仮面ライダーヴェスタ   作:虎ノ門ブチアナ

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8TH LOVE なくなった愛と、なくならない愛

「…ここは」

 

 紅子が意識を取り戻すと、それに気付いた信真が駆け寄る。

 

「紅子さん、おはようございます」

「君は―――」

 

 紅子が信真を見つめるその目は、いつもの嬉々としたものでは無かった。

 

「君は、誰だ?」

 

――

 

 

「紅子さん…何も覚えてないんですか……?」

「何かの怪人に襲われて、レッドベスパと呼ばれる同類になってしまったのは覚えている、が…なった後にどうしてここにいるのかは全く覚えていない。無論君のことも」

 

 気分が悪そうに眉をしかめる紅子に、信真は動揺する。様子を見にきた店長らもその姿には驚くが、こうなってしまった理由に関しては明白であった。

 

「こりゃブラックフォルトの影響だ。あの強化形態の副作用として生じた電脳の故障によって記憶が復元された、と言っても間違いは無いだろう」

「記憶が復元されたって……」

 

 信真が紅子の方に視線を向けると、紅子は怪人になる以前の記憶を保有している旨の発言をしていた。

 

「そう、私は以前は研修医をしていて…直近にあった出来事? まぁ色々あったけども……」

 

 ハルカの恰好を気にしながら経緯を説明する紅子を尻目に、店長も信真へと事情説明を続ける。

 

「信真…紅子は怪人になる前の、本当の彼女の記憶を取り戻している」

 

 そうか、と信真が自分を納得させるように呟くと、そのまま口を閉じた。

 

「本当に紅子さんは、俺のこと、忘れてるんですね」

 

 信真のことを忘れた紅子は、彼を気にしながらも、自らの素性を語る。

 

――

 

 医大生、朱音紅子は東京の大学病院にて外科の勉強をしていた。

 その中で彼女は研修先にてある男性医師と出会った。

 

 詩白 思(ししろ おぼし)。彼は紅子に医療技術を教える先輩であると同時に、彼女の心の師でもあった。

 

「詩白先生、お疲れ様です。今日も急患でヘルプに入ってたと聞きましたが…最近休んでます?」

「やあ紅子くん。君が労ってくれるなんて明日は雨だな」

「茶化さないでくださいよ」

 

 自販機の横にあるソファで休む思の姿に、紅子は研修医として一抹の不安を抱えていた。

 

「日々の不摂生は心臓に負担を与え、あっという間に命を落とす可能性だってあるのですから」

「あぁ、さっきの急患さんもそうだったね……急性だとどうしても救いきれなくて参るよ」

 

 どうやら先ほど彼が参加していた手術は良い結果にならなかったらしい。

 自販機で買ったコーヒーを飲み干すと、思は大きなため息をつく。

 

「僕や君も、明日どうなるか分からないな」

「なんですか急に」

「いや…あまり悲観的になるつもりは無いのだが、自分の気持ちは生きていないと伝えられないなと思って」

 

 思の言葉にピンとこない紅子はええ、と空返事をよこす。

 

「君は大切な人を失ったとき、心まで失ってしまわないだろうか?」

「……どうしてそんなことを」

「君がお父さんを亡くしたとき、立ち直るまで3年かかったそうじゃないか。僕は心配なんだよ、僕がいなくなったら君どうなっちゃうんだい?」

 

 紅子が言葉を詰まらせる。

 

「そうだ、紅子くん……君には”愛”を忘れないで欲しい」

「愛、を…? 急にロマンを語られても理解に苦しみます」

「ロマンってことは無いだろう、愛ってのは人の根源であると私は考えているんだよ」

 

 人の根源。それを聞いた紅子は今までの過去を思い出す。

 ”誰かを愛する”。その想いによって大きな力が生まれ、消えていく。

 愛に喜び愛に憂う、人間の厄介な感情の浮き沈みは紅子にとっても身近であった。

 

「愛は人の強さであり、弱点にもなりうる。大好きな人との別れで人は途端に脆くなる…君は特にその傾向が強いみたいだ」

「笑えますね…おっしゃる通り私は誰かとの別れが死ぬほど辛い、ですよ」

 

 鼻で笑う紅子に、思も笑うと、ソファから立ち上がる。

 

「僕もそろそろ業務に戻らないと……最期に、紅子くん」

 

 紅子が視線を向けると、思は神妙な面持ちで告げる。

 

「もし僕がいなくなっても、君は自分を、誰かを愛することを忘れないでほしい」

「…縁起でも無いこと言わないでください」

 

 そうだね、と思が笑うと紅子を撫でる。

 

「愛に素直になるんだ、過去の愛に縛られず生きろ」

 

 思の意味深な言葉に紅子は言葉を失う。

 彼女が抱いていた不穏な予感は、間も無く的中することになった。

 

 

 急性の心臓病により思は旅立った。

 

 まさか彼の言葉が本当に遺言になるとは、紅子は想像もしていなかった。

 あれらの行動は、彼の直感的な予感だったのかも知れない。自分に覚えていてほしいことがあったのだろうか。数多(あまた)の考えを並べるが、結局どれもどうでも良くなった。

 ただ、自分を育ててくれた師が、愛していた人が、いなくなってしまった喪失感が反復される。

 

(愛なんて……思い出せないよ―――先生)

 

 心が折れてしまい、泣き疲れて街をさまよう紅子のもとに、派手な格好の青年が現れた。

 

「君~♪ 今ァ♪ 愛を失っているゥ~♪」

「なにか…用ですか…宗教とかは結構ですよ…」

「なァに♪ 教えでは無い♪ これは♪」

 

 と、青年は針を取り出し、紅子の首元に素早く刺した。

 

「”侵略”さ♪」

 

 

 気付いた頃には、紅子の体は機械に移され、トワイライトの手下となっていた。

 

――

 

「という記憶はあるのだが、あの組織に操られていたはずなのに意識はハッキリとしている…何故だろうか」

「それは―――お前が愛を忘れないでいたからじゃないか?」

 

 店長が言い放つと、紅子は呆けた顔を見せる。

 

「愛を…? いいや、私はあの頃から何も立ち直っちゃいない…こんな不格好な言い回しも結局過去の恩師を追っているに過ぎないし…」

「ったく、もうじれってぇから言っちゃうけど、お前はそこの高校生に一目惚れして洗脳解けてんぞ」

 

 店長が親指で信真をさす。

 その言葉に紅子は言葉を失う。しかし、その表情は疑いを含んだものでは無かった。

 

「―――ふ、ふふふ……あぁそうか、私が、君に惚れたか……」

「なんか不服すか? 俺が言うのもなんですがマジでそうだからこっちとしては笑えませんよ」

「いいや笑えるよ、記憶が無くとも以前の私の気持ちを理解してしまえるのだから」

 

 そう言って笑う紅子の姿は今までの彼女となにも変わらない様相であった。

 彼女の微笑みに信真はようやく安堵を覚える。

 

「きっと私は言っていなかっただろうが、少年…君を好きになったのは―――」

 

 

 機関の端末から通知音が鳴る。

 それはトワイライトアバターの出現を告げる非日常の開幕を告げる呼び声のようであった。

 

「電話? 気にせず出てくれたまえ」

 

 紅子の気づかいに一同は閉口してしまう。

 と、外へ出かけていたユカリが凄まじい速度で戻ってきた。

 緊急用に持たせていた信真用の端末から同じ通知を受け取ったのだ。

 

「主さま!」

「分かってる…ってユカリその恰好は?」

「現代に合わせた格好に衣替えしたでござる…今はそれよりも!」

 

 ユカリがハルカに頼まれていた少年ジョンプを彼女に渡すと、信真と共に店の奥へと進む。マシンワールドシフターで出動するのだ。

 

「何が起こっているんだい?」

「紅子はここにいてくれ。ちょーっと用事でな」

 

 腑に落ちない様子の紅子だったが、今の状況で戦闘に巻き込むのは信真、店長共に本意では無かった。

 

「信真、マズかったらすぐ教えてくれ。紅子の代わりに俺が行く」

「店長だって戦える状態じゃあ無いじゃないですか、俺だけでも大丈夫ですよっ」

 

 店長を冷やかすように言ってみせる信真に、店長は眉を吊り上げる。

 

「確かに戦うのが怖い、辛い。でもなぁ…お前を失いたくないんだ!! 誰かを失うのは二度とゴメンだッ!!」

 

 初めて店長から怒られた―――その衝撃が信真の心を改める。

 

「ごめんなさい、店長…頼りにしてます!」

 

 2人が首を縦に振ると、信真はユカリを連れワールドシフターで移動する。

 

「店長さん、さっきの話聞こえたけれど…」

「えっと? 別に大したことじゃねぇから気にしないでくれ」

「いいや気にするさ。戦う? 失う? なんだか物騒じゃないか」

 

 押し黙る店長に紅子は怪訝な眼差しを向ける。

 

――

 

「よっし、到着だな」

 

 ワールドシフター、そして接続されたサイドカーから信真とユカリが降りる。

 と、逃げ惑う人々の中心に蒼いコウモリ怪人が立っていた。

 

「ワシの名はブルーバット。トワイライトアバター幹部…貴様を倒す者じゃ」

 

 早速名乗りを上げた怪人―――ブルーバットは持っていた軍刀を信真へと突き出す。

 

「わー話通じ無さそー」

「主さま、敵幹部ならば気は抜けないでござる」

 

 ユカリの助言に信真がうなづくと、ベルトを装着する。

 

《ジェネレートドライバー》

 

「変身!!」

 

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”ドラゴン”》

《激しく(ひるがえ)せ!》

 

 早速信真が変身し、その姿を竜胆の戦士へと変える。

 

「仮面ライダーリンド、刺激的にいくぜ」

「ブルーバット、敵を()つのみ」

 

 双方が同時に空へと飛び立つ。早速、制空権を確保し優位に立つ戦術を拮抗(きっこう)させる。

 

「まず空を取る。予想するまでも無いな」

「なんすか? 俺の動きを見切るっつーんすか!?」

「見切る? いいや、既に貴様のような素人の戦いなど見切っているぞ」

 

 高々と指摘するブルーバットに、リンドが突撃する。

 

「前から攻めて右手左手、後ろに回り込んで右手左手…貴様の動き、手に取るように分かるぞ」

「ッ! かわすなッ!!」

 

 リンドの猛攻むなしく、全ての攻撃が回避される。

 今度は”アームド”のロムカードでユカリセイバーを装備する。

 

《インジェクト・エフェクト・ジェネレート―――イクイップメント・”アームド”》

《掴み取れ!》

 

「主さま、どうかお気を付けて」

「ありがとう!」

 

 ユカリセイバーの斬撃がブルーバットをかすめる。その威力は彼を怯ませるほどであり、その隙にリンドが間合いを詰める。

 

「っらぁッ!」

 

 近距離からもう一撃ユカリセイバーを振るうが、ブルーバットの軍刀がそれを防ぐ。

 しかし、威力勝負に押し負けた軍刀は折れ、刃先が吹き飛ぶ。

 

「どうした、折れちまったぞ!」

「中々の力じゃ、しかし力だけで勝負になるとは思わんでくれよ」

 

 油断したリンドの足をブルーバットが引っかける。

 思惑(おもわく)通りそのまま転んだリンドの腹へと、ブルーバットの拳が打ち込まれる。

 

「ッぐはぁっ!!」

「隙だらけじゃな、口ほどにも無い…」

 

 あまりもの痛みにリンドはその場で転がり回る。

 

「ってぇぇ! いてぇえええよォッオ!!」

「フン、その程度の痛みで叫び回るとは、無様」

 

 今度はブルーバットがリンドの首を掴み、力を込める。

 徐々に締まる首元に、リンドは腹部の痛みを忘れたように苦しみもがく。

 と、剣から変化したユカリがブルーバットに組み付き、リンドを掴む腕を極める。

 

「くっ!」

「主さま、今のうちに態勢を整えるでござる!」

 

 ブルーバットはユカリを引きはがそうとするが、一瞬で剣へと変化し、回避する。

 その様子に気を取られた彼はリンドからの蹴りを食らう。

 続けてリンドが背後を取って鉄拳を突こうとしたが、そのまま腕を掴まれて背負い投げられてしまった。

 

「読めるといっておろうが!! 戦うのならば瞬間瞬間で新たな太刀打ちを見いだせ! 隙間無く攻撃を敷き詰めろ!!」

 

 投げ飛ばされ地面に叩きつけられたリンドがまるでボールのように弾む。

 強い衝撃を受けながら宙に浮かんが彼をブルーバットのかかと落としが再び沈める。

 

「―――ッ!!」

 

 言葉にならない叫びがこだまする。

 全く相手にならない。

 何段階も格上の相手に、リンドは手も足も出ないまま蹂躙されていく。

 その様子にユカリは早急に店長へ連絡する。

 

「店長殿! 主さまが危険でござる! 敵は幹部、どうかお力添えを!!」

 

 その嘆きを含んだ願いに、店長は手を震わせながら歯を噛み締めた。

 

 

「紅子…俺たちの戦いは、説明した通りだ。お前は危険だから絶対に関わるなよ」

「待ってくれ店長…あなたが、今から行くというのかい?」

「そうだ、どんなに怖くたって命は待っちゃくれない。医療だってそうだろ? 不安や疲労は、大切なモノを守らなくていい理由にはならないだろ」

 

 店長の正論に紅子は何も言えなくなる。

 

「別に2人揃って死にに行く訳じゃない。俺が行って、信真助けて、仲良く帰って来る…それだけじゃねーか」

 

 そう言うと、店長は紅子用のジェネレートドライバーを持つと、もう1台用意してあったワールドシフターにまたがる。

 ハルカも何も言わずにサイドカーへ乗車すると、準備完了の合図として親指を立てる。

 

 彼らは言葉を交わさず、妙とも言える落ち着きで敵地へと向かう。

 ただ1人取り残された紅子は、何も分からない自分に良くしてくれた親切な彼らの無事を願って、ただ祈ることしかできなかった。

 

――

 

 一方のリンドは、その後もなんとか奮戦し、ブルーバットに微小の手傷を負わせながら持ちこたえていた。

 

「その執念と忍耐は歴戦の勇士とも劣らない…凄いぞリンド。何が貴様をそうさせる?」

「約束したんだ、大事な人と! 困っている人がいたら助ける…それだけだ!」

「それだけ? そんなやる気だけでそこまでの力になるかの?」

「なるさ! 言い換えるなら……このパワーは”愛”だ!!」

「―――!!」

 

 愛。その言葉を聞いた途端、ブルーバットが足を止め、頭を押さえはじめる。

 何が起きたのかは分からないが、その隙に攻撃を与える。

 先程まで単調と(あざけ)ていたリンドの殴打(おうだ)が次々と通る。

 

(今ん内だ…!)

《ドラゴン! アームド! 最終激破!》

 

 怯み続ける敵へと必殺技を放つリンドだったが、その瞬間復帰したブルーバットはいともたやすく回避してしまった。

 

「なッよけ―――!」

 

 空中で無防備になったリンドの下に潜り込んだブルーバットによって、アッパーカットが炸裂する。

 超強力と表現可能な打撃は、リンドの顎を砕き、変身解除と共にノックアウトさせる。

 

「やはり素人…貴様がワシに勝とうなど、100年早いわ!!」

 

 主の敗北にうろたえるユカリに、ブルーバットが迫る。

 

 と、ユカリの背後からバイクが出現する。

 

「…店長殿!」

 

 ユカリが笑顔を見せると、同乗していたハルカがメモリーロムカードを消費して信真の傷を癒す。

 

「パートナーならば相手をいかに支えるか考えて下さい。命が失われればそれまでですから」

「は…はッ!」

 

 ハルカの叱責にユカリが頭を下げると、店長がユカリを小突く。

 

「いっつも俺をアゴで使ってるお前が言うな! それと信真! もう立てるな? いや立てなくても立てよ」

「あざっす、ハルカさん、店長……俺ァ立ちますよ、守りたい人がいる限りなァッ!!」

 

 2人が同時にベルトを装着、ライドロムカードを差し込む。

 

「店長こそ、もう大丈夫、なんすよね!?」

「誰に言ってやがる? 俺は藤村金剛、平和を守る仮面ライダーだぜ!」

 

 不敵に笑うと、互いに変身の態勢を取り、唱和する。

 

「変身!!」

 

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”ドラゴン”》

《激しく(ひるがえ)せ!》

 

《インジェクト・エージェント・ジェネレート―――フォーム・アット・”パンドラ”》

《希望を指し示せ!》

 

 竜胆の戦士と…藤色と金色の線が走る鋼色の戦士。

 凛々しい口の意匠が入った仮面の戦士の手は、もう震えていなかった。

 

「仮面ライダーリンド、もいっちょ刺激的にいくぜ!」

「仮面ライダーオイオノス―――背負いし想いを胸に!!」

 

 両雄並び立ち、ブルーバットへと身構える。

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