クロコさんの舞台裏! ~大手ダンジョン配信者事務所専属の裏方バッファー冒険者、通称クロコさんの奮闘記~ 作:アドバース株式会社広報担当
事の始まりは、今から数年ほど前のこと。
当時はフェアリリがデビューしてから一ヶ月が経った頃のこと。
ダンジョン配信という全く新しい概念は、フェアリリの大バズを引き起こし、ダンジョン界隈はその話題でもちきりになっていた。
それと同時に、目敏いものはフェアリリの抱える問題点を早くも見抜いていたのである。
「――黒川くんって、学生の頃は冒険者クラブでバッファーやってたんだっけ?」
俺、“
この時の俺は新卒一年目、研修を終えて実際の仕事に慣れ始めたぺーぺーの新入社員だった。
俺の就職した会社は冒険者が扱う装備を設計、販売する会社で、俺はその設計を志望して入社したのである。
理由は学生の頃、俺はアマチュアの冒険者をやっていたからだ。
冒険者はプロしかなれないと前に言ったが、それはあくまで職業として冒険者をやる場合の話。
簡単に言うと冒険者ってのはアスリートと変わらない。
学生なら部活やクラブに所属して、その監督下の元冒険者として活動することもできる。
俺の場合は、地元のクラブで小学生の頃から冒険者として活動していた。
このクラブは言ってしまえばスイミングスクールとかそういう感じのゆるい冒険者クラブで、大人から子供まで、休日の運動としてダンジョンに潜って冒険を行うことを目的としたクラブである。
そこで俺はかれこれ十年以上、バッファーとして冒険者をしていた。
「ええはい、趣味程度のものですけど」
「確か聞いた話だと、地元の大会のバッファー部門で優勝したって話だったと思うんだけど……」
「アレは町内大会みたいなものですから、参加者もほとんど同じクラブの人でしたし」
「じゃあつまり、そのクラブで一番すごいバッファーではあったわけだ」
……まぁ、趣味レベルとはいえ、それなりに冒険者としての実力には自信があった。
プロになるほど生活を賭けれるかっていうと、そこまで情熱もなかったから、こうして冒険者に関わる会社に就職して、未来の冒険者に貢献しようって形に落ち着いたわけだけど。
「じゃあ本題。実は今、うちの会社でフェアリリみたいなことやらないかって話になってるんだけど」
「え? ダンジョン配信ですか?」
「そ、うちの会社も若いからね、流行には敏感なんだ」
――ことの発端は、俺が就職した会社でフェアリリみたいなダンジョン配信をやってみないかという案が浮上したこと。
俺の就職した会社――“アドバース”は新進気鋭の……まぁほとんどベンチャー企業みたいな会社で、会社の平均年齢は30代という若々しさだ。
俺と話をしている上司とか、俺と二つしか違わないし、会社の社長に至っては――ともかく。
こういう新しいことにも、とりあえず挑戦してみようという体力がある会社だったわけ。
「それで、冒険者としての経験がある君に、話をしてるわけなんだけど」
「まさか……俺がダンジョン配信者になるんですか? いや無理ですよ、容姿は平々凡々ですし」
「ああまぁそうなんだけど――」
「何より、バッファーはダンジョン配信者に致命的に向いてません。無理っていうか……無茶です」
何か返事をしようとする上司に、俺はそのまま言葉を続けてしまった。
まぁ、結果それが良かったのか悪かったのか――上司はにぃっと楽しそうに笑みを浮かべて言った。
「なるほど、いいね」
「はい?」
「君の言う通り、ダンジョン配信者にバッファーは致命的に向いてない。……一般でそれに気づいてる人間はほとんどいないよ。うちでも、社長しかそのことにまだ気づいていなかった」
「えっ」
ちょっと意外だった。
バッファーが配信という媒体では死ぬほど目立たないのは、バッファーを長くやってれば解るものだけど。
「そこで、うちはバッファーを裏方として用意することにした。これは社長の案でね」
「はぁ……じゃあ、それ以外の役割を配信者として外部からスカウトして、バッファーを社員が担当するんですか?」
「正解。でもって――」
ビシッと上司は俺を指さして、
「そのバッファーを君にお願いしたい。よろしくね、“クロコさん”」
「え……」
ええ――――!?
俺の驚愕が、昼のオフィスに響き渡って。
結果、俺の裏方冒険者“クロコさん”としての日々が始まることになる。
まぁ当時は、とりあえず仕事の一環としてやってみるか程度のもので。
まさかとりあえず始めてみたダンジョン配信業務が大ヒットして、会社の仕事が装備の設計からダンジョン配信者事務所へと盛大な方向転換を行うことになるのは、当時の俺も上司も、それから社長も、想像もしていなかった頃だろう。
……いや、社長はどうだろうな。
案外予測しててもおかしくないよな、社長だもんな……。
主人公の実力はプロでも普通にやっていけるくらい。
細かいことはそのうちふれます。