【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~ 作:詠符音黎
シャディクとの決闘からニヶ月が経った。株式会社ガンダムの事業は徐々にだが軌道に乗り始め、ガンドの技術で作られた義足も形になってきた。
そんな中でミオリネは出張することも多くなり、その間にミオリネが管理している菜園の温室の管理を、スレッタが任されることになっていた。
また、エアリアルは改修のためにプラント・クエタに預けられていた。
そしてエーファは、そんな中で株式会社ガンダムに外部の協力員として力を貸していた。
「ここ、数字が違うよ。それ先月のじゃない?」
「えっ? あ、本当だ……ありがとうエーファ。助かるよ」
資料を作成していたマルタンがエーファの助言に礼を言う。
「いやいいんだよ。あと関係ないけどこの資料、ちょっと見積もりが甘いかもね。ミオリネが帰ったら私が資料を見直せって言ってたって伝えといて」
「ええ!? エーファから言ってくれないかなぁ……」
「私はあくまで外部協力員で本業はイェンザイツの方だから、そういうことは自分達でコミュニケーションを取ってよ」
「それはそうだな」
「アリヤまでぇ」
情けない顔で言うマルタンに笑うアリヤとエーファ。そこで、エーファは地球寮の周囲を見回す。
「そう言えばスレッタは?」
「ああ、スレッタ先輩なら今温室にいると思いますよ?」
「ありがとうリリッケ」
エーファは軽く手を上げて礼を言うと地球寮から外に出る。
「ん? スレッタのとこ行くのか?」
「ああ。ちょっと様子を見たくなってね」
すれ違ったチュアチュリーにそう答えると、エーファは学園の外れにある温室へと向かった。
温室はミオリネが母から受け継いだトマトの品種を栽培しているとエーファは聞いたことがあった。
時折ミオリネやスレッタを呼びに温室に向かった事があるが、その中に入ったことはなかった。
どうやら二人にとって特別な場所になっているようだからである。相手の人間関係において大事な場所に不用意に侵入しない事が良い印象を受ける手段の一つであることをエーファは知っていた。
「……ん?」
そして温室についたとき、彼女はある人物と出くわすことになった。シャディクである。
彼はちょうど温室から去ろうとしている様子だった。
「やあシャディク君、奇遇だね」
「…………」
それまで機嫌が良さそうに笑っていたシャディクの表情が、エーファを見た瞬間不機嫌そうなものに変わる。
そして、シャディクはそんなエーファに声をかけることなく横を通り過ぎようとした。
「なんだい無視かい? 冷たいねぇ」
「……俺は水星ちゃんは認めても、君のことはまだ認めていない」
「おや、まだ決闘のときのことを根に持っているのかい? あんなの、挑発の一つの手段じゃないか。そこまで引きずることはないだろう」
あくまで笑いながら言うエーファ。だが、シャディクはそんな彼女に目を合わそうともしない。
「俺には分かる。君は心の底で、何かを企んでると」
「……へぇ」
「今はまだいい。でも、ミオリネに何かあるようなら、俺は君を許さない」
シャディクはそう言い残すとその場から去っていった。
エーファは彼の背中を静かに眺める。
「鼻が利く男だ……ちょっと探ってみたほうがいいかもね」
そしてエーファはそう呟くと、改めてスレッタがいるミオリネの温室に向かうのだった。
それからエーファは温室で少しスレッタと会話した後、二人で地球寮へと戻った。
するとそこにはエーファにとって知っている顔があった。
「あ、ベルメリアさんじゃないですか」
エーファは笑顔で話しかける。
そこにいたのは、義足の開発に協力するためにペイル社のダンダム開発部門から出向してきたベルメリアだった。ペイル社のガンダム開発部門は株式会社ガンダムに統合されており、ベルメリアもまたエーファのように外部協力員になっていたのだ。
「あっ……エーファさん……」
エーファの顔を見た瞬間、顔をこわばらせるベルメリア。
「今日も来てくれたんですね、ありがとうございます」
ベルメリアにエーファは何事もなかったかのように言う。
「いやーしかしまさか二人がお知り合いだったなんで今でもびっくりですよ」
「え、ええ。イェンザイツとペイル社は技術的な協力のために提携を結んでいるから……」
そこでニカが言い、ベルメリアが取り繕うように反応する。
エーファはそんなベルメリアに近づくと、小声で囁く。
「だめじゃないか、そんなに動揺しちゃあ。私達は健全な関係。そうだろう?」
「……っ、はい」
彼女の言葉に頷くベルメリア。そんな二人の様子を地球寮の面々は不思議な様子で見る。
「ああ、なんでもないよ。ちょっと仕事の話だったから小声でね」
「な、なるほど……大人の世界って感じです!」
「ははは、まあね。それよりスレッタ、義足の調整手伝ってくれ。私は既に終わらせたけど、データは必要だからね」
「あっ、はい!」
スレッタがエーファの言葉を受けてガンド技術で作った義足の方へと向かう。
それを笑顔で眺めながら、エーファは横目でベルメリアを見る。ベルメリアはそんな彼女の視線から逃げるように、義足の方へと小走りで向かっていった。
「まったく、小心な女だ……ま、だからこそヴァナディース事変を生き残れたんだろうけど」
そして義足についてあれこれと地球寮の面々と会話するベルメリアを見ながら、エーファは小さな声で言うのだった。
「……そうか、モーゲンロェーテの販売状況は上々と言ったところだな。ああ、そうだ。コストは度外視でとにかく販売を続けろ。今はシェアを確保することが大事だ」
その日の夜。
エーファは外でイェンザイツにいる部下と彼女自身の端末で通信を行っていた。
彼女がこっそりと学園に持ち込んだ端末であり、通信に際して高い秘匿性を持つものである。
「それで、例の……ん?」
と、そこで彼女はあるものを見た。それは、逃げるように走り去っていくスレッタ。そしてそんなスレッタの背中を妖しい笑みで見つめるエランの姿だった。
「悪い。あとで掛け直す」
エーファはスレッタが見えなくなるぐらいのタイミングで、エランに話しかけた。
「やあエラン君。それとも、五号君と呼んだ方がいいかな?」
彼女はエランの姿を見た瞬間に理解していた。
それがエラン本人に似せられた五人目の強化人士であることを。
「おや? ああ、そういうあんたがエーファ・ツァラトゥストラか。話には聞いているよ。なかなかに喰えない人だって」
五号は笑いながらエーファに言った。彼女はそんな彼の言葉に「ふふっ」と軽く笑う。
「初対面でそれとは、君もなかなかに面白い人のようだ。少なくとも前のよりは話していて楽しそうだよ」
「それはどうも」
お互い笑顔で話すエーファと五号。しかし、その一方で互いに腹の中を探るような目でそれぞれを見ていた。
「まあ、これから仲良くやっていこうよ。なにせ、おたくの会社とうちはビジネスパートナーなんだから」
「そうだね。だったら、俺があのスレッタ・マーキュリーを口説き落とすのを手伝って欲しいんだけど」
「それは自分でやって欲しいなぁ。協力すると言っても陰謀までは別だから」
エーファはそこまで言うと、その場から温室の方向に歩き始める。五号もまた反対方向に歩き始めた。
「それでは。
「ああ、そっちこそ」
エーファはそこで五号と別れると、部下との通信を再開する。
「ああ、悪かった。それで例の件についてだが……」
それから数日後。
株式会社ガンダムの面々はエアリアルを引き取るためにプラント・クエタに向かうことになった。
エーファはあくまで外部協力員なので、そこにはついていかない。
そのはずだった。
「ジェタークの動きが怪しい?」
しかし、エーファは部下から受けたその報告で考えを改める。
『はい、ジェターク参加にいる協力者からプラント・クエタの警備を薄くする動きがあるという情報を掴みました。また、その日にはデリング総裁とプロスペラ・マーキュリーも訪れるそうです』
「なるほど……ふむ」
エーファは少し考え込む。そして、部下に言う。
「船を出せ。イェンザイツ名義で適当に理由をつけてプラント・クエタに入る。これは何かがあるかもしれん」
『分かりました。すぐに準備を行います。我らが自由なる意志の翼が羽ばたかんことを』
こうして通信を切るエーファ。
彼女は、一人口角を上げる。
「どこのだれかは知らないが……何かを企んでいるな。この私を差し置いて謀など、させはせんよ……」