【完結】クイーン・オブ・デザイア~ソシテ宇宙ハ灰ト化ス~   作:詠符音黎

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9.紺青の巨影

「どうだ、様子は?」

『はっ、デリングとプロスペラは僅かな配下だけを連れて密談をしているようです。残念ながら、その内容を探ることまではできませんでした』

 

 プラント・クエタの圏内から外れた小惑星の裏に隠れた母艦のブリッジから彼女は通信で聞く。

 エーファはあえてプラント・クエタには部下だけを送り込み、自身は内部には入らなかった。

 そこには、彼女のある思惑があった。

 

「そうか、まあいい。やろうとしている事自体の見当はついている。それよりも、プラント内で他に怪しい動きはないか?」

『いえ、現状は何も』

「ふむ……とすると、ジェタークの艦隊が外されているのから見てやはり来るのは外部からか。往来する船への監視を注意深く続けたほうがいいな。ま、私にとってもその方が都合がいい。相手がモビルスーツを出すなら、私もアレの試運転を存分にできるというもの」

 

 エーファはそう言うと彼女が座っている艦長席に深く背中を預ける。

 

「アレはテストでは十分な性能を発揮したが、実戦はまだだからな……できるだけのデータが欲しい。できれば相手がモビルスーツを使用した荒事に持っていってくれると助かるんだけれど……」

 

 彼女がそう呟いた、そんなときだった。

 

「エーファ様、飛ばしていた監視ドローンがプラント・クエタに近づく一隻の輸送船を感知しました」

 

 ブリッジでモニターを見つめていた部下からそう報告が入る。

 

「輸送船か、怪しいところは?」

「現状はプラント・クエタに出入りしている運送会社のものらしいですが……運行予定時間がズレているようですね」

「ふむ……監視を続けろ。正規のものとは言え、何かあるかもしれん」

「はっ。……ん? これは……パーメット識別コード検知、モビルスーツがプラントに向けて発進したようです! 映像出します!」

 

 ブリッジのモニターに映像が映し出される。そこにはジェターク社のモビルスーツであるデスルター、更にはガンダムと思しき二機のモビルスーツが映し出されていた。

 

「ビンゴ、こいつらだな」

 

 エーファはその映像を見るとニヤリと笑い、席から立ち上がる。

 

「ここを頼む。私はアレで出る」

「はっ!」

 

 エーファの言葉にその場にいた全員が敬礼する。そして、去り際に彼女は言う。

 

「そうそう、あれに乗っている際に通信を傍受される事がある。これからは私の事はコードネームで呼べ」

「分かりました。エーファ様……いえ、“クイーン”」

「それでいい」

 

 エーファは頷くとそのまま彼女がいた艦の後方へと向かっていく。そして彼女がたどり着いた艦後方に密着するように接続してあったのは、巨大な丸い影であった。

 

「さあいくぞ……私の意志の体現、永遠なる生の充足を体現する機体、モビルアーマー“エーヴィヒ・ヴァインダーケーレン”」

 

 ――エーヴィヒ・ヴァインダーケーレン(永劫回帰)

 彼女はそう呟いて、艦から伸びていった通路からその影に近づいていくのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ほらほらー? 出ておいでよスレッタ・マーキュリー? じゃないと殺しちゃうよぉー?」

 

 プラント・クエタ宙域にてそう言っているのは、ガンダム・ルブリス・ウルにのる女性パイロット、ソフィ・プロネであった。

 彼女はルブリス・ウルによってプラント防衛隊を次々と落とし、プラントに挑発的な攻撃を繰り返していた。

 

「ソフィ、私達の目的はあくまでデリングの抹殺……それを忘れないで」

 

 そんな彼女に冷静そうな口調で言うのはガンダム・ルブリス・ソーンに乗るノレア・デュノクだった。

 彼女らは共に地球のゲリラ組織、フォルドの夜明けに所属するパイロットであった。

 二人を含むフォルドの夜明けはシャディクに依頼され、今こうしてデリング暗殺を目的としてプラント・クエタを襲撃しているのであった。

 

「このっ……魔女めええええええええっ!」

 

 そんな彼女達に抵抗するプラント所属のパイロット達。だが、彼らは次々とソフィ達を始めとするフォルドの夜明けの面々に撃墜されていく。

 

「はっ! つまんないのー、やっぱり会いたいなぁスレッタ・マーキュリー。あのエアリアルっていうガンダム、絶対楽しいよぉ」

「不確定要素はないほうがいい」

「えー!? もうノレアはつまんないんだからー!」

「つまらなくて結構……ん?」

 

 二人がそんな会話をしながら戦闘をしていたそのときだった。

 レーダーが、未確認の物体を検知したのだ。

 

「この反応……見たことない。プラント防衛隊でも、魔女狩り部隊のモビルスーツでもない……?」

 

 ノレアもソフィもその反応の方向に機体の頭部を向ける。

 すると、そこには見たこともない機影があった。

 まず全体の姿としては青色の球体であった。だが、球体中央には大きなくぼみがあり、その中央が青色に発光している。また、球体の斜め四方向に鉤爪の如く長く大きな曲線を描くトゲが伸びている。

 そして、そのトゲの間の左右と下部には宙に浮く輪があり、その輪を通すように左右に四本ずつ、下部に五本の触手が球体から曲がった状態で生えていた。

 触手の先は小さな爪が生えており、爪が閉じている状態のその姿はドリルのようにも見えた。

 その姿だけでも異様であったが、その場にいた敵味方すべてを驚愕させたのはその大きさであった。

 触手とトゲを生やしたその青い球体の大きさは、ゆうにその場にあるモビルスーツの三~四倍ほどはあったのだ。四方に生えているトゲを含めればさらに数倍大きい。触手の長さはそれよりももっと長く、ピンと伸ばした状態なら普通のモビルスーツの十倍はあるだろう。

 そんな巨大なトゲと触手の生えた球体が、ものすごい速さでプラント・クエタに接近してきているのである。

 誰もが動きを止めるのは当然であろう。

 

「あれは、一体……!? 兵器なのか……!?」

 

 そう言ったのはフォルドの夜明けのメンバーでありモビルスーツ隊の指揮官でもあるオルコットであった。

 数々の戦場を越えてきた彼ですら、その異様な姿の機体を見たことはなかった。

 球体型のマシンはどんどんと近づいてくる。そして、その球体の触手が届く範囲になった、その瞬間だった。

 

「っ!? 全機、散開っ!」

 

 オルコットは叫んだ。

 彼がそう言った直後、触手がその場にいたモビルスーツ相手に襲いかかってきたのだ。

 

「うっ、うわあああああああああああっ!?」

 

 ドリルのように爪を回転させながら襲いかかってくる触手に、動きが遅れたプラント防衛隊のモビルスーツは次々と粉砕されていった。

 フォルドの夜明けのモビルスーツも、一瞬にしてその半数以上を破壊されてしまう。

 

「ちょ、マジ!?」

「くっ……!」

 

 ソフィとノレアは既のところでそれを回避することに成功する。

 だが、空を切った触手はすぐさま方向を変えて残ったモビルスーツに襲いかかってくる。

 

「何これ!? 何これ!? サプライズ!? マジありえないんですけど!?」

「そんな事言ってる場合じゃないよソフィ! 本気で避けないと……狩られる!」

「分かってるよっ! パーメットスコア、4!」

 

 二人は機体のパーメットスコアを上げ、機動力を上昇させて触手の攻撃を避ける。

 そして回避しながらも、目の前の巨大な球体に銃口を向ける。

 

「こんだけでかい的、外さないっしょ!」

 

 引き金をそう言いながら引くソフィ。

 だが、

 

「はっ!? 嘘っ!?」

 

 攻撃は当たらなかった。なぜなら、球体は一瞬で横に滑るように移動し、回避したからだ。

 さらに攻撃を続けるソフィとノレア、そしてオルコット達。

 だが球体は不規則に、まさに宇宙で『ブレる』かの如く残像を残しながら読めない動きを見せて移動していき、攻撃を避けていくのだ。

 

「くそっ! 気持ち悪ぃ! なんだあの動き!」

「ただのマシンじゃない……あれ、オルコット、撤退しよう!」

 

 悪態をつくソフィと、オルコットにそう提案するノレア。

 

「ああ、そうだな……! こりゃあデリング暗殺どころじゃない……!」

 

 しかし、そのタイミングだった。

 球体の見据える奥、フォルドの夜明けの後方から、ビームが飛んできたのだ。

 

「今度は何っ!?」

 

 生き残りが背後を向くと、そこには改修されたガンダム・エアリアルの姿があったのだ。

 

「スレッタ・マーキュリー!? 嬉しいけどタイミング最悪っ! 悪いけど、今あんたの相手をしている暇はないのっ!」

 

 ソフィはエアリアルの姿を見てそう言う。その瞬間、ルブリス・ウルの足が一瞬止まってしまった。

 それがいけなかった。

 

「危ないソフィ!」

「えっ? きゃあっ!?」

 

 ルブリス・ウルに触手が接近したかと思うと、メインカメラの頭部を吹き飛ばし、そしてその体に巻き付いたのだ。

 

「なっ、なんだこのっ!?」

「ソフィ!? クソッ、ソフィを離せ!」

 

 触手めがけ攻撃するノレア。だが、触手は素早くルブリス・ウルを捕縛した状態で引いていき、攻撃を避けていく。

 

「えっ!? い、一体どういう状態ですかっ!?」

 

 一方で、その状態に困惑しているのはエアリアルに乗るスレッタもであった。

 プラントを襲う敵を母に言われ排除しにきたらこの惨状なのである。動揺するなというのが無理であった。

 

「ノレアっ! ノレアっ! クソ、離せ……!」

 

 機体を必死に動かし脱出を図るソフィ。だが、機体はものすごい力で締め付けられており脱出ができない。

 

「悪いが、君には虜囚となってもらうよ」

 

 と、そこで接触回線でルブリス・ウルの中に声が響き渡ってきた。男とも女ともつかない、変声機を使った声だった。

 

「は!? 誰だよお前っ!? 私に何のようがあるってのよ!?」

「未確認のテロリストが操るガンダムのパイロット……君には、利用価値がある」

 

 声はそうソフィに言うと、ついにはルブリス・ウルを自身の元へと引き寄せ、そのまま後方にものすごい速さで去っていく。

 

「ソフィ!? ソフィーっ!!」

 

 ノレアは叫び、追いつこうとする。だが、他の触手や触手の先から発射されるビームに邪魔され、近づくことができない。

 更に、である。

 

「あれは……ドミニコス隊!? ノレア! ここは逃げるぞ!」

 

 魔女狩り部隊と呼ばれるカテドラルの直属部隊、ドミニコス隊がプラント・クエタに到着したのだ。

 それを見て、オルコットは判断を下す。

 

「でも! ソフィが!」

「お前まで失うわけにはいかんっ! 犬死したいのか!?」

「……くっ、くっそおおおおおおおおおおおっ!」

 

 ソフィは叫びながらも撤退する。そうして、フォルドの夜明けは去っていき、プラント・クエタはなんとか救われる。

 

「あれは一体……って、そうだ、ミオリネさんを助けないと!」

 

 一方で、スレッタはミオリネを助けに行き、そのときに残っていた敵兵をミオリネの前で殺害することになるのだった。

 

 

 この日、宇宙に現れた謎の影。

 その主は、機体の中で邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「上々の結果だ……これなら、私の目的を果たすのに十分な力となるだろう」

 

 そう呟く球体を操っていた人物――エーファは、これからの計画を練りながら、ソフィの乗った機体を宇宙の深淵へと連れ去っていくのであった……。

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