原神の探究者 〜伝説任務 渡鴉の章〜   作:刀の切れ味

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⚪︎翠珀の指輪
風神バルバトスが所持していた指輪。
高純度な岩元素の結晶である石珀の装飾が施されている。しかし、この石珀には微量の風元素も含まれており、故に淡い翠の色を帯びている。
それはかつて、岩神モラクスによってもたらされ、二人の間に結ばれた約定を証明するものだった。

 


序幕 その五

 

 モンドの風神に別れを告げ、日の出ともにモンド城へ向けて出発した私は、『風立ちの地』と呼ばれる広大な草原を進んでいた。まだ半日ほどしか旅をしていないのだが、心底痛感していることがある。それは、このテイワットが想像以上に過酷であるということだ。

 ウェンティから、ここモンドは比較的穏やかな地域と聞いていた。しかし、道中ではあちこちに切り立った崖や岩山、深々と生い茂る森と厳しい自然に行手を阻まれるばかりだった。

 加えて、このテイワットには様々な『生命』に満ちている。野生の動物はもちろん、元素力を帯びた不可思議な植物も見かけた。それだけでなく、そこらの野山には人を襲う凶暴な魔物の類も跋扈しているのだ。

 何を隠そう、今はその魔物どもに追いかけ回されている最中である。息も絶え絶えに走り続けているが、後ろから迫り来る荒々しい息遣いが諦めてくれる様子は微塵もない。

 

「ぐ、ぬぬ……っ! これ、以上は……息が、もたん……‼︎」

 

「ヤーッ‼︎」

 

 すぐ背後から聞こえて来る奇妙な叫び声。足を止めずに後ろを振り向けば、そこには独特な仮面を被った無数の亜人たちが私をとっ捕まえようと騒ぎ立てていた。

 コイツらはヒルチャールと呼ばれる種族であり、テイワットの至る所に生息する魔物らしい。魔物といっても独自の言語や文化を持つくらいには知能が高い。私を追い回してる奴らも斧やらクロスボウなどで武装しているほどだ。

 いつもならソウルからハルバードやグレートアクスでも取り出して蹴散らしてやることだ。しかし、それはウェンティに禁止されているのだ。

 

(神と結んだ誓約だ、そう簡単に反故にできるものではあるまい……やはりこの扱いもよく分からぬ神の目の力で切り開くしかないか)

 

 右手の中指、金属の籠手に覆われているから見えないが、そこにはウェンティから貰った『翠珀(すいはく)の指輪』がはめてある。曰く、知り合いの神様に造ってもらったものらしい。

 昨晩、ウェンティは私に対してある誓約をするよう求めた。内容は幾つかあるが、その内の一つは『火の時代の武具や呪物、それにまつわる魔術の類の一切の使用を禁ずる』というものだ。その誓約がある故に、私は反撃もままならず逃げ回っているというわけだ。

 ウェンティたち神々から見ても私の所持する武具やスペルは、どれも安易にひけらかしていいものではない禁忌に相当するらしい。悪目立ちして主に迷惑をかけたくないなら誓約を守れ、と念押しされてしまったのだ。

 なお、誓約を破った場合は恐ろしい処罰が与えられるらしいが、具体的にどんな罰なのかは詳しく知られていないのだ。おっかない事この上ないので、今はまだ誓約を破るつもりはない。

 

(このまま逃げ回っていても埒があかないか。仕方ないがやるしかあるまい。どうせ仕損じてもただ死ぬだけよ!)

 

 私は反転してチェーンで首元に吊り下げた神の目に触れると、じっと意識を集中する。私が足を止めた事でヒルチャールたちは一気に私に飛びかかろうとしたていたが、私の神の目から立ち昇る黒い元素を目の当たりし、その足を止める。

 

(警戒しているのか? ならば好都合、このまま先手を……取りたいが、どうすればいいのだ。この黒い元素にどんな力があるかもさっぱり分からんというのに……ええい、取り敢えずぶつけてしまえっ‼︎)

 

 幸いにも黒い元素はある程度私が念じた通りに操作できる。私はかつてとある魔術師から学んだスペルの一つ、闇術『闇の球』を模倣するように黒い元素を一塊に集める。

 そして、それを頭一つほどの大きさにまで固めると、小さな木盾を構えるヒルチャールに向けて放った。

 

「──ッッ‼︎」

 

「おおっ……⁉︎」

 

 凝縮された黒い元素は木盾を容易く粉砕し、衝撃でヒルチャールを木立の向こうまですっ飛ばしてしまった。その威力に思わず私も驚きの声を溢してしまった。

 なるほど、何となくだがその性質の一端が見えた気がする。よく見てみれば、木盾に命中して弾けた黒い元素の塊は細かな粒子となって散っていったが、それらは全て地面に舞い落ちて滞留しているではないか。ウェンティの操った風元素の粒子と違って、この黒い元素は随分と()()()らしい。

 もう一度『闇の球』を生成してそれに触れてみれば、やはりズシリとした重さを感じる。勢いよくぶつけるだけでもあれだけの威力が発揮されたのも頷けるというものだ。

 

(ふむ、これは面白いな。その場の思いつきだったが闇術を模倣するのは悪くない発想だった。しかし、元素を操るというのはまだ慣れんな。中々に疲れる……こればかりに頼るというわけにもいかないか)

 

 私の放った闇の球の威力に怖気付いたのか、ヒルチャールたちはジリジリと近寄りながらも私を警戒している。このまま逃げてしまってもよいが、折角なので色々試させてもらおう。

 

「お次は……こんなのはどうかね」

 

 今度は小さな黒い元素の塊を幾つも作り出し、それをばら撒くように射出する。闇術『闇の飛沫』を模した技だ。射ち出した球が小さすぎたせいか、ヒルチャールたちを多少怯ませた程度に終わってしまうが、私はその隙が欲しかったのだ。

 私は先に吹き飛ばしたヒルチャールが落とした木の棍棒を拾い上げると、再度黒い元素の塊を生成しながら突進する。まず狙うのはクロスボウで武装したヒルチャールだ。

 

(粗雑だが、振り回すには十分。コレに小細工はいらない、力一杯ぶん殴るだけよ!)

 

『闇の球』で木盾を構えるヒルチャールを攻撃しつつ、クロスボウで武装したヒルチャールに詰め寄る。そして、私は全身全霊の力を込めて木の棍棒を振りかぶった。そんな私に気圧されて焦ったのか、ヒルチャールの放ったボルトは狙いが外れ、甲冑の胸甲に弾かれる。

 

「うおおおぉっ‼︎」

 

 雄叫び(ウォークライ)で自身を鼓舞しながら放った渾身の一撃。それは小柄な体躯が容易く宙に浮くほどの威力で、殴り飛ばされたヒルチャールは悲鳴をあげながら木の幹に激突して動かなくなった。

 そんな様を見せつけられて逆に吹っ切れたのか、今度は周りにいたヒルチャールたち全員が半狂乱に武器を振り回しながら突進してくる。

 

「────ッッ⁉︎」

 

「何言っているかは分からんが……そういう数の暴力で攻め立てられるのはあまり良い思い出がなくてね。少しは落ち着きたまえ」

 

 私は神の目に触れながら強く念じると、先までとは違って黒い元素を一点に固めるのではく、周囲に散布するように振り撒いていく。そして、散布された黒い元素はヒルチャールたちの身体にまとわり付くと、その重さで動きを極端に鈍らせた。

 闇術『約束された平和の歩み』、我ながら中々の再現度である。しかも黒い元素をしっかり操れば私には何の影響もない。勿論その分はより高精度な元素の操作を求められるが、対多数の戦闘ではかなり使えそうだ。

 

(さて、目に見えて鈍った獲物を痛ぶる趣味はないのでさっさと仕留めてしまおうか)

 

 ということで、私は何やら叫び声を上げて私に抗議するヒルチャールたち全員の脳天に、気絶するくらいの程よい力加減で木の棍棒を叩き込んでいく。

 ちなみにだが、私には『テイワットにいる間は他者の、あるいは他の生物のソウルを取り込む行為の一切を禁ずる』という誓約も課せられている。相手を殺してもソウルは奪えぬ、だからなるべく無駄な殺しはしないようにしているのだ。

 

(……しかし、此奴らから感じるこのソウルの気配はなんだ? ただの魔物ではないのか……)

 

 地面に倒れて伸びたままのヒルチャールから感じる妙に独特なソウルの気配に、私はえも言えぬ違和感が払拭できないでいた。火の時代でもこれと似たようなソウルを感じた事があるのだ。それを思い出そうとしているのだが、いくら記憶を掘り返しても出てこない。

 

「うーん、むーん……むっ?」

 

 私はふと視線を向けると、その先に不可思議なものがあるのが目に入る。それは、ヒルチャールが振り回していた松明だ。無論松明そのものはどこにでもあるようなものだが、その炎の色が違った。昨日に私が神の目を手にした時のような、真っ黒な炎だったのだ。

 私はその黒炎に触れようと手を伸ばす──が、その瞬間に私のすぐ横の藪から何か大きなものが飛び出してきた。そして、気づいた時には私の眼前に巨大なひび割れた大斧が迫っていた。

 私はぎりぎりのところでのけ反って回避し、横に転がりながら体勢を立て直す。顔を上げれば、そこには先まで戦っていた奴らとは比べ物にならないほど大柄なヒルチャールがいた。

 

「フゥゥ……っ!」

 

「これは……また随分と荒々しいな」

 

 大斧を構えて突進してくる『ヒルチャール暴徒』、あの大斧をまともに喰らえば一撃でお陀仏といったところだろう。先の不意打ちにこそ冷や汗を流したが、面と向かってなら怖くはない。

 黒騎士やデーモンどもの方がずっと大斧の扱いが上手かった。比べるのが酷かもしれんが、大きな得物こそ力任せに振り回すだけでは事足りぬのだ。

 

「グオオォッッ‼︎」

 

「動きも鈍く、大ぶりで単調。そういう攻撃は……っ!」

 

 ヒルチャール暴徒が真っ直ぐに私に向けて大斧を振り下ろす。私は木の棍棒を投げ捨てて、代わりに足元に落ちていたヒルチャールの木盾を拾い上げると、その盾で振り下ろされる大斧の側面を叩いて弾いた。

 大斧の軌道は真横にそれ、ヒルチャール暴徒は私の前で致命的な隙をさらす。私は隙だらけのヒルチャール暴徒に向けて右手をかざすと──掌に灯る黒い種火が閃いた。

 

「黒炎といえば人間性の炎。ただ焼き尽くすだけでなく、相手の魂まで侵す闇の力を帯びている。これも同じかは知らんが……多少の苦痛は我慢してくれ」

 

 小さな種火が黒く燃え盛る業火となり、ヒルチャール暴徒の身体を包み込む。私の想像通り、ヒルチャール暴徒は炎の熱に苦しんでいるというよりは、もっと別の何かに蝕まれているように咆哮をあげながら悶えていた。

 暫くは火の粉が爆ぜる音とヒルチャール暴徒の叫び声が響き渡っていたが、次第にそれもおさまって静かになる。後に残ったのは、黒く燻んだまま動かなくなったヒルチャール暴徒と、あたりに霧散する黒い元素の粒子だけだった。

 

(なるほど、これが『元素反応』というやつか。松明の炎と黒い元素が反応し、あのような黒炎へと変じたのだな。ただ、元素反応によって生まれた黒炎は長時間維持できるものではないようだ。一時的な変化、しかし、これは非常に興味深い特性だ。他の元素と反応した時にどうなるかが気になるな)

 

 神の目を持つ戦士は元素の力を己がものとして振るう。つまり、元素一つ一つの特性と、それが結びついた時に起こる『元素反応』について熟知する事が戦局を大きく左右する鍵になるのだ。

 とはいえ、基本的に戦闘でものをいうのは個人の武力。ヒルチャールどもの木の棍棒では心許ない、なんとかしてまともな武器を手に入れたいものだ。

 

(取り敢えずはこのヒルチャール暴徒の大斧でも借り受けるとするか……)

 

 私は黒焦げのヒルチャール暴徒の横に転がる大斧を拾い上げ、軽く振り回してみる。何度か戦闘で用いたら壊れてしまいそうな雑な作りだが、やはり無いよりはマシというものだ。

 ちなみにだが、黒焦げのヒルチャール暴徒はまだ息をしていた。先に吹っ飛ばしたヒルチャールども皆呻き声をあげてはいるが生きている。此奴らは見かけによらず中々にタフのようだ。

 私はそんなヒルチャールたちを尻目に大斧を担ぐと、再びモンド城へ向けて歩き始める。しかし、その一歩を踏み出したところで、私の脳裏にようやくある記憶が蘇る。

 

「……あっ、そうだ。思い出したぞ。ヒルチャールどもと同じようなソウルの気配、それを感じたのは……ウーラシールだ」

 

 ウーラシールは火の時代の長い歴史の中でもかなり古い国であり、ある災厄によって滅びた呪われた名でもある。地の底から吹き出た深淵に呑まれ、市民は一様に悍ましい怪物と化し、災厄を止めるために立ち向かった英雄も同じように闇に沈んだ──そんな悲劇の末路を辿った国である。

 私は色々な要因が重なって過去の時代に飛ばされ、災厄によって滅びた直後のウーラシールへと赴いたことがある。その時に怪物と化したウーラシールの市民と相対しているのだが、それがこのヒルチャールどもとよく似ているのだ。

 

(もしやこのヒルチャールどもも、元は人間だったり、ということはないだろうか? 殺してソウルを奪えば何か解るかもしれんが……)

 

 そんな物騒な考えがよぎるが、その考えを頭をふって他所へ追いやる。ヒルチャールの謎など、ウェンティとの誓約を破ってまで確かめることではない。少なくとも今は、だが。

 まあ、この世界にはそれ以外にも謎で満ち溢れている。色々と調べて回りたいところだが、まずは我が主と合流する事が先決だ。モンド城はそう遠くない、旅を急ぐとしようじゃないか。

 

 

 




AC6、全ミッションクリアしました!
十年新作を待ち続けた情熱を燃やし尽くしたぜ……
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