【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~   作:詠符音黎

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11.獅子身中の虫

「フォルドの夜明けに、それを裏から操るプリンスことシャディク・ゼネリか……なるほどね」

 

 エーファはイェンザイツにある彼女の執務室でソフィから得た情報を椅子に座りながらタブレット片手に整理していた。

 

「澄ました顔をしながら随分と策を巡らせるじゃないか、彼。しかし、何が目的だ? ソフィは詳しくは知らされていなかったようだが……」

 

 エーファはそこまで言うと、椅子から立ち上がりタブレットを机に置く。

 

「まあいい。それは調べれば分かることだ。そして、そのためには……ソフィ」

 

 そして、机に置いたままタブレットを操作し、ソフィへと通信を繋ぐ。

 

『はい! 何お姉ちゃん!』

 

 すると、喜々としたソフィの声が響き渡る。

 そんなソフィに、エーファは言った。

 

「ソフィ。君には一旦フォルドの夜明けに戻ってもらう。情報収集のためにね」

『えー! お姉ちゃんと離れるの、嫌だなぁ……』

「大丈夫、短い任務さ。具体的にはフォルドの夜明けに降りてくるプリンスの指示を私に流してほしい。それで表向きはそのプリンスのために動いてくれればいい。ね、頼むよソフィ」

『……まあ、お姉ちゃんがそう言うなら』

「ありがとう、いい子だ。愛しているよ」

『うん、私も!』

 

 お互いに言い合うと、エーファはそこでソフィとの通信を一旦切った。

 そして、背後の水槽を見る。

 

「それにしても、プリンスか……ふっ、女王と王子、これまた妙な組み合わせだな」

 

 エーファはそう言って、自嘲気味に笑うのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ソフィ!? 大丈夫だったの!?」

 

 地球、フォルドの夜明けの隠れ家。

 そこでソフィは今にも泣きそうな顔のノレアに言われた。

 

「ははは、大丈夫大丈夫、ちょっとスペーシアンに捕まったけど、なんとかこうして逃げ出してきたからさ」

 

 そう笑いながら言うソフィは親指でくいくいと背後の方を指し示す。そこにはボロボロになったガンダム・ルブリス・ウルの姿があった。

 

「笑い事じゃない! 私達がどれほど心配したか……!」

「ごめんごめん。でも大丈夫、こうして帰ってきたから、ね? だから泣くなっつーの」

「……別に、泣いてなんか」

 

 ノレアはそこで目元に溜まっていた涙を拭きながら言う。

 

「……ところで、あなたを捕まえたスペーシアンは何者だったんですか?」

「え? あーそれなんだけど、私にもよく分からなくて……どこかの企業っぽい感じではあったんだけれど……」

 

 ソフィは腕を組みながら言う。エーファによって洗脳された彼女がエーファに不利なことを言うことは当然なかった。

 

「そう……ともかく、無事で良かった。子供達も会いたがってる。顔、見せてあげて」

「うん、了解。じゃあとりあえずナジのところに顔出してくるから。じゃ」

「あっ……」

 

 ソフィは小走りでノレアの下を去っていく。そんなソフィの姿を、ノレアは少し怪訝な顔で見つめていた。

 

「ソフィ……どこか雰囲気が変わったような……」

 

 違和感を覚えるノレア。だが、その違和感の正体を彼女は掴む事ができなかった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ふむ、アスティカシア学園への編入か……」

 

 後日、エーファは学園にあるヴィレ・ツァ・マハトのコックピット内でソフィからある通信を受けていた。

 

『うん、私達を学園の生徒として潜り込ませて、えっと、ランブルリング? っていうオープンキャンパスのイベントで暴れて欲しいって。それで、その混乱に乗じてサリウス・ゼネリ代表を拐うんだってさ』

「なるほどね……自分の親を拐うために一芝居打つってわけか。面白い。分かった、よく知らせてくれたねソフィ。さすが私の妹だ」

『へへへ……お姉ちゃんの頼みならこれぐらいどうってことないよ』

 

 通信越しに照れた声と姿を見せるソフィ。そんなソフィに、エーファは優しい声で言う。

 

「とりあえずは、その指示通りに行動してくれ。何かして欲しいときは、また私から指示を出そう」

『うん、分かった! ……ねぇ、学園に行くってことは、お姉ちゃんと同じ学園生活送れるって事だよね?』

「ああ、そうなるね」

「やったぁ! 楽しみだなぁ……」

「うん、私もだよ。でも、学園では『お姉ちゃん』は駄目だよ。私達が家族だって事は秘密なんだから」

『分かったよお姉ちゃん。それじゃあなんて呼べばいい?』

「普通に名前で、エーファでいい」

『了解。それじゃあ、学園でね。お姉ちゃん……じゃなくて、エーファ』

 

 そこで通信が切れ、エーファはコックピットのハッチを開く。

 

「さて、何をするつもりなのか、見極めさせてもらうよ。シャディク君」

 

 エーファはそう言うと、コックピットから出て彼女のいる寮を出て、地球寮へと向かった。

 時刻は夕方どきであり、地球寮の面々は既に寮に戻っているところであった。

 

「あっ、エーファさん!」

 

 すると、最初に出迎えてきたのはスレッタだった。

 スレッタは笑顔でエーファの下に駆け寄る。

 

「やあスレッタ。決闘お疲れ様。連戦だったっていうのに見事な戦いだったね」

 

 その日はスレッタがエアリアルを改修に出していた二ヶ月の間の決闘を連戦という形ですべて解決した日であった。

 勝敗は、もちろんスレッタの全勝。連戦にもかかわらず、エアリアルは一切の傷をうけることなく五連戦を勝利したのだ。

 

「いえ、私ミオリネさんと約束しましたから! ミオリネさんの誕生日まで私、花婿でいるって!」

「へぇ、そこまで好きなんだ、ミオリネの事」

 

 エーファはからかうように言う。すると、スレッタは顔を赤くする。

 

「へっ!? えっと、その、まあ……」

 

 そして、どこか嬉しそうに答える。エーファはそんなスレッタにニッコリと笑う。

 

「まったく妬けるね。にしても、ミオリネはまだ帰ってこないのかい? この前の事故の処理、まだ掛かっているんだね」

「あっ……え、ええ、まあ……」

 

 エーファの言葉に一瞬言葉を詰まらせるスレッタ。

 本当は事故ではなくテロであったことを当然エーファは当事者として知っていたのだが、あえてエーファは知らないフリをした。

 状況的に彼女の部下も事件に巻き込まれた事になっているにも関わらず、である。

 スレッタはそれに気づくことなく、隠し事をしているのを察せるような動揺を見せる。

 

「早く帰ってくるといいね、ミオリネ」

「……はい!」

 

 ミオリネの名を再び出すとすぐさま笑顔を取り戻すスレッタ。そんなスレッタの肩を、エーファはポンと叩いて横切った。

 

「それで、他のみんな……そうだ、ニカとかはどこらへんにいるかな?」

「ニカさんですか? えっと、格納庫の方にいると思いますけど……」

「そっか。ありがとう」

 

 ニカの居場所を聞くとエーファはそのままその場を離れ、格納庫へと向かう。

 そして格納庫にたどり着くと、そこには無言で、どこか重苦しい表情でレンチを握って固まっているニカの姿があった。

 

「やあニカ」

「…………」

「ニカ? 聞いているかい? ニカ?」

「えっ? あっ! エーファさん……!」

 

 何度か声をかけてやっとニカは気づく。そんなニカに、エーファは心配そうな顔を見せる。

 

「どうしたんだい? 心ここにあらずって感じだったけど」

「い、いえ……ちょっと考え事を」

「そうか。まあ、考え事は誰にでもあることだ。仕方ないね」

 

 すぐさま微笑んで見せるエーファ。一方で、ニカは未だ重苦しい表情をする。

 

「……ええ、そうですね」

 

 あくまで苦々しい反応をするニカ。そんなニカに、エーファは言う。

 

「まあ何を考えているかは分からないけれど、あんまり人に迷惑をかけちゃ駄目だよ? 自分の問題なら、自分で解決しないと」

「そう、ですよね……自分で、なんとかしないと……」

 

 エーファの言葉で更に思い込むような顔をするニカ。その反応は、エーファの想定通りの反応であった。

 そんな彼女に、続けざまにエーファは言う。

 

「ところで、今度私の地球の知り合いがここに来るらしいんだ」

「えっ? この時期に、学園にですか……?」

 

 驚くニカ。それに、ニッコリと笑うエーファ。

 

「ああ。おそらく二人で来るんだけど、うち一人が私と親しくてね。どうか、面倒を見てやって欲しい」

「……え、ああ、はい?」

 

 ニカは未だ動揺を隠せていないようだった。

 そんなニカの耳元に顔を近づけ、エーファは言う。

 

「頼むよ、()()()さん」

「っ!!??」

 

 その言葉に、ニカは驚愕しレンチを落としてしまう。エーファはそんな素振りに気を取られることなく、ニカに背を向ける。

 

「待って!? あなたは、一体……!?」

「……これだけは教えてあげよう。私は君の思っているほどに単純な存在じゃない。君の味方にも、敵にもなれる。だからこれからの身の振り方を、十分気をつける事だね」

 

 エーファはソフィから聞いて知っていた。ニカがシャディクやフォルドの夜明けと関係し、地球と学園を繋ぐ連絡員であることを。

 そして彼女はそんなニカに釘を刺しに来たのである。今後余計な事を考えて自分達の邪魔をしないようにと。

 とは言え、そこにはただ戯れにニカをからかってみたいという気持ちの方が強かったのだが。

 

「それじゃあニカ。また明日。sweet dreams(よい夢を)

 

 エーファはそう言い残すと、背を見せながら軽く手を振って地球寮を去っていった。

 取り残されたニカは一人、エーファの言葉を反芻するのであった。

 

「自分で解決……身の振り方……私、どうすれば……」

 

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