クロコさんの舞台裏! ~大手ダンジョン配信者事務所専属の裏方バッファー冒険者、通称クロコさんの奮闘記~ 作:アドバース株式会社広報担当
時は戻って、俺、クロコさんこと黒川コウジと、ダンジョン配信者であるリオ、カナコ、ヤマダのダンジョン配信。
「じゃあ、そんな感じで今日はここまで! にゃんにゃんりおーん、リオでした! にゃったねー」
「え、えっと……お疲れ様でした。今日はゆっくりやすんでくださいね? カナコでした」
「それじゃ、ばあーい! ヤマダでっす! よければチャンネル登録、高評価、よろしくー!」
――が、終わるところだった。
俺はといえば、挨拶をする配信者組の後ろで、ゆるーく手を降っている。
コメント欄はだいたい乙で埋まっているが、偶に「クロコさんも乙でした」みたいなコメントがあるので、これに反応するためにこうしているわけだ。
最初のうちは後ろでぼーっとしているだけだったのだが、クロコさんの存在が認知されるにつれ、俺に対するファンも少数ながら出てきたらしい。
ううん、配信者って適性が必要だから、俺みたいな一般人にはむず痒く感じてしまう。
それはそれとして。
配信が終了、俺たちの周囲を飛び回っていたダンジョン配信用のマジックカメラが機能を停止して、俺の手に収まる。
「んじゃ、カナコもヤマダ先輩もクロコさんもおつー」
「お、お疲れ様でした」
配信が終われば、ダンジョンからは帰るだけだ。
今日の目標は数日前に発見された新エリアの探索だったわけだが、探索も無事に成功。
そうなると、特に反省会とかも必要ないのでパーティの空気は一気に弛緩する。
「おう、ふたりともお疲れ様。クロコさんもありがとうございました。いつもながら、支援完璧ですね」
「……いやいや、俺の場合はみんなと違って、支援に集中できるんだから、それくらいは当然だ」
空気が弛緩すると、自然と仲のいい相手と話を始めるもので。
今回の場合は、男女比が半々なので自ずと男女が別れて話を始めることになる。
向こうでは、リオが何やらカナコに抱きついて、頭を撫でていた。
ああいうのも配信に乗せればいいのにな……あ、リオが自撮りしてる。
「それでも、ああやって安心してバッファー任せられるとほんと助かりますよ! クロコさん、これでホントプロじゃないんだから驚きですよね」
「そもそもプロってのが、情熱ないとできないものだからな……その点、ダンジョン配信者は本物のプロだ、俺は俺のことよりも、君たちの方をずっと尊敬してるよ」
専属の裏方バッファー。
今では当たり前の概念となったが、俺が始めた当時はフェアリリが全員現役だったこともあって、あまり理解のされない存在だった。
だからこそ、俺は会社の仕事として内部の人間がバッファーをやっていたわけだし、それが今の“クロコさん”に繋がっている。
フェアリリの解散、大手事務所の台頭、その中で周知される裏方バッファーの意義。
それらも相まって、現在のダンジョン配信者の裏方バッファーは、プロのバッファー冒険者を雇うことが圧倒的に多い。
俺以外にも“アドバース”には専属のプロバッファーは数人いるし、彼らとはある意味で競合相手のような関係だ。
それでもまぁ、少なくとも俺が“クロコさん”でいる間は、俺に関しては特に困ることはないだろう。
「それでクロコさん、前々からお願いしてた、タイマンコラボの件なんですけど……」
「いやいや、だからそれは何度も断ってるだろ、ヤマダさん。俺は裏方なんだから、表にでてきてどうするんだよ」
「いいじゃないですか! 俺とクロコさんの仲を世界に発信したいんですよ!」
配信者ヤマダ。
“アドバース”からデビューした、ダンジョン配信者。
その中でも、最初にデビューした配信者は通称“一期生”と呼ばれてアドバースの看板ダンジョン配信者をしている。
ヤマダは、その中で唯一の男性ダンジョン配信者だった。
大学で冒険者サークルのエースとして活躍していたのを、同じ大学の同期だった俺の上司――俺を“クロコさん”に任命した人だ――が連れてきたという経歴を持つ。
冒険者としての実力は、まぁその経歴ゆえか、一期生の中ではトップ、デビュー当初から普通にプロとしてやっていけるレベルだった。
が、まぁ当時はそもそも男性ダンジョン配信者への風当たりが今以上に強く、同期でもなかなかコラボ配信ができない頃で。
当然といえば当然か、年も近くて同性の俺に、ヤマダが懐くのも無理はないというもの。
だから、こうしてヤマダからコラボ配信を持ちかけられるのは普通なんだ。
仲のいい男同士のじゃれ合いみたいな。
ヤマダはその出自からも分かる通り生粋の陽キャ。
なんというか、人間という種そのものが大好きみたいな性格をしている。
故にこういう対応になるんだろう。
それはいい、いいんだが……
「ってああー! ヤマダ先輩がまた抜け駆けしてクロコさんとコラボしようとしてる、ずるいぞ!」
何故か、俺はどうにも“アドバース”の所属配信者から、好かれる傾向にあるらしい。
「リオちゃんだってクロコさんとタイマンコラボしたいしたいしたい! カナコだってそう思うよね!?」
「え? あ、う……わ、私なんかがそんな……おこがましいですぅ……」
いや、なんていうか。
ヤマダは解る、なんだかんだ五年一緒に冒険者やってるし、気の置けない仲間という意識も強い。
でもなんで君たちまで、俺とコラボしたがってるんだ?
「ダメに決まってるだろ! お前たちとコラボしたら燃えてしまう! クロコさんが!」
「むぅ……!」
いやヤマダくん、心配するのは俺の方なのか?
「……とりあえず、俺は誰ともタイマンコラボはするつもりはないからな? ……パーティコラボなら、予定が空いてれば参加するから」
「むー! じゃあ今から次のコラボの予定立てましょうよ! 私、明後日が開いてるんですよ!」
「それは流石に急すぎるだろ……」
なんて、わいわいとリオが俺とヤマダの方へよってくる。
当然抱きしめられたままのカナコも同様に。
まぁ、こうして内部で需要がある間は、俺も食うに困ることはないだろうと思うのだった。
ヤマダの視線が一番妖しい。