【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~   作:詠符音黎

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4.氷の中を見つめる者

 学園に入学したエーファは徐々にスレッタ達との距離を詰めていった。

 まずその一歩として地球寮に足繁く通った。理由はもちろんスレッタに会いに行くためである。

 その過程でスレッタの友人達とも親交を深めた。

 メカニック科ニ年でみんなのまとめ役のニカ・ナナウラ。

 

「あっ、エーファさん。また来てくれたんですね」

 

 パイロット科一年で少々気性が荒く、その大きな丸い玉が二つついたような髪型が特徴的なチュアチュリー・パンランチ、通称チュチュ。

 

「おめーもスペーシアンの癖に暇な奴だなぁ」

 

 経営戦略科三年で少し優柔不断な寮長のマルタン・アップモント。

 

「最近スペーシアンの人達と距離が縮まってきた気がする……」

 

 ソフトウェアに精通しているギークのメカニック科ニ年のヌーノ・カルガン。

 

「あー……まあ適当に座ってろよ」

 

 明るい黒人でギャンブラーなメカニック科ニ年のオジェロ・ギャベル。

 

「おっ、エーファじゃん! 今度決闘で儲けさせてくれよー。わりと強いんだろーお前」

 

 科目で玉ねぎのような頭をしているメカニック科三年のティル・ネイス。

 

「……ミルク、飲む?」

 

 ふくよかな体型が特徴的な経営戦略科一年のリリッケ・カドカ・リパティ。

 

「あっ、エーファさーん! おはようございますー! そろそろ学園での生活も慣れましたかー?」

 

 故郷仕込みの占いでどことなく男性的な口調のアリヤ・マフヴァーシュ。

 

「やあエーファ。どうだい、一つ占ってみては」

 

 それがスレッタを支えるミオリネ以外の友人達であり、エーファが外堀を埋める一環として親しくしていった者達だった。

 エーファは彼女らとどんどんと距離を縮めていった。

 無論、エーファの感情は何一つ動いていない。すべてはスレッタとミオリネに近づくために必要な行程に過ぎないからだ。

 そんな彼女の努力は功を奏した。スレッタはエーファに心を許し、ミオリネもまた態度が軟化しはじめてきたのである。

 

「あっ、エーファさんおはようございます! 今度みんなで食事しましょうよ! 地球寮のご飯、美味しいんですよ!」

「私はパスで」

「えーいいじゃないですかーミオリネさん! まだエーファさんの事苦手なんですか?」

「別にそんなんじゃないわよ。ただみんなで一緒ってのが暑苦しくて嫌なだけ。エーファだって多分そう思ってるんじゃない?」

「え!? そうなんですかエーファさん!?」

「いや別に、みんなでの食事も楽しそうだとは思うけれど?」

「うへぇマジ? あんた案外そういうところのノリは軽いのね」

 

 こうしてエーファは表向きスレッタ、ミオリネと穏やかな日々を送っていた。

 だが、その裏で彼女は着実に調査を進めていた。

 

『エーファ様、エアリアルの決闘の際のデータを解析しました。彼女らがドローンと主張するビットの動きを確認したところ――』

「要点をまとめろ。簡潔に」

 

 エーファは自室で彼女の部下と連絡を取っていた。内容はもちろん、エアリアルについてである。

 

『は、はい! 確証には至りませんが、あれは高確率でガンドフォーマットでの動きと思われます!』

「ふむ……映像だけだと決定的な証拠にはならんか。ありがとう、仕事を進めてくれ」

『はっ! それと、お耳に入れたいことがありまして……』

「ふむ、なんだ?」

『どうやらペイル社が動き始めたようです。ご注意を』

 

 ペイル・テクノロジーズ。

 ジェターク・ヘビー・マシーナリーおよびグラスレー・ディフェンス・システムと並ぶベネリットグループの業績トップの御三家の一つである。

 

「ふむ、我々イェンザイツからもペイルには技術協力をしているからな。自然と動きも分かるか。ありがとう、学園にいるとそうした動きも分かりづらくて困るからな」

 

 そしてエーファ率いるイェンザイツは、探りを入れるのを兼ねてペイル社に技術協力をしていた。

 結果、企業スパイを巧みに潜り込ませることに成功し、情報をいち早く掴むことができているのである。

 

「そういえばあそこもガンダムを作っていたな……ファラクトと言ったか? なるほど……動くかもな、事態が」

 

 どこか嬉しげに言うエーファ。

 そして物事は彼女が想像していた通りに動いた。

 ペイル寮の寮長であるエラン・ケレスがスレッタをデートに連れ出したかと思いきや、ジェターク寮の寮長グエル・ジェタークに決闘を申し込んだのだ。

 決闘は決闘委員会でありグラスレー寮寮長シャディク・ゼネリの下で行われたが結果はエランのほぼ圧倒的な勝利に終わった。

 そして、その決闘の報酬としてエランはスレッタに決闘を申し込んだのだ。

 これはエーファにとっては好機だった。なぜなら、推定ガンダムの二機同士がぶつかり合えば、必ずその尻尾を出すと踏んだからである。

 だがそのためには下準備が必要だ。それに、彼女は取り掛かった。

 

「本当ですかエーファさん!? 推進ユニットを提供してくれるって!」

 

 地球寮にて、ニカがとても嬉しそうに言う。

 エーファはそれに笑顔で頷いた。

 

「ああ、フロント外宙域で戦う機動力が必要なんだろう? なら我がイェンザイツのものでよければ、父に融通すれば譲ってくれるだろう。もちろん、性能は折り紙付きだよ」

 

 エーファはエランとの決闘に際し宇宙で戦うための推進ユニットがない問題に手を差し伸べたのだ。

 彼女の言葉に、スレッタを始めとした地球寮の面々は喜ぶ。

 

「よっしゃああああああ! これで少なくとも赤字にならなくて済むううううう!」

「ああ、しかも浮いた金をスレッタに賭けて勝てばむしろプラスだ。なかなかにうまい話だな……」

 

 オジェロとヌーノが互いに嬉しそうに話す。

 一方で、アリヤが驚きの表情でエーファを見てくる。

 

「本当にいいのか? 何かこちらも対価を払ったほうがいいんじゃ……」

「いや、大丈夫だよ。これは友達へのささやかな贈り物だと思ってくれていい。なに、こんなの社長令嬢の私からすれば安いプレゼントさ」

「す、凄い……凄いセレブな発言です!」

 

 リリッケもまた驚きに満ちた表情で言う。

 

「まあ、ニカ姉のスーパーテクニックを見せられなかったのはちと残念だが、いいもん手に入るならそれでいいな!」

「もうチュチュ、私にそんなスーパーテクニックはないったら……」

 

 チュチュの言葉に苦笑いを浮かべるニカ。

 地球寮の面々は湧きに湧いていた。

 

「本当に……ありがとうございます! これで、エランさんとちゃんと戦うことができます」

 

 そんな中、スレッタもまた嬉しそうに、しかし噛みしめるように頭を下げてきた。

 エーファはそんなスレッタの肩をポンと叩く。

 

「気にするな、私と君の仲じゃないか」

「はい……!」

「……正直、ちょっと気に食わないわ」

 

 と、そこでそう言うものがいた。ミオリネだ。

 

「えーミオリネさん!? せっかくのエーファさんの好意に何を言うんですか!?」

「だって推進ユニット一つと言ってもそう安くないはずよ。それを簡単に取り寄せるなんて、いくら友達のためだからって大変じゃないの。それをこんなにあっさり……」

「まあ、ミオリネの言うことも分かるよ。でも、私はぜひ力になりたいんだ。だって君達は、私にとって初めての同年代の友人なのだから」

 

 エーファは微笑みながら言う。もちろん嘘八百である。エーファは彼女らを友人とは思っていない。

 だが、その言葉にミオリネは少ししおらしい表情を浮かべ小さく頷いた。

 

「……まあ、そういうことなら受け取ってやらないでもないけど」

「良かった、ありがとうミオリネ」

「なんであんたが礼を言うのよ。馬鹿じゃないの……?」

 

 こうしてエーファはスレッタが万全に戦えるように準備を手伝う。

 だが、彼女の行動はそれだけでは終わらなかった。

 

 

「おっと? 氷の君が二人? これは一体どういうことかな?」

 

 ペイル社のとある施設。

 そこで、エーファの前には二人のエランがいた。一人は病衣をまとい何やら機械に座っており、もう一人はパソコンの前の机に座っている。

 そしてその奥には一人のくたびれた様子の女性が困った顔で椅子に座っていた。

 

「わざとらしい冗談はやめなよエーファ。この事を知らない君じゃないだろ?」

 

 机に座っている方のエランが憎たらしい笑みを浮かべながら言う。

 彼の言葉に、エーファは肩をすくめる。

 

「ま、そうだね。我ながらつまらない冗談だとは思ったよ。なあ、強化人士四号君?」

「…………」

 

 ――強化人士四号。

 そう呼ばれたのは機械に座っていたほうのエランだった。それは、彼が本物のエランではないことを示す。

 

「エーファさん……どうしてここに」

 

 そんな中、女性――ベルメリア・ウィンストンがエーファに問う。

 彼女の問いにエーファもまた嫌な笑みを浮かべる。

 

「どうしてってひどいじゃないか。私達が技術協力している強化人士の様子を見に来ちゃいけないのかい?」

「それは……」

 

 言葉に窮するベルメリア。そんな彼女を前に、エーファはフッと笑う。

 

「まあそう気負う必要はないよ。君はただ仕事をしているだけなのだから。ところで四号君、調子はどうだい?」

「……別に」

 

 四号はエーファに目を合わせることすらしなかった。それだけ、嫌悪の感情が見て取れた。

 

「やれやれ嫌われたものだ。まあいい、今日は我らがスレッタ・マーキュリーに戦いを挑む君を激励しに来たんだ」

「思ってもないことを……」

 

 再び四号が冷たい口調で言う。それに、エーファは両手を軽く上げ首を左右に振った。

 

「そんなことないよ。スレッタは私の友達だが、出資しているのは君だからね。企業の人間としては、君を応援するのが筋だろう?」

「……友達」

 

 エーファの言葉にピクリと眉を動かす四号。それをエーファは見過ごさなかった。

 

「ああそう、友達さ。君と違って、私は友人作りが上手なんだ」

「……ッ」

 

 一瞬だが、四号が表情を歪める。それで十分だと、エーファは思った。

 

「ま、お呼びでないのなら退散しよう。せいぜい頑張ってくれ。私の親友を倒す戦いを、ね。では、sweet dreams(よい夢を)

 

 そうして去っていくエーファ。その道中で彼女は言う。

 

「これだけ煽れば、持たざる者としてのコンプレックスがありそうな四号は感情に駆られパーメットスコアを(フォー)までは上げるだろう。そうすれば、本気のガンダム同士の戦いになる。さて、どうなるか……」

 

 こうした秘密裏の行動を挟み、エーファは戦いを見守る。

 スレッタと四号の戦いの火蓋は、今切って落とされようとしていた。

 

 

 そして、決闘の日は訪れる。

 スレッタと四号の戦いは、互角だった。

 四号は開幕からパーメットスコア4を展開。かなりの高機動でエアリアルを翻弄しようとする。

 だがスレッタもエーファから貰った推進ユニットのお陰でその速さについていくことができ、勝負は緊迫した状態ながらもどんどんと伸びていった。

 二人の戦いを固唾を飲んで見守るミオリネや地球寮の仲間達。決闘委員会の面々。学園の生徒達。

 そうした観戦者の中には、当然エーファも含まれていた。彼女は今、暗く狭い空間の中にいた。

 そこで彼女はタブレット片手に戦闘を観戦していたのだ。

 

「さて……もう戦って随分だが、四号君の体もそろそろ限界じゃないかな?」

 

 そんなときだった。四号決死の攻撃の結果か、ビームライフルの弾がエアリアルの推進ユニットをかすめ破壊。そこから四号の操るガンダム・ファラクトの相手の機能を一時停止させる電磁ビームを放つビットがエアリアルを捕らえたのだ。

 エアリアルもこれまでか。そう思われた。しかし、

 

「っ!?」

 

 エアリアルから、突如青い光が放たれた。それと同時に、映像が乱れ、次の瞬間にはファラクトは撃破されていたのだ。

 それを見たエーファはすぐさま部下に連絡を入れる。

「……観測したか?」

『はい……間違いなくガンドフォーマットの相互干渉かと』

「あぁ……限りない黒が完全な黒になったな」

 

 狭い空間の中で、エーファは背を背後に倒しながら言う。息を吐き出すように。

 

「さてプロスペラ……このガンダムで何を企む?」

 

 そしてエーファの目の前に光が満ちる。空間が開けたのだ。

 彼女はそこから外に出る。彼女が足をつけた先はキャットウォークであった。

 

「そろそろ、試してみるか……自分自身の手で」

 

 振り返りながら言うエーファ。

 彼女の視線の先にあったのは一機のモビルスーツであった。

 青いボディに逆脚の下半身、爪の生えたアンバランスな大きな腕、三つの目と三つの角がついた特徴的な頭部。

 

「全力とはいかないが……久々にお前の出番になるかもな、ヴィレ・ツァ・マハト」

 

 ――ヴィレ・ツァ・マハト(力への意志)

 そう呼ばれたモビルスーツもまた、ガンドフォーマットを用いているガンダムであった。

 

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