ブルーバット対リンド、オイオノス。
一瞬の静寂をまたぎ、戦いの
今度はブルーバットからの先制攻撃が繰り出される。
凄まじい速度でリンドとの距離を縮め、足を突き出し腹部へと蹴りを決める。
しかし間一髪でリンドが飛行していたため、その威力は空中で低減し有効打とはならなかった。
その隙にオイオノスが”アームド”ロムカードをベルトへと装填、起動させる。
《インジェクト・エフェクト・ジェネレート―――イクイップメント・”アームド”》
《掴み取れ!》
それに応じてハルカが変形、オイオノスの右腕に接続され、腕を覆うような形状の複合兵装となる。
「カセット、マシンガン!」
オイオノスの叫びと共に複合兵装「カセットアーム」が変形、その名の通りマシンガンが展開される。
マシンガンアームによる銃撃がブルーバットを射抜く。大した威力では無いが、不意を突かれた彼へのダメージとしては有効であった。
「くっ、
「まだまだ出るぜ…カセット、ロープ!」
続いてカセットアームから鉤爪を展開し、ブルーバットへと投げ込む。
無論かわそうとするブルーバットだったが、リンドがタックルしたことでそのまま拘束されてしまう。
「サンキュー信真!」
「店長、しばらくそのまま掴んどいてください!」
《インジェクト・エフェクト・ジェネレート―――イクイップメント・”アームド”》
《掴み取れ!》
リンドも武装し、臨戦態勢を整える。
身動きが取れないブルーバットに対して必殺技をしかけるのだ。
《ドラゴン! アームド! 最終激破!》
「まずいッ!?」
焦るブルーバットをよそに、リンドはベルトを操作し、ユカリセイバーを振るう。
「ユカリセイバー…エンドォォオオオ!!」
しかし、ブルーバットはある秘策を握っていた。
「――――――ッ!!」
それは、コウモリが飛行する際に放つ超音波であった。
ブルーバットの場合、それは強力な音波攻撃として使用される。
本人が直接の戦闘を好むためにあまり使用していないものだったが、自らの状況が悪化したことで最終手段として致し方なく行使したのだ。
超音波と言っても人間が聞き取れない音、というより大音量を発生させることによる体内への攻撃といった方が正しい代物であった。
すなわち、その音波は人体への無差別攻撃と
「バカうっさ…!」
そう悪態をつくリンドだが、鼓膜が震え、何も聞こえない上に吐き気をもよおしていた。
戦闘不能になり地へと落ちる彼に加え、地上にいたオイオノスも体の脱力を覚える。
「やはり人間、音にはめっぽう弱いの」
オイオノスが力を失ったことでロープの拘束から抜け出す時間を得たブルーバットは、そのまま脱出するとライダーらを見て、とどめを刺さんと降り立つ。
「これで
まずはリンドへと歩み寄り、再び首元に手をかける。
と、瞬間、ブルーバットの手首をリンドが掴んだ。
「―――!? まだ動けるだと?」
「計算違いだったかコウモリのオッサン…俺のこと舐めすぎじゃないか?」
息を荒げながらもリンドは立ち上がり、そのままブルーバットを掴んで離さない。
その間にオイオノスもなんとか再起しカセットアームを操作する。
「カセット、パワー!!」
パワーアーム―――万力型の腕へと可変させたオイオノスはそのままブルーバットへ突撃する。
《パンドラ! アームド! 最終激破!》
「離せ、リンド!!」
「そう言われて離すかよ!」
ブルーバットからの攻撃を至近距離から受けてもなおリンドは挫けない。
戦いなどしてこなかったであろう彼がどうしてそれほどの力を発揮できるのか、ブルーバットは理解に苦しむ。
「なぜ立てる!? なぜ力む!? 貴様はなぜ、まだ戦えるのだ!?」
「自分でも正直驚きだぜ、こんなにも強い力が出るなんてな! でも……そんだけの想いを背負って戦ってんだよこちとらなぁ! アンタは何を背負って戦ってんだ!?」
「ワシは―――」
その一瞬の気の迷いが、オイオノスの一撃を許してしまった。
パワーアームの剛腕がブルーバットの体を貫き、破砕する。
「……!!」
「これで終わりだッ!」
腹部に大穴を開けられたブルーバットの爆発を予見し、2人が退避する。
が、全身から火花を散らしながらも彼はなんとか耐えしのぎ、その場から離れる。
「待て!」
追跡するリンドだったが、再度発生させられる超音波によって食い止められる。
ブルーバットが弱っていたためになんとか持ちこたえたものの、リンドとオイオノスが気付く頃には敵の姿は無かった。
「……逃げられた」
「いや、俺たちが無事なだけ儲けモンだ…記憶処理したらさっさと帰ろうぜ」
変身を解いた店長がそう告げると、2枚のメモリーロムカードを重ねて割る。
そうすることで有効範囲と対象者が拡大し、先ほど逃げていったであろう人々の記憶からも戦いのことが消し去られる。
事態の収束を確認してから、リンドが着地し変身解除する。
「それじゃあ帰りましょうか」
――
一同がダイヤ模型に戻ると、紅子が出迎える。
「みんな、無事かい?」
「ああ、なんとかな」
店長が不敵に笑ってみせるが、信真は沈んだ表情のままだった。
「少年、君も無事でよかった」
「……あっ…いや〜出先でまさかまさかで転んじゃってアハハ」
「紅子にはライダーのことを話してある」
店長の指摘に、信真は少し顔を赤くする。その様子に紅子は笑う。が、彼女には気がかりなことがあるようで、すぐに閉口する。
「ところで少年は、まだ私の状況を受け入れられていないんだね。ずっと私の顔を伺っては目をそらしているじゃないか」
「……バレましたか…そうですね、俺、勝てなかったし、紅子さんにしてあげられることも無いし…自分が情けないのであんま言わんといてください」
そう言うと信真は荷物をまとめて帰る準備を整える。
「信真、今回の戦いはけっして負けじゃねぇ。負けってのは何もかも失ったときだ……分かってるよな」
「それでも、俺は悔しいんです! 仮面ライダーになって、なんでもできるって舞い上がってて、格上の相手っつーのを理解してなかった! 店長がいなかったら俺はとっくに…死んでたんすよ」
奥歯を噛み締め悔しさを吐露する信真に、店長は肩を叩いてあげることしかできなかった。
「それはそれとして、帰るなら紅子を連れてってくれ」
その言葉に紅子は店長を二度見してから、驚愕で肩を揺らす。
――
「……へぇ、以前の私は君と同棲、していた訳か」
「そういう距離感では無かったッスからね? 一緒に飯食うだけで、いわゆるルームシェアですからね」
軽快な突っ込みを見せる信真だったが、その面持ちは依然として重たかった。
「…私は以前、君をなんと呼んでいたんだい?」
紅子の唐突な質問に信真は驚きで口を開けた。
「ここまでは少年、と仮称していたがよそよそしかっただろうか……ふむ、竜胆くん? それとも、下の名を呼び捨て、にしていたとか……
「はは…下の名前を呼び捨ててましたよ」
信真が答えると、紅子が目を右往左往させる。
「えッ本当かい? からかってないかい? 一度そのように呼んでみるぞ、いいね? いくぞ? し、ししし、しん」
「冗談すよ。恥ずかしがって信真少年って呼んでましたよ」
「しょ、少年がつくなら多少はマシだな…」
やはり彼女が恥じらいを覚える距離は分かりづらい。
だが、それが彼女らしいと信真は思えた。
「そっか、記憶が無くても紅子さんは紅子さんなんですね」
「らしいね、過去の記憶が無くても私は私らしくやっていたようだ」
2人が微笑んでいると、竜胆邸に到着する。
「なんだか少し懐かしい感じがする…そんなに長い期間いなかったと聞いていたが……」
「まぁここではずっと紅子さんが料理してくれてたし、俺としても紅子さんがいるのが普通になってきてましたから」
信真が照れ臭そうに笑い、扉を開けると、玄関先でユカリが正座をしながら頭を下げた。
「お帰りでござる、主さま」
「この光景は知らないっす」
焦りと共に信真は戸を閉じる。
再び開くと、やはり目の前になぜかいるユカリが場の空気を異様にしている。
確かにユカリのことを忘れていたのは信真の落ち度だったが、鍵も渡していないのに自宅にいるし、心なしか廊下も綺麗になっている。その状況に混乱しない訳が無かったのだ。
「紅子さん、これって夢―――いたた! 何も言ってないのに頬をつねらないで下さいッ!」
「今の私には痛覚が無くてね、君で確かめる他無いのさ」
と、紅子の首筋にスリッパが当てられる。
主を傷付けられたユカリによる威嚇なのだろうが、痛みや恐怖感は全くもって無かった。
「主さまは私がお守りするでござる」
「人の家に勝手に上がっている人が守るも何も…」
目の前でコントでも始まったのか、それともドッキリ番組が始まったのか、突っ込みが追い付かない信真はただただその場で天を
だが、久方ぶりとも思える平和に、確かに幸せも感じるのだった。
「…そうか、ユカリも来てたか。俺はてっきり一緒に帰ってると思ってたぜ」
ようやく事態が落ち着き、信真は自室で店長と電話していた。
「あの後、お互いに自己紹介してもらって、家事の分担表まで作ったんすよ俺」
「そりゃ大変だったな…でも、なんだか疲れてるって言う割には楽しそうだな」
店長の言葉に信真ははっとする。
確かに、自分はこの目まぐるしい状況を楽しんでいた。そして喜んでいた。
それは彼が今まで孤独であったゆえに満たされていなかった、誰かとの時間を体感していたからだった。
店長との電話が終わると、信真は携帯に送信されていたメッセージを見る。
母親から送られてきた体調を心配する言葉―――に見せかけた過度な期待を含んだ説教。
父親による今後の信真がやるべきこと―――と言うだけの身勝手な理想像。
今自分のそばにいない家族からの言葉は、全て薄っぺらで他人行儀であった。
それらのメッセージをしっかりと読むことなく削除すると、1年ほど前で途絶えている別の相手とのメッセージ欄を開く。画面をスライドして過去のメッセージを漁りながら信真は大きなため息をついた。
夜の静けさに少し耳を傾けた後、信真は紅子の寝室の戸を叩いた。
「信真少年、君が私の部屋に来るとは珍しいねぇ」
「あの…紅子さんに少し話があるんですけど」
真剣な表情の信真に、紅子は何か深刻な話であると予感した。
「これから一緒に戦うために、それと、俺の気持ちをスッキリさせるために……聞いてもらいたいんです。俺の、過去の話」
2人がリビングに移ると、紅子が特製のコーヒーを
「これ飲んで落ち着きながら話してくれよ。ゆっくり聴くからさ」
「ありがとうございます」
紅子の気遣いに感謝しながら、信真は彼女に問う。
「話しづらいことだと思うんですけど…紅子さん”も”大切な人を、亡くしてるんですよね」
「そう、詩白思という、今の私を形づくった恩師だ・・・・・・あぁ、恋仲とかでは無いぞ、
「イヤそんなんじゃないすけど、その―――」
「君も、大事な人を
虚をつかれた信真が口を開けるが、間を置いてから鼻で笑う。
「店長にも言えてない話なんすけどね」
「話したいときに話せばいいさ。途中で辛くなったらおしまいにしても構わない」
いつになく優しい口調の紅子に信真は安堵しながら、自らの過去を振り返る。
――
信真が語り終えると、紅子はどうしようも無い感情に揺さぶられ、拳を握りしめていた。
「…あの、紅子さん?」
「・・・・・・今まで君は、その命を背負って戦ってきたのか」
紅子の問いに、そんな、と謙遜するように信真がはにかむ。
「僕がしたのは約束です。それがあるからここまでやってこれた訳で、全然重たいモノとか思ってませんから」
過去の悲しみが今の自分の背を押している。そう説明する信真だったが、彼の表情はあまりにも哀しげなものだった。
彼の孤独、そして深い愛と強い意志を知った紅子は、思わず彼を抱きしめていた。
「えっちょっと紅子さん!?」
「悪いね、しばらくこうさせてくれ」
紅子のわがままに信真はただ静かにうなづき、彼女の腕の中で涙をこぼした。
自分の秘めたる喪失感を誰かに語ったのは初めてだった。
だからこそ、信真が今まで隠していたすべての感情が爆発したようにあふれる。
(私は、信真少年を守りたい―――この気持ち、覚えがある)
信真の幸せを願う心が、紅子の失われたままの記憶へと繋がりはじめた。
「それはそうと、とても心地がいいのでこのまま寝てもいいかい?」
「…そろそろ部屋に戻りましょうね」
――
一方、店長とハルカは先の戦いを振り返って首を傾げていた。
「負けじゃねぇとは言ったが…このままだと俺達はトワイライトに勝てねぇ。俺のいた世界の二の舞にはしたくないところだが」
「はい、という訳で機関へ世界終焉濃度の上昇を審査していただき、新たなエージェントの派遣も決定いたしました」
「抜かりねぇな」
「エージェントは明日こちらへ訪れるとのことなので、それまでにトワイライトが動き出さないことを祈りましょう」
そうだな、と店長が返すと、ハルカが彼の背中を強く叩く。
「信真様の前でそんな顔をお見せにならないでくださいね」
「はは、わーってる。強がりと自信が俺のとりえなんだ。アイツらの前では笑っていらァ」
歯を見せて笑う店長にハルカも微笑む。
「そんじゃ明日の開店準備しとくか! ハルカ、修理完了したおもちゃを仕分けしてレジ横に出しといてくれ!」
「は?」
「……やっぱ手伝ってくんねーか…給仕は格好だけかよ」
ハルカからの蹴りが店長の
「Oh…モーレツ」