仮面ライダーヴェスタ   作:虎ノ門ブチアナ

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5TH LOVE 機械は涙を流せない

「お前がどんなにボロボロになっても俺はこの店で待っていることしか出来ねぇんだぞ…無茶しやがって」

 

 紅子の右腕に応急処置を施す店長はそう呟くと不機嫌そうに作業を続ける。

 いつもは明るい店長が顔を曇らせていると、それだけで場の空気が重く感じる。

 

「俺に出来ること、何かありませんか? 見てるだけなんて辛いです!」

「…おう、そしたら今預かってるおもちゃの修理を引き継いでくれ。しばらく時間あんだろ?」

 

 はい、と信真が応じると、店長のデスクに広げられていた電子基板を確認していく。

 学校にまでトワイライトアバターが現れる以上、被害を広げないためにも信真はしばらく学校を休むこととなった。退屈な場所ではあったが、通えないとなると内申点のことが頭によぎる。しかし今は学校にいる人々の安全を優先する他無いと先ほど全員で話しあって決めた。

 

「店長も信真少年もあまり気にしないでくれ、痛みも無いしすぐに直せるものだからさ」

「すぐにっつっても2日はかかるぞ? 元の腕は消し炭になっちまったそうだから1から作んねーといけないんだからな」

「いやぁ手間をかけるね…店長がいてくれて助かったよ、はっはっは」

 

 完全に開き直っている紅子の感謝に店長は呆れながらも少しだけ笑顔を取り戻した。

 その様子に信真、そして誰にも言わないまま気を揉んでいたハルカも胸をなで下ろす。

 

「紅子さん、何か不自由なことがあったら気兼ねなく言ってください。俺手伝います」

 

 いつになく心配する信真に紅子は薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「じゃあ着替えを手伝ってもらおうかな…?」

「ちょ、調子に乗らないでください!!」

 

 赤面する信真を見て紅子は一笑いすると、そういえば、と一言呟いて話題を変える。

 

「私の腕を切断したのは敵の持っていた武器、黄色い鎌だったんだ。あれは恐らくあの怪人のモノじゃないだろうな…店長は何か知らないかい?」

「黄色い鎌…!? そりゃトワイライトの幹部である上級怪人、『イエローマンティス』の武器だ! アイツの鎌は大型トラックをも一刀両断するような鋭さを持つヤベー代物なんだ……アンニャロやっぱり生きてやがったか」

 

 店長が語るイエローマンティスという怪人は、以前の世界にて店長を苦しませた強敵であった。

 冷酷無比、残酷かつ凶悪。血を好み、争いを好む狂人。

 戦いを享楽(きょうらく)とするようにトワイライトアバターは洗脳されるというのだが、イエローマンティスだけはその心根から邪悪であったという。

 その強さと腐った性根は今思い出すだけでも吐き気を催すほどである。

 

「そんな相手がいるんですか……紅子さんは勝てるでしょうか?」

「勝てるって信じることが大事なんだ、弱気になってちゃ勝てるモンも勝てねぇぞ」

 

 無根拠な暴論ではあったが、ここでネガティブになっても仕方が無いというのは正しかった。何も考えずに不安を口走ってしまった信真は自責する。

 

「ま、どんな相手だろうと私ならば勝利してみせるさ。心配はいらない」

「余裕ぶっこきやがって…だが期待はしてるぜ、紅子」

 

 破損箇所の確認をすませた店長がそう言うと、紅子は相も変わらぬ不敵な笑みを見せる。

 

 と、ハルカが持っていた端末から軽快な通知音が鳴り響く。

 

「? スマホすか」

「いえ、この端末が機関より支給された端末です。この通知は……」

 

 通知の内容を確認したハルカは重たいため息をつくと、渋い顔で店長を呼ぶ。

 

「オイオイまさかな…」

「はい、トワイライトアバターが出現しました」

 

 先ほどの通知は、敵が現れたことを知らせる報であった。

 それを見た店長は右腕を損傷している紅子の様子を鑑みて自ら出動しようとジェネレートドライバーを探す。が―――。

 

《ジェネレートドライバー》

 

「お探しのモノはこれかい?」

 

 店長が振り返った先で紅子がベルトを装着していた。

 

「おま、紅子何してやがんだ! ソイツをよこせ!」

「やーだね、この世界は私が守るから店長は座っていてくれよ」

「ふざけるな! 右腕を失ってるお前に何ができる!?」

 

 激昂する店長に、紅子は指をさした。

 

「そこで震えている店長の代わりに戦えるさ」

 

 店長は紅子に指摘されることで初めて自分が震えていることに気付く。

 手からは汗が噴き出ており、自分が戦いに恐怖していることを意地でも分からされた。

 

「……でも、俺は、ケガをしているお前を行かせる訳には…」

「恐れに支配されている今の店長よりも、紅子さんが戦う方が適任であると考えます」

 

 ハルカから痛烈な意見が下される。いつも店長に当たりがきつい彼女だが、今回ばかりは冷静な判断でそう考えていることが彼女の複雑な表情で見て取れた。

 パートナーからの言葉により店長は考えを改め、紅子を出動させることを決定する。

 

 店舗奥のガレージに紅子と信真を案内すると、そこに置かれていた1台のマシンを包む布をはぐ。

 それはサイドカーの取り付けられたマシンワールドシフターであった。

 

「持ってけ、こういう状況のためにもう1人乗れるようにしといた。信真も行ってやってくれないか」

「俺も…ですか?」

「トワイライトと戦っている状態でも君を1人にする訳にはいかないからね」

 

 店長の考えを紅子が代弁すると、納得した信真はサイドカーに搭乗する。

 

(表立って言えることじゃないけど…何かあったら俺が紅子さんを守らないとな)

 

「それと紅子様、こちらのメモリーロムカードをお持ちください。先の戦いではずっと忘れっぱなしでしたので」

 

 ハルカが手渡したのは以前から戦いの記憶を抹消するために用いていた透明なカードであった。

 今まで紅子が携帯していなかったためにハルカが代わりに使用していたのだ。

 

「すまないねハルカ」

 

 軽く謝罪をすると、紅子はジェネレートドライバー左側面に取り付けられているカードホルダーに挿入しておく。

 準備も終わり、決意を固めた信真と紅子は共に敵のいる地へと向かう。

 

「自動操縦オン、発進するよ!」

 

 紅子が叫ぶと、ワールドシフターはその場で瞬間移動をおこない、敵のいる都市部へ一瞬で到達した。

 

「ふぉぉ…なんか一瞬異次元空間を通ったような…」

「不思議な感覚だろう? 実のところ私もまだ慣れない」

 

 2人がそう言っていると、目の前に敵の姿が見える。

 

「アイツが今回の敵―――って、あの姿……」

「ああ…あの黄色い体色に蟷螂(かまきり)を模したシルエット、間違いない…奴だ」

 

 イエローマンティス。

 2人の脳裏にその名が浮かんだ。

 店長が恐れるほどの強敵が、目の前にいる。

 

「最悪なタイミングだよ全く…信真少年、君はここにいたまえ」

「紅子さん…俺……」

「待っていてくれ」

 

 静かにそう告げると、紅子は逃げ惑う人々をかきわけてライドロムカードを取り出す。

 

「変身」

 

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”ホーネット”》

《激しく刺し穿て!》

 

 変身音が轟き、それを聞きつけたイエローマンティスがヴェスタに気付く。

 

「仮面ライダーヴェスタ……刺激的にいこうか」

 

 先手必勝、その言葉を胸にヴェスタはイエローマンティスの背後を取り、蹴りを食らわせる。

 速攻の一撃にイエローマンティスが体勢を崩す。

 それを好機と見たヴェスタはさらに攻撃を与えようと再び蹴りの姿勢に入ったが、寸前で足を後ろに下げ重心を後部へ持っていく。

 その瞬間、ヴェスタの前方をマンティスの鎌が疾走した。

 

(イエローマンティス…不意打ちに弱いと見せかけて私の攻撃を誘い、逆に不意打ちをしかけてきた…!)

「今のをよけるとは流石だね、この世界の守護者、ちゃん」

 

 女性の声でそう告げるのは、ヴェスタの攻撃をびくともせず反撃してきた策士、イエローマンティスであった。

 トワイライトアバターが有する髑髏(どくろ)の面が不気味に笑っているようにも見えた。

 

「店長からは聞いていたけれど、あの黒いアバターとは比にならない強さだね。まいったよ」

「え? まだ余裕って感じですかぁ? まぁいいけどォ、ボクぶっちゃけ―――」

 

 瞬間、イエローマンティスが消えた。

 

 (いな)、消えたように見えるほどの速度で移動していた。

 その証拠に彼女はヴェスタの背後から現れ、口をヴェスタの耳元に近付けて来たのだ。

 

(速い…!)

「アンタより強いよ♡」

 

 ヴェスタが気を取られた隙に、イエローマンティスの鎌が彼女の首元を狙う。

 反撃して回避しようとヴェスタは右腕を振り上げるが、そもそも”失っていた”。

 

 完全に出遅れたことにより、万事休すと相成ったヴェスタだったが、なぜかイエローマンティスが鎌の刃先を揺らし、少しだけ力を弱めたのだ。

 たった一瞬のチャンスを逃すまいとヴェスタは首から体を横へずらして鎌を回避すると、イエローマンティスへ蹴りを食らわせて距離を取る。

 

「誰、ボクに石なんてぶつけたの? おかげでレッドベスパ(蜂女)を仕留めそこなったじゃない!」

 

 イエローマンティスが怒りをあらわにしながら辺りを見ると、ヴェスタの後方に少年がいるのを見つけた。

 信真が石を投げて彼女の注意をそらしたのだ。

 

「おやおや、アンタが邪魔してくれちゃったワケ…殺すわよ?」

 

 明確な殺意が信真にぶつけられる。その気迫に負けた信真はその場で立ちすくむ。

 その間にイエローマンティスが距離を詰めるが、ヴェスタが不意を突いて勢いを乗せながら足で彼女に組み付く。

 

「からの!!」

 

 組み付いたままのヴェスタは遠心力を使ってイエローマンティスの体を軸にして回転し、勢いに任せて彼女を吹き飛ばす。

 この妙技はプロレスにおける”人工衛星ヘッドシザース”である。

 腕力を最小限にしつつイエローマンティスに一撃与えたヴェスタは無事着地するとその場に転がったイエローマンティスをまっすぐ見すえる。

 

「信真少年、今のうちに逃げるんだ。これで…決める!」

 

《インジェクト・エフェクト・ジェネレート―――イクイップメント・”スタブ”》

《刺し貫け!》

 

《ホーネット! スタブ! 最終激破!》

 

 現状持てる最大戦力でイエローマンティスを撃破せんとヴェスタが構える。

 

「しまったしィ!」

 

 焦るイエローマンティスをよそにヴェスタが突進する。

 

「…レッドピアス」

 

 助走をつけたヴェスタの蹴りが立ち上がったイエローマンティスへと炸裂する。

 

「いったああぁぁぁ!!」

「店長との因縁も含めて、ここで終わらせるッ!!」

 

 

「―――なんてね♡」

 

 イエローマンティスが蹴りを食らいながらも、自らの鎌でヴェスタの両足を斬り落とす。

 それにより攻撃の威力がかき消され、ヴェスタもそのまま落下する。

 

「あー痛かった、でも痛いだけで済ますワケないからね?」

 

 残った左手で再び必殺技のシークエンスをおこなうヴェスタの腕を掴み、そのまま鎌で引き裂き切断する。

 機械の体ゆえ痛みは無いが、自分の体を切り刻まれる光景にヴェスタは息を荒げる。

 

「このまま全身バラバラにしちゃおっかな~~~」

 

 興奮を抑えきれないと言わんばかりの甘い声色を漏らすイエローマンティスにヴェスタはただ退くことしか出来ない。

 このままではマズいと察知した彼女はマシンワールドシフターへと体を()わせる。

 

 と、ヴェスタの危険を察知した信真が彼女のベルトとホルダーに装填されていたライドロムカードを引き抜き、変身を解除させるとそのまま背負って走り出す。

 

「少年、何をするんだ!?」

「鎧のままじゃ運べないッスからッ!!」

 

 紅子をワールドシフターに無理やり乗せると、直前にヴェスタから引き抜いていた透明なカード、メモリーロムカードを放り投げ、その場の修復と共に人々の記憶を消す。

 

「逃がさないってばッ!!」

 

 イエローマンティスの鎌が射出され、ワールドシフターへと飛んで来る。

 が、それと同時に瞬間移動をおこない、その場から離脱する。

 

「あーあ…逃げられちゃったわ。でもいいや、生き血を見れてサイコーだったし~死~♡」

 

――

 

 コンゴウ模型になんとか帰還した紅子が、息を枯らしながら信真へと声をかける。

 

「災難だったね、少年…」

「…紅子さん」

「? どうしたんだ、少年…様子がおかしいぞ!」

「はぁ…あの……なんだっけ、あの鎌に斬られたみたいで」

 

 そう言って笑う信真がもたれかけるサイドカーのシートには血がにじんでいた。

 

「背中を見せたまえ!!」

 

 急いで紅子が信真の体を横にして背中を見る。

 その傷は肩から胴まで開いており、溢れる血で患部がよく見えなくなっていた。

 

「店長! ハルカッ!! 今すぐ救急車を!!」

「あ、多分間に合わないッスねクソが……」

 

 悪態をつく信真だったが、すでに呼吸すら苦しいほどの容体となっていた。

 

「最期…アイツ紅子さんを狙ってたから、思わず体が動いちゃいました」

「喋るな! 傷が開く! 今…”今私が助けるから”!!」

「困ってる人がいたら助けろって…約束、したから……俺、やって、みたよ―――」

 

 信真は最後に天井へと手を伸ばすと、力尽きて重力に従うまま手を降ろす。

 彼の命は、尽きていた。

 

「……!」

 

 紅子は、ただ言葉を失い、呆然としていた。

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