【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
エーファの宇宙に向けた放送から一週間が経った。
わずか一週間の間で、宇宙の情勢は大きく変動した。
まず、エーファによって兵器を与えられた地球の過激派勢力が地球に在留していた企業を中心としたスペーシアンの排除に動いた。
それまで暴徒鎮圧用にしか兵器を運用していなかったスペーシアン達は、大きな戦力を手にしたアーシアンの過激派達に敗北し、その命を散らしながら撤退していった。
その後、アーシアン達はスペーシアンが地球に近づけないようにエーファから貰った惑星間攻撃兵器で自衛を開始する。
しかし、その一方でエーファから与えられた兵器によってアーシアン同士で紛争を行う勢力も少なくはなかった。
そして同胞同士で争うという意味ではスペーシアンも例外ではなかった。
一部のプラントや企業が地球で失った利権を埋めるために他のプラント勢力圏内に進出するという事案が起き始めたのだ。
もちろん、そこにはエーファの脅しの影響も多々あった。
動かなければ殺されるという強迫観念が、一部のプラントや企業を凶行に走らせたのだ。
こうして、地球だけの問題であった紛争問題は宇宙にも飛び火し、少しずつだがその戦火を大きくしていった。
争いが争いを呼び、狂気が狂気を呼ぶ。
今の宇宙は、徐々に人の獣性がむき出しになり始めていた。
「ふむ……まあまあかな」
そんな状況を、エーファは静かに眺めていた。
彼女は今、宇宙議会連合跡地を拠点としていた。
理由は簡単である。
そこには、宇宙議会連合がクワイエットゼロに対して使おうとしていた惑星間レーザー送電システム「ILTS」があり、それが各プラントや反抗勢力に対しての威圧効果になっているからである。
「徐々に人々の欲望が発芽していっている……うまく進めば、宇宙は争いと欲望に満ちた混沌へと至るだろう」
「お姉ちゃんの望み通りに物事が進んでるね、やったね!」
そうエーファに言うのはソフィである。
彼女は今、椅子に座っているエーファの太ももに体を預けている。まるで男に媚びる商売女のように。
「そうだな……だが、そう簡単にはいかないだろう」
「え? そうなのお姉ちゃん?」
「ああ……私が煽ってはいるが、人間には理性と倫理観というものがある。そして平和を生きている者には平和を求める心もだ。それが枷となり、人は欲望を剥き出しにすることをしないのだ」
「そうなんだ……じゃあ、どうするの? このままゆっくりその枷が外れるのを待つだけ?」
ソフィのその言葉に、エーファはゆっくりと首を振る。
「いや……私は座して待つつもりはないよ、ソフィ。私は私の理想を叶えるために、近々行動を起こそうと思う」
「行動?」
「ああ。恐らく、今もっとも平和を願い、私達の敵となりうる存在……ベネリットグループを潰す」
エーファは手元で机の上においてあるPCの画面を操作する。すると、そこにある記事が映された。
『ベネリットグループ代表、ミオリネ・レンブラン。宇宙議会連合との条約提携。イェンザイツをテロ組織と認定』
というニュース記事である。
「彼女らは運良く難を逃れた宇宙議会連合の残党と手を組み、私達を宇宙の敵とした。平和を望む人々は、彼女達を旗頭に私達を討とうとするだろう。だから、逆に私達が彼女らを滅ぼすことにより、宇宙はより欲望の世界へと足を進める事になる」
「へぇ……いいじゃん、さすがお姉ちゃんだね」
ソフィはニッコリと笑う。彼女はもう、完全にエーファに同調する下僕になってしまっていた。
「それにしても、戦争シェアリングで争いの循環を作っていたベネリットグループが、今や正義の味方とは。面白いこともあったものだな。フフフ……」
エーファは静かに笑う。
そして、PCをまた操作し別の画面を映す。彼女の部下からの報告書である。
「部下からの報告によると、ベネリットグループと宇宙議会連合残党、そしていくつかのプラント群は軍備を整えているらしい。近々、私達を打倒するための戦争を仕掛ける気だろう」
「ふーん? じゃあ整う前にやっちゃえば? あの衛星があるなら簡単じゃん!」
ソフィが言うが、エーファはそれに微笑みながらゆっくりと首を振った。
「相手がまとまっていない状態で攻撃しても効果は薄い。それに、私はあえて待とうと思うんだよ」
「待つ? どうして?」
「彼女達が平和を求める戦争をしようというのなら、それもまた彼女らの欲望の結果だ。なら、私はそれを素直に受け入れる。受け入れた上で、叩き潰す。それにより、真に欲望に満ちた世界が実現されるんだよ」
「うーん……よく分からないけど、お姉ちゃんが言うならそうなんだね! だって、お姉ちゃんはいつだって私を導いてくれるんだから!」
思考を停止した状態で言うソフィ。そんなソフィの頭を、エーファは優しく撫でる。
「ああ、そうだよ。私はいつだって正しい。ソフィは、どんなときでも私の命に従っていればいいんだよ……」
「へへへ……」
ソフィは恍惚とした表情で笑う。そんなソフィを、エーファはただ笑って見下ろしているのだった。
そんなときだった。
「エーファ様! 緊急事態です!」
突然、部下からの通信が入ってきたのだ。
「どうした?」
「ベネリットグループと複数のプラント群が、我々に向けて進軍を始めました! すでにいくつかの防衛拠点が落とされている状態です!」
「ふむ……思ったより早かったな」
エーファはソフィをそっと膝から下ろすと、すっと立ち上がり部下に答える。
「防衛部隊は陣形を維持しこのプラントとILTSを防衛、他の部隊は反撃に転じろ。私が指揮を取る。さあ、戦争の始まりだ……」
「はっ! 我らが自由なる意志の翼が羽ばたかんことを!」
そこで通信が切れる。
エーファは、そのまま作戦司令部のある部屋へと行くために歩き出す。
「さあ行くぞソフィ。お前の力も、存分に発揮してくれ」
「うん! 任せてお姉ちゃん!」
ソフィは嬉しそうに言う。
エーファはそんな彼女に微笑みながら、顔を前に向けると言う。
「ふふ……さあ、ミオリネ。そしてスレッタ。楽しもうじゃないか……」
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