【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
「これからよろしくね、スレッタ・マーキュリー」
ソフィとノレアがアスティカシアにやってきた。
二人は地球寮を訪れ、スレッタ達に入寮の挨拶をする。
彼女らの来訪に動揺する地球寮の面々。その中で、澄ました顔をしている者もいた。
エランもとい強化人士五号とエーファである。
「随分と半端な時期に編入して来るんだねぇ」
「学問の門戸は常に開かれている。それが自由と平等というものなんだから」
「ま、それもそうだね」
五号とエーファは笑顔で会話する。その二人の笑みはどちらもわざとらしいものであった。
一方でソフィもまたニコニコとした顔でエーファを見ている。こちらは心からの笑顔のようだった。
そんな彼女をノレアは不思議がる。
「……どうしたんですかソフィ? そんな顔であの人の事を見て」
「え? いや、その私あのエーファって人に興味があってさぁ。だってほら、この前の動画で凄い戦いしてたじゃん」
「……あなたはスレッタ・マーキュリーの方に執心してたはずでは?」
「まあそれはそうなんだけど……まあいいじゃん! 乙女心って奴だよ!」
「はあ……?」
ソフィの内心が読めず怪訝な顔をするノレア。
一方で、そんな二人を重たい表情で見ている姿もあった。ニカである。
地球寮での談笑と入寮手続きを済ませた後、ニカは
「あなた達を推薦した企業、名前はあるけど存在しない企業だよね!? もしかして、あなた達……!」
「ええ、あなたの想像通りですよ。ニカ・ナナウラ。いいえ、プリンスとの連絡員さん」
ノレアはそう言いながら、ニカにナイフを突き立てる。
「……っ!」
「下手なことはしないでくださいね。私は今少々機嫌が悪いんです。最近ソフィの様子がおかしいっていうのにこんな任務まで任されて……」
「どういうこと……?」
「……喋り過ぎましたね。忘れてください。ともかく、あなたはあなたの役目を果たしてくれてばいいんですよ」
ノレアはそう言いながらニカの下を去っていく。
ニカはその場にペッタリと座り込んだ。
「やあ、大変だったね」
そんなニカの背後から急に声がかけられた。エーファである。ニカはその声に驚き振り返る。
「っ!?」
「そう驚かなくてもいいよ。ただ私は君達のやり取りを盗み見していただけだから。別に口外するつもりもない」
あくまで笑顔で言うエーファ。そんなエーファに対し、ニカは怯えながら立ち上がり言う。
「……あなたは、何が目的なんですか? フォルドの夜明けやシャディクさんとは関係ないみたいですし……何者なんですか?」
「何者、か……そうだね、それは難しい質問だ」
エーファは考え込むように腕を組む。そして、言う。
「そうだな、言うなれば人類の解放者、とでも名乗ろうか」
「人類の、解放者……?」
突然のワードに呆気にとられるニカ。そんなニカに、くすりとエーファは笑う。
「ふふっ、ま、あまり気にしないでくれ。今はただ、君の知るどの陣営でもない、とだけ考えてくれればいい」
「…………」
ニカは怪訝な顔でエーファを見る。エーファは、そんな彼女の横を通り過ぎる。
と、その際にポンとニカの肩を叩いて言った。
「もしかしたら私達はうまくやっていけるかもしれない。身の振り方、また考えておくんだよ。私達は、君のような者の味方でもあるからね」
エーファはそう言い去っていった。
一人取り残されたニカはエーファに叩かれた肩を触りながら、一人呟く。
「私のような者の、味方って……?」
その意味を、ニカは受け取りかねていたのだった。
それからあっという間に日々は流れた。地球寮に来た二人――少なくともソフィは学園での生活を楽しんでいた。ノレアは仏頂面で何やらスケッチをし続けていた。
しかし、表向きは平穏でもエーファは知っていた。彼女ら二人がオープンキャンパスの日に騒動を起こすこと、そしてその日にシャディクがサリウス誘拐を目論んでいる事を。
それを知ると、今の穏やかな日々がとても寒々しく、滑稽なものだとエーファには思えた。
また、ベネリットグループに所属している企業の次期代表としての顔から、エーファはサリウス達が地球に向けてフォルドの夜明けを狩り出そうとしていること、加えて謎の第三勢力としてエーファのモビルアーマーが捜索されていることも彼女は知っていた。
フォルドの夜明けの件に関しては様子を見るとして、モビルアーマーについては巧みに隠蔽し、イェンザイツとの関連は消し去っていた。
そもそもモビルアーマーは宇宙にいくつか作ってある秘密基地の一つに格納して隠してあるため、見つかるわけもなかった。つまり、状況は動きようもなかったのだ。
そうした中で、ついにオープンキャンパスの日は訪れる。
バトルロワイヤル形式の決闘、ランブルリングが行われる日が。
「どうも、サリウス代表。お目通り失礼いたします」
その日、エーファは立会人として学園にやってきたサリウスに挨拶をしに行っていた。
エーファはサリウスに向かってうやうやしく頭を下げている。
「君は……確か、イェンザイツ・インダストリーの跡継ぎだったか」
「さすが代表、私のような末端の者もご存知とは」
「ふん、この十年で急速な成長を見せグループでも上位に入る業績を残している企業が末端とは言えまい。頭を上げたまえ」
サリウスは横目でエーファを見ながら言う。
頭を上げたエーファは、サリウスに笑顔を見せる。
「ありがとうございます。この度はサリウス代表がこの学園に来ると聞いて、一度お目通りをさせて貰わねばと思いまして来た所存であります」
流れるように言うエーファ。
一方で、そんな彼女の背中の服の裾から、ある小さなモノが彼女の体を渡って床に降りていた。
それは虫のように小さな六本の足の生えた円盤のようなものだった。サイズはコインほどのサイズでよく目を凝らさなければ気づかないほどのものだった。その円盤はせかせかと動きながら、サリウスの座っている車椅子に取り付き、やがてサリウスの服に取り付いた。
「そうか、殊勝な事だ。だが私は忙しい。話ならまた後で受けよう」
「分かりました。それでは後ほど、機会がありましたら」
エーファはそう言うと、くるりとサリウスに背を向け去っていく。先程とは違う、暗い笑みを浮かべながら。
「ふむ……しっかりと潜り込んだようだな。これでどこへ行っても場所を探知できるし、盗聴、盗撮も可能だ。さすが、我が社の発明品だな」
彼女はそう言いながら一人学園の外れへと向かっていく。そして、そこに隠してあったノーマルスーツを着込み、近くにあったハッチを開ける。
「さて、私も準備をしないとな。かわいい妹を助けるための、準備を」
そして開幕されるランブルリングは、シャディクが目論んだ通り大荒れとなった。
生徒達がバトルロワイヤルに興じるなかで、突然ソフィとノレアが実戦仕様のガンダムと無人機ガンヴォルヴァで学園を強襲。多くの命を奪った。
また、その最中にシャディクと彼の子飼いの少女達は混乱を利用してサリウスを誘拐することに成功する。
それはシャディクの作戦の成功を意味し、ノレアは撤退しようとするも、ソフィがランブルリングに参加していたスレッタとの戦闘に夢中になり、プラント外での戦いを行っていた。
「スレッタ・マーキュリー! あんただって乗ってるじゃない! ガンダムっていう暴力装置にさぁ!」
「違います! 私達はガンドで人の命を救うんです!」
「じゃあなんでエアリアルは武器積んでるのさ!? どうしてそんなマシンを作ったのさ!?」
「それは……っ」
ソフィの言葉に動揺したスレッタのエアリアルはルブリス・ウルの攻撃を受け窮地に立つ。
そんなときだった。
エアリアルの高度のパーメットスコアによりデータストーム干渉が発動し、ソフィのルブリス・ウル及びガンヴォルヴァがオーバーライドされてしまったのだ。
「うっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「ソフィ!?」
ノレアはソフィの下へと行こうとする。だが、ガンヴォルヴァに阻まれて近づけない。
一方でソフィは他機をオーバーライドするほどのデータストーム干渉で体に異常な負担がかかり、死が目前に迫っていた。
「スレッタ……あんたじゃない……! この感じ、いるのは……!」
ソフィは何かに気づき、エアリアルに手を伸ばす。一方で、エアリアルはスレッタの操作を離れ、ルブリス・ウルをビットで落とそうとする。
「エアリアル、駄目っ!」
もはやソフィの命は潰えたかに思えた。だが、そのときだった。
「まったく、やはりこうなったか」
突如どこからともなく長い触手が表れ、ソフィをデータストーム干渉外に引き離し、また同時にエアリアルとその周囲にあるガンヴォルヴァを攻撃し始めたのだ。
「えっ!? 何っ!?」
スレッタは突然の事に動揺する。
一方で、ソフィは瀕死の状態になりながらニッコリと笑った。
「ああ……来てくれたんだ、お姉ちゃん!」
そう、それはエーファの操るモビルアーマー、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンのモノであった。
エーファはソフィがスレッタにも関心を抱いていることを知っていた。そして、それが下手をすればエアリアルとの戦闘で命取りになりかねないと思ったのだ。
「にしてもまさかデータストーム干渉までするとは……なかなかにエグいじゃないか、スレッタ・マーキュリー」
「お姉ちゃん……違う……あれをやったの、スレッタじゃない……」
「……ほう、それは興味深い。君の報告は、後でじっくり聞こう。今は撤退するぞ、ソフィ」
「うん、お姉ちゃん!」
エーファとソフィはそこで撤退しようとする。だが、それをさせんとするものがいた。
ノレアである。
「待ってソフィ! くそっ、またソフィを連れて行くつもりか! そんな事させないっ!」
エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンに対し実弾で攻撃するノレア。
だが、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンの装甲は生半可な射撃は通さなかった。
「ごめんねノレア……私、お姉ちゃんに着いていかなきゃ……」
そして、ソフィはノレアにそう通信を入れる。
「お姉ちゃん!? 何言ってるのソフィ!?」
「お姉ちゃんはね……私の欲しいもの、なんでもくれるの……モノも……愛も……! だから私はもう、お姉ちゃんがいれば、それでいいの……!」
ソフィのその言葉を最後に去っていくエーファとソフィ。それと入れ替わるように、プラント警備隊がやって来る。
「くっ……あああああああああああああ……!」
ノレアは何がなんだかわからないまま、撤退することしかできなかった。
「……一体、何が……? あれは、プラントクエタで見た……」
一方で、スレッタも今の出来事が何事か理解できていなかった。
すると、そのときである。
「……え? あれは、敵? どういうこと? エアリアル……」
エアリアルの中に潜んだ意思が、スレッタに語りかけてきたのだ。そして、その意思は言うのである。エーファ達は、明確に敵である、と。
「……うん、分かった。エアリアルがそう言うなら。きっとあれは、ミオリネさんにとっても危険な存在なんだね。なら、私は戦う。みんなを、ミオリネさんを、助けるために」
そしてスレッタはその声のまま従い、決意を固めるのだった。