【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
「それにしてもなんつータイミングで決闘申し込んできてんのよあの空気読めないバカ女はっ!」
インキュベーションパーティの翌日。ミオリネはスレッタと共にプロスペラに会いに行った帰りにそう怒りを吐き出した。
「ま、まあまあ……向こうにも何か事情があったのかもしれませんし……」
「事情も何もないわよ! ちょうど株式会社ガンダムで忙しくなるってときに決闘を申し込むのは空気読めない通り越してバカよバカ! ったく、あんなバカにちょっとでも気を許してた私もバカだけど……」
「許してたんですね……ふふっ」
「あっ、今のはその……ていうか、何笑ってるのよあんた。またエアリアルが狙われてるのよ? 危機感持ったら?」
「そうなんですけど……ただ、ミオリネさんがこうして気持ちを吐き出す相手がいることって、なんか嬉しいなって」
「何よそれ。あんたは私のなんなのよ」
「花婿です!」
「……そうね」
ミオリネは軽くため息をつきながら言う。学園に戻るまでは、まだ少し時間があった。
◇◆◇◆◇
「双方、魂の代償をリーブラに」
そう言って部屋の中央で決闘を司っているのはシャディクだった。
彼を真ん中に、それぞれエーファとスレッタが向かい合っている。
「エーファ・ツァラトゥストラ、君はこの決闘に何を賭ける?」
シャディクは穏やかな表情でエーファに問う。すると彼女は言った。
「ガンダム・エアリアルを、一ヶ月ほど貸してほしいな」
「えっ、貰うじゃなくて、借りる、なんですか……?」
彼女の言葉を思わず聞き返すスレッタ。エーファはそれに微笑みながら頷く。
「ああ、そうだよ。大丈夫、勝っても君の大事な家族を奪ったりはしないよ」
「エーファさん……」
「ぬっるーい。欲しいなら普通に奪っちゃえばいいのにー」
そう挑発的な笑みと口調で言ったのは決闘委員会に所属している褐色の少女、セセリア・ドートだ。
セセリアはソファーに座りながらも横柄な態度でエーファを見ている。
「いやいや、私は謙虚なので」
エーファは軽く両手を広げながら返す。内心、あまりにも思ってもいないことを言っているなと自嘲しながら。
「謙虚……」
そんな彼女の言葉に反応した者がいた。セセリアと同じ寮所属で決闘委員会の、ロウジ・チャンテだ。彼は球体型ロボット「ハロ」を抱えながら目を合わせることなく言った。
「あれは謙虚じゃなくバカって言うのよ」
それに答えたのはその場に居合わせたミオリネだ。相変わらず不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる。
「はいはい、みんなそこまで。進行を続けても?」
シャディクがそこで苦笑いしながら言った。そこで面々は一度口を開くのを止める。
「ではスレッタ・マーキュリー、君はこの決闘に何を賭ける?」
「そうですね……じゃあ、私が勝ったらエーファさんには株式会社ガンダムを手伝ってもらいます!」
「はぁ!? 私の許可なく何勝手に決めてるのよスレッタ!?」
「い、いいじゃないですか! 少しでも人員は多いほうが楽しいですし!」
「その活動が目の前の奴に邪魔されてること少しは自覚しなさいよね!?」
再びスレッタに怒るミオリネ。スレッタはそれで少ししょげた顔をする。
「アーレアヤークタエスト、決闘を承認する」
一方でシャディクは進行を続け、パン! と両手を胸元で叩き合わせた。
こうして決闘は決まり、二人は戦いの準備をするためにモビルスーツに乗る。
スレッタは当然ガンダム・エアリアルに。
そして、エーファは彼女専用のモビルスーツである、ガンダム・ヴィレ・ツァ・マハトにである。
「さて、これがガンダムとバレると少し面倒だろうから、今回パーメットスコアは上げられない。それでエアリアルをどれほど追い詰められるか、ちょっとした縛りプレイだな」
エーファは計器チェックをしながら言う。その顔には笑みがこぼれていた。
「でも、昔みたいでなかなかに燃える」
彼女は思い出していた。かつて男だった頃、身一つで戦場を渡り歩いた記憶を。
オックスアース関連企業に拾われる前は、ボロボロのモビルスーツを駆って戦場を戦っていたことを。
状況はかなり違うが、心境的には似たものをエーファは感じていたのだ。
そんな胸の高鳴りを感じながら、彼女はカタパルトに乗せられた移動用カーゴで今回の戦場となる森林を想定した戦術試験区域に現れる。
「LP042、エーファ・ツァラトゥストラ。ヴィレ・ツァ・マハト、出る」
彼女は自分の学籍番号と名前、そしてモビルスーツの名を言う。もちろん、ガンダムであることは隠して。
「何あの機体、見た事ない……」
「また新型かよぉ。金持ってる奴は本当に違うなぁ」
当然、ミオリネや地球寮のオジェロなどがエーファの機体を見て驚きの色を見せる。
だが他にもガンダムを有する企業があるとは常識的に考えてありえないためか、あくまで新型機として取られ、ガンダムとは思わなかったようだ。
一方で、エーファの言葉に呼応するように、スレッタもまた戦術試験区域に到着する。
「LP041、スレッタ・マーキュリー。ガンダム・エアリアル、出ます!」
彼女の意気揚々とした声が、コックピットに響き渡る。
「これより双方の合意の下、決闘を執り行う。立会人はグラスレー寮寮長、シャディク・ゼネリが務める。勝敗は、相手のブレードアンテナを折ることで決するものとする」
両者が揃ったのを確認するとシャディクが決闘委員会のラウンジから口上を述べる。
「両者、向顔」
そして、二人に開幕の合図を知らせる。
「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず」
「操縦者の技のみで決まらず」
エーファとスレッタがそれぞれ言い、そして、
『ただ、結果のみが真実!』
「フィックスリリース」
ついに決闘の火蓋が切って落とされた。
「行くよ、エアリアル!」
まずスレッタが森を避けるように空中に飛び出す。空からエーファのヴィレ・ツァ・マハトをビットで狙い撃つつもりだ。
「さて、当てられるかな?」
一方でエーファはあくまで地面を疾走した。目の前に生えている木々を巧みに避けながら、エアリアルに近づいていく。
こうして両者の距離はどんどんと近づいてく。
「みんな、行って!」
と、最初にしかけたのはスレッタだった。ビットからビームを発射し地上のエーファを狙ったのだ。
だが、
「甘い!」
エーファはその攻撃をすべて避けた。木々によって進行方向がある程度定められているにも限らず、である。
「え、ええ!? なんて動きっ!?」
「この程度で驚いていないよなぁ、スレッタ・マーキュリー!」
今度はエーファの番だった。エーファはヴィレ・ツァ・マハトの逆脚を思いっきり曲げると、空中高く飛び上がったのだ。
「っ!? ブースターを使わずにここまでの跳躍を!?」
「だあっ!」
一瞬で空にいたエアリアルとの距離を詰めたエーファのヴィレ・ツァ・マハトはその剛腕でエアリアルを殴打した。
「きゃああああああっ!?」
それにより、エアリアルは地面に叩きつけられる。更に、その状態のエアリアルを狙ってエーファはヴィレ・ツァ・マハトの腕の先の爪からビームを発射する。空気中の塵や宇宙塵の薄いところを進むルートを構築するために不規則な動きになる雷のようなビームだ。
「危ないっ……!」
だが、エアリアルはすぐさま体勢を立て直しそれを回避、ビットを空中にいるヴィレ・ツァ・マハトに向ける。
「はあっ!」
そこから発射されるビームは今度こそ命中したかに思えた。
だが、
「甘い甘い甘い!」
エーファは横方向にブースターを吹かせることによって急激な横移動を行い、ビットのビームを避けたのだ。
「なんて動きっ!? 完全にこっちの行動が読まれてるみたいっ……!」
「読めるのさ! 経験の差でなっ!」
二人の通信は繋がっているわけではない。だが、エーファはスレッタの動揺を手に取るように理解することができた。
「やはり実戦経験の少なさは致命傷だなスレッタ! いくらガンダムとはいえ、経験の差というのは大きいのだよ!」
地上に降りたエーファはまたも木々の間を素早く、不規則な動きで通り抜けエアリアルに肉薄する。
そして、再びその巨腕で殴ろうとする。
「させないっ!」
だが、それを甘んじて受けるスレッタではなかった。スレッタはビットを操りシールドを形成、巨腕を防ぐ。
更に、スレッタはそこで二本のビームサーベルを抜き、ヴィレ・ツァ・マハトを両側から斬りかかる。
「だあああああああっ!」
「おっと危ないっ!」
だが、それをエーファもまた防いだ。
両の巨腕の先に生えている爪から、ビームサーベルの光を伸ばして。
「え、ええっ!? そんなのありですかっ!?」
「ありなんだよなぁそれがっ!」
このとき、二人の機体が接触したことにより接触回線で言葉が通じた。故に、エーファはスレッタの言葉に答えたのだ。
「ぐ……!」
「どうした、馬力だとこっちのほうが上だぞっ!」
鍔迫り合いの状態から、ヴィレ・ツァ・マハトはエアリアルを押し潰すように押し返していく。
その圧力で、地面に片膝をつくエアリアル。
「ぐっ……みんなっ!」
だが、そこでスレッタはビットを再び展開した。ヴィレ・ツァ・マハトを狙うように円形になり、ビームを発射するビット。
「くっ、仕方ない……!」
さすがに焦るエーファ。だが、彼女はビームがあたる直前に逃走することなく、機体後部からあるものを展開した。それは、複数の小さなドローンだった。
そしてそのドローンは突如ピンク色の煙を散布したかと思うと、それによりビームがかき消えてしまったのだ。
「え、ええええええ!? 何ですか今の!?」
「今のは我が社の新製品でね……! まあ現状虎の子だから一回しか使えないんだが、しばらくは効果が残る……! その間に、エアリアルを潰すのには十分だっ……!」
そうしてエアリアルはどんどんと重量のある腕に潰されそうになっていく。
地面についた片膝のパーツは悲鳴を上げ、鍔迫り合っているビームサーベルも徐々にエアリアルのブレードアンテナに迫っていく。
エアリアルはもはや絶体絶命の窮地であった。
しかし、そんなときだった。
「――っ!?」
突如エアリアルが青色に発光し始めたかと思うと、ヴィレ・ツァ・マハトの操作が急に効かなくなったのだ。
「これは……もしやオーバーライ……ぐっ!?」
そして同時に襲ってくる激痛。それは、頭部に刺さっているパーメットが絶叫しているかのような錯覚を受けた。
「な……ぜ……急、に……ああああああああああああああああああああああっ!」
このままでは危ない。そう本能が告げた瞬間だった。
ヴィレ・ツァ・マハトの腕部が勝手にエアリアルから離れ、その隙にエアリアルがビームサーベルでブレードアンテナを切ったのだ。
それと同時に、エアリアルの発光は収まり、エーファの頭部の痛みも収まった。
「……はぁ、はぁ」
そして空中に浮かび上がる『勝者、スレッタ・マーキュリー』の文字。
「……そうか、そういうことか……クソッ……!」
そして一人のコックピットで、エーファは苦笑しながら悪態をついた。彼女は勘付いたのだ。エアリアルでプロスペラが何をしようとしているのか、を。
「まったく、どういう原理かは未だに分からんが、恐ろしい機体だよ、ガンダム・エアリアル……!」
「あの……大丈夫ですか、エーファさん。なんだか一瞬、凄い苦しそうな声を出してた気がしますけど……」
と、そこでスレッタがエーファに通信で話しかけてくる。エーファはそれに、
「……いや、大丈夫だ。通信システムの障害か何かだろう。問題ないよ」
と、いつものように取り繕って笑って答えた。
その心の中で、プロスペラがやろうとしているクワイエットゼロ、その手段に怒りと呆れを覚えながら。