夕眸のカノン   作:色龍一刻

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やっぱり魔術師の杖はデカイに限る。




2・気配到来/艱難辛苦

 

テントを貫通する陽の光が瞼を差す。

 

剣を抱えたいつもの態勢で、ベット.....の隣の椅子で目を覚ます。

ベットではカノンが眠っている。無防備、というわけでもない。色を見ればやはり眠りが浅いようだ。基底状態の防御術式と接続したままなのも原因か? そろそろ悪影響が心配だ。

臭い消しと日干しをしてもやはり臭う革防具を着込み、

かたくなった体をほぐしながらテントを出て、キャラバン中央の見張り台に設置された時計を確認する。

11時。5時間は寝れた。少々足りないが動くには十分か。

 

昼過ぎに噂の偵察班が帰投する。

町を築くに当って、周囲の危険性を探るのは当然だ。

3日毎に、方角で区分されたエリアを偵察するというもので、今回はその最後の方角での仕事だった。

本来はこれもカノンが得意とするが、キャラバン全体を覆える目を持ち、夜目も効くとなれば流石にあちらに入れなかった。人数で賄える偵察班に据える意味は薄いという判断だ。妥当である。

 

問題となる、南に目を向ける。

そこには、ウプリシテ山が雄々しく聳え立っている。

南から迫る暖気を防ぎ、夏季の到来を阻む高山。

暑くなりすぎない環境は大変嬉しいが.....

それは同時に、季節と共に大気循環で巡る筈の空間魔素を、いくらかの量を、山肌に押し止めてしまうことを意味する。

 

眼を開く。同時に、強化魔術で視力を引き上げる。

視えづらい、が。魔素の密度差で空間が揺らいでいる。

大気バランスが崩れかけているようだ。山の頂を暗雲が占めようとしていた。

吹き荒ぶ物質化した魔力の色と、現象化した魔力災害の予兆。

 

どんな報告が齎されるか未知数だが、

やはり、準備をしておいた方が良さそうだ。

眼が知らせてくれる不穏な色に憂鬱になりながら、カノンを起こしにテントへ向かった。

 

 

「えっと、つまり、どういうことですか?」

 

「魔力災害、それに誘き寄せられた特異魔獣の出現があるんじゃないかーってね。」

 

「どんなところに町を起こそうとしてるんですか私たち!?」

 

「いや、この前の地震でウプリシテ山の標高が上がったのと、例の勇者が近くのヘネスワ山脈に渓谷創ったことが原因で起こり始めてることだと踏んでる。あれで魔素の流れ大きく変わったじゃん。ヘネスワ山脈で大きく迂回する筈だった気流と、それに影響される霊脈がそのままウプリシテ山にぶつかった可能性あるよな。詳しい地図と現地で調査しないと推測の域出ないけど。」

 

「パドナさん、常人には、そういうの(魔素の流れとか)、視えないのですよ。」

 

「あーうん、わかってますわかってます。てか、カノンは視えるじゃん。道具ごしだけど。」

 

「精度や視界深度が違い過ぎます。星の呼吸とか血管とか、常人にはキャパオーバーなんですからね!」

 

気分とか悪くなっちゃうんですから、と膨れる頬をつつきながら、遂に帰投した偵察班を広場で迎える。おかえりー。

 

 

 

「で、どうだった。その様子だと中々にヤバかったんだろう?」

 

「ああ、ヤバイ。嵐と、大蛇だ。」

 

「嵐と、ヘビ?」

 

「ええと、魔力災害一歩手前のヤバイ嵐。それがウプリシテ山で吹き荒れててな、そこに溜まった魔素目当てに多くの魔獣が集まってきていたんだ。それを一匹の大蛇がバクバク食い漁ってるのなんの。あの様子じゃ近い内に特異魔獣になるだろう。例の嵐も南風に乗って北上してくる筈だ。そうすれば魔力災害内でしか肉体を維持できなくなったヤツも一緒に来るだろう。今からリーダーが監督者と協会には報告するが、多分あの様子だと.....迎え撃つ形になりそうだ。運が悪かったと思って受け入れるしかないかもな。やってらんねえぜ.....。」

 

 

ふむ、このまま北上すれば魔素の環境バランスが戻り自然消滅する前にシュターク共和国にぶつかるだろう。あの国ならば魔力災害対策は完璧だろうが、その中の特異魔獣は....国家の危機だな。町の雛と草原のみのここで対処したいのも頷ける。何が何でも抑えこめと指示が来るだろう。監督者の胃を偲ぶ。

 

ま、実際働くのは俺たちなわけで、命の危険も及ぶわけだが。

協会はなんと? 金は出す。保証もする。貢献値10倍?

ハイリスクな分なのは言わずもがなだが、太っ腹過ぎないか?

 

ヘトヘトでズタボロな偵察班を労り、その報告にうめき声や悲鳴が上がるのを背景に、脳内の天秤を傾ける。

 

ん~~~~~~~やらんといけんかもなこりゃ。

 

シュターク共和国と協会から追加の戦闘員来るらしいし、お国柄信用度は高い。動けない理由があるならともかくとして、雇人としての外聞を落とすのもよろしく無いしな。

 

早速、先行して装備、薬品、食料、魔術触媒やらの準備を進める。

対魔獣戦闘用の装備に加え、魔力災害内での必須用具を引っ張り出す。手入れはしているが久しぶりの活躍だ。再点検をしとかねば。

 

共有資材が協会から支給されるとはいえ、信頼性安全性機能出力味などは8割弱の代物だ。そのレベルでも凄いのだろうが、2割に命は預けられない。全て用意しとくのが鉄則である。

 

金具の緩みを確認しながら隣を見れば、カノンがトランクからボロボロと部品を引っ張り出しながら唸っている。

カノンの魔術道具一式....バーサリティモジュールはシグニ型などの特別なものを除けば、外部発注、製造が殆どで、単体ではバラバラの部品をそれぞれ組み合わせて魔術道具とする。

故の万能的な利便性と、的確なサポート性、臨機応変性を兼ね備える、と言えば聞こえがいいのだが、資金と貯蔵魔力量、運搬、点検作業、演算能力の限界という点からそこまで多くの機能を用意できない。

才能なのかなんなのか、馬鹿みたいな規模の演算領域とモジュール操作に特化した魔力性質を保有するカノンだからこそそれぞれの魔術道具に搭載した機能の同時稼働ができるらしいが、万能には程遠い。

ぶっちゃけカノンの才能に魔力量が追いついていない。そんなに同時に動かせば途端に魔力切れだ。

実用性皆無。命を削る狂気の沙汰。

そこで事前調査や経験から必要となる機能を厳選するのだが....。

 

「で、ここで契約終了にしなくて良かったのか? 上乗せ報酬は破格だが、相手は特異魔獣と災害だ。」

 

自律型であるシグニ型はそのままにするのか横にスライド。

索敵に特化させたエレ型も横にスライド

コウモリを串刺しにしていたアクス型は、蛇鱗にはどうなんだろうなとモジュール交換に回すようだ。参加するならば大型の個体だろうしカノンには攻撃よりサポートを優先して欲しいところなんだが。

 

「わかり切っていることを何回も聞くのはナンセンスだと思いませんか? パートナーを置いてけぼりにするわけないじゃないですか。」

 

ん、そうだな。雨風や雷、下手すれば雹もあるかもだから....環境に強いモジュールのみに限定したらどうかね。

空間魔素の吸収効率を上げるものや、偏向シールド発生装置などもおすすめしよう。炎というより発熱系とか、加護や保護、治癒系も用意していただけると....

え、わかってる? 気にしないで自分のことやっとけ? そう.....。

 

「おらぁほら、あん借金あっから。大金のチャンスは渡りに船だがリスクも高い。ずっと無茶しっぱなしのカノンを置いとくのはなーってな。」

 

無言でおすすめモジュールをアピールしてたら同じく無言で怒られたのですごすご自分のリュックをほじくり返す。

リュックの底には、厳重に隠蔽術式と盗難防止術式で覆われたものがある。拡張された空間内でも異様な気配を放つ一本の業物。厚い布と包帯でぐるぐる巻きに封された武器。ツテと材料費と加工代で、人生初借金と相成った元凶である。悲しいね。

 

「危なくなったら、パドナの()()での活躍、期待してますね。久しぶりに見せてください。」

 

「あーうん、いいよ。」

 

「嘘ですね。」

 

「わかる?」

 

「わかります!」

 

 

 

その夜。

 

今日はフリーだったのが、急遽設置された特異魔獣対策会議の立ち上げに関わることになった。

実際魔獣と接触する俺達にとって必ず参加しておきたい情報源だが、流石動きが速い。

今夜の夜警当番を除き、派遣されていたシュタークの防人や雇人の殆どが集まりぎゅうぎゅうになったテントの中で、詳細な情報開示とキャラバンにおける意志決定、支援資金や補充される人材、資材、傾向と対策、グループ分け、事後処理などなどが行われる。

 

魔力災害は北上中。シュターク共和国まで9日。ここまでは7日。

噂の大蛇、セルペンス・テンペティスを特異魔獣と認定。

協会及びシュターク共和国からの公式依頼となる。

討伐地点は、ここから3キロ南の平原に設定。

周りに人工物も無いので、周辺被害を気にしなくていいのがシュターク側の利点なんだろうが、こっちからしてみれば負傷した人の避難や応急処置する場や物資輸送距離などがネックとなる。

普通なら後方にテントでも建ててそこを怪我人置き場にでもするのだが、平原という起伏のない地形では、テントは立たない。国近くであれば、滝のような雨と体が浮くような暴風を頑強かつ大質量の城壁と国家レベルの魔力障壁によりほぼカットできるが、今回はそうじゃない。

何より提供される人材、設備が違いすぎる。そりゃあ配属される人やらなんやらが国内のものよりランクが下がるのは当たり前なんだが.....これもきつい。

その他特異魔獣の予測される性質や能力、攻撃手段、最も新しい観測情報などが提供されるが、如何せん俺たちの顔は苦い。

当てにならない勝率とか難易度は置いといて、本当に環境が厳しいのだ。災害内で削られ続けると体力と気力は、そのまま士気と攻撃力に直結する。情報線も途切れて指揮も届かないことも多分あるだろう。そうなれば物量で魔獣を撹乱し、遠方や影からチクチク攻撃して倒すいつもの戦法は成立しなくなる。

故に空気が重い。

 

展開される知らない環境、実行される知らない戦法。

ストレスの中で必ず起きるミスと、精算される命の数。

 

 

『突発的な要因による死は多けれど、

ここまで明確なもの()は誰にだって(恐ろ)しい。』

 

 

そんな言葉を思い出して、静かにため息を吐く。

そっと握られる手。隣を見なくてもわかる。

不安だろうさ、それでもなぁ....。

 

そんな、痺れたような時間を蹴散らすように、今の今まで情報提供を行っていた俺たちのリーダー、『炎斧』のゲルンが声をトーンを上げる。

 

「で、ついさっき届いた朗報だ。なんと、あのサーカラン国の『勇者』がエゾフ協定により派遣される。音に聞く今世代の聖剣使いだ! 『ヘネスワ山脈の断崖』を知らん者はいないだろう。厳しい戦いになると踏んでいたが、皆、いけるぞ!」

 

 

「ゲ。」『おおっ!!!』

 

俺の手を包んでいた温かさが、途端に圧迫機に早変わる。

小さな呻きは皆のどよめきと歓声に飲まれたが、冷や汗だけは治まらない。

 

多分、隣を見れば、その鮮やかな紫眼を憤情で煌めかせているのだろう。ただ八つ当たりはやめて欲しい。カノンのイライラは長いのだ。

 

 

第279代目『勇者』、エイデケウス。

サーカラン国の今世代の勇者であり、世界を巡りつつ人助けやら修行やら恋愛やら信奉者を作り出している公認雇人だ。

特徴として、やはり目立つは聖剣アンヴァー。めっちゃ丈夫でめっちゃ切れるし、身体強化までしてくれる。輝けば山すら断ち切るとはエイデの談。疑ってはいたが実際できたのだろう。脱帽である。建国当時から受け継がれる聖遺物とのこと。

あと、その人柄も特に噂に立つ。誰にも優しく、礼儀正しい。聡明で博識、でもお茶目。人種や種族で差別しないし、サーカランらしい(強引な布教活動)こともしない。あとイケメン。力持ち。

雇人として俺も出会うことは度々あるが、エイデは素晴らしいほどの人格者だ。だが、一つ、欠点というか呪いじみたものがある。

 

エイデは___________生粋の女好き(女難持ち)だ。

 

うん、まあモテるよねそりゃ。迫られたら拒否できない点、女性に優柔不断な点はどうかと思うが、俺も男だし共感はする、が......

 

カノンにあんなに嫌われてるとか、ホント過去に何をやらかしたんだか。ツンデレとかそんなんじゃねーぞこの怒り。俺の手がミシミシ言ってるもん。

 

災害、3つ目登場。

 

どれよりも命の危機をビンビンに感じつつ、エイデの参入に人知れずホッとする。アイツがいれば、なんとかなるだろう。

 

『勇者』の肩書と聖剣の輝きは伊達じゃない。

通常魔術式や、肉体儀式/型式とはまた別の魔術フォーマット、信仰原理式。エイデ曰く"神格化"のシステムを応用した思念固定帯(信仰ネットワーク)の創造と運用を軸としているらしいが、ここまで強大かつ巨大なネットワークは見たことはない。

簡単に言えば、信仰、思念ベクトルを燃料にした対象個体一つの"英雄化"。不可能を可能にする"神の如き力"を以て、"奇跡"を力業で引き起こすというもの。

 

『時に、願いや祈り、愛は、決して負けない(勝利を必然とする)輝きとなるんだ。』

 

信仰という限定的なものを条件下にしたとはいえ、8000年もの間同じ方向性の想念を貯め続けた、いわば人造権能。

あの発言を馬鹿にはできない。実際、願いや祈りでここまでやれてきている。

魔術学会にて、唯一の信仰原理式の成功例と絶賛されていた理由もわかるね。サーカランは術式じゃない神の奇跡だと反発してたけど。

 

まあ、サーカランはともかくエイデケウスは信頼できる。カノンとは絶対合わせられない点が面倒だが、アイツもすぐ気づいて協力してくれるだろう。まだカノンに興味があるようだが、相手が本気で嫌がることはしないのも人格者たる所以である。うーんマジイケメン。ハーレムなのは目につくけど。

 

ま、それも『勇者』らしいか。

 





他に書いてる作品の設定とかも混ぜてコネコネしてます。
いろいろ悩むよりさらっと書けるようにしたいですね。
練習あるのみ。

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