【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~   作:詠符音黎

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19.決着

「……来たか」

 

 月面パーメット採掘場上空。

 エーファはレーダーに映るベネリットグループからの刺客の機影を見ながら言った。

 

「複数の敵艦隊に、モビルスーツ隊。そしてこのパーメット識別反応はガンダム二機か……やはり、予想通りに来たなスレッタ」

 

 それを確認した彼女は、静かに微笑む。そして、通信を開き彼女の護衛についてきた十機の量産型ヴィレ・ツァ・マハト、そしてガンダム・ルブリス・ソーンに乗るソフィに向けて言う。

 

「諸君、これは我々にとって好機である。ここで敵を潰せば、もはやこの宇宙での我々の支配は絶対なものになるだろう。だが、これは死出の旅でもある。相手の戦力は圧倒的だ。逃げたいなら逃げるがいい。だが、諸君にはここで退くような者はいないとも分かっている。ここに連れてきた諸君は、我らの中でも最も戦闘狂で、死にたがりの狂人を集めたのだから。……さあ諸君、行こうではないか。欲望の戦いへと!」

『了解!』

 

 通信越しに複数の士気の高い声が返ってくる。それは、そこにいる者はみなエーファの同類であった。

 そうして、彼女らは発進していく。目の前の戦艦、そしてガンダムへと。

 

「……お姉ちゃん」

 

 だが、一人違う者もいた。それは、ソフィであった。

 

「お姉ちゃんは私が守るよ。私はお姉ちゃんと生きたい。そしてこれからももっとずっと、楽しくやりたい放題に生きるんだ……!」

「そうか、ソフィ。それでもいいだろう。それが君の欲望なら、見せてみるといい。ソフィの欲望のほどを」

「うん、任せて!」

 

 通信越しのソフィは笑っていた。無邪気な笑みであった。

 エーファはそんな彼女に笑い返し、通信を閉じる。そして、そのまま直後に攻撃を開始した。

 それにどんどんと落ちていくベネリット及び宇宙議会連合のモビルスーツ達。

 もちろん、相手の戦艦から攻撃が返ってくる。ビームにミサイル、どちらもである。

 だが、エーファの乗るモビルアーマー、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンはその攻撃を回避、または撃墜した。

 彼女に付き従う量産機とソーンもそうである。

 そうしてどんどんと戦艦及び更にモビルスーツ隊に接近すると、今度は彼女らが反撃する。

 エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンはその触手からのビームにより相手のモビルスーツを焼き払ったり、戦艦の艦橋を直接潰したりする。

 

「うわああああああああああっ!? だ、誰か助け……!」

「ば、化け物め……!」

 

 混戦する通信から聞こえてくる敵の悲鳴。それを聞いて、エーファは口角を釣り上げて思う。

 

 ――ああ、私は生きている。今、間違いなく生きている……!

 

 と。

 それは戦いの中でしか見いだせない歪な生の実感であった。それこそ、彼女が望んだものであった。

 

「さあ、もっと私の前で死んで行け……私のために悲鳴を上げろ!」

「させませんっ!」

 

 と、そのときだった。

 通信に割り込んでくる言葉と同時に、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンの機体にビームが掠めたのだ。

 ビームが飛んできた方角を見る。そこにいたのは、ガンダム・キャリバーン。

 つまり、スレッタであった。

 

「ああ、スレッタ……君なら来てくれると思っていたよ。君に会いたいがために、私は外に出てきたのだから」

「私に……!?」

「ああ、そうさ。君達はいつまで経っても私を追い詰めてくれない。それどころか、どんどんと状況は膠着していく。宇宙が欲望に塗れていくのは良かったが、私自身としては面白くなかった。机の上に手を置き、指示を出し続けるのは退屈だったんだ」

「あなたという人は……! あなたは、私が倒しますっ……! パーメットスコア、5っ……!」

 

 すると、スレッタは目の前でパーメットスコアを急激に上げてきた。

 

「ああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 その悲鳴が、無線で響いてくる。

 

「はぁ……! はぁ……! はぁ……! この力で、あなたという諸悪の根源を、断つ……!」

 

 だがスレッタは意識を失うことなく、エーファに言って高機動で攻撃してくる。

 

「ふふ、ずいぶんと嫌われたものだ……そこまでに、私が憎いかい、スレッタ?」

「……ええ、憎いです! お母さんを、エリクトを奪ったあなたが……! でも、私はそれ以上にこの世界を守りたい……! ミオリネさんが生きる世界を、守りたいんです!」

「なるほど、守りたいか……つまらんが、正当な理由だ。ならば……」

 

 すると、エーファは操縦桿とコンソールを操作し、言った。

 

「それを純粋な力で潰すとしよう。パーメットスコア、(シックス)

 

 スレッタ以上のパーメットの宣言を。

 

「なっ!?」

「くくく……! 驚いたか……!? 私はね、これぐらいのパーメットスコアなら耐えられるようにできているんだよ!」

 

 エーファのエーヴィヒ・ヴァインダーケーレンは今まで以上の不規則な動きをし、キャリバーンを翻弄する。

 

「くっ……!? どういうこと……!?」

「種明かしをするとね、私のこの体は借り物なんだよ。意識は頭に刺さったパーメット結晶にあってね。理論上、パーメットスコアを上げても肉体に影響はないのさ!」

「そんな……!? それじゃあまるで……!」

「悪霊、とでも言いたいのかい? いいさ、言うといい! 私は欲望を求める悪霊……形を為す欲望の女王なのさ!」

 

 触手からのいくつもの攻撃がスレッタを襲う。握り潰してこようとする先端に、ビーム。

 その攻撃をスレッタは避けるので精一杯であった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ……! ……どうして! どうして世界をこんなことにしたんですか! 一度死んでまた人生をやり直せたなら、穏やかに過ごしていればいいのに!」

「穏やかに? それこそ私にとって苦痛なんだよ! 世の中の人間達はあまりに欲望を押し留めている! 欲望のままに生きるのは一部の企業や連合の人間のみ。そんな世界で押し止められて私も生きるなど、ありえないんだよ!」

「そんな自分勝手な……!」

「自分勝手? ならば問おうスレッタ! 君は君の我を通したくはないのかね? 君の愛する人を愛せなくてもいいのかね? 家族の復讐に私を討とうとするのも、君の我ではないのかね!?」

「確かにそれは私のやりたいことですが……でも、それで多くの人を不幸にするのは間違っています!」

 

 そう言いながらスレッタは必死に反撃する。

 スレッタも触手攻撃のパターンを掴んできたのか少しずつ攻撃に転じることができるようになっていっていた。

 

「なるほど立派な答えだ……しかし、そのために私達の幸福を、戦争継続という欲望を踏みにじろうとしているじゃないか!」

「そ、そんなの真っ当な幸福じゃ……!」

「幸福だよ! 私達にはそれしかないんだよ! 生きるということは自分のために他人をいかに踏みにじるということだ! しかし、世の中の人々はその欲望を達成しようとしすらしない! そんなの間違っている! 人々が生きるということは欲望のために動くことだ! 私は、すべての人が人らしく生きられる世界を作る!」

 

 エーファは叫びながら攻撃を苛烈にする。それに、だんだんと避けられなくなっていくスレッタ。

 やがて触手の爪やビームが機体を掠めるようになっていく。

 

「人が人らしく……!? そ、そんなの……詭弁です!」

「詭弁で構うものか! 私は私の我を通す! そして私を倒したければ、君も君の我を通したまえ!」

 

 それは、決して交わらない線だった。欲望と、秩序。

 どちらを取るかという戦いでもあった。

 

「はっ……はっ……! でも、私はああああああああああああああああっ!」

 

 スレッタは叫ぶ。そして、唱える。

 

「パーメットスコア、(セブン)ッッ!!」

 

 それは、到底耐えられるはずのないパーメットスコア。

 だがスレッタはそれでもパーメットを上げた。そこには理屈ではない、彼女の意志が、“我”があった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 それはもはや断末魔の絶叫であった。死の叫びであった。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああっ! こっ、のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 だが、スレッタは生きていた。生きて、エーファに突撃してきた。

 

「なんとっ!?」

 

 その気迫に、エーファは一瞬気圧された。それが、命取りであった。

 エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンは瞬間動きを止めてしまい、そこをキャリバーンに突撃された。

 キャリバーンはその身をぶつける勢いで肉薄し、エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンの中心を撃ち抜き、またキャリバーンもそこを突き抜けた。

 エーヴィヒ・ヴァインダーケーレンはそのまますべての動きを止め、各所を爆発させながら月の、静かの海へと落ちていった。

 

「お姉ちゃんっ!? そんな……嫌ああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 その姿を見て悲鳴を上げる声があった。ソフィだ。

 ソフィは取り乱し、彼女もまた動きを止める。

 

「終わりだよ、お前も」

 

 そこをついたものがいた。ガンダム・ファラクトに乗っていた五号だ。

 五号はソフィと戦っていたが、ソフィが動きを止めた瞬間を狙い撃ったのだ。

 

「……ああ、そ……んな……お姉ちゃん……ごめ……」

 

 そこで、ソフィの命は途切れた。

 ただひたすらに幸福を求め、そして洗脳された少女の末路であった。

 他にも、戦っていた量産型ヴィレ・ツァ・マハトが落ちていく。

 戦いはベネリットグループの勝利に終わったのだ。

 

「スレッタ!? 大丈夫、スレッタ!!」

 

 キャリバーンに声が届く。それは、最奥の指揮艦でことの成り行きを見守っていたミオリネだった。

 それまで戦況が混乱しておりスレッタとの連絡ができないでいたが、やっと通信が繋がったのでスレッタに連絡を飛ばしたのだ。

 

「……………………」

 

 だが、スレッタの反応は返ってこない。キャリバーンもピクリとも動かない。

 

「……っ!」

 

 ミオリネは堪らず艦橋を離れる。そして、小型船に乗り宇宙に漂うキャリバーンに向かう。そしてキャリバーンに到達すると、ミオリネは外部から無理やりコックピットを開けた。

 

「スレッタ! スレ……」

 

 そして、スレッタに近づきその顔を見て、ミオリネは言葉を失う。

 

 そこには、虚ろな目でどことも知れぬ虚空を眺め、反応の返ってこないスレッタの姿があったのだから。

 

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