コンゴウ模型にて仲間の帰りを待つ店長は腕を組みながら通路を右往左往する。
近くに積まれていたプラモデルの棚にぶつかり体をよろけさせると崩れそうになったプラモデルを支える。
「……みんな、まだかな~」
徐々に不安を募らせていると、扉の前から足音が聞こえてきた。
信真、紅子、ハルカの3人が帰ってきたのだ。
「店長、遅くなりました!」
「信真…! お前、良く無事で帰ってきたなぁ!!」
少し涙ぐみながら店長が信真の肩を叩く。事情は理解していたとは言え、怪人に襲われて不安を抱いていたのは信真だけでは無かったのだ。
「はい、その…紅子さんのお陰で」
「当然のことをしたまでさ」
紅子はそう言って腰に手を当てると自慢げに笑う。
「紅子、マジで助かったよ。お前がいなければ一体どうなっていたことか」
「再開を喜ぶのはよろしいのですが、事情の説明を優先致しましょう」
ハルカに諭され、店長は咳払いをすると信真のために椅子を用意する。
「まぁとにかく座れや」
疲れているであろう信真に促すと、自分も椅子に座る。
が、ハルカに蹴飛ばされ彼女に椅子を奪われてしまった。
「…俺は立ち話でいいカナ?」
「…はい」
腰をさすりながら立ち上がった店長に信真が1つ問う。
「最初に聞いておきたかったんですけど……店長はなんで敵のこととか紅子さんのことをそんな知ってるんですか?」
「あ~、やっぱ気になるよなソコ」
店長が頭を掻くと、早速自分のことについて説明を始める。
「まず、これから話すことを全て信じて欲しい。オーケー?」
「オーケーです」
信真に一旦確認を取った店長がうなづくと、ゆっくりとその口を開いた。
「俺は別の世界から来た、平和を守るエージェントなんだ」
「前言撤回、信じられないッスね」
だよなぁ、と店長は頭を抱えて唸る。
「…でも、それが真実じゃないと辻褄あわないことがあるんですよね」
「そうだな、大抵の出来事はこの話を信じてくれないと辻褄が合わないな」
眉間にしわを寄せつつも信真は話を整理する。
「店長の言うことなんて基本トンチキですし、今から疑ってもしょうがなかったッスね、信じますよ」
「ちょいディスられた気がしたが助かるぜ」
自分に向けられたささやかな雑言は水に流し、店長は自らの正体を明かす。
彼は世界に蔓延る悪を打ち倒すために組織された平行世界間防衛機関の派遣員、通称『ライドエージェント』であった。
ライドエージェントとして世界の垣根を超えての任についていた店長は別の世界にて猛威を振るう連中、『トワイライト』と対峙したが敗北、取り逃がしたトワイライトの首魁がこの世界に逃げ延びて再び世界を滅ぼさんと活動しているのだ。
自らの失敗によって生じてしまった多大なる犠牲に報いるために店長はこの世界でトワイライトと決着を付けようとしている、というのが現状である。
「―――前の世界…元々俺がいた世界は奴らによって破壊され尽くされた。仲間や家族もトワイライトに殺され、俺だけが生き残っちまった」
「そんな…」
店長の口から告げられた壮絶な過去に信真は言葉を失う。が、店長は気丈にも微笑んだ。
「そう落ち込むな! 俺だけが生き残ったと言ったが、パートナーもいるしな」
うつむく信真を励ましながら店長はハルカの方へ視線を移す。
「ワタクシも金剛様と同じく、別の世界より来たエージェントのサポーターなのです」
「今となっちゃ俺の仕事を手伝うくらいしか出来ないんでふてくされてるが、まぁそれも俺の責任だ」
ホントですよ、とハルカが店長の肩を叩く。
「店長は元々そのエージェントだったんでしょ? 今は力を使えないんですか?」
「あぁ、今は力を使うためのアイテムをこの世界の適任者に譲ったからな」
「適任者?」
適任者、その言葉に引っかかった信真が問う。
その質問に店長は笑うと、信真の後ろから紅子が現れる。
「この世界を守る任を受け継いだ適任者とは……私さ」
鼻高々と宣言した紅子に信真は顔を歪ませる。
「…なんだいその顔は!?」
「店長、なぜ紅子さんに任せたんですか?」
「えっ不服なのかい!?」
店長は少し額をかいて。眉を八の字に曲げた。
「そう言うな信真。彼女がお前に好意を抱いているのは知らなかったんだワ」
「トワイライトをはじめとした世界に蔓延る巨悪…それらに対抗するための防衛機構が世界そのものにあるのです。紅子様は世界に選ばれた悪を討ち滅ぼす防衛力の化身だったのです」
ハルカの説明により信真は紅子が戦う理由について多少理解した。
「エージェントは世界の防衛機構を判断する端末が支給されており、紅子様が敵を砕くために必要なキーパーソンであることには確証がございます」
「勿論少年を守るのが私の義務ではあるが、世界を守りたいとも思っているさ」
「紅子のことについても話しておくか。信真、聞いてくれるな?」
信真がうなづくと、店長は紅子と初めて会った時のことを語る。
それは紅子が信真を初めて目撃し、その衝撃と共に洗脳が解かれてすぐのことだった。
雨に濡れたままの紅子を丁度出掛けていたハルカが発見し、店で保護したのが最初の出会いであった。
紅子は一笑に付されると思いながらも自らの状況を嘘偽りなく語り、彼女がトワイライトアバターであることを知った店長らが自らの来歴も話したことで両者は協力関係を築いた。
特殊な出自を持つ紅子に注目したハルカにより彼女が世界の防衛機構であることが発覚してから店長は紅子専用のライドロムカードを作成、自身がかつて使用していたベルトと共に変身アイテムを託したのだった。
「ちょまっ…そのカードって店長が作ったんすか!?」
「そうだぜ、なんならジェネレートドライバーを開発したのも別世界の俺らしいからなハハハ」
文字通り次元の違う話題に信真はおののく。
紅子が扱っていた”ホーネット”のカードはまるで既製品のようなクオリティに見えたが、確かに今まで見て来た店長の手腕ならばありえない話では無いと考え納得する。
「とにかく…今トワイライトと戦うなら紅子の力を借りるのが最適だと思ったワケだ。実際一度負けた俺が戦うよりも得策かもとは思っている―――だが! 転んでそのままの俺じゃあねぇぞ? ジェネレートドライバーの解析を進めて必ず複製してやる、そんで俺も仮面ライダー復活だ!!」
自らの悲劇にくじけず、これからの目的に燃える店長を見て信真は不思議と元気が湧いてくる。
だが、1つだけ気になる点があった。
それはヴェスタと最初に遭遇したときから気になっていたことであった。
「ずっと気になってたんですけど、その”仮面ライダー”ってなんですか?」
店長が一瞬硬直する。と、瞬く間に信真へ飛びついて目を輝かせる。
「よくぞ聞いてくれた信真! 仮面ライダーというのは、俺たちライドエージェントに伝わる英雄の名前だ!! 数多の世界で因果を超えて受け継がれたその名は、人々の自由と平和を守る象徴的存在なんだッ!!」
「こっわグイグイ来るじゃないすか」
「まぁ私も店長もその仮面ライダーってヤツの本物を見たことが無いんだけどね」
紅子の余計な一言に店長は汗を垂らすが、信真は少し引っかかった部分があった。
「誰かを守るヒーローが仮面ライダーなら、紅子さんや店長はもう本物の仮面ライダーじゃないすか。俺めっちゃ助けられてるし」
信真がこぼした言葉に店長、そして紅子の目から鱗が落ちる。
「オレなんか変なこと言いました?」
「いや…なんか救われた気持ちになっただけだ、ありがとう信真」
店長のまっすぐな感謝と共に頭を撫でられる。
「……さて、情報が混乱するのも良くないから説明はこの辺にしておくか。今日は疲れただろうから信真は帰っても大丈夫だぞ」
「そうは言いますが、またトワイライトアバターに襲われるかも知れないんですよね?」
「怖いのかい信真少年?」
「そりゃあ、当たり前っすよ!」
語気を強めた信真に紅子は押し黙る。
「俺は死にそうになってるんです、死ぬのは痛いし怖いじゃないですか。自分にとって大事な人がいてももう会えなくなるし…もう、本当に嫌なんですよ!」
「だったら私が守る、君は死なない、死なせないよ」
いつになく真剣な表情の紅子に信真は気圧されると共に、彼女の気高き決意に安堵も覚えた。
「紅子さん―――」
「と言う訳で信真少年が帰宅するならば私も同行するのでヨロシクね」
「えっ」
「あの?」
「その?」
――
「お邪魔するよ、フフフのフ」
気付けば、紅子は竜胆邸の玄関を上がっていた。
強情な紅子の勢いに負けて帰り道の護衛を任せたは良いものの、なし崩し的にここまで来られてしまった。
他人の女性を家に上げてしまった戸惑いの中、信真はトワイライトアバターから常に身を守る術がこれしか無い事実との葛藤を繰り返していた。
(圧強めに頼まれたら断れねぇよ…俺の意志薄弱バカバカバカ…でもあの怪人はこえーし……)
「悩むことは無いさ、私は下宿先を探していた旅人で、君が快くここに滞在させてくれている…それだけだろう?」
「早速カバーストーリーまで用意してるし…」
紅子は信真の家に上がれた興奮から高笑いしながら彼の肩を叩く。
「別に手を出したりはしないさ! だが”サービス”はするよ?」
「紅子さんがそんなに下品な方とは思わなかったですよ」
「おっと、”サービス”ってのは家事代行だからね? これでも料理は得意なんだ」
まるで信真をおちょくるような彼女の発言に信真は苛立ちを見せる。
「まぁ敵から僕を守ってくれることは本当にありがたいので一応家族には説明しておきますが、あんまりウチの物に触らないように、あと俺の部屋は侵入禁止ですからね!!」
「流石にそこは弁えるさ、君に迷惑をかけるためにここへ来たわけでは無いからさ」
弁明する紅子にようやく信真は落ち着きを取り戻し、足早に自室へと戻る。
「僕はあるもの食べて寝るので紅子さんは自由にしていてください」
突き放すように告げてドアを閉める信真に、紅子はただ茫然と立ち尽くすしか無かった。
「こういう時、前の私ならばどうしたのだろうか」
紅子が手の平を眺めていると、信真の声が聞こえて来た。
「折角だし、外でご飯でも食べに行きましょっか」
「少年…君という奴は本当に―――」
「なんすか?」
なんでもない、そう呟くと紅子は再び外出の準備を整える。
「何食べましょっか」
「何でもいいさ、君と一緒ならね」