【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~   作:詠符音黎

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16.宣戦布告

 ――遡ること十数分前。

 

「進めば二つ、なんでしょ。なら進みなさいよ。私達、家族になるんだから」

 

 クワイエットゼロの中で、停止コードを打ったミオリネがプロスペラに対して手を差し伸べながら言う。

 プロスペラは五号の射撃によりマスクを飛ばされ、床に膝をついていた。

 

「…………」

 

 プロスペラは答えない。ただ、差し伸べられたミオリネの手をじっと見ていた。

 と、そんなときであった。

 

 ――ゴオオオオオオン!

 

「っ!? 何っ!?」

「これは……!?」

 

 突如クワイエットゼロが激しく揺れたのである。

 そして、その次の瞬間であった。

 突如、近くの壁が壊れたかと思うと巨大なドリルのついた触手が壁面を貫き破壊していったのである。

 

「なっ、何あれっ!?」

 

 ついて来ていたベルメリアが叫ぶ。一方、咄嗟に危機を察知したのは五号だった。

 

「おいお前達! あれはやばい! とにかく逃げるぞ!」

「え、ええっ!」

 

 ミオリネはすぐさま答え、無重力下で船を止めている方向に向けて飛ぶ。

 しかし、そこで気づいた。

 プロスペラがその場から動けていないことを。

 

「あんた、何やってるのよ! 早く行くわよ!」

 

 ミオリネはそれに気づくと踵を返す。

 そして、プロスペラの手を引こうと近づき、プロスペラもまた手を伸ばそうとした、そのときだった。

 

 ――ギュイイイイイイイインッ!

 

 プロスペラのいた場所をドリルが貫き、プロスペラは血煙と化してしまったのだ。

 

「……いやあああああああああああっ!? 先輩いいいいいいいいっ!?」

 

 ベルメリアの悲鳴が響く。

 一方で、言葉を失い放心するミオリネ。

 そんな彼女の手を、今度は五号が引く。

 

「何やってんだ! 二の舞になるぞっ!」

「……ま、待って! あれだけでも……!」

 

 そう言ってミオリネが掴んだのはプロスペラのマスクだった。

 宙に浮き、かろうじて破壊を免れたのだった。

 

 

 

 こうして、ミオリネ達は脱出し、今に至る。

 

「……ごめん。私が救えていれば……ごめん……!」

 

 ミオリネはスレッタに泣きながら謝る。

 そんなミオリネに、スレッタは言う。

 

「……い、いいんです……ミオリネさんは……悪く、ない、です……う、うううううっ……!」

 

 そう言うスレッタの目からも涙がこぼれていた。

 既に目元が真っ赤になるほどに泣いたというのに、未だに涙がこぼれ落ちるのだった。

 

「お前達……」

 

 グエルはそんな二人に声をかけようとする。だが、できない。

 ――今の自分が何を彼女達に言えようか……。

 グエルは己の無力さを感じていた。

 

「みんな! 大変だ!」

 

 そんなとき、アリヤが三人のいた部屋に大慌てで入ってくる。

 

「おい、今は……」

「いいからとにかく来てくれ! 大変な事が起きてるんだ!」

 

 アリヤを止めようとするグエルの言葉を遮ってアリヤは言う。

 三人は何事かと思い、アリヤについていきベネリットグループの会議室へと向かう。

 すると、そこにはテレビ中継の画面が映されていた。

 そこに映っていたのは、エーファだった。

 

「親愛なるアーシアン、およびスペーシアンの諸君。私はイェンザイツ代表、エーファ・ツァラトゥストラだ」

「あいつ……!」

 

 グエルが怒りを露わにしながらその映像を見る。他の面々も、驚き半分、怒り半分といった感じであった。

 

「私は本日、世界に対し福音を知らせに来た。我々人類が、その欲望を発露していい世界の到来を知らせる福音をだ」

「欲望を発露していい世界、ですって……?」

 

 ミオリネが言う。

 画面の向こうのエーファはそれに答えるように続ける。

 

「アーシアンの諸君は感じていたのではないか? 虐げられ、自分の自由に生きられない世界であると。スペーシアンの諸君は感じていたのではないか? 一部の企業が権力を我が物にし、自らがのし上がれない不条理さを。私は、そんな世界を壊す手段を君達に与えよう。戦争という、手段でな」

 

 そして、画面が切り替わる。そこに映し出されたのは、先端が尖った巨大な柱のようなものだった。

 

「これは惑星間攻撃兵器、レーベンだ。簡単に言えば設置した場所から宇宙または地上に向けて雷のようなビームを発射できる兵器だ。まずこれを地球の主要な国家に無償配布する」

「はぁ!? 何言ってんだ!?」

 

 チュアチュリーが叫ぶ。しかし、その声はエーファに届くわけもなく、エーファは続ける。

 

「これがあればそれまで手の届かなかった宇宙の民への攻撃をある程度可能にすることができる。もしこれ以上に自由な攻撃手段が欲しいなら、惑星間弾道ミサイルの販売も行おう。そして、スペーシアンには同じ原理で宇宙用に転用したプラント間攻撃兵器、トラジディーを与えよう。そして更に、スペーシアン、アーシアン両者に我が社の量産型モビルスーツであるヴィレ・ツァ・マハトと偵察および攻撃用ドローンであるモーゲンロェーテを望む者に提供しよう。これにより、みな軍備を整えて欲しい」

 

 そうして映し出されるイェンザイツ製の兵器の数々。そのどれもが、求めるものに無償で提供されると言うのである。

 

「何故私がこんなことをするのか諸君は疑問に思うだろう。だが、その理由は最初に言った通りだ。私は、この世界を欲望に溢れる宇宙にしたいと思っているのだ。人が欲望を満たす一番てっとり早い手段は何か? そう、暴力だ。私は諸君らの暴力を保証する者になりたいのだよ」

「何を……人間はそんな愚かじゃない!」

 

 ケナンジが叫ぶ。しかし、その反応も想定内と言ったような雰囲気で、画面の向こうのエーファは言う。

 

「しかし、諸君らはきっと最初は行動できないだろう。それは何故か? くだらぬ倫理観のためもあるだろう。だがそれ以上に、制裁を恐れているのだろう? 宇宙の治安を維持しようとする者達による制裁を。そう、例えば宇宙議会連合とか……だが、そこは安心して欲しい。もう、宇宙議会連合は我らの手中にある」

「なんだと!?」

 

 それにいの一番に反応したのはラジャンだった。他の面々も、驚愕の色を示している。

 すると、今度はプラントの映像が映し出された。宇宙議会連合の本部があるプラントの映像だ。

 そこには、イェンザイツのものと思われる船がいくつも停泊し、そして同時に沈んだ艦隊の残骸、そしてエーファのモビルアーマー、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンの姿もあったのだ。

 

「この映像を見て分かるように、宇宙議会連合はもう機能しない。これはすべて、我らイェンザイツの艦隊、モビルスーツ、そして新兵器であるモビルアーマーの力だ」

「モビル……アーマー……それがあの兵器の名前ってわけね」

 

 ミオリネが歯を食いしばりながら言う。彼女の瞳には、明確な怒りの炎が灯っていた。

 

「モビルアーマーは残念ながら一つしかないため貸し与えられないが、他の武力なら喜んで君達に貸し与えよう。それで、存分に戦争をして欲しい……。だが、もし私達の意向に逆らうと言うのなら、この宇宙議会連合のプラントのようになってもらうかもしれないね」

「こんなの、脅しじゃない……!」

 

 ベルメリアが蒼白した顔で言う。

 彼女の言う通り、それは誰が聞いても脅迫であった。戦争をしなければ、殺す。そういった内容の。

 

「それでは、諸君が自由に欲望を発露できるよう願っている。ではさらばだ。Sweet dreams(よい夢を)

 

 そこで放送は切れた。

 こうして、宇宙において大きな狼煙が上がったのであった。

 地球、宇宙、すべてを巻き込む、大戦争を始めよという狼煙が……。

 

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