ヒルチャールが振り回す棍棒。太い木の枝から切り出して作ったもの。
見かけによらず頑丈な造りであり、力任せに叩きつける戦い方に向いている。
武器とはある種の智慧の体現である。つまり、彼らが人と違わぬ知性を持つことの証明に他ならない。
「おーい、空! 何ぼんやりしてんだよ! 早く行こうぜ」
「うーん……」
風立ちの地からさらに西に位置するシードル湖。そこに浮かぶように聳え立つ自由の国の大都市『モンド城』。その大きな城門の前で、眠たそうに目を擦る金髪の少年と、その周りをふわふわと飛び回る妖精……のような何かがいた。
少年の名は空、このテイワットの外の世界から現れた旅人であり、とある目的のためにテイワットを旅していた。そして、彼の横にいるのはパイモン、空のガイド役兼非常食である。
「なあ、そんなに難しい顔をしてどうしたんだよ」
「いや、何でもない。それよりも冒険者協会で受けた依頼を片付けに行こう。
彼は次の旅路をモンドの隣国、岩神が治める国『璃月』に定めていた。それなりに道のりも長いため、それに備えて懐にを暖めている最中なのだ。
そんな彼が請け負っている仕事は、冒険者協会から斡旋されたものである。テイワットの七国全てに跨って運営される冒険者協会には日夜様々な依頼が持ち込まれ、それら全てが大陸中を駆け回る冒険者たちによって解決されているのだ。
当然、空も冒険者の認可を所持しており、毎日のように依頼をこなしている。彼が今日引き受けた依頼は、星落としの湖の近くを根城にする宝盗団の撃退、というものだった。
「じゃあ早く行こうぜ! お昼は『鹿狩り』で買った漁師トーストだったよな。へへっ……!」
(もうお昼ご飯の話をしてる……)
相変わらずの食いしん坊っぷりを見せるパイモンに肩をすくめながら、空はモンド城の北東に位置する星落ちの谷、そこにある『星落ちの湖』を目指して歩き出す。
「そういえば、もう少ししたらモンド城で『
「うん。会う人皆んなが楽しみにしてるくらいだから、きっと賑やかなイベントなんだろうね。璃月に旅立つ前にしっかりと楽しんでおかないと」
「オイラも楽しみだぜ! 美味しいご飯もいっぱい食べられるに違いないし……その為にもモラはしっかり稼いでおかないとな!」
「パイモンの分は自分で払ってよ」
「え、えぇ……⁉︎そんなぁ……ぐぬぬ、こっそり貯めてるへそくりじゃ夕暮れの実を三個も買えないぞ……」
近々開催されるモンドの祭り『風花祭』の話題で盛り上がりながら、慣れた足取りで星落ちの谷の手前まで進む空たち。先日までモンドを騒がせていた龍災の一件でモンド中を駆け回った空にとって、ここいら一帯は冒険済みの見慣れた場所なのだ。
なお、空は龍災の一件で元素龍トワリンの暴走を鎮め、ファデュイの陰謀に立ち向かうと方々で大活躍し、その功績を讃えて西風騎士団から栄誉騎士と呼ばれている。
「あっという間に着いたな。それで、宝盗団の奴らはこの辺りに潜んでいるのか?」
「依頼を受けた時はこの先にある星落ちの湖の……その近くにある廃教会を根城にしてるって聞いたね」
「ま、宝盗団ぐらいならお前の相手じゃないよな。さっさとやっつけちゃおうぜ」
「パイモンは戦わないでしょ……」
「オイラはちゃんとお前の応援をしてるだろ!」
「応援はいいから、先回りして宝盗団の根城を探してきてくれない?」
「は、廃教会を根城にしてるんだろ? オイラ嫌だぞ、幽霊とか出そうじゃんか〜……あ、おい! 置いていくなよ〜!」
勝手な想像で怯えるパイモンをよそに、空は星落ちの湖の湖畔に向かう。ここは左右を高い丘と崖に挟まれて窪地になっていて、星落ちの湖は流出する川がない内陸湖である。それほど大きな湖ではないが、真ん中に風神を祀る七天神像が建てられているのが特徴である。
空は湖畔に立って周りに気になるものは何もないのを確認すると、湖の北にある森の方へ足を向ける。そこから先には『望風山地』のたもとである切り立った崖が聳えているが、件の廃教会はその崖沿いにあるのだ。
「は、廃教会ってあれか? 本当に幽霊とかいないよな……?」
「いたとしても、今は昼間だからきっと──待って、パイモン。何か様子が変だ」
「うぇ⁉︎まさか……で、出たのか⁉︎」
「パイモン、静かにして……」
岩肌が剥き出しになった崖に沿うように建てられた廃教会、空は近くの大きな木の幹に身を隠しながら、廃教会の様子を探る。すると、空の視界に傷つき倒れた宝盗団たちの姿が飛び込んできた。
空は『無鋒の剣』を取り出し、周囲を警戒しながら廃教会へと近づくと、倒れている宝盗団たちの容体を確認してまわる。その後ろをパイモンがびくつきながら付いて行く。
「……全員気絶してる。俺以外の誰かが先に来たみたいだ」
「でも、キャサリンはオイラたち以外の冒険者もこの依頼を受けてるなんて言ってなかったろ?」
「うん。ということは、冒険者以外の誰かがこれを……」
西風騎士団、はありえない。彼らなら気絶した宝盗団をそのまま放置したりしない、必ず対抗できないように拘束しておくはずだからだ。
加えて辺りに漂う元素力の残滓は、それは七つの元素のどれにも当てはまらないが、空には初めて感じるものではなかった。つい最近、空は同じような気配を感じたことがあるのだ。
しかし、その気配の正体に気づくのにそう時間はかからなかった。何故なら──
「ほう、これは何と僥倖なことか。まさかこんな所で、これほどあっさりと貴公と相見えるとはな」
「……っ‼︎」
空とパイモンの後ろから響く、男とも女ともつかない、若人なのか老人なのかも判断つかない不可思議な声。空がゆっくりと後ろを振り返ると──先日の秘境にて二人の前に突如現れたあの騎士が、空をじっと見下ろしていた。
「な……っ⁉︎」
「え、えぇ……⁉︎」
空とパイモンは驚きのあまり、口を開きっぱなしにしていた。何故なら、二人は目の前でこの騎士が遺跡守衛によって頭を砕かれた様を目撃しているからだ。つまり、二人にとってこの騎士は死んだはずの存在。パイモンが恐れていた
「「で……出たぁ──っ⁉︎」」
仕事の時間だ、621
朝の目覚ましをこのボイスにしたい