き抜き、紅い悪霊と三日三晩の死闘を繰り広げた! その末に、遂に旅の騎士は紅い悪霊を下した。そして、旅の騎士は……紅い悪霊をどうしたと思う?」

 

「……無慈悲に首でも刎ねたかね」

 

「ふふっ、外れー。なんと旅人は、紅い悪霊の孤独を理解し、友になろうとしたのさ! 自分に手を差し伸ばす旅の騎士に紅い悪霊は涙を流した。けれども、二人が手を取り合うことはなかった。何故なら……」

 

「何故なら?」

 

「モンドの風神がそれを許さなかったんだ。風神はハープを奏でて嵐を呼ぶと、紅い悪霊を虚空の彼方へと追放したのさ」

 

 神秘的な光を宿すウェンテイの翠の瞳が、私の心の奥底まで見透かそうとじっと見つめてくる。そして、ウェンティは酒瓶から口を離すと──雰囲気を一変させ、私への『敵意』を露わにした。

 

「このテイワットにはね、君のような異世界からの来訪者がやってくることは稀にあることなんだ。この前も一人、変わった旅人がやって来たしね。でも君たちは……もう君たちは違うんだよ。この世界は、君たちがいていい場所じゃない」

 

「君たちは、か……やはり貴公は、私が別世界からこのテイワットにやって来たのだと知っていたな。そして私は、先の唄の紅い悪霊のように人々を絶望に陥れる厄災になると? ……くくっ、そう言われても否定はできんなぁ」

 

 葡萄酒の瓶を置いて立ち上がったウェンティは、ハープを片手にじっと私を見下ろす。私の返答次第で、すぐにでも攻撃を仕掛けてきそうな危うい雰囲気だ。

 テイワットの七神、その一柱である風神の力には興味あるが、いきなり神様を怒らせるのは少々不遜が過ぎる。それに、私はあくまで世界の主である金髪の少年を手助けするために召喚されたのだ。あまり勝手な真似はすべきではないし、彼の断り無しに勝手に帰るのも私自身の信条に反する。さて、どうしたものか。

 

「そう睨むな、私はこの世界に害をもたらすつもりは毛頭ない──と言っても、信用できぬだろうが。とりあえずその紅い悪霊にやったように、空の彼方へ追放するのだけは勘弁願いたい」

 

「……君は既に、この世界で誰かの魂を喰らったでしょ? そうやってテイワットの知識や記憶を取り込んだんだ。でなきゃテイワットの言語を理解できるはずもないしね。そして、この先君がモンドの民に同じことをしないと、どうやって証明するんだい?」

 

「そのような事まで把握しているのか……いや、そうだな。証明などできない。やはり私を見過ごすことは不可能のようだな」

 

「そうだね、残念だけど……」

 

 遠くから吹く一陣の風が木の葉や柔らかな蒲公英の綿毛を飛ばす。その風にあおられながら、ウェンティは私を、私はウェンティを言葉なく見つめ合っていた。

 そして、風が止み、太陽が雲に隠れたその瞬間。私はロングソードを手に取って立ち上がりながら、その刃を振り上げた。そしてウェンティは、それよりも早く、力強く、翡翠に輝く粒子を巻き上げながらハープを奏でた。

 文字通りの凄まじい旋風が吹き荒れ、私は全身が引きちぎられたかと錯覚するほどの衝撃に貫かれる。

 

(ほぉ……風神、その名は伊達ではなかったか)

 

 気づいた時には、私は雲に差し掛かるほど空高くに打ち上げられていた。数えればものの数秒にも満たない刹那、私は胃がひっくり返るような浮遊感を味わいながら、そのまま勢いよく落下していく。

 この高さでは助かるまいが、どれだけ死に慣れていようと落下死は虚しくて堪らん。きっと同じことを思う不死人は多いだろう。そんな下らぬことを考えながら、私はゆっくりと目を閉じて落下の衝撃に備えるのだった。

 ……無論、備えたところで死ぬことには変わりはないのだが。

 

 

 ──

 

 

(今日はのんびり過ごせる良い一日になる、そう思ったんだけどなぁ……)

 

 今日は本当にいい天気で、野原で日向ぼっこしながら昼寝するにはもってこいなお昼だった。さっきまで僕は『風立ちの地』の草原で、りんごを齧りながらのんびりしてたんだ。

 でも、不意に嫌な悪寒が背筋に走った。風立ちの地のさらに東の方から、今まで感じたことのないような気配がした。それこそ、魔神戦争の時に戦ったどの魔神たちよりも、ずっと暗くおどろおどろしい気配だ。

 珍しく焦燥に駆られた僕は、気配を辿ってその主を探した。そして──宝盗団の拠点を物色する古めかしい甲冑を着込んだ騎士を見つけたのさ。一目見てすぐに分かった。幾度かこの世界に現れた不死人と呼ばれる異邦人、『火の時代』からの来訪者、この騎士もそれと同じ存在なのだと。

 そんな来訪者である不死の騎士は、僕の生み出した気流で空高く打ち上げられた後、そのまま地面に墜落してあっさりと事切れた。今は潰れたトマトのようにぐしゃぐしゃになって、甲冑の隙間から血を吹き出してピクリともしない。

 

(不死人は本当の意味では不死ではない。殺し続ければ、いつかは心が死に、亡者に成り果てる。彼はそう言っていた。でも……果たして『神の心』を失った僕にそれができるかな? この怪物を殺し続けるなんてことが……)

 

 僕は不死人とその呪いのことを熟知しているわけじゃないし、彼らが生きる『火の時代』についても知っていることはそう多くない。それでも、目の前にいる不死人が異質で、異常で、異端な存在であることは分かる。かつてテイワットに現れた不死とも、呪われたカーンルイア人とも違う。

 それを証明するように、血塗れの不死の騎士の死体から淡い火の粉が舞う。そして、薪に炎が灯るように燃え上がりながら、不死の騎士はゆっくり立ち上がる。

 

「……ふぅ、如何に不死でも人の肉体であることには変わらぬ。あのような高さから突き落とせば、この身を砕くのは容易いというもの……それでも死なぬのだがな」

 

 無骨な直剣を手に、兜にこびりついた血糊を拭う不死の騎士。あの直剣、アレはちょっとまずい、嫌な気配しかしない。何処にでもありそうな見た目なのに、纏う気配は伝説に謳われるような宝剣のそれだ。きっとアレに斬られたら、僕はあっさり死んじゃうだろうね。

 

「しかし貴公、死した私が蘇ってもまるで驚かぬな。私が呪われた『不死』であるとしっかり認識しているという、何よりの証拠だな。つまりは過去にも私のような不死が現れたことがあるのか……?」

 

「悪いけど今はその質問に答えるつもりはないよ……はぁ、どうやら帰るつもりは無いみたいだね。このテイワットに何か目的でもあるのかな? そんな事ないでしょ、たまたまこの世界に流れ着いただけみたいだし」

 

「それはそうだが、目的はあるとも。私をこの世界に召喚したあの金髪の少年、彼を助けるのが私の目的だ」

 

「金髪の少年……」

 

 不死の騎士の言うその少年に、何故か僕は心当たりがあった。この不死の騎士と同じ異世界からの来訪者、あの旅人もまたテイワットには存在しえない異物だ。彼がこの不死の騎士を喚んだ──その可能性は否定できない。

 

「いや……それだけではないな。私自身、このテイワットには大いに興味と期待を抱いている。もしや、あるいは、ひょっとしたら……とな」

 

「……何の話だい?」

 

「私はずっと、とある『答え』を探し求めている。幾千万と世界の終わりを見届け、幾星霜と思考を重ねてなおその答えは見つからぬ……しかしだ。どうしたものかと頭を悩ませていた時に、私はこの世界に巡り会った。こんな事はまったく初めてのことだよ、まさに奇跡だ」

 

 肩を揺らしてしゃがれた声で笑う不死の騎士の声色は、隠しきれぬ喜色を滲ませていた。そして、片膝をついて首を垂れると、僕に懇願するように囁いた。

 

「私の探し物がこのテイワットにあるとは限らぬ。だが、その可能性が少しでもあるなら……モンドの風神よ。この通りだ、どうか今しばらくテイワットに留まることを許してくれぬか。私の願いを聞き入れてはくれぬか」

 

「ふーん……ダメって言ったらどうするのさ?」

 

「……不本意だが、全力で抗うだろう。それこそ、貴公の懸念する通り紅い悪霊の再来となるやもしれぬぞ? 私はこれを逃せば、次に同じような機に恵まれるかは分からぬのだからな。それはもう、必死なのだよ」

 

「嫌な脅しだねぇ。お願いする人の態度じゃないよ、まったく」

 

 テイワットという世界は、どういうわけか異世界の影響を受けやすい。そのくせ、異物が混ざり込むとそれを拒絶し、何かしらの異常や災害を起こしてしまう。あの旅人のようにあっさりと受け入れられるのは本当に稀な事なんだ。

 あの紅い悪霊がテイワットに『侵入』してきたのも、本来なら存在しないはずの不死人が現れたことによる影響だったんだろう。そして、今目の前にいる不死人は今までの誰よりも……彼らの言葉を借りるなら、とてつもなく強大なソウルの持ち主だ。彼がテイワットに及ぼす影響がどれほどのものか、全く想像もつかないよ。

 

(だから、今すぐ元の世界に帰って欲しいんだ。だって戦っても勝てる気がしないんだもん。知ってるよ、不死人って簡単に死なないのをいいことに何度も立ち上がっては勝つまで勝負を挑んでくるんでしょ? そうやって神様とかでっかいドラゴンをやっつけてはソウルを奪って武器にしたりするんでしょ? 僕のソウルからは何が作られるんだろうな〜……)

 

 昔、モンドを訪れた一人の不死、バケツ頭の騎士は僕に『火の時代』の色んなことを話してくれた。ソウルを喰らうと忌み嫌われる不死の、その壮絶な生き様を聞かせてもらったんだ。その内の幾つかは詩にして時折披露したりするだけど、あんまり評判は良くないんだよね。

 まあそれともかくとして、この状況をどうしようかな。やっぱり、()()()()しかないのかな。彼はテイワットのことを知りたいみたいだし、その望みを叶えつつ帰ってもらうには──

 

「……ん? ねえ、それは何だい?」

 

「むっ……」

 

 先ほど不死の騎士が蘇生した時のようにその体から無数の火の粉が舞い、彼の右手へと集まっていく。それだけじゃない、彼の右手には大量の『炎元素』が集っていた。

 彼は立ち上がりながら右手を開くと、そこには色を失った灰色の『神の目』があった。宝玉に刻まれた紋様から、元は炎元素の神の目だったみたいだ。

 

(一体何処で手に入れたんだろう、この宝盗団のキャンプに隠されてたのかな──いや、そんな事よりも、持ち主を失った神の目が外界から現れた不死人と共鳴するなんて、絶対にあり得ないことだよ……っ!)

 

 不死の騎士は呆然と煌々と炎の輝きを取り戻していく神の目を見つめていた。僕も同じように、神の目に炎元素が集う様から目を離せなかった。

 何故かって、その神の目から放たれたのはただの炎じゃなかったからさ。それは真っ暗な黒炎だった。彼の内から滲み出る闇が炎元素と結びついて、黒い炎へと変化していったんだ。そして、黒炎は炎のように赤い神の目を侵し、同じような黒へと染めていった。

 

「奇妙な感覚だな。私のソウルとこの宝玉が強く結びついているような……モンドの風神よ、私が手にするこれは『神の目』と呼ばれるものだろう? 神に選ばれし者に授けられる力の証、七つの元素を操るための魔具……まさか、貴公が私に授けてくれたのか?」

 

「……まさか、そんなわけ……」

 

「ほう? ということは、だ。これは七神よりも更に上位の存在によってもたらされたのか。てっきり七神がテイワットを支配しているかと思っていたが、どうやら世界はそれほど単純ではないようだ……ははっ、まったく興味が尽きぬなぁ……!」

 

 黒炎が掻き消え、代わりに黒い元素の粒子を漂わせる黒い神の目。それを不死の騎士は新しいおもちゃを手にした子供のように握りしめ、天を仰ぎながら拳を振り上げた。

 僕は目の前で起こっていることが未だ信じられず、情けないことに理解が追いつかずに呆然としていた。僕が風神として生きたこの2600年、いや、このテイワットが生まれてから今までの遥かな年月、その中でも起こり得なかった異変が起こってしまったのだから。

 




⚪︎今回の死因
ウェンティの放った突風によって空高く吹き飛ばされ、なす術なく落下死。
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