夕眸のカノン   作:色龍一刻

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ちょっと背伸びして飛び出しちゃう子が好きです。
あろうことか上手くいっちゃって慢心したところで、
周りの助けがあったからだなと悟る瞬間が好きです。

柔らかな知性と健やかな成長、少女を巡る善性こそ味わい深い。




3・心想寄合/過去参照

 

黒。

何層にも重ねられた色、煮詰めた鍋の奥底。

莫大な精神活動の反動を受け、視神経にかかる負荷でツンと来る。

ノイズ。

撒き散らされた思念に、空間魔素が共鳴している。

それがジャマーとなって更に視えにくい。

本来の色、カノンのそれが見えなくなるほどの奔流を掻き分け視界を絞り、

根本を捉える。

 

殺気....とまではいかないがここまでの怒気となると、万が一がある。

あそこか。

 

「......。」

 

走る。

例え何も見えなくても、

隠されたそれは、慣れ親しんだアイツの色。

 

現場に駆け込めば、そこには『勇者』一行様とカノンがいた。

エイデケウスと"自称"恋人妻親友妹姉母幼馴染教祖etc....で構成された黒一点パーティーと、パチパチと魔力が暴走気味の無表情なカノン。一触即発かいな、色々厄介過ぎないか。

 

だが、予想通りのシチュエーションだったとも。

 

エイデがカノンから目を話さず言う。

 

「悪いパドナ、僕の不注意だ。君のアドバイス以外の道を通ってしまった。」

 

「謝るまえにどっかいけ。お前は本当にタイミングが悪いぞ。」

 

「お前、エイデ様になんて口「ナー、昔からの友人だ。気にしなくていい。行くぞ。君たちとの時間は無駄にはしないさ。」

 

流石女難の相。そういうことはあるだろうが、態々かち合う日にやるのが勇者クオリティ。

キャラバン最後の夜警当番が終わり、カノンにさき帰って寝てなと言ったら出会っちまうとは....。

 

ガッシリとカノンの体を腰辺りで掴み、固定する。目線を外さないカノン。いつリミットが切れても良いように魔力を廻しとく。

 

消えていく勇者パーティー。

エイデが去り際に頭を下げる。ああそういうのいいからいいから。こっちも運が悪かっただけ。おまえは道を間違えただけだ。それだけのことで『勇者』が頭を下げるなイケメンめ。

 

 

「行ったぞ。一回息を吐けカノン。お前アイツと__________

 

 

気づくのが遅れた。

青を通り越して真っ白な肌のカノン。

マズイな魔力暴走で重度の魔力酔いと酸欠が起きてる。

廻していた魔力で身体強化を起動。同時に別の術式を組み上げ始める。恥ずかしいが手持ちがこれしかないので許して欲しい。

なんかもう色々ヤバげなカノンを抱っこし、テントに走りながら首筋に接触する。いつもの得意技、略式儀式(シンプリフィード・ライツ)。感応術式展開。術理、装填。魔力吸引、開始。

 

接着地点を起点に魔力がこちらに流れ込みって「ゴホッ」濃っ多っ!!!!

あー流石っすね才能が怖いマズイですよカノンさん俺の魔力容量じゃすぐ満タンにシグニ型あぁぁぁ助けてえぇぇぇ!!

 

上空で主と勇者の再会にあたふたしてたり隠れたり逃亡していたりしていた(使えない)シグニ型一同待ってましたとばかりに表れる。うん、おら魔力分けっからさっさと回線寄越せ直ぐにだよ!

 

 

 

 

テント内。ベットに寝たままのカノンと、貯まった魔力を正式な手順で構築した術式で宝石に移している俺。

 

 

「.....。」

 

「.....。」

 

気まずい。

顔色が直ったと思ったら真っ赤になって黙ってしまった。

色を見るに「パドナさん。」見てませんよ。

 

「魔力吸引、ありがとうございました。首筋にあれは、ちょっと、恥ずかしかったですが。」

 

うん、ああ、なんとなく察した。オーケーそういう感じで行くのね。

 

「俺な。」

 

「はい。」

 

「多分世界初の魔術道具とキスした男じゃね?」

 

「?????」

 

略式儀式の都合上、数値設定の途中変更不可の点から魔力の受け渡し座標を変えることはできないし、当の本人はグロッキー状態、シグニ型には権限はあれど、回線が無かったので、最終的にシグニ型と接続儀式をしてリンク付けする羽目になったわけでして。

 

「なんか凄く虚しかったです。」

 

おいそこに隠れたシグニ型2号機。くねくね恥ずかしそうに動くな。

なんだその赤ランプ。頬を赤らめたつもりか?

顔にへばりつこうとすんな4号! 重い! 硬い!

6号助けろッ! お前......もしや裏ぎグワーッ!!

 

「.......うわあ。」

 

呆気にとられた様子のカノンを背景に、

襲い来るピンク色のシグニ型を相手取り果敢に奮闘する俺の勇姿が影となる。

明けた空。

テントを照らす太陽は、賑やかな道化を優しく彩り、

小さな、されど確かな微笑みと笑い声は、俺達を遥かに安心させた。

 

 

ナイスジョブ、シグニ。

 

 

 

 

 

 

 

「でだ。」

 

昼。キャラバンの外れにて。

 

「ああ。」

 

二人の男がテントの影で密会の体制だ。

 

「今の今まで聞けやしなかったんだが、お前さんカノンに何したよ。」

 

一人は明け方の道化こと俺。

 

「.........。」

 

もう一人、明け方の天体観測(集団デート)なぞしやがった『勇者』様。

 

「流石にあんな様子のカノンには聞けないしな、そうなるとお前しかいないわけで。」

 

「.........。」

 

「で、どうなの。」

 

「.........わからない。」

 

「おい。」

 

がっくしである。

エイデケウスは嘘をつかない男だ。色を見れば一目瞭然だしな。

やつがわからないと言うのならば本当にわからないのだろう。

 

「おいその学卒の優秀な頭を動かして考えろ。なんかやんねーとああならねえって。」

 

「......記憶にある限り、パドナとの再会の際、初めて出会った時から、あの怒気を放っていた。」

 

手がかりになりそうなのは? 

すぐには思いつかないと。

オーケー。

 

「.....わかった。一旦打ち切りだ。下手な因縁とまでは言わんが、こんなことで連携崩してミスって死ぬのは御免だからな。こっちはなんとか軌道修正する。特異魔獣討伐にあたっての配置の口出し、頼んだぞ。」

 

「ああ、都合が良いことに、僕は前衛、彼女は後衛だ。そう近くに置かれることはないだろう。特に優秀な魔術道具を使うと噂で聞いている。ならばいくらでも配置は効くさ。」

 

「ならば良かった。頼りにしてるぞ勇者様。じゃ、また後で。」

 

「ああ、また後で。 音に聞こえし剣客殿。」

 

 

おせっかいなのかもしれないが、カノンに訊き出すのは.....アウトだろうか。アウトだよなあ。

ただならぬ様子の相棒と意味がわからない様子の『勇者』。

反応が対照的過ぎて、これが()()()()()()()()なのかの判断もつかない。因縁レベルなら最悪。いつもの壮大なラッキースケベレベルならラッキー。やはり訊くしかないかーやだなー。

渦中に飛ぶこむのは必要経費だとしても、カノンに嫌われるのは心理的ダメージが大きい。しかし『勇者』と仲が拗れてるのも体裁が悪いし、ほっとけば問題は絶対発生する。

 

と、いうことで。

 

「えー。シグニ型の皆さん。何卒ご協力をお願いします。」

 

頭を下げる。下げ得である。使える手は使うのが我ら雇人。

シグニ型の皆さんは半分協力してくれるらしい、半分はぷいっとされて飛んでいかれた。協力してくれる方も『やれやれ....しかたねーな....』という()である。お前たちも反『勇者』か....マジでアイツ何をやらかした?

 

 

 

 

 

「珍しいですね、こう暇な日にお茶に誘われるなんて。仕事をサボるための趣味なんだと思ってました。」

 

「ひどっ.....いやまあ、大仕事の前の整理をしてたらリュックの奥底から珍しい茶葉の小包を見つけてな。一人で楽しむにも袋の構造的に開けるとすぐ酸化しそうでな、どうせならここは誰か誘って楽しもうかと。」

 

「戴きます! この前は仕事中でしたから集中して楽しめませんでしたし。今日はどんな味ですか?」

 

「袋の記載によれば外東の方から持ってこられたガムールィで、渋みがちと強いがその分菓子が進むぞ。」

 

「外東というと、年間の環境差がとてつもなく大きい関係で多彩な動植物が育つ地域ですね。一度行ってみたいですが、雇人としては厳しい土地だと聞いてます。観光メインになるでしょうね。」

 

「詳しいな。結構マイナーな地域だと思ってた。」

 

「いっぱい勉強してるんですよ! それに、時々あちらからの旅人が風景の画集を出しててたりするんですよ。あの独特な四季折々の風景がほんと綺麗で....売りに来る理由もわかりますね。」

 

「なるほど、俺はもっぱら飯で知ったな。美味いものが多いらしいし、一度行ってみるか。」

 

「見るより食い気ですね.....ん、戴きます。」

 

「熱いから気をつけろよー。」

 

中々スムーズな進行を行えている。まあもう一杯くらい飲んだら話を切り出そうとしよう。

 

「いつも飲んでるニケリメデイと苦みの方向性が違ってて面白いですね。砂糖とかミルクとか入れないのもありますが。」

 

「なら良かった。......うん、菓子が美味い。」

 

「で、本題は何ですか?」

 

カップの水面が波打つ。

 

「な、ナンノコトカナー。」

 

「茶葉の保管方法なんて貴方が知らない筈がないでしょうし、ここは人の気配がありません。あの子達(シグニ型)の気配もおかしな動きをしています。多分人払いしてくれてますよね? 何か重要な話でも? 例えば例の特異魔獣討伐に何かあるとか......」

 

「あー違う違う......お前と勇者のことだ。」

 

カップを置く。

淡いドキドキ、好奇心、疑問、少しの不安に占められていた色模様がころころと様変わりしていく。

 

「こういうのに踏み込むのはどーかと思うけどな、パーティーメンバーとしては魔力暴走が起こるようなファクターは解消しておきたい。例の大討伐で共に行動する可能性もある。これ以上部隊の雰囲気を落とすのもどうかという話だ。」

 

「...わかっています。わかっているのですが、どうしても『勇者』に会うと心が荒みます。実際のところ、エイデケウス個人には殆ど関係のない話というか....いえ関係がないというのも語弊が....知りようがないというのも事実ですし....」

 

「無理して話す必要はない。その確執には興味がないわけじゃないが、聞き出す意図はない。....彼らと協力できそうか?あの魔力暴走は、その、理性的なカノンにしては意外過ぎた。そのほどのものと理解した上で俺は、君を案じている。」

 

高出力、大容量の情報伝達性と伝導性を保有する超エネルギー、魔力。

その源となる全世界を循環する最小要素、魔素。

 

我々を含む高い知能を持つ生物にとって、魔力の持つ高精度の情報伝達性は、凄まじい文明の発展への貢献と、度々の人災を引き起こした。

魔力親和性、魔術適性の高い赤ん坊が度々起こす無意識、無差別魔術行使や、魔力制御を習っていない児童による感情爆発に伴う魔術現象の誘発。

 

まだ()で発生するものならいい。中には()、自らの人体内部で引き起こし死亡する例もある。

 

魔力暴走。我々は魔力に依って成り立つ生物種では無い以上、全身に意図して巡らす魔力は明確な異物だ。中には免疫の異常反応を引き起こす例もある。だからこそ魔術を習い始める年齢は国によって明確に定められているし、情報も規制されていることも多い。

魔術師という存在は、そんな異物を肉体に慣らし、最終的には無意識に生産できるよう肉体改造を行う。昔はその初期段階で死亡する件があとを絶たなかった。

その典型的な症状が魔力暴走。肉体自身による拒絶反応で魔力制御が狂い、肉体を更に傷つけ、感情の揺れ動きで更に魔力制御が狂う。この繰り返しによる自滅事象。

カノンの場合、魔力酔いという、過剰生産や制御を離れた分の魔力の分解が間に合わず、肉体が反応しかけていた症例だが、どちらにしろ神経や血管、下手したら脳を傷つける事態となっていた。冷や汗ものである。

 

優秀な魔術師であるカノンには耳にタコができる話であろうが、俺はここまで理解していることをかい摘まんで話すと共に、疑問点を投げ掛ける。

 

魔術師ならば、気絶してでも制御できるよう、文字通り叩き込まれる魔力制御を魔力暴走が起こるレベルで乱してしまうほどの激情を、果たしてカノンは押さえ込むことができるのか?

 

「これは侮蔑と捉えられるかもしれないが、知っておきたかったことだ。魔術師として容認できない問いだろうが、後で幾らでも謝る。そこはどうなんだ?」

 

緊張。目の前のパートナーは俺の問いを最期まで聞き、ゆっくりと口を開いた。

 

「実のところ、私は半人前の魔術師なんです。」

 

「半人前。」

 

「ええ、とある事件で、私は強制的に魔術師となる道を選ぶこととなり、ただ適性のあっただけの操具師として町の外に出ました。その頃は、あの子達しかいなくて、魔術師、操具師としての技術的な情報も限られていました。だから、その魔力制御もほぼ勘ですし、あなたのいう魔術師としての技量だって中途半端なんです。嘘を、ついていました。」

 

適性のあっただけ、ではないのと思うが。君は確かに魔術道具を場面で使いこなし、連携も問題がなかった。嘘もついていなかった。カノンは確かに疑問に思ったことはわからないこと、できないことはしっかり口に出していた。俺がそこら辺の"当たり前"を、訊いていなかっただけだ。

 

「....ツッコミが欲しいんですか? そこら辺の実践経験、知識を、多くの本を教えてくれたの、あなたじゃないですか。あの子達(シグニ型)しか知らなかった私に色んな魔術道具を教えてくれたのもあなたですし。色の視えるあなたからすれば、連携だって手に取るように人に合わせられるでしょ? 嘘だって、訊いてこないことをいいことに、それを突き通していました。」

 

パートナーとなって数年足らずである。

 

「もう数年ですよ、パドナ。ともかく、私が町を出る羽目になった事件に、『勇者』が、サーカランが関わるんです。」

 

ああわかった。把握した。いつもの(サーカラン)か。うんまあ、俺は何も言えんし、もう一度言うが聞くことはしない。魔力制御は....専門じゃないし、ジャンル違いだが基礎ぐらいは教えてあげられると思う。じゃこのお茶飲んで解散しますか。おつかれー。

 

サーカラン国。最大規模の宗教国家にして、軍事にも力を入れている大国。強引ともいえる資源徴収に、軍事研究、派閥抗争など、陰謀論の絶えない不透明さ、故に「サーカランか....」で皆察せるような、そんな国。かの国の代名詞、『勇者』にしろ、信仰原理式にしろ、その確立と維持の方法には疑問がある。あの術式は本来、成立し得ない筈の______「ちょっとまてい話がはやい! いやまあ教えてくれるのは嬉しいですけど、普通に年単位で経歴誤魔化してたの気にしないんですか!?」

 

おっと、そこは別に....俺は実力主義。あんなに動けてれば気にならん。操具師自体便利すぎて組みたくて飛び付いたわけだし。

 

「その節はどうも.....それでも納得がいきません。実力主義と言いますが、あの子達(シグニ型)が殆どの制御を手伝ってくれててあの程度なんです。私は、パートナーとして命を預かる中で、ずっと公平じゃないと感じていました。口に出せない自分が卑怯に感じていました。だから、だから....。」

 

ペナルティが欲しいってわけか。そう真面目過ぎるのも雇人としてどうかと思うが、まあ、じゃあもう暫くパートナー続行で。

 

「ええ!? それペナルティですか?」

 

ああ、将来有望の希少職な魔術師様を独占するわけだ。いやー儲けものだね。言っておくがお前雇人界隈で凄い狙われとるぞ。

 

「え。」

 

顔良し器量良し技量良し利便良し。この前なんか高ランクパーティーとか女性専用パーティーから猛烈勧誘来てたから蹴ったりしたし。お前には似合わないとかなんとか言われてムカついて.....

 

「いつですか?! 寝耳に水です!」

 

お前さん昼間はグースカ寝てるしな。俺もまあそれっぽく別のパーティーに行く意思ある?みたいなフワッと確認する程度にしてたし。離したくないし。

 

「普通に言ってくださいよ!全然行くつもりありませんし!」

 

色がコロコロ変わって面白いなやっぱり。そういうことなら良かった。俺も勝手に断ってること駄目なことだよなあって思ってたし。

 

「ま、どちらにも良くないことがあったということで、これからもよろしく、カノン。」

 

「あ、よ、よろしくお願いしますです。......え、話は!? これだけですか? 終わりですか? 待ってくださいそのお菓子もうちょっと食べたいんですけど!」

 

いやー、そろそろシグニ型の人払いも限界だしね、後はテントでといきましょうや、相棒。

 

まだまだ食欲溢れる少女の口に余ったお菓子を突っ込んで、もがもが言っている好きに机を畳んでバックにイン。

 

食べ終わって()()()()からウガーッ!に変わった少女から逃げつつ過去を想う。

 

あの日、とある協会の支部で途方にくれていた少女は、ここまで成長したわけで。

ずぶ濡れ、泥塗れ、各種装備無し、青白い顔、覇気のなさ。そしてイヤに高そうな分相応な杖。

完全に曰く付き。手も触れたくない。そんな空気の中を話しかけて今がある。

 

 

『おっと、.....酷いパーティーの全滅の仕方でもしたのか? ここでボーッとしてても悪いヤツに捕まるだけだぞ。ほらほら無くした装備から整えるぞ。こういうのは切り替えが大事だ。ジェシカさん、フォローよろしくお願いします。 了解よ。いつものお店に連絡入れとくわ。装備は任せて。

 

『え、え、あ、ちょ........はい。わかりました。ど、どこに行くんですか?』

 

ああ、知らんぷりし続けるのも大変だったが、

良い拾い物をしたと今更ながら誇ってみることとする。

まあ、多くの周囲の助けがあってのことだが、

最終的に俺の手柄ってことで一つ。いいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 





二日に一本と考えてましたが案の定大幅に書き直したので無理でした。書く時間や構想する時間が欲しいところ。
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