【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
アド・ステラ一二二年。
それはエーファがエーファとして生を受けてから十年後、肉体的には十七歳になった頃であった。
「それで、例のモビルスーツを超える兵器……私用のモビルアーマーの開発はどうなった?」
「はい。現在開発は大詰めの八十五パーセントに達しています。あと少しでその姿をお見せすることができるかと」
エーファはオフィスにて背後の壁が大きな水槽になっている椅子に座りながら部下からの報告を受けていた。
彼女はしっかりと部下の目を見据え、テーブルの上に両手をついて話を聞いている。
その姿は彼女が彼女になってからそれほど変わっていなかった。胸は発育していないし、身長の伸びも同年代と比べたら低いほうだろう。
服装は令嬢らしくフリルのついた黒のドレスで、年相応の可愛らしさを感じさせるものだ。
だが、腰まで伸びる姫カットの黒髪をなびかせる顔は確実に凛々しいものとなっており、傷は整形技術によって隠されている。そんなエーファを前に、部下は威圧感さえ感じていた。
「よろしい。随分と進捗したね。状況としては悪くはないな」
「はっ……悪くはない、ですか」
部下は複雑そうな顔をする。
そんな部下に、エーファは笑いかける。
「別に君を責めているわけじゃないよ。準備はより入念に行った方がいい、というだけだ。私の言い方が悪かった。気にしないでくれたまえ」
「は、はい!」
部下はホッとしたように言う。
エーファは、そんな部下に優しく微笑みかける。
「これからも期待しているよ。ぜひ、私達のための世界を作ろうじゃないか」
「はい! 我らが自由なる意志の翼が羽ばたかんことを!」
部下は胸に拳を当て言う。それは一種の題目のようなものだった。
人間が欲望をさらけ出して生きる世界。
彼女の理念をそう題目にし、彼女の配下達は行動しているのだ。
分かりやすいスローガンがあれば人々を掌握しやすくなる。そう考えてのものであった。
「……ところで、エーファ様」
と、そこで姿勢を崩した部下がおずおずと言ってくる。
「ん? どうした?」
「実は気になる話を耳にしまして……」
「ほう? 話してみろ」
「ええ、あくまで噂なのですが――」
エーファはそうして部下からある話を聞く。その話に、彼女は眉間に皺を寄せた。
「……クワイエットゼロ。それがデリングが画策している計画の名前か」
「はい。詳細はまだはっきりとはしていないのですが、デリングの下に忍び込ませた企業スパイによると、そんな計画をシン・セー開発公社と進めているのを掴んだとか」
「シン・セー開発公社……確かベネリットグループの最下級にいる企業だったな。そんな企業と何をする気だ……?」
「我々には何も……ただ、シン・セーはドローン技術などに優れた企業なのは分かっているのですが……」
「ドローンか……ん? 待てよ……もしかすると、もしかするかもしれんな」
「エーファ様……?」
「おい、シン・セーをできるだけ洗え。そしてデリングについてもだ」
「はっ!」
そうしてエーファが命令してから数ヶ月の時間が流れる。それから掴んだ情報により、彼女は憶測を確信に変えた。
「シン・セー……とんだタヌキだな」
苦笑いするエーファ。彼女の手元にある資料に乗っていたのは、プロスペラ・マーキュリーというシン・セーのCEOの正体がかつての同僚であるエルノラ・サマヤであるということ。
そしてプロスペラとデリングが計画しているクワイエットゼロが、戦争根絶のための計画であるということ。
更に、プロスペラは密かにガンド技術を使ったモビルスーツ、ガンダムを建造している可能性のあること。
この三つを判明させたのだ。
「わざわざ仇敵と組んでしようとすることが戦争根絶だと……? なんと唾棄すべき計画か! なんと夢物語か! どんなことをしても人間が争いを止めることなどないというのに!」
激昂するエーファ。
だが、すぐさま冷静さを取り戻す。
「……とはいえ、それほどの計画を立てるほどの“何か”があるのだろうな、エルノラ……いや、プロスペラとデリングは。そしてその鍵はきっと、このモビルスーツだ」
彼女はそうして手元にあるタブレット端末に目を下ろす。
そこには、「エアリアル」と名された機体の姿が映し出されていた。
「細かなデータまでは掴めずとも、機体の姿は掴んだか。さすが我が配下のスパイ達だ。そしてコレは、おそらくガンダム……あの女が作ったのだ。その可能性は高い」
彼女はそこまで言うと、タブレット端末を持ったまま椅子から立ち上がり背後の水槽に目をやる。
そこには、多くの地球産の魚達が泳いでいた。
「戦争根絶……そんなこと、させてたまるか。戦いによって欲望を果たすという手段が失われれば、人類は人類でなくなってしまう。それだけは、させん。この世はもっと気軽に争いが起きるべきなのだ」
そして再び、タブレット端末に目をやる。画面に映し出されていたのは、二人の少女だった。
一人はミオリネ・レンブラン。デリング・レンブランの娘。
もう一人は、スレッタ・マーキュリー。プロスペラの娘。
「この二人が同時にアスティカシア高等専門学園に揃う、か……これは、偶然ではないのだろうな」
口角を上げるエーファ。
彼女は次の瞬間、すぐさまタブレット端末から連絡を入れて部下を呼び出した。
「はっ、何でしょうかエーファ様」
「決めたぞ。私は学校に通う」
「……は?」
意地の悪い笑みを浮かべながら言うエーファの言葉に、思わず部下はそう返してしまうのだった……。