クロコさんの舞台裏! ~大手ダンジョン配信者事務所専属の裏方バッファー冒険者、通称クロコさんの奮闘記~   作:アドバース株式会社広報担当

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1 ダンジョン配信事務所のクロコさん。

 ダンジョン。

 この世界に古くから存在するダンジョンは、人々に多くの恩恵と危険をもたらしてきた。

 時代が進み技術が発展するに連れ、ダンジョンはプロとして認められた“冒険者”がダンジョンに潜り、一般の人間はそれをテレビなどを通じて娯楽として楽しむのが普通になった。

 

 そんな中、彗星のごとく現れたのが、ダンジョン配信者という職業だ。

 プロの冒険者のダンジョン攻略風景を、動画や配信といった方法で直接視聴者に届けるというスタイルの冒険者。

 これまでダンジョン攻略の映像は、冒険者が録画したものをテレビ局が編集してお茶の間に届けるというのが主流だった。

 しかし、インターネットの発達により、直接冒険者がダンジョン攻略の映像を一般人に届けることが可能になり、その中でも特にダンジョン配信という形で、それは花開いた。

 

 世界初と呼ばれる伝説のダンジョン配信者グループ「Fairy Lyric」、通称フェアリリ。

 四人の美少女冒険者パーティからなるダンジョン配信者グループの登場を皮切りに、様々な企業、個人がダンジョン配信者に名乗りを上げた。

 世はまさに大ダンジョン配信者時代。

 

 だが、そんなダンジョン配信にはある問題が存在していた。

 というのも、ダンジョンにおける役割には四つの種類がある。

 前衛としてタンク、もしくはDPSを務めるフロント。

 後衛として魔術で敵を殲滅するウィザード。

 回復と戦術指揮を兼任するパーティの要、ヒーラー。

 そして、後方で魔術攻撃、回復以外の主にバフなどを担当するバッファー。

 この四種類だ。

 

 そして、それぞれの役割を一人ずつ集めたパーティが、この世界のパーティの基本だ。

 世界初のダンジョン配信者グループであるフェアリリがこの組み合わせでデビューしたくらいには、王道の組み合わせ。

 だというのに、フェアリリはこの組み合わせが原因で解散してしまった。

 なぜかって? 答えはとても簡単である。

 

 色々あってどういうわけか大手ダンジョン配信者事務所で、専属の裏方デバッファーをしている俺には、その理由が多分きっと誰よりも解っていた――

 

 

 ---

 

 

 ダンジョン内部で、四人の冒険者パーティが戦闘を繰り広げている。

 

「レッサーの態勢崩すよ、リオちゃん大技よろしくねー」

「は、はいカナコ先輩!」

 

 前衛である赤髪の猫を思わせる快活そうな少女が、黒髪のオドオドした様子の魔術師ローブをまとった少女に声をかける。

 赤髪の少女はフロントで、今まさにレッサー――レッサードラゴンの足を切りつけて、その態勢を崩したところだ。

 それに呼応して、魔術師ローブのウィザードの少女が、杖を天高く掲げて魔法を起動する。

 

「だ、<ダーク・メテオ>!」

 

 杖から生じた闇色の光が、レッサードラゴンに降り注ぎ大ダメージ。

 

「よーしいいぞー、カナコはそのまま次の準備。リオは……っておい、猫のポーズを取るな、戦闘中だ!」

「えー? ヤマダ先輩、そんなコトいってアタシのお尻みてるんじゃないですかー? やーいへんたーい」

「やめろ! 見てない!」

 

 そして後方で指示を出す金髪の青年。

 そんなリオとヤマダのやり取りに、配信のコメント欄が「炎ヤマダ炎」一色に染まる中、俺はパーティ用の回線で三人に連絡する。

 

『十秒後、攻撃バフが切れる。再使用は十一秒後だから、一秒隙ができるから注意』

『りょ』

『わ、わかりました』

『ありがとうございます、クロコさん』

 

 と、上から順にリオ、カナコ、ヤマダからそれぞれパーティ用回線……簡単に言えば念話のようなもので返事が帰ってくる。

 

 そして派手に飛び回りレッサードラゴンを追い詰めるリオと、そこに強力な魔法を叩き込むカナコ。

 それらに的確な指示を飛ばしつつ、適時回復魔法を飛ばすヤマダ。

 そんな三人の身体が、俺が伝えた時間通りのタイミングで、

 

 

 ピカっと光った。

 

 

 俺がバフで三人を強化したのだ。

 コメント欄をちらりと見ると、それに言及するコメントはない。

 これは単純に、俺が彼ら三人と違って()()()をしていないという事情もあるのだが。

 

 単純に、カメラ越しだとあの光は非常に気付きづらいのだ。

 そして、ここで大事な話をすると。

 

 

 バッファーができることは、ああやって仲間をピカピカ光らせるだけである。

 

 

 ――ここまで話せば、どうしてフェアリリが解散したのかが解るだろう。

 バッファーは地味すぎるのだ。

 少なくとも、配信者として画面に映る上で致命的すぎる欠点といえる。

 そのため、ダンジョン配信者でバッファーを志すものはいない。

 

 しかし、そんなダンジョン配信者の実情に反して、バッファーというのは冒険者がパーティを組む場合必須だ。

 フロントはいなくてもいい、ウィザードの火力を増やして接近される前に圧殺すればいいのだから。

 ウィザードはいなくてもいい、その分フロントを増やせばいいのだから。

 ヒーラーはフロントやウィザードほどではないが、代用は効く。

 そしてバッファーは――ダメだ、ソロで潜るならともかく、パーティで役割分担をするならバッファーは必須。

 抜けたらそもそもパーティという概念が成立しない、パーティの要。

 

 具体的に言えば、バッファーがいるのといないのとでは、パーティ全体の火力が五割から八割減少すると言われている。

 では、その問題を解決するにはどうすればいいか。

 ダンジョン配信が主流となり、専門の芸能事務所みたいなものができるにつれて、業界の人間は考えた。

 

 

 そうだ、裏方の専属バッファーを用意しよう。

 

 

 ダンジョン配信者として配信を行うのではなく、事務所が雇った専属のバッファー冒険者。

 配信内では顔を出さず、仮面などを被ってそれを隠し、基本的に発言などは行わない。

 彼らは一般的に、こう呼ばれていた。

 

 “クロコ”。

 

 そして俺は――そんな“クロコ”になった世界で初めての冒険者。

 通称、“クロコさん”。

 今をときめく流行の最先端、ダンジョン配信者を間近で支える――そんな立場の人間だ。




クロコさんが配信者の裏で密かに人気を集めるお話です。
配信者の空気感はVのそれを参考にしています。
なお本作はやさしいせかいです。
よろしくお願いします。
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