よろしくお願いします。
「急に暑くなりすぎですよぉ...」
玄関先の掃き掃除をしていた灰桜が、独り零す。
まだ開店前の早朝とも言える時間であるにも関わらず、空は青く、お天道様は高い位置で燦々と輝いている。
「おはよう、灰桜さん」
「すっかり夏って感じだよね」
まだ梅雨が明けたばかりだというのに、日差しは痛いくらいに肌を刺す。
「おはようございます、千代ちゃん」
「これが“夏”なんですね...」
そう空を見上げながらしみじみと応える灰桜に、違和感を覚えた千代だったが、すぐにその理由は思い当たった。
「そっか、灰桜さんにとって夏も初めてなんだもんね」
「はい、だから梅雨が明けるのを楽しみにしていたんです...」
「なのに、こんな暑いだなんて聞いてないですよぉ...」
「あはは、でも夏にしかできないこともい〜っぱい、あるんだよ!」
「みゅみゅ!それは楽しみです〜♪」
とお手伝いに来た千代と灰桜が玄関先で話していると、ちりりんっとドアベルが鳴る。
「灰桜、いつまで玄関の掃除をしているのでありますか?」
「みゅみゅ!?ってなんだ月下さんでしたか、驚かさないで下さいよ〜」
「灰桜が勝手に驚いただけでありましょうに..」
半身だけをドアから覗かせていた月下は、そう言いながら灰桜と千代の方へと歩み寄る。
「月下さん、おはようございます」
「おはようであります、千代ちゃん」
「千代ちゃんには開店までフロアのモップがけを頼むであります」
「はーい」
「じゃあまた後でね〜」
月下が足を止める。
「あ、そう言えば灰桜」
「ひゃいっ!?」
不意打ちに灰桜の声は裏返っていた。
「鴉羽が灰桜を探していたであります」
「なんでも話がある、と」
そう聞くと灰桜は、明らかに怯えてしまう。
「か、鴉羽さんが...ですか...」
「今度は何をしたでありますか?」
呆れたように月下が問う。
「...じ、実は...」
「本当に何かやっちゃったんだね...灰桜さん...」
「は!?これは誘導尋問でしたか!?」
「今更気づいても遅いであります」
「おとなしく白状して楽になっちまいな、灰桜さん」
「千代ちゃんが悪い警察官みたいになってるであります...」
「それでどうしたの?灰桜さん」
「わたしたちもお手伝いするから、ね?」
しれっと巻き込まれる月下である。
「3人よればなんとやら、だよ!」
「もんじゃの知恵!ですねっ!」
「もん
「凡人でも3人集まって相談すれば、
「流石月下さんです!」
「偵察人形だからなんでも知ってるんだね!」
「偵察人形は関係ないであります」
はぁ、とため息を吐いて月下は再度問いかける。
「で、灰桜。何をしたのでありますか?怒らないから言ってみると良いであります」
「本当に怒りませんか?」
「もちろん!だから話してみて?」
泣き出しそうになりながら灰桜は話し出す。
「うぅ...実は、昨日の夜、私の部屋でイナバとリンクの練習をしていたらですね」
「イナバが暴走して窓ガラスにひびが入ってしまったんです!」
「あぁ...それは...」
「素直に怒られると良いであります」
「みゅみゅ!?」
その後、鴉羽に結構しっかり怒られた灰桜であった。