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ヒューマンの女性冒険者 ポテコ
「「「のぎゃああああああああああああぁぁぁ‼」」」
私は、私たちは乙女が決して出してはいけない奇声を発しながら迷宮を駆ける。
私たちのすぐ後ろには火を吐く犬ことヘルハンドが6匹追いかけてきてる。
中古で買ったサラマンダーウールは各人2回ほどヘルハウンドの火炎を防いであっけなく煤となり消えた。
「だーかーらーっ!中古はっ!止めようって!言ったじゃん!」
右隣を走る猫人のネネネがいまさらどうしようもないことで逆切れを私にかましてきた。
「それ言う⁉いま言う⁉ネネネだってめっちゃ食ったでしょ‼ケーキおいしいおいしい言いながらむさぼり食ったでしょ‼」
私怒りの反論。
あんた店員引くぐらい食ってたじゃんよ!
「黙って走って‼そんな場合じゃないでしょ今は‼」
左隣で走るエルフのサラリアが迫真の表情で私たちを叱る。
めっちゃ怖い顔で全力疾走してるエルフて。
無駄にいいフォームで。
危険な状況なのは理解してるんだけど、ぷりぷり怒りながら爆走してるサラリアに私もネネネもちょっと笑ってしまった。
そう、私たちは頑張ってお金を貯めた。貯めたのだ。
階層更新するために。アンリゾ処女を捨てるために。新品のサラマンダーウールを3人分買うために。
先日。目標金額を達成し、意気揚々とご機嫌に。
私たちはサラマンダーウールを買いに出かけた。
が、せっかくの休日。目的の物を買う前にちょっと色々ウィンドウショッピングでもしていこうか?なんて考えたのが間違いだった。
オラリオが誇る超高級ケーキ店。
上級冒険者でもちょっと尻込みしてしまうような価格帯のお店。
ロキ・ファミリアとかフレイヤ・ファミリアくらい稼いでないと行けなくないこの値段?って感じ。いやどれくらい稼いでるとか知らないけどさ。
あとはまあ、商業系とかの裕福な神様達とかかな。とにかくお金持ち御用達の店の前で私たちは立ち止った。
店の前にある看板に「期間限定。ケーキバイキング開催中」と書いてあったからだ。
いやもうね、引くくらい、いいお値段が書いてあったんですよ。いつもだったら完全スルーするくらいの。
まあそりゃそうよね。一個でもやばい価格のケーキが食べ放題なんだもん。
でも、でもね?その時私たち持ってたわけですよ。精霊装備3人前買えるくらいのお金。
インファントドラゴンと泥沼の死闘を繰り広げ3人そろってレベルアップし、私たちの女神さまとしこたま酒飲んで祝ったけど。
もうちょっと自分達ににご褒美あってもよくない?
だって、だって偉業達成したわけだし。
看板を見つめ、無言だが私たちにはそんな空気が流れていた。
そして私は言った。言ってしまった。
サラマンダーウール中古でよくね?、と。
その結果
「「「みぎゃああああああああああぁぁぁぁ‼」」」
三人そろって命の危機に瀕している。
くっそ、あのじじいめ‼なにが「中古でも品質は保証するぞい」よ!
大体、ぞい。ってなによ!なんなのその語尾‼あーもうほんとにさー!
生きて帰ったら絶対シャクティさんにチクってやる‼詐欺られたって泣いて訴えてやる!
ちらりと背後を確認したネネネが叫ぶ
「っ!ポテコ!サラリア!炎来る!右に寄るよ‼…3、2、1、今‼」
合図に合わせて右によける。
私たちがさっきまでいた場所を炎の塊が「ゴウッ‼」っと音を立てながら追い抜いていく。
冷や汗が出る。対装備もない私たちがあんなもの食らったら間違いなく火傷じゃすまない。
私たちが今まだ生きているのはネネネのおかげだ。
パーティの中で最も高い敏捷のステータスと獣人特有の気配に敏感なその感覚が私たちをギリギリで生かしてくれている。
ネネネがいなかったらとっくに死んでた自信がある。めっちゃ感謝してる。でも、でも。
「ポテコオオオォォォー‼あんたがっ!あんたが‼アンリゾ処女捨てようなんていうからー‼」
走りながら私を罵倒するのはちょっとどうかと思う。
アンリゾ処女。あるいは童貞。
アンダーリゾート、18階層リヴィラの街に行ったことがない冒険者を嗤う言葉。
いや、なんかあんのよ。空気感?リヴィラ行ったことない冒険者はまだまだ感。
さすがに誰も指さして笑ったりしないけどさ。
飲み屋とかでさ、別に聞き耳立ててるわけじゃないけど、リヴィラはぼったくりがひどいー、とか。でも近くの湖はきれいでいいよねーとか。
レベル高い冒険者が喋ってってさ。めっちゃ無意識マウントとってくるんよあいつら。
もうね、めっちゃぐぬぬ‼ってなるのよ。
だからレベル2になったし私たちもそっち側に行きたいじゃん?マウント取りたいじゃん。
わかるー、リヴィラちょっとあれだよねー、とか言いたいじゃない!
ネネネもサラリアも最初は「私たちにはまだ早い」とか「もうちょっと慣れてからにしよう」なんて言ってたけど、そんなんだからいつまでもリアル処女なのよ‼ってあおり倒したらホイホイ乗ってきた。チョロかった。
あんたも処女でしょうが!って喧嘩になったけど。
まあ、つまり結果的には3人同意の上であり、私だけが責められるのはどう考えても間違っていると、この責任転嫁してくるバカ猫に反論しようと口を開こうとしたとき。
「きゃあ!」サラリアの悲鳴。
通路の陰に潜んでいたであろう新手のヘルハンドがサラリアのふとももに嚙みついていた。
「っ‼サラリア‼」
無我夢中でサラリアに噛みついてるクソ犬の頭に剣をぶっ刺す。
声をかける必要も、視線すら合わせることなく阿吽の呼吸でネネネが急ブレーキ、からの反転で追いかけてくる犬どもに槍を大きく横なぎして牽制。まさかの反撃に犬共が思わず足を止めた。
さすがっ!愛してる‼
心の中で叫んだ。バカだけど、本当にネネネは頼りになる‼
彼女が稼いでくれた数秒で、灰になって消えゆくクソ犬ごと倒れこんだサラリアをお姫様抱っこした。
「ポーションはっ⁉」
大丈夫?なんて聞かない。だって大丈夫じゃないんだもん。
ひどい、スカート越しでもわかる。右のふとももから絶対やべー、と思わせる複数の穴が開いて血が噴き出してる。
「残り1本…!、私のバックパックの中…‼」
激痛であろう。でもサラリアは一切余計なことは言わず涙をこらえながら必要なことだけを言った。
そこでネネネが隣に戻ってくる。
「どうするっ⁉」叫ぶネネネ。
私が聞きたいわよ、どーすんのこの状況って。
でもそんなこと言えない。
私は馬鹿だけど団長なんだ。
私たち三人しかいないザコザコファミリアだけど、それでも私がトップなんだ。
足りない頭で決断を下す。走る先にやや大きめの部屋が見えた。
「次ぃ!の、部屋で壁を背にしてまずサラリアの回復!私とあんたで死守‼わかった⁉」
マジかよお前⁉って顔したネネネだけど、私に抱えられてるサラリアを、その足を見て頷いた。
すぐに手当てしないとまずい出血量だと理解したんだろう。
必死に走る、サラリアあんたちょっと太ったんじゃないの⁉荷物込みだけどレベル2になった私でも重いんだけど‼
大きめの部屋に入る。見回す。よかった、他のモンスターはいないっぽい。
「ごめんサラリア!手当は自分でよろしくっ!」
部屋の隅、やや乱暴にサラリアを下ろしてすぐに振り返る。
グルルルル、とかフシュルルー、みなたいな息を吐きながら、6頭のヘルハウンドが部屋の隅にいる私たち取り囲む。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛っっ‼」
「がああああああああああああぁぁっっ‼」
振り向きざまに私とネネネは乙女が出してはいけない大声でクソ犬共を威嚇した。腹から声を出した。
犬共が一瞬びくりと体を震わせ後ずさった。いいぞ、ビビれ、ビビってくれ。ついでに剣も振り回す。
今一番まずいのは遠距離から炎を吐き出されること。私たちは躱せるだろうが怪我してるサラリアは無理だ。
まず、とにかく、最低限サラリアがポーションで傷をふさいで自力で動けるようになること、それまではなんとしても時間を稼ぐ‼
そんな私の決意は、ヘルハウンドの後ろから現れた、巨体の叫びにあっけなく吹き飛ばされた。