彼女の驚くべき作戦とは!
「……勇者が強すぎる」
「魔王様、軽くあしらわれてますからね、魔王なのに」
この目玉すり潰してやろうか……。
が、しかし実際に勇者に勝てる想像ができん。
「……そうか! やつとて人間、魔力を纏っている戦闘時ならまだしも無防備なら殺せるのではないか!?」
「暗殺ということですかね?」
「こうしてはおれん! すぐに行ってくる!」
「はい? どこに……魔王様! おい魔王コラ! 行くなって! ……うそん……」
……
あのクソ目玉はいいとしてやはり暗殺するなら奴に近づかねば……。
変化!
……ふふ、これならどう見てもか弱い人間の女だろう。
よし……〜これでぶつかってやる。
「……きゃっ! ごめんなさい! よそ見をしてて……」
「だ、大丈夫ですか! 僕の方こそすみません!」
なんだ、反応がウブだな……?
案外うまく行くかもしれん。
「こ、この後お時間とかありますか? 服を汚してしまった埋め合わせをしたいんですが」
「い、今ですか? 一応ありますが……」
「なら少しだけでいいので……」
うわー! こいつチョロい!
間違いなくチョロい、押されたことがないのか押しに弱いぞ?
「ここのカフェ、行きつけなんです、コーヒーでいいですか?」
「あ、お願い、します」
「マスター! コーヒー二つとパフェ一つお願いします」
「セシルちゃんに彼氏が……!?」
「そ、そんなんじゃないですから!」
「か、彼氏……」
よし、ナイスマスター! 多分今の一言で意識したな?
ここからさらに押し込んで一気に同居レベルまで行ってやる……。
しかしこうしてみると意外とイケメンだなこいつ……。
「あ、私、セシルって言います、あなたの名前も教えてくれませんか?」
「僕の名前はマルカです、ゆ……冒険者をやってます」
あ、誤魔化した、勇者ってだけで恐れられる可能性があるからか。
「お待たせしました、パフェとコーヒーでございます」
「ありがとうございます」
「あむ、やっぱり美味しい……! そうだ、マルカさんも一口いかがですか?」
「え? あっはい」
「はい、あーん」
間接キスは効くだろう……俺も恥ずかしいがな!
あ、止まってる、いいやそのまま突っ込んじゃえ。
「むぐっ!」
「どうですか?」
「お、おいしいです」
真っ赤になってるなぁ、味とかわかんなそう。
……食べ終えたし、ぼちぼち出るか。
「服、洗って返しますね……あの、また会いませんか!」
「は、はい」
「……よかった! それじゃあまた!」
これは意識させれただろうな。
もうそのまま告ってもおちそうだ。
……
「……今日も楽しかったですね!」
「はい、その……セシルさんといると落ち着けて……僕も楽しいです」
「「……あの」」
「あっ! す、すいません、お先にどうぞ!」
「こ、こちらこそすいません……あの、セシルさん、僕と付き合ってくれませんか!」
しばらく会うのを繰り返したがあっさりと落ちたな、想像以上だ。
目の前の女が魔王だと思ってなさそうだし、この場面だけみたらこいつも勇者に見えないよなぁ。
「……嬉しい! でもずるいです、私から言いたかったのに」
「ご、ごめんなさい?」
「私はずっとマルカさんのこと見てて、好きだったんですよ? ……私、故郷がないんです、魔物に襲われて家族も失って……でもあなたが助けてくれたんですよ?」
「それって……」
「世界の、じゃなくても……私の勇者様」
一気に押し切って同居まで持ってってやる……!
重い過去プラス恩人プラス昔から好きだった系だ!
「……約束します! ずっとあなたを守ります! 必ず、泣かせたりなんかしません!」
……ベターだが悪くはない言葉だな!
……
同居生活も悪くないな……。
家事は私がやってるが普通に手伝ってくれるし、というかそもそもの稼ぎが良すぎる……この家だって一人で住むには広すぎるだろ。
……ドアのノックの音? 随分乱暴だな。
「はーい、今開けますね」
開けた扉に足突っ込んできたな……面倒くさそうな相手だ。
「もしもぉしお姉さん、今一人ですかぁ? 俺暇しててぇ、よかったら一緒に遊びません?」
「まだ家事が終わってないし、帰りを待たなきゃ行けない人もいるので……」
「そう言わずにさぁ……あんたみたいな美人さんほおって仕事してるやつとかロクなのじゃないでしょ、俺と遊ぼうよ」
このロクなのじゃないやつ今頃世界の危機相手にしてるんじゃないかなぁ。
しっかし強引だな、少し寝てもらうか……?
でもこんな街中で魔法は流石にな。
「何やってるんだ! セシルから離れろ!」
「ま、マルカさん!」
「お? あんたが彼氏さん? ヒョロヒョロでよわ……ぶべっ!」
あ、殴られた。
まだ私が襲われたとか確定してない状況でよくやる……。
「ひぃ、な何しやがる!」
「僕の彼女に手を出すな!」
キュンっ!
いやまて! キュンってなななんだ!?
断じてあり得ない! 断じてあり得ないぞ!
……ひとまず男は逃げたし落ち着くか。
「セシルさん! 大丈夫ですか! 何もされてませんか!」
「だ、大丈夫です! というかさっき私の名前……」
「! あ、あれはその勢いと言いますか」
「……私もマルカって……呼んでいいですか?」
「……はい!」
……
さて……同居もできたし仲良くなれた。
目の前にはスヤスヤと無防備に寝ている勇者……ここからは暗殺の時間だ!
このナイフでやつにとどめを刺してやる!
パキンッ。
あっ折れた、え? 人の体だよね?
ふー……気を取り直してここは水球に顔を沈めてやる!
うっわ〜すごいなぁ三十分たっちゃった、すこぶる元気そうだなぁ。
……だめだぜんっぜん効かない!
刺殺も溺死も火炙りもエトセトラも……試したけど効かないどころか起きる気配すらない!
……諦めてしばらく様子を見るか……多分隙とか弱点とか見つかるだろ。
……
そうして……一緒に過ごすうちにそれが当たり前になった、なってしまった。
笑い合って話し合って怒りあって……。
でも時間の流れは違って。
私は魔族で勇者は人族だ。
「君は……いつでも綺麗だね、セシル……」
シワの増えた手が私の頬に触れる、あぁ……どうかもっと強く触れてくれ、ここにいると証明してくれ。
「……私は……私は魔王、魔王なの」
「やっぱり、ずっと気が付いてたんだ」
「でも私は……あなたを殺そうとして……気がついたら惹かれていって……」
「ならきっと作戦は成功だ、僕は死なないけど一つだけ死ぬ方法がある」
ずっとわかっていた、気がつきたくなかった勇者の弱点。
「それはね……寿命だよ、僕は人間だ」
「私は魔族だから……一緒には生きられない」
「……嫌だ、私は……あなたと!」
ポロポロと目が涙が止まらない。
泣くつもりなんてなかったのに。
「……約束守れなかったなぁ……大丈夫、また……また会いに行くよ、絶対、約束だから」
「……今度は! 今度は破らない?」
「……もちろん、必ず君に……」
腕がだらりと崩れ落ちる。
……暗殺は成功した、してしまったのだろう。
私は生きる気力を失った。
……
「魔王様……お戻りになられたのですね、勇者の反応がないということは」
「……あぁ、作戦は成功したよ、それと一つ話がある」
「話……ですか?」
「人族と平和協定を結ぶ、あいつが約束を守る時に来れるように」
「……それが魔王様の望みならば」
……
窓から人と魔族の話し声が聞こえてくる。
大通りはいつでもお祭り騒ぎだ。
「ここも随分と賑やかになった」
「……ここが魔王の城か! なーんてね」
「お前は誰だ? 何をしにここに来た?」
その男はゆっくりと顔を上げてこう言った。
「約束を果たしに、もう二度と君を泣かせないために」