アイちゃんよりやべーのいたらアイちゃん救われる説   作:グナードン

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やべー奴が意識を取り戻します。


やべー奴、意識取り戻す

かずきが刺された翌日、俺とルビーはミヤコさんに連れられ連絡を受けた病院に向かった。心臓は停止していて、目が黒くなった姿が記憶の中から蘇る。

もうダメだ、そう考えながら、隣にいるアイの姿が目に映る。人がいなくなるという喪失感、愛を教えてくれた人がいなくなるという想像絶するものが彼女をそうさせたのか、目の中の星は黒く、輝きは存在していなかった。

翌日になった朝はあの日かずきを抱きしめながら言われた言葉で目が覚めた。

 

『アクア、愛してるよ』

 

画面で見ていた推しの姿はそこにはなかった。

しかし、そう言われた直後、救急車のサイレンが聞こえてきた。その瞬間、なぜか違う言葉も思い出した。

 

『僕はね、彼が生きている限り死ぬことはできない。これは彼がかけた僕に対する呪いだ』

 

呪い、それが本当に存在するのかと質問したのを覚えている。かずきは笑みを浮かべながら、頭を掻いた。

 

『彼の言ったことは全て本当になるんだ。僕は知っている。彼の頭には何もかもが詰まっているんだよ』

 

それはどういうことかと質問したかったが、かずきはそれ以上は述べてはくれなかった。

 

アイは気づかなかったが、俺には確かにサイレンが聞こえた。遠く方から聞こえたか、それとも近くか、その答えはすぐに救急隊が来て処置を施してくれたことによりすぐに理解できた。

かずきはすぐに運ばれ、俺たちは呆然としていた。その直後、警察と斉藤社長が来て、アイにドームに行くことを勧めていた。

無茶だ、こんなことがあったのに、ドームライブなんて出来るはずがない。そう答えようとしたが、口からは出なかった。

 

「ーーアイの命が危ない」

 

その言葉を話したのは警察か、それとも社長だったか、正直覚えていない。それよりも、その口から出た事実が恐怖した。

彼がこの事件に関わっている、そう直感的に分かったのは、刺されて息が絶え絶えであったかずきが、彼、という言葉を口にしたからだ。

とうとうアイにまで手を出そうとしているのか、そう感じるとグッと手に力が入る。

自然とアイにライブに行くべきだと説得していたのは間違いではないと信じたい。

アイはどこか上の空なのかぼうっとしながら話しを一通り聞くと洗面台で血を洗っていた。

胸が張り裂けそうになる。

ふと、玄関のそばまで来ていた、ルビーと目が合う。ルビーは現状を知らないためか、何がなんだかわからないような顔をしていた。

そんなルビーに正直に伝えた。父さんが刺されたこと、アイがドームライブに行くこと、どういった経緯でそうなったかは伝えられなかった。ルビーもかずきをよく気に入っていた。

きっと全てを伝えれば、もっと悲しむことがわかっていたからだ。

当然、その事実だけでもルビーは悲しんでいた。当然といっていい。

 

結果を見れば、アイはアイドルとしての仕事全うした。全ての力を出し切りながら、歌い、踊り、笑顔を作る。思わず、今朝のことは全て悪い夢なんじゃないかと思うくらいだ。

隣にいるルビーもそう思っているのか、驚いた顔をしていた。

頑張れ、頑張れ!とつい声に出てしまい、ルビーも感化されてか、周りにいるファンとは違う声援をアイに送っていた。

こんなに悲しいライブを見たことがなかった。それはルビーとて同様のことだろう。

 

その後、アイと再会し今日は斉藤夫妻の自宅に泊まることになった。再会した時のアイの顔は、今朝見た時と同様に黒い表情をしていた。

 

 

「ママ!」

 

病室に入ると走り出したのはルビーだった。

かずきの手を握りながら寝ているアイを見てどこか心から安堵した。

ふと、奥を見ると知らない男性二人が座っていて、それが刑事であると解ったのには時間はかからなかった。

俺たちは事件経緯とその後の流れを簡単に説明された。

刑事さんの話しを聞いて、皆が驚愕した。

ミヤコさんは話しを切り出す。

 

「その、彼、という人物は救急車も用意できるんですか?」

 

「ええ、アイさんの話しを聞く限りだとタクシーも用意できる」

 

そんな話しあるか。タクシーはともかく、救急車は無理だ。あれはどうにかして用意できる代物ではない。というより、どうしてアイがタクシーに乗ることがわかったんだ。

その事実に驚いてることをよそに刑事は話しを進める。

 

「問題はそこじゃない。彼という人物が何を目的でしているかだ」

 

刑事はゆっくりと説明する。

彼、という人物は殺人が目的ではないこと。

彼を筆頭に組織があるのではないかということ。

アイが乗っていたタクシーの運転手は彼のことをすごい方、素晴らしい親友だ、と公言するように言っていたことから、彼という人物をすごく慕っていることが判る。

 

「ここまでの犯行にはそれ相応の人間が必要になる」

 

アイから事件の概要を聞いたその後、刑事はすぐに本部に連絡し、部屋に向かったらしい。しかし、犯人の手がかりはおろか、血の跡も、誰かがきた様子もなかったということだった。しかも、近隣住民もあの日は部屋にはいなかったと話しており、事件を見た者もいない。

そんなはずはない。その言葉が口から出るのを抑える。

あの日、確かに俺とアイはかずきの腹部を抑えながら必死になって救おうとしていた。それは確かだし、近隣住民誰一人として部屋にいなかったというのもまたおかしい話しだ。

刑事もかずきがこうして怪我をしている事実とアイの話しを聞いて、事件があったことは確かだと考えている。

 

「組織的な犯行とみて間違いない。しかも確実な計画を持って実行している」

 

彼の目的はなにか、事件の真相を知るには彼の正体が必要不可欠だった。

そういった事実を聞き、開いた口が塞がらなかった。

 

 

刑事は彼がきっとかずきにまた接触しに病院にやってくると判断し、二十四時間体制で一ヶ月見張ること、極秘で捜査をすることを約束してくれた。それはこちらとしても非常に有難い話しだった。アイの精神的なものもあるし、得体の知れない相手に対してはその方が都合が良かった。ミヤコさんはとりあえず、一週間の仕事の休みを設けると約束した。

 

 

その日、俺たちはまた斉藤夫妻の自宅で泊まった。アイはかずきが気になるのか、病室から離れることを嫌がっていた。かずきが目を覚まして私がいなかったら、心配するからというのが理由だった。それに対して頷くことしかできなかった。

暗い瞳で優しく話しかけていたのが印象的だった。

 

「ママ、大丈夫だよね?」

 

ルビーがそう問いかける。

とても心配しているのか、涙を溜めている。

 

「大丈夫、父さんが目を覚ませば事件が明るみになるよ」

 

問題をあげるとすれば、かずきが彼の正体を話すかどうか。そこが重要になってくる。

かずきは彼を話すことに躊躇うことはないだろう。しかし、僕は彼という存在がどういう風貌で、どういった容姿をしているのかはわからない。彼とやってきたこと、彼が友達であることなどは話しを聞いたことがあるが、思えば、その具体的な人物像を聞いたことはなかった。

 

『話す、という行為において重要なのは想像を膨らませることだよ。人は主語がなくても会話できる。だからこそ、想像力をもたないと会話は成立しない。だから、アクアは想像力を持たないといけないんだ』

 

アクアとして生まれ変わってかずきと会話をしていた時、そんなことを言われた。

想像力、それが自分に欠けているものなのだろうか。

かずきと初めて出会った時、車の事故ということで病院にやってきた。その時にも疑問を感じていたが、今朝改めて刑事から話しを聞き、またあの日の疑問が蘇る。

 

事故をした車が果たして存在したのだろうか。

 

かずきはまだ子どもだった。とてもじゃないが、車を運転できるような歳でもない。前担当医と院長は車に轢かれた怪我であることを話していた。それでも解るように、車での事故は嘘であることは間違いない。

しかし、警察は近辺に原型を留めていない車が発見されたという報告を受け、病院にやってきた。かずきが無免許で運転して事故を起こしたとかずき自身が証言したことによりそのまま帰っていった。

あの単純作業とも呼べる形だけの聴き取り調査。素人でも解るような単調なものであったのは疑問を抱いてしまった。

そういう経緯を含めて考えてみても、車が存在していたのかが気になる。

今日の刑事の会話を聞いた時、なにか心の中がざわつくようなものを感じた。

いまもそのざわつきは取れていない。彼の正体に気づくことに恐れているのか、それとももっと別に理由があるのかわからなかった。

 

その二日後、かずきが目を覚ました。

その事実をミヤコさんに告げられ、急いで病院に向かった。

早く着け、そう心で呟きながら車の外をじっと見つめる。窓からは数日前に見えた景色が目に映る。

隣にいるルビーは下を向いて、ギュッと目を固く閉ざしていた。妹もまたそう考えているに違いない。

病院の駐車場には車が何台か止まっており、一台の車がこちらの様子を伺っていた。きっと張り込みをしている刑事だろう。警察も本腰を上げて捜査していることに間違いないと判断し、少し安堵した。

 

エレベーターで病室に向かい、病室のドアを開くと前に見た刑事二人とかずきの名前を呼ぶ母親の姿が目に映った。アイの側に行きかずきの名前を呼ぶ。

 

「パパ!」

 

「父さん!」

 

かずきは力のない目でこちらを見る。

 

「アク……ア……ル……」

 

「喋っちゃダメだ」

 

目覚めたばっかりで弱々しい父に思わずそう伝えた。

そっとかずきの手首に指を置き、脈を測る。まだ弱々しいが、最悪の事態は免れたようだ。

刑事が、ナースコールで担当医を今呼んでいると説明し、僕たち家族を残して病室から外に出る。下にいる刑事と話すためか、その手には携帯が握られていた。気の利いた刑事でよかった。

ミヤコさんもそれに続くように病室をあとにした。

 

「かずき!よかった……よかった……」

 

アイはその目から涙を溜めながら、かずきの手をしっかり握っている。そんな姿を見て、ルビーも涙を流していた。

これで事件が明るみになるんじゃないか、そう考えると数日前からあったざわつきが、ふっと消えていくのを感じた。どうやら自分も心から安心しているようだった。

しばらくして、ナースコールで呼ばれた担当医と数人の医者がやってきた。担当医は慣れた手つきでバイタルチェックをしながら、かずきの顔を見る。

 

「うん、別に問題ありませんね。一応、詳しい検査もしますので、彼を運びますね」

 

そう言いながら、あらかじめ用意していたストレッチャーへとかずきを移動させる。一瞬、目を覚まして直ぐに検査するのかとも思ったが、直ぐにその疑問は消えていった。

これで本当に救われる。アイもこの数日で全てがわかるようになるだろう。彼が起こした今回の悲劇、今までしてきたかずきに対しての非道の数々、あげればキリがないが、その全てがきっとわかることだろう。

かずき、本当のことを話してくれ。

そう心で呟きながら、専用のエレベーターで運ばれるかずきを見送った。

 

アイはよかったという言葉を呟きながら、手を胸に当ている。ルビーはそんな姿を見て足に抱きついた。

僕も思わず、良かったと思いながらアイの服を掴んだ。

そんな様子を見てか、アイはしゃがんで俺たちを抱きしめる。心の中が満たされていくのを感じた。

 

「父さんはきっと元気になる」

 

「……うん」

 

言葉が漏れるように呟いた。 

元気になっていく推しを見て、自然と笑みがこぼれる。

 

これで安心できる。さすがに、病院なら手を出すことができない。バイタルチェックも良好だった。あとはかずきが話せるレベルまで回復すればそれでいい。かずきの証言で彼がどういう人物かを解ることになるだろう。彼はすぐに警察に捕まり、かずきは傷つかなくて済むはずだ。

アイもそれでやっと安心して、かずきとともになんでもない日常を暮らせることになるだろう。きっとそれをずっと心から願っていた。

彼という恐怖を忘れ、かずきが平穏に暮らせるようになることを願っていたんだ。

初めて出会った時からそんなことを口に言ってーーー

 

「おい!彼はどこだ!」

 

思考を遮ったのは、刑事の声だった。

焦りながら、その刑事は自分たちのところに向かって走り出す。

顔からは走り慣れていないのか、汗が滲んでいた。

 

「かずきなら、検査するとか言って下に向かって行きましたけど……」

 

「……なに?下だって?」

 

刑事の言葉と同時に上を見上げた。

頭から衝撃を受ける。ガツンと自分の考えを否定されたように、目の前が真っ暗になる。

エレベーターが指していたのは地下だった。

 

ーー霊安室

 

そんな言葉が口から漏れた。

 

「ーーえ?」

 

アイの口からも言葉が漏れた。どういう意味かわからないようなそんな言葉だった。

俺はすぐさま走り、来館用休憩室の窓から下を覗く。刑事もそれを見かねて、同様に下を見る。

刑事はその乾いた口を開いた。

 

「ナースコールは押されていない」

 

その言葉に耳を疑った。

 

「押したのはもう一人の若い奴だ。俺はそれを伝えられただけだ。電話をしても連絡がつかない」

 

刑事は苦虫を噛み潰したよう表情を浮かべた。

 

「不覚だ、不覚だよ。考えるべきだった。自分の身内、この病院にも仲間がいることを」

 

それはこちらとしても同じことだった。

下を見ると来館用とは別な入り口から白のワンボックスカー二台が病院から離れていくのがわかった。来館専用のところに駐車されている警察の車は一台だ。どちらかがフェイクであるであるとすれば、追いかけても意味がないだろう。

自然と全身に力が入る。救えなかったという悔しさと彼という人物の掌で踊らされていたことに腹が立つ。

 

「しかし、よく気づいたな」

 

刑事もどこか諦めたように苦笑していた。その表情にどこか既視感を覚えた。

離れていく車をぼんやり見ながら、刑事に対して口を開く。

 

「病院の地下といったらそれしかない」

 

彼らはあそこへとかずきを運んだ。来館用の出入り口と緊急搬送される入り口を除けば、あそこしか出入り口はない。

しかもあげた二つの入り口には医療スタッフが頻繁に出入りしている。その心配もなく、他の人にも見られずに運ぶことができるのは、そこしかない。その事実から察するに、警備員も彼らの仲間なんだろう。

 

「……君はすごいなその歳で、よく知っている」

 

そんなことを知っていても、救えなかったら意味がない。自分が弱い人間だと思い知らされたような気がした。

 

 

 

しばらくしてから、アイ達がこちらに来た。

アイは茫然とその内容を聞いていたが、話しを終わった直後にその場でうずくまった。

そんな姿を見て、歯を食いしばりながら、助けられなかったことを後悔した。

 

 

 




次回、やべー奴、やべー奴らに愛されているです。
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