かつて火の時代に存在した国『フォローザ』の獅子騎士団の騎士たちが身に纏った鎧。その名は彼らが信奉する戦神ファーナムに由来する。
テイワットではやや古めかしい意匠と捉えられるらしい。故に大人からは奇異の視線を、子供からは羨望の眼差しを向けられる。
「では、あとは我々が引き継ぎます。依頼達成、ご苦労様でした。キャサリンから忘れず報酬を受け取ってくださいね」
「お、おう……」
「……じゃあ、その人たちはお願い」
西風騎士団の騎士に縄で縛られた宝盗団のメンバーがすごすごと連れて行かれるのを見送りながら、肩をすくめてため息をつく空とパイモン。宝盗団の撃退という依頼を達成し報酬を手に入れられるというのに、あまり喜んでいる様は見られない。
「……で、どうするんだよ、空。アイツ、本当に得体が知れないぞ。吟遊野郎とはすでに話がついてるとか何とか言ってたけど、実はアビス教団の魔物かなんかじゃないのか?」
「あの首に下げた黒い神の目も明らかに怪しいしね……けど、ただの悪い人って感じもしないというか……」
二人がこそこそと内緒話をしながらチラリと視線向けた先には、嬉々として宝盗団から奪った鉄槍を振り回す件の人物──不死の騎士がいた。
ここからすぐそばにある廃教会を根城にしているという宝盗団の撃退、その依頼を請け負って星落ちの谷までやってきた空とパイモン。そんな二人を出迎えたのは、一足先に宝盗団たちをのしてしまった不死の騎士だったのだ。
本来なら風立ちの地から真っ直ぐにモンド城へ向かっていた不死の騎士だが、曰くヒルチャール共に追いかけ回されて迷った末に星落ちの谷に迷い込んだのだという。
「ここで出会ったのもただの偶然、なんだろうか」
「偶然っていうか、死んだはずの人間がまた現れるなんて本当にあり得ないだろ。オイラ、幽霊が出たかと思ったぜ……」
目の前で遺跡守衛に殺されたはずの不死の騎士が現れたことに、二人は大混乱だった。幸いにも今回は不死の騎士もテイワットの言語で話すことができたので、なんとか落ち着きを取り戻して今に至る。
「とりあえず、もう一度アイツの話を聞いてみるか?」
「うん、そうだね。お昼はその後にしよう」
「……じゃ、じゃあなるべく早めに終わらせようぜ……おーい、そこの怪しい甲冑野郎!」
甲冑野郎などと失礼な呼ばれ方をした不死の騎士は、槍を振り回していた手を止めて二人の方へ振り向く。小柄な空やパイモンを上から見下ろす不死の騎士は、まるで山のように巨大なのではと錯覚させる威圧感がある。それに思わず固唾を飲みながらも、パイモンが精一杯虚勢を張りながら話を切り出した。
「おいお前! もう一度聞くけど、お前は本当に異世界から来たのか? アビス教団とかファデュイみたいな悪い奴らの仲間ってことを隠したりしてないよな? というか不死身っていうのも本当のことか⁉︎」
「ふむ……貴公、名はパイモンだったか」
「な、なんだよ……もしかして、オイラが変な渾名を付けたからお返しをするつもりか⁉︎」
「そんな事はしない。ただ一つ質問をさせてもらおう……パイモン、このテイワットでは私のように死なない人間は一般的な存在なのかね?」
「……いやいや、そんなワケないだろ!」
「では、そういうことだ。私はこの世界ではあり得ない異物ということだ。そして、この世界に来たのはつい先日、アビス教団やファデュイなどという組織など知らぬのが道理だろう。まあ、風神から多少は話を聞いてるが……それに、貴公らは私が死ぬ様を目にしたろう?」
「えっ? あぁ、確かに目の前で潰されてたけど……」
「しかし、私は今ここにいる、私が不死である何よりの証拠ではないかね。それでも信じられぬというのなら、もう一度実証してみせようか?」
「「やらなくていいっ‼︎」」
不死であることを証明する、そう言って槍の穂先を自分の首元へ向けようとする不死の騎士を、空とパイモンがぴしゃりと制止する。その二人が慌てふためく様に、不死の騎士は冗談だと言ってからからと笑うのだった。
それから不死の騎士は自分が『火の時代』と呼ばれる世界から来たこと、空が触れたサインからこのテイワットに召喚されたこと、それらの事情をこれまでの足跡と併せて簡単に説明していく。無論、空もパイモンも内容を飲み込めずに首を傾げてばかりだったが。
「うぅ……ダメだ、オイラは今の話の半分も理解できなかったぞ……」
「俺も全部理解できたわけじゃないけど……あの時、俺はサインに触れる前に錆びた螺旋剣にも触れた。そこから頭に流れ込んできたイメージ、きっとあれは君が生きる世界の情景だった。だから君が異世界から現れた不死人、というのは理解できる」
「なに? 錆びた螺旋剣だと?」
「あ、螺旋剣は君が遺跡守衛に潰されるのに巻き込まれて粉々に砕かれちゃったよ」
「そうか……もしや私より以前に現れた不死が作った篝火か? うぅむ……」
空が触れたという錆びた螺旋剣に思うところがあったのか、不死の騎士はしばらく無言で考え込む。しかし、悩んでも結論には至らなかったのか、手を叩きながら話題を戻す。
「まあ良い。つまるところだな、私は貴公がサインに触れたことで召喚された協力者であり、貴公は私にとっての『
そう言って不死の騎士は王に忠誠を誓うかのように仰々しく大袈裟に、空の前で跪き、首を垂れた。それを空とパイモンは少し怪訝そうな表情で見つめるのだった。
「貴公、我が主よ。貴公にはこのテイワットで果たすべき目的があるのだろう。それが何かは知らぬ、だが……私はその為に貴公の手足となり、盾となり、剣となり、全身全霊で貴公の力になると誓う」
「えぇ……」
「なに、気遣いは不要だ。捨て駒の如く使い潰すといい」
「あ、うん。君は不死身だもんね──ってそうじゃなくて……」
自分の前で跪く不死の騎士にバツが悪そうに頬をかく空。何か言いあぐねているようだったが、意を決してその言葉を口にする。
「えっと、君は僕の協力者として旅の仲間に加わりたいってことだよね?」
「うむ。そうだ」
「じゃあ、お断りします」
「うむ、そう──何ぃ⁉︎」
「旅の仲間なら、もう俺にはパイモンがいるからね」
「……っ⁉︎お、お前……そんなにもオイラのことを……‼︎」
はっきりと同行を拒否する空に愕然となる不死の騎士と、対照的に仲間として認められていることに嬉し涙を流すパイモン。まさか断られるとは思ってなかったのか、不死の騎士は何とか聞き入れてもらおうと食い下がる。
「な、何故だ⁉︎このテイワットは危険と脅威に満ちている、一人でも旅の仲間がいた方が心強いというものではないか⁉︎」
「それはそうだけど……俺はこのテイワットで、ある人を探しているんだ。俺に必要なのは旅の仲間じゃなくてその人の情報、でもモンドでは殆ど手がかりは得られなかった。だから次は璃月に行こうと思ってるんだ」
「それを案内するのがオイラってわけだ!」
「し、しかしだな……」
「俺も剣の腕には自信があるし、元素力だって扱える。道中の自分の身は自分で守れるよ。どちらかというと、全く見知らぬ君と一緒に旅をする方が不安かも……」
「そうだっ! お前みたいな怪しい奴と一緒じゃ、ご飯を食べる時も落ち着かないぜ!」
「そんな……」
二人に同行を拒否され、がっくりと項垂れる不死の騎士。しかし、しばらくそのまま固まっていた不死の騎士だったが、何か思いついたのか力強く立ち上がる。
「貴公の言う通り、今の私には貴公の探し人の情報など何もない。そういう意味では私は貴公の役に立たないだろう……だが! 何かを探し求めるという行為は私の得意分野、それを証明してみせようっ‼︎」
「……な、何をするつもり?」
「いいか、ここに屯していた宝盗団どもはそこの廃教会を根城にしていたわけではない。ここに隠されているという財宝を探しに来たと言っていた。何やら内部には物騒な罠が仕掛けられているらしく、外で手招いていたということだ」
「財宝っ⁉︎もしかして、袋いっぱいのモラとか⁉︎」
「かもしれぬな。気になるだろう、パイモン」
「へ、へへっ……そりゃモラが沢山あればご馳走も沢山食べられるからな!」
「それはまあ、お金があって困ることはないけど……もしかして、その財宝を探しにあの廃教会に入るつもり?」
「そうだ。如何なる罠が待ち受けていようと、私なら必ず切り抜けられる。ここで楽しみに待っているといい!」
意気揚々と駆け出し、廃教会の扉を押し開けてその中へと突入していく不死の騎士。空は何も財宝を見つけたからと言って仲間に加えるとは一言も言っていない、それなのに勝手に突っ走って行く様にはため息しか出ないようだった。
「うーん、確かに悪い奴ではないんだろうけど……結局は何がしたいのかよく分かんないな。でも、本当に沢山のモラを持ち帰ってきたらどうする?」
「そうだね……モラをくれるなら貰っちゃうけど、やっぱり一緒に旅するのはやめた方がいいんじゃないかな」
「だよな。だってアイツ、怪し過ぎるんだもんな。きっと一緒にいたら、肝心な場面で『騙して悪いが……』とか言い出すに違いないぜ!」
「……彼の生きた世界では、そういうのも日常茶飯事だったのかもね。俺が見たイメージでは──」
廃教会の外で話し込んでいた空とパイモン、その二人の会話を遮るように──突如としてドンッ! と巨大な爆音が鳴り響いた。次いで廃教会の扉が黒い粉煙と共に弾け飛び、二人は思わず空気が抜けるような悲鳴をあげた。
そして、目の前でもくもくと黒煙を吐き出す廃教会に、二人は呆然としたまま目を見開いていた。二人とも何が起きたのか理解できず、ただ立ちすくむことしかできなかったのだ。
しかし、その場には一人だけ、この状況を理解できている者がいた。正確には、廃教会で何が爆発したかを、だが……
「あぁ──っ⁉︎そ、そんな……クレーの秘密基地がーっ⁉︎」
空とパイモンの後ろから聞こえてくる可愛らしい叫び声。二人が振り向いて声の主を視界に収めると、何やら納得したように肩をすくめる。
そこにいたのは、比較的小柄な空の胸の高さほどもない小さな少女だった。紅と白で彩られた子供服と彼女の大好きなボンボン爆弾が詰められた革のリュック、同じく紅い帽子からはみ出る淡いブロンドヘアーと尖った耳。彼女の名はクレー、西風騎士団の花火騎士であり、モンドにおける指折りのトラブルメーカーである。
そして、あの廃教会を冒険で集めた自分のお宝を隠す秘密基地にし、お宝を守るために爆弾の罠を仕掛けた張本人でもあった。
まだ暫くはAC6でコーラル漬け……
その間にエルデンリングのDLCを出してもいいのよ?