黒猫亭こぼれ話   作:月魄 椛

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これでストックはつきました。

よろしくお願いします。


歌唱02 夏の始まり

 

「急に暑くなりすぎですよぉ...」

 

玄関先の掃き掃除をしていた灰桜が、独り零す。

まだ開店前の早朝とも言える時間であるにも関わらず、空は青く、お天道様は高い位置で燦々と輝いている。

 

「おはよう、灰桜さん」

「すっかり夏って感じだよね」

 

まだ梅雨が明けたばかりだというのに、日差しは痛いくらいに肌を刺す。

 

「おはようございます、千代ちゃん」

「これが“夏”なんですね...」

 

そう空を見上げながらしみじみと応える灰桜に、違和感を覚えた千代だったが、すぐにその理由は思い当たった。

 

「そっか、灰桜さんにとって夏も初めてなんだもんね」

 

「はい、だから梅雨が明けるのを楽しみにしていたんです...」

「なのに、こんな暑いだなんて聞いてないですよぉ...」

 

「あはは、でも夏にしかできないこともい〜っぱい、あるんだよ!」

 

「みゅみゅ!それは楽しみです〜♪」

 

とお手伝いに来た千代と灰桜が玄関先で話していると、ちりりんっとドアベルが鳴る。

 

「灰桜、いつまで玄関の掃除をしているのでありますか?」

 

「みゅみゅ!?ってなんだ月下さんでしたか、驚かさないで下さいよ〜」

 

「灰桜が勝手に驚いただけでありましょうに..」

 

半身だけをドアから覗かせていた月下は、そう言いながら灰桜と千代の方へと歩み寄る。

 

「月下さん、おはようございます」

 

「おはようであります、千代ちゃん」

「千代ちゃんには開店までフロアのモップがけを頼むであります」

 

「はーい」

「じゃあまた後でね〜」

 

月下が足を止める。

 

「あ、そう言えば灰桜」

 

「ひゃいっ!?」

 

不意打ちに灰桜の声は裏返っていた。

 

「鴉羽が灰桜を探していたであります」

「なんでも話がある、と」

 

そう聞くと灰桜は、明らかに怯えてしまう。

 

「か、鴉羽さんが...ですか...」

 

「今度は何をしたでありますか?」

 

呆れたように月下が問う。

 

「...じ、実は...」

 

「本当に何かやっちゃったんだね...灰桜さん...」

 

「は!?これは誘導尋問でしたか!?」

 

「今更気づいても遅いであります」

 

「おとなしく白状して楽になっちまいな、灰桜さん」

 

「千代ちゃんが悪い警察官みたいになってるであります...」

 

「それでどうしたの?灰桜さん」

「わたしたちもお手伝いするから、ね?」

 

しれっと巻き込まれる月下である。

 

「3人よればなんとやら、だよ!」

 

「もんじゃの知恵!ですねっ!」

 

「もん()()!であります」

「凡人でも3人集まって相談すれば、()()というとても賢い人にも引けを取らないような良い知恵が浮かぶ、というような意味であります」

 

「流石月下さんです!」

 

「偵察人形だからなんでも知ってるんだね!」

 

「偵察人形は関係ないであります」

 

はぁ、とため息を吐いて月下は再度問いかける。

 

「で、灰桜。何をしたのでありますか?怒らないから言ってみると良いであります」

 

「本当に怒りませんか?」

 

「もちろん!だから話してみて?」

 

泣き出しそうになりながら灰桜は話し出す。

 

「うぅ...実は、昨日の夜、私の部屋でイナバとリンクの練習をしていたらですね」

「イナバが暴走して窓ガラスにひびが入ってしまったんです!」

 

「あぁ...それは...」

 

「素直に怒られると良いであります」

 

「みゅみゅ!?」

 

 

その後、鴉羽に結構しっかり怒られた灰桜であった。

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