黒猫亭こぼれ話   作:月魄 椛

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初投稿です。

そして一月遅れの七夕です。
すみません...


歌唱01 黒猫亭の七夕

(ながあめ)も止み、夏も始まろうかという頃。

皇都(こうと)5区にある、とある実業家の私邸を改装した喫茶店『黒猫亭』では、とある準備が急ピッチで行われていた。

 

きっかけは千代と灰桜のこの会話である。

 

 

「ねぇねぇ灰桜さん」

 

「どうしたんですか?千代ちゃん」

 

「そういえば、黒猫亭で七夕ってやらないの?」

 

「七夕...ですか?」

「それはどんなものなのでしょう...?」

 

「あそっか、灰桜さんは知らないんだ。えっとね......」

 

 

と、そんな会話があった数日後の7月14日。

 

うろ覚えの情報を、買い出しから戻ったばかりの月下へ、“極秘情報”と銘打って話すわけだが、それは別のお話。

 

**×**

 

同日の昼下がり。執務室にて

 

「いいんじゃない?面白いし」

 

そう笑うのは、黒猫亭のオーナーのナギ。

 

「毎度毎度マスターは灰桜に甘すぎます!」

 

そしてナギに噛み付くのは、黒猫亭のリーダー、鴉羽だ。

 

「もうすでに月下が笹を買いに行ってしまったんだろう?」

 

「え、えぇ、今はたぶん、月下が譲ってもらった笹に、千代ちゃんを巻き込んで飾りつけをしている頃かと...」

 

「そんな状態でやめさせたら、僕が悪者になるじゃん」

 

ナギは飄々とした態度でそう返す。

 

「それは...!」

 

「鴉羽は僕が嫌われちゃってもいいんだ?」

 

「そんなことっ!」

 

「...ふふっ、冗談だよ」

 

満足そうに笑うナギに、鴉羽はようやく自分が揶揄われていたことに気づく。

 

「マぁスぅタぁあぁぁぁあ!?」

 

怒った鴉羽はナギに飛びかかるが、ナギはそれをひょいと躱し、

 

「おぉ、こわいこわい」

 

と変わらない声音でいう。

 

「ちょっと、躱さないでください!今日という今日は逃がしませんよ!」

「いつもいつもあたしを揶揄(からか)って遊んで!」

 

そのまま鬼ごっこに発展するかと思われたが、決着は一瞬でつく。

 

「僕は飾りづけの様子を見てくるから、執務室の掃除はよろしくね」

 

「あっ、ちょっとマスター!?」

 

気がついた時には時すでに遅し。

ナギはすでに部屋を出て、ホールへと駆け出していた。

 

そう、ナギの不戦勝である。

 

そもそもが、鴉羽はナギの仕事が一区切りつく時間を見計らってお茶の差し入れに来ていたのだ。

そのままだいぶ話し込んでしまったわけだが。

 

そんな鴉羽は、ナギの頼みを断れない。

 

そんなわけで、最初から鴉羽に勝ち目はなかったのだ。

 

**×**

 

「えっと...これは...?」

 

ホールへとやってきたナギは、思わずといった様子で声を漏らす。

 

「あっナギさん!見てください!ちょうど今飾り付けが終わったところなんです〜!」

 

笑顔で手を振る灰桜と、流石にやりすぎたと思っているのか、目線を逸らしたままの千代、そして満足げなレーツェル、呆れる月下と苦笑いしている箒星。

 

幸か不幸か他の客は誰もいない。

 

そして、ナギの視線の先にあるのは...

 

「クリスマス...ツリー...?」

 

「短冊を吊るす笹です〜っ!」

 

たしかに笹であることに間違いはない。

しかし、ナギの言うように、クリスマスツリーと見間違えるほど飾り付けられていた。

 

飾りが重すぎて、今にも折れてしまいそうなほどに(たわ)んでいるのだ。

 

「ごめんね、灰桜さん」

「普通はこんなに飾りつけないんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

罪悪感に堪え兼ねたのだろう。

漏らした千代の言葉に、灰桜はあたかも衝撃的なカミングアウトを聞いたかのように反応する。

 

...いや、灰桜にとっては()()だったのだろう。

 

「最初からそう言っているであります」

 

そして月下の援護射撃。

 

「みゅみゅ!?」

 

「まぁまぁ、(げっ)ちゃん。灰ちゃんに悪気はないんですから...」

 

「問題はレーツェルであります」

 

「灰桜お姉様が喜ぶならなんだって致しますわ」

 

「レーツェルさん!?」

 

どうやら月下のブレーキを阻害していたのはレーツェルらしい。

 

当の本人は灰桜に後ろから抱きつきに行ったが。

 

「まぁ、こういうのも黒猫亭らしいんじゃない?」

 

「それはそうですね☆」

 

「それはそうと、灰桜?」

 

「はい...」

 

ナギに怒られると思ったのだろう、灰桜はいつもの元気がなくなっていた。

 

「灰桜、これからは勢いで行動する前に、僕か鴉羽に相談してくれないかな?」

 

「ナ゛キ゛さ゛ん゛...」

 

号泣である。

 

「月下も」

 

「了解であります。以後気をつけるであります」

 

「レーツェルと千代ちゃんも、悪ノリはほどほどにね」

 

「わかりましたわ」

 

「は〜い...」

 

とその時、

 

「マスター、お掃除終わりましたよー?マs...」

 

ナギを探してホールへ現れた鴉羽の言葉がふいに止まる。

 

「あっ鴉羽さ〜ん!」

 

止まった時の中でレーツェルの拘束から抜け出た灰桜が、笑顔で大きく手を振る。

 

「はぁいぃざぁくぅらぁぁあ!!」

 

「みゅみゅみゅ〜〜!?」

 

案の定、鴉羽は灰桜を叱り始め、ナギはその仲裁に入るも「灰桜に甘すぎる」と叱られ、灰桜と並んで正座することに。さらに並行して余剰な飾りの取り外し作業の指揮を執る、という見事なマルチタスクを披露した鴉羽だった。

 

そんなこともあってすっきりした笹には、夕方に7つの短冊が飾られた。

 

**×**

 

日も沈み、もうすぐ閉店時間になろうかというころ。

ホールには既に灰桜と千代以外の人影はなくなっていた。

 

「あっそういえば灰桜さん」

「七夕には童謡があるんだけど知ってる?」

 

「みゅみゅっ!それは興味深いお話です!」

 

「あははっ、そんな大層なものじゃないよぉ」

 

「千代ちゃん、その童謡教えてください!」

 

「え〜、でも次に歌うのは1年後だよ?」

 

「大丈夫です!来年は黒猫亭みんなで歌いましょう!」

 

「あはは、わかった」

「じゃあ灰桜さん、わたしが先に歌うから、灰桜さんは繰り返してみて?」

 

「わかりました!」

 

 

「〜♪」

 

 

そんな風に千代が灰桜へ歌を教えている後ろでは、

『みなさんのお役に立てますように』

そんな風に読めなくもない拙い文字で書かれた短冊が、風で小さく揺れていた。




ということで、とりあえず1話は黒猫亭ラジヲ局第3回のラジオドラマから膨らませたお話でした。

お読み頂きありがとうございます!

本当はみんなが短冊を書くシーンとかも書きたいんだけどね。
そこまでキャラの解像度が高くなかったみたいで書けませんでした...orz
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