【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
宇宙は今、混乱の
アスティカシア学園を襲ったフォルドの夜明けの犯行声明、さらにはプラント・クエタでの襲撃事件の隠蔽の判明、ベネリットグループの地球への独断の治安活動などが明るみになり世間の批判が噴出したのだ。
学園も残された傷跡は大きく、多くの生徒が学園から退去した。
また、世間を騒がせていたのはプラント・クエタ及び学園で姿を現したモビルアーマーの存在だった。
モビルスーツとは違うまったく新しいその兵器に、人々は様々な憶測を立てた。
だが、誰もそれを操っているのがエーファだという答えにたどり着くものはいなかった。
一方で、その実行犯であるエーファはと言うと――
「ふむ、随分と学園も静かになったものだね」
未だ、アスティカシア学園にいた。
「やあスレッタ、みんな。調子はどうだい?」
「あっ、エーファさん……!」
エーファが地球寮を訪れると、スレッタが出迎える。しかし、そこにいる者達の面持ちは暗かった。
「調子もクソもねぇよ……! あーし達は停学食らうしニカ姉は連れてかれたままだし、寮は嫌がらせ受けるしで、むしゃくしゃする!」
チュアチュリーが特に不満そうに言う。他も彼女ほどにはないにせよ、不満を抱えているようだった。
「ああ、あの外壁の落書き。あれ、まだ君達が疑われているって事なんだね」
「まーな……ていうかお前は停学食らわなかったのかよ」
そう聞いてきたのはオジェロだ。
エーファはその質問に軽く首を横に振る。
「いや、私はあくまで外部協力員だし、当日は会社の急な用事で外してたから」
「ふーん……ま、良かったんじゃねーの、無駄な疑いかけられないで済んで」
オジェロはやはりどこか不機嫌そうに言う。
それも当然だとエーファは思った。突然身内だと思っていた少女達がテロを起こし、その手引きをしたと思われているのだ。不機嫌にもなるだろう。
「まあ、私からできることは少ないが、君達の疑いを晴らすために協力させてもらうよ。そのために、まずは外壁の掃除からだね」
「えっ? いや、いいんだぞ君がそんな事しなくて!?」
アリヤが驚いたように言う。そんなアリヤに、エーファは言う。
「いや、これでも私は君達のこと友人だと思っているからね。手伝わせてくれ」
「エーファさん……ありがとうございます」
礼を言うリリッケ。エーファはそんな彼女に、気にするなと言わんばかりに軽く手を振る。
「……と、そう言えばミオリネはまだ帰ってきてないのかい? そろそろ戻ってきてもいいと思うんだけれど」
「あ、その、ミオリネさんはもう戻ってはいるんですけれど……」
そこで、スレッタがバツが悪そうに言う。そこで、エーファは察した。
「おや、もしかして喧嘩でもしたのかな?」
「……まあその、それに近い感じはあったというか……いや、私が変な事言っちゃったのが悪いんですけど……」
「ふむ……」
そこでエーファは考える素振りを見せ、言う。
「ま、自分が悪いって分かってるならちゃんと謝る事だね。引き伸ばすと、どんどん謝りづらくなるよ?」
「……そうですよね。はい、ありがとうございます」
スレッタはまだどこか元気なさげに言う。と、そのときだった。
エーファの持っている端末が着信音を鳴らし始めたのだ。
「あ、ごめん。会社からだ。ちょっと待っててね」
エーファは一旦地球寮の格納庫の方へと向かう。そして、端末に耳を当てる。
すると、端末からは会社の人間の声ではなく、別の人間の声がしてきたのだ。しかも、明らかに聞かれているとは思わず話しているような声だ。
その声の主は、シャディク、そしてサリウスだった。そう、それはエーファが取り付けた盗聴および発信機からの音声だったのだ。
「さて、どんな野望か聞かせてもらおうじゃないか……」
エーファはしばらく話し声を聞く。しかし、最初は笑みを浮かべていたエーファの表情はどんどんと険しいものになっていったのだった。
「……ベネリットグループの資産を地球に売却し、抑止力を産んで均衡状態を作る……? ……はぁ」
エーファはそこで端末をしまうと、明らかに落胆した様子で言った。
「つまらん……なんとつまらん目論見なのか……あそこまでの大事を起こしたからにはもっと面白い計画を企てているのかと思いきや……まったく、つまらん」
エーファはそこで地球寮の面々のいる談話スペースに戻る。改めて微笑みの仮面を被った状態で。
「あ、エーファさん。会社からの連絡、大丈夫でしたか?」
「ああ、すまない。急な呼び出しがあってね。寮の壁の掃除はまた今度でいいかな」
「へ? それは別にいいですけど……」
スレッタが不思議そうな顔で言うなか、エーファは一人地球寮を出ていった。
微笑みながらも、内心では大きな失望を抱きながら。
◇◆◇◆◇
グエルが帰ってきた。
しばらく行方不明だった彼の帰還はジェターク寮を大いに賑わせた。
また、それだけでなくグエルはミオリネの意向でスレッタと決闘をすることになったのだ。
理由はミオリネがスレッタに自分に勝利を捧げろとの事だったが、エーファは当然それを信じていなかった。
なぜなら、エーファはミオリネが何かを企んでいるのをその嗅覚で察知していたからだ。
そして、その勘は当たった。
ミオリネは決闘中のエアリアルを遠隔操作し動きを止めて、グエルに勝利させたのだ。
こうしてスレッタはホルダーでなくなり、同時にミオリネの花婿でもなくなった。
彼女は、大きな失意に落とされたのだ。
だがエーファにとってそれはどうでもよかった。彼女の関心は、エアリアルの今後であった。
「やあ、グエル・ジェターク」
故に彼女は決闘の後、エーファはグエルに話しかけた。
「ん? お前は……」
「ああ、そういえばこうしてちゃんと話すのは初めてだったね。私はエーファ・ツァラトゥストラ。イェンザイツのCEOの娘であり、株式会社ガンダムの外部協力者だ」
「……そうか、お前が。時折噂は耳にしていた。それで、俺に何のようだ」
「まあそう邪険にせずに。私はただ、気になってね。どうしてエアリアルを決闘で手に入れたのか、というのを」
「……それは、お前が知らなくてもいいことだ」
「ひどいなぁ。私だって一応ガンダム事業に噛んでいる身なのに」
「それでもだ。悪いが、ガンド医療についてはこれから自分達で頑張ってくれ。話はここまでだ」
グエルはそう言いエーファを置いて立ち去ろうとする。だが、そこでエーファは言う。
「エアリアル! とてもいい機体だ……とても幽霊が憑いているとは思えない」
「……幽霊? 一体どういう意味だ?」
グエルは立ち止まり聞き返す。エーファは、それにニッコリと笑って言う。
「言葉通りだよ。あれには死人の意思が入っている。データストームに意識データを移している、といいうのが正しいかな」
「……何を……?」
グエルはまだ話が分かっていない、しかしエーファの言葉も聞き流せないという顔をしていた。
そんなグエルにエーファは言う。
「いや、あくまでこれは私の推測の話だから、理屈に関してはわりと適当さ。でも、あれには間違いなく死人の意識が入っている。これは間違いない。私の優秀な“家族”からの証言があるからね」
エーファはソフィの言葉からその可能性を導き出していた。そして、改めてプロスペラ・マーキュリー、もといエルノヤ・サマヤの身辺を洗い直した。ヴァナディース機関、およびオックスアースが関連していると思しき情報を。そして、そこから一つの答えに辿り着いたのだ。
死人の意思がエアリアルに移されていて、それがパーメットスコアの負担を代替しているのだと。おそらくそれが、エルノヤの娘、エリクトであるということを。
それは、エーファが意識をパーメットに移植しているからこそたどり着けた答えであった。
「お前、一体……」
「ま、君は君で頑張り給え。きっと、これからは茨の道だろう。どうかミオリネを支えてあげてくれ。ミオリネは、私にとって大事な友人なんだからね」
そう言って今度はエーファがグエルを取り残して去っていく。
彼女はグエルに背を向けながら、一人呟いた。
「……そろそろ、潮時だな」
そして、その日以来、エーファは学園から姿を消した。