原神の探究者 〜伝説任務 渡鴉の章〜   作:刀の切れ味

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⚪︎戦闘天賦『闇の球』
闇元素の球体を撃ち出し、敵に闇元素ダメージを与える。更に、命中した敵に『侵食』を付与する。

とある闇術を模倣した業。重たい闇元素をぶつけるだけの単純な攻撃だが、半端な盾なら容易く砕く威力を持つ。


第一幕 小さな太陽の瞬き①

 

「──、──い! 甲冑野郎〜! 無事かー⁉︎」

 

 甲冑野郎、私をそう呼ぶのはパイモンだろうか。何処からか私を呼んでいるようだが、頭にぼんやりと霧がかかっているようで意識がはっきりとしない。

 私はしばらく混濁としたままだったが、不意に私の視界が眩しい光に染まる。しかし、その光が松明の明かりであること、そして私は瓦礫の山に埋まっており、誰かがその瓦礫をどかしてくれたと気付くのにそう時間はかからなかった。

 

「う……うーむ……」

 

「あっ、動いた! よかった、無事だったんだな」

 

「わぁ……凄い! 絵本に出てくる騎士みたいでカッコいい!」

 

 残った瓦礫をどかし、やっとの思いで顔を上げた私の視界に飛び込んできたのは、好奇心に目を輝かせる見知らぬ紅い少女だった。その後ろでは空とパイモンが心配しているのか呆れているのか、実に微妙な表情をしていた。

 鎧とサーコートの土埃を払いながら立ち上がり、私はぐるりと辺りを見回す。周りは何かが爆発したように地面が抉れ、壁や天井もボロボロに壊れている。ここは件の廃教会の中だ、それは分かるのだが──一体何が起きたのだ? そしてこの少女は何者だ? 次々に疑問が湧いて出てくる、誰かにこの状況を説明してほしい。

 

「お前、何が起きたのか覚えてないのか?」

 

「ぬぅ……貴公らのために宝を探してこの廃教会に踏み入ったことは覚えているのだが……」

 

「……君がこの廃教会に入って行ったすぐ後に、凄い大爆発が起きたんだよ。多分、君はそれに巻き込まれたんだろうね」

 

「爆発……うっ、確かに私のすぐ目の前で何かが炸裂し、四肢がもがれるほどの衝撃に貫かれたような……」

 

 爆発という言葉で私が廃教会に踏み入った時の記憶が蘇る。あの時、私は何かの罠を作動させてしまったようなのだ。その結果、仕掛けられていた爆弾か何かが起動し──私はその爆発で死んだのだろう。空たちに瓦礫をどかしてもらっている内にまた蘇ったのだ。

 

「なんと恐ろしい罠か……一体誰がこんな……」

 

「えっと、その……爆弾を仕掛けたのはね、クレーなの……」

 

「……なにっ?」

 

 目の前で俯きながら罠を仕掛けた張本人だと自白する紅い少女ことクレーに、私は思わず声が上ずる。

 だが、驚くのは至極当然の反応だろう。このような幼い少女が私を一撃で仕留める威力の爆弾を仕掛けたと宣うのだぞ、耳を疑わずにいられるものか。

 

「ここはクレーの秘密基地なの。クレーはいつもここでボンボン爆弾を作ったり、冒険で手に入れたお宝を隠したりしてるんだ。でも最近ね、悪い大人の人がクレーのお宝を横取りしようとしてて……」

 

「こ、子供の戦利品を値打ちものと勘違いしてたのか、宝盗団の連中は……どうしようもない奴らだぜ、まったく」

 

「それでね、アンバーお姉ちゃんに教えてもらってドッキリトラップを仕掛けたの」

 

「ドッキリトラップ?」

 

「アンバーお姉ちゃんが本物の爆弾だと怪我させちゃうから、ドカーンッて大きな音と、ビカッて眩しい光で驚かせるだけしなさい、って言ったんだ。だからクレー、そのために新しい爆弾を作ったんだけど……」

 

「驚かせるだけ、ね……」

 

 周りの惨状に目を向け、私と空は顔を引き攣らせる。どう考えても驚かせるだけの威力ではない、と私が無言でじっと睨むと、クレーはすっかり困り顔で小さくなってしまう。

 

「え、えへへ……仕掛ける爆弾を間違えちゃったみたい……」

 

「……」

 

「うぅ……ご、ごめんなさいぃ……」

 

 もしもこの罠にかかったのが私ではなく宝盗団だったのなら、どれだけ悲惨な場になったかは想像に難くない。むしろ、私であって良かったと言うべきか。事故でもこのような幼子が人を手にかけるなど、あってはならない。

 まあ私は一度死んだが、本当に死んだわけではないのでノーカウントだろう。そう、ノーカウントだ。

 

「私の心配は無用だ。見ての通りぴんぴんしている。ただ、次はもう少し優しい爆弾を仕掛けるんだぞ」

 

「……うん!」

 

 落ち込むクレーの頭を軽く撫でて励ましてやると、クレーは元気を取り戻したのか笑顔で頷く。その無垢な笑顔に私も少し頬が緩む、しかし私は──どうにも落胆の気持ちの方が大きかった。

 この廃教会に空とパイモンを満足させられるような宝はない。これでは二人に旅の同行を認めてもらうのは難しいだろう。かといって、他に宝が眠る秘境の在処を知っているわけでもない。

 

(はぁ、これは無駄死にの八方塞がりだなぁ……)

 

 何とか二人の信頼を得る方法はないか、そう思案してみるも良い考えは浮かばない。兜の下で渋い顔をしながら、私はクレーに連れられて廃教会を後にするのだった。

 

 

 ──

 

 

「……大丈夫? やっぱりクレーの爆弾で何処か怪我させちゃった?」

 

「いや、そういうわけでは……」

 

「安心して、ちゃんとこんな時のためにアルベドお兄ちゃん特製のお薬を持ってるんだ。火傷によく効くんだって! おじちゃんが怪我したところに……おじちゃん?」

 

「え、ああ……確かに私は長生きして歳は食ってるが……」

 

 黒煙を吐き出す廃教会の外に出て、服に付いた煤を払い落としていた面々。その内のクレーが、どんよりとしている私を見て、心配そうに声をかけてくる。

 しかし、私の名が分からず呼び方に困っていたクレーは、頭にハテナを浮かべて首を傾げていた。彼女が助けを求めるように空とパイモンに視線を向けるが、二人も何も知らないと首を横に振る。

 確かに私は自分の名を告げてなかったが、そもそも名乗る名はないのだから困ったものだ。それにしても、私の声はそんなにも性別が分かりにくいのだろうか。

 

「すまないが、私は自分の名前を忘れてしまったんだ。だから好きに呼ぶといい。私の素顔を見れば男から女かくらいはすぐ分かるだろう」

 

 そう言って私は兜を持ち上げて素顔を晒す。思えばいつも兜を被りっぱなしなものだから、こうやって素顔を見せるのは随分と久しいことだ。まあ、しわしわの亡者というわけではないのだから恥ずかしいことなどない──が、何故か私の素顔を見た三人はなんとも言えない表情をしていた。

 

「……どうした、私の顔がそんなにも物珍しいか?」

 

「んー……吟遊野郎のこともあるし、オイラは男だとも思うな」

 

「俺は女性だと思う」

 

「えーっと……ううん、クレーはよく分かんないよ……」

 

「ちょっと待て、性別の判断だけで何故そんなにも迷うのだ」

 

「お前、自分の顔を見てもそんなこと言えるのかよ!」

 

 そう言ってパイモンは私を星落ちの湖まで連れて行くと、湖面に映る自分の姿を確かめて来いと言う。私は素直に従って湖を覗き込み、幾年ぶりに自分の姿を目にした。そして私は、ポツリと一言呟いた……

 

「……こんな顔だったかなぁ、私は……」

 

 湖の水面には、彼らが悩むのも頷ける特徴のない顔が映っていた。男か女かも定かではない、絶妙に中性的な顔立ち。それが今の私の素顔のようだ。しかし、どうにも他人の顔のように見えて仕方ない。

 

(……ん? 他人の顔、か……ああ、そうか。そういえば私は幾度か『生まれ変わり』なるものを体験していたな)

 

 初めは確か、ドラングレイグにあった奇妙な石棺だ。興味本位で石棺の中に横たわっていたら、気づいた時には性別が逆転していたのだ。あれは本当に目が飛び出るかと思った。加えて、『深みの聖堂』で出会った生まれ変わりの母と呼ばれる彼女によって、三度ほど同じような事象を体験している。

 

(不死の呪いと長い時を生きたことによる摩耗、数多に取り込んだソウルと記憶の混同……そして、気づけば容姿すらも変わり果ててしまっていたと。改めても考えると、かつての『私』という存在は何も残っていないようなものだな……)

 

 まず間違いなく、今の容姿は私の生まれついての姿ではない。では、元来の私は男だったのか、女だったのか、そして今の私は果たしてどちらなのか──正直な話、私にはどうでもいいことだ。

 どうせ私は人どころか因果の枠組みにすら当てはまらない。男でも女でも同じこと、どちらでもいいじゃないか。そんなことを考えながら、私は空たちの元に戻る。

 

「パイモンの言うとおり、確かに私はどっちつかずの分かりにくい面をしていたな」

 

「な、そうだろ?」

 

「ああ。しかし、私にはそれほど重要な問題ではない。名前ならかつて呼ばれたあだ名を教えてもいいが……ま、好きなように呼んでくれてかまわない」

 

「……いや、結局お前は男なのか女なのか、ハッキリしないのかよ⁉︎」

 

「まあまあ。とりあえず、私はかなりのジジイということは間違いない。それは確かだ」

 

「へん、それだけ分かっても仕方ないだろ! お前なんか甲冑野郎で十分だ!」

 

「かっちゅーやろー? うーん……じゃあクレーもそう呼ぶね! かっちゅーやろーのお爺ちゃん!」

 

 屈託のない笑みを浮かべながら、パイモンの付けたあだ名で私を呼ぶクレー。甲冑野郎のお爺ちゃんか、間違ってはいないのだがなぁ。

 

「……そういえば、お爺ちゃんはどうしてクレーの秘密基地にやってきたの? もしかして……クレーのお宝が欲しかったの? それに空お兄ちゃんとはお友達なの?」

 

「うぅむ、それはな……」

 

 クレーにそう問われるも、何と答えるべきか迷ってしまう。廃教会に入った理由はともかく、私の素性はそう簡単に明かせるものではない。空とパイモンは例外として、それ以外の人に『火の時代』の事を話すのは風神との誓約に反するからだ。

 どう答えるべきか、と私は眉間に皺を寄せて少しの間考え込む。そして、少々忍びないが私は少しの虚実を混ぜてクレーに事情を話した。

 

「実はな、私はとある秘境で気を失って倒れていた所を、空とパイモンに助けられたのだよ。その恩を返すために二人の旅に同行し、色々と手伝いをしようと思ったのだが……」

 

「ふんふん、なるほど〜……」

 

「まあ、二人からは断られてしまってね。それでも役に立つ事を証明するために、私は宝探しの一つでもこなして見せようとあの廃教会に立ち入ったのだが……そこで君の罠に引っかかったというわけだ。だがこれでは、私は無様に爆弾で吹き飛ばされただけの役立たずだな……」

 

「うーん……ねえ、空お兄ちゃん、どうしてお爺ちゃんを仲間にしてあげないの? お爺ちゃんが可哀想だよ!」

 

 クレーは頬を膨らませながら、何故と空に問う。私を庇ってくれるのはありがたいが、それでも空とパイモンは私の同行を許しはしないだろう。

 

「俺の旅はクレーの考えている以上に過酷なんだ。彼を連れて行くと、彼を危険に晒すことになる。だから仲間に加えることはできないんだ」

 

「そうそう、空のガイドはオイラだけで十分なんだからな!」

 

「……だそうだ。やはり私の手間は必要ないらしい。すまないね、彼らに認めてもらおうと早とちりした結果、君の秘密基地を無茶苦茶にしてしまった」

 

「ううん、あれはクレーが仕掛ける爆弾を間違えちゃったせいだから、気にしないで。また今度、もっと素敵な秘密基地に改造しちゃうから!……それよりもお爺ちゃんはこれからどうするの?」

 

「そうだなあ……彼らに同行する以外は特に明確な目的もないのだが……」

 

 いつもなら召喚した主に不要と言われれば、さっさと元の世界に帰還するところだ。しかし、今回はそうもいかない。私はこのテイワットを知り尽くすまで帰るつもりはない。かといって何処かに行くあてがあるわけでもないのだがな。

 そうやって私が腕を組んで悩んでいると、クレーも同じように顎に手をやって何か考え出す。そして、何か名案が思いついたのか元気よく私を呼んだ。

 

「甲冑野郎のお爺ちゃん! クレーがいい事思いついたよ!」

 

「む、いい事とな?」

 

「お爺ちゃんはモンドの人じゃなくて、お外の国から来たんでしょ? お爺ちゃんみたいな鎧を着た人なんて、モンドでは見たことないもん」

 

「……そうだな。私はこのモンドからずっと遠く離れた所から来たのだ」

 

「本当は空のお兄ちゃんたちと一緒に冒険したかったのかもだけど……代わりにクレーと一緒に冒険しようよ! お外の国のことはよく分かんないけど、モンドならクレーが色んなところに連れて行ってあげるよ!」

 

「ほう、それは何とも魅力的な提案だな」

 

「そうでしょ? クレーは楽しい遊びを沢山知ってるんだよ。ほら、昨日もシードル湖をこのボンボン爆弾でドカーン! ってしてたんだよ」

 

 そう言ってクレーは、背中の鞄から何やら可愛らしいまんまるとしたものを取り出す。それを両手いっぱいに抱えて私に見せるのだが、私は思わず頬を引き攣らせてしまう。ボンボン爆弾というぐらいだからやはり爆弾なのだろう。何と恐ろしいことか……

 ただ、そんな物騒な爆弾とは裏腹に、クレーは小さな太陽のように明るい笑顔を浮かべていた。いや、私には太陽よりも遥かに眩しく映って見えた。空やパイモンとも違う、その内に力強い光を秘めているように見えたのだ。

 




⚪︎今回の死因
クレーが間違えて仕掛けた特製ボンボン爆弾の罠にかかり、あえなく爆死。
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