レッツゴージャスティス!   作:ジャスティス仮面

3 / 11
No.2「即席のチームアップ」

 雄英高校の入学試験で重視されているのは実技試験だと言われている。

 合格する為に必要な偏差値79といわれているが、実際には合格ラインが非常に高く設定された足切りである。受験生が競い合うのは実技試験、此処で合否の全てが決まると言っても過言じゃない。筆記試験を終えた私達は、市街戦の演習用に設けられた施設に移動する。演習場はAからGの七つから成り立っているようだ。

 以上の説明を壇上で行ってくれたのは、プロヒーローであるプレゼント・マイクだ。

 

「質問よろしいでしょうか!」

 

 正門で会った眼鏡の生真面目そうな男が手を上げる。

 

「プリントには四種の敵が記載されております! 誤載であれば、日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!」

 

 云々閑雲と続く男の質問に「その質問には、私から答えてやる」と告げたのは、それまでプレゼント・マイクの隣でパワーポイントを操作していた少女であった。雄英高校の制服を着た彼女はプレゼント・マイクを壇上から押しやると自ら、マイクを手に答える。

 

「四種目の敵の点数は0。謂わば、ステージギミックのようなものさ。各会場に一体、所狭しと暴れているギミックのひとつだ」

 

 まだ学生の身でありながら堂々とした立ち振る舞いを見せる。

 そんな彼女を見て、気弱そうなボサ髪の男が「弾丸ヒーローのトップワンだ」と呟いた。

 ああん? と隣の席で睨む男にボサ髪の子がブツブツと続ける。

 

「去年、ヒーローの仮免許を取得したばかりなのに……仮免でヒーロービルボードチャートJPで2桁に入った新鋭だよ。抹消ヒーローイレイザー・ヘッドの唯一の弟子で、既に師匠超えをしているとも言われているんだ」

「誰だよ、イレイザー・ヘッドって」

「え? かっちゃん、知らないの? 確かに認知度が高いとは言えないけど……でもトップワンの活躍でメディアに取り上げられることが増えたんだよね」

 

 ああ、もう、うっせぇな。と目付きの悪い男が話を切り上げた。

 トップワンなら私も聞いたことがある。早過ぎる男ホークスが打ち立てた最年少記録を次々と塗り替えている新進気鋭のヒーローであり「空のホークス、陸のトップワン」と呼ばれる。二人が比較されているのには、共に年齢が若いこともあるけども、個性の特徴にもあった。トップワンというヒーローネームは、唯一抜きん出て並ぶものなし、という意味。その由来の通り、彼女の個性は全てを置き去りにする。

 あのオールマイトですらも彼女の速度には後れを取ると言われる程だ。

 

「最後に我が校の卒業者であり、プロヒーローの先達であるプレゼント・マイクからリスナー諸君にプレゼントがある」

 

 拝聴せよ、という言葉と共に奥に押しやられていたプレゼント・マイクに壇上を譲る。

 

「あー、ん~……コホン、これから実技試験に挑戦するリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう!」

 

 彼の英雄、ナポレオンは言った。

 真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者である。

 

Plus Ultra(更に向こうへ)!」

「それでは皆、良き受難を!!」

 

 私、大兎転狐が選ばれたのは、B会場。頑張るぞ、と両手の拳を握り締めた。

 

 

 実技試験を終えた後の話、

 会議室にて、監視カメラで一部始終を観察していた教師達は熱狂していた。

 それもそのはず、誰も倒す事の出来ない圧倒的脅威を前に、真正面から打倒してのけたものが登場したのだ。特に、それまで意気地なしと見做されていた緑谷出久が土壇場で見せた一撃に心を打たれないものは居なかった。今年は豊作だ、去年の不作っぷりはなんだったのかと言いたくなる。

 去年、超大型ロボットを退治したのは一人だけ。トップワンの一撃瞬殺、オールマイトにも匹敵する緑谷出久の一撃はトップワンの再演であった。

 

 今年は豊作だと言われる所以、超大型ロボットが三体も攻略されたのだ。

 ひとつは前述した緑谷出久の一撃必殺。もうひとつは爆豪勝己の火力を中心に据えたスリーマンセル。最後は破壊まで行かずとも行動不能に追い込んだ六人一組の攻略劇である。

 その中核を為したのが、心根真純。

 抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの正体である相澤消太が個人的に最高得点を付けた少女だ。

 

 では、映像の時間を巻き戻して、B会場に。

 

 

 ロボットが相手と聞いた時、大半の生徒が考えたのは自身の火力不足だったはずだ。

 行動不能に追い込めれば良いといっても、どうしても個性による良し悪しが生まれる。私、大兎転狐の個性は、純粋な火力を生むものではなかった。だから試験内容を聞いた時、真っ先に考えたのは即席のチームアップだ。個性で全てが決まるなら……最初から試験なんてしなけりゃ良い! 良い個性、悪い個性、そんなのは人の勝手。真のヒーローなら自分に与えられた個性で、自分に出来る事を模索するはずだ!

 追い詰められて、必死になった私は、試験開始前に周囲を見渡した。

 

 此処が正念場、試験が開始されたら皆、バラバラに動き出すはずだ。

 あと数分もないはずだ。当然ながら周囲に知り合いは居なかった。

 ……誰か、誰か協力を受け入れてくれそうな人は!

 

「なにを、そんなに慌てているの?」

 

 そんな私に優しい声で話しかけてくれる人が居た。

 バッと振り返った時、その小柄な女の子の目は死んでいる。

 なりふり構っていられなかった私は、

 彼女の手を取り、考えていた事を前振りもなしに訴えた。

 

「私とチームを組んでください!」

 

 少女は、ポカン、とした顔を浮かべた後、クスリと笑った。

 

「良いよ、私の名前は心根真純。君は?」

 

 言われて、自己紹介もしていなかった事に気付いた。

 その事を恥じつつも「大兎転狐です」と伝える。まだ彼女の手を包み込むように握り締めたままの両手、そこに重ねるように透明の何かが添えられた。顔を上げる、するとジャージだけが浮かんでいた。

 いや、これは違うのか。透明の何者かがジャージを着ている。

 

「私の名前は葉隠透。ねえ、そのチームに私も混ぜてよ」

 

 あっさりと、想像するよりも早く即席チームが結成された。

 

『ハイ、スタート』

 

 不意に、プレゼント・マイクの気のない声が会場に響き渡る。

 えっ? と思った次の瞬間には、もう真純は駆け出していた。

 少し遅れて、透明人間の透が動き出したので、

 二人の背中を私も追いかける。

 

『どうしたどうしたぁ! 私ならもう三体は倒しちまってんなア! 実戦じゃカウントなんかねえんだよ、ほら走った走ったア! お前達が救援に遅れた分だけ被害が大きくなんだよッ!』

 

 続くトップワンの言葉で受験生が走り出した。

 誰よりも早く動き出した真純の背中を見る。即断即決、人命救助は拙速を尊ぶ。その理念の体現したような姿を見て、このままではいけない。と頬を両手でパンと叩いた。

 気が緩んでいる、意識を切り替える必要があった。

 

「改めて云うけど、私は心根真純。個性は鋼精神、まあロボット退治には役に立たない個性だけど、体術には自信がある」

 

 走りながらの自己紹介、急な事の連続で頭が追いつかない私の代わりに透が代わりに叫んだ。

 

「私の個性は透明化! 見たまんまだよ!」

 

 チームを組んだからこその情報共有、そこまで理解してやっと私は口を開く事ができた。

 

「私、大兎転狐の個性は入れ替え! マーキングした物同士を入れ替える事ができる! マーキングの数は3つまで、左右の手で1つずつ。そして私自身が常にマーキングされた状態にある! 体積の制限は人並み程度、無理をすればもっと行ける! 重さに制限はなく、インターバルは一呼吸もあれば十分なの!」

 

 一息に自分の個性を開示する、我ながらややこしい能力だ。

 戦闘用の個性ではないけども、石を投げれば、会場内を飛び回ることも可能だ。

 ところで、と真純が私達に問い掛ける。

 

「二人ともヴィラン相手に実戦経験はある?」

 

 そんな経験はある訳があるきゃない。私は首を横に振り、葉隠は大袈裟に腕を振っていた。

 

「私が前衛を務めるよ。大兎ちゃんはヴィランの上に瓦礫でも落として頂戴、葉隠ちゃんは隙があったらどんどん仕掛けても良いよ。ただ味方の攻撃には注意してね」

 

 狙うのは関節だよ、と真純が即席チームの指揮を執る。

 その事に反対なんてなかった。それが最善だと、この時点で既に分かっていた。

 私と葉隠が承諾すれば、もう現場は目の前だ。

 

「即席だけどお互いを信頼して行こう」

 

 言うや否や彼女は身の丈以上もあるロボヴィランを相手に真正面から突っ込んだ。

 透が衣服を脱ぎ捨てる。その事に驚愕しながらも私は小石を拾い上げる。何処かに相手の頭上に落とせるものはないかと探せば、真純と戦っているロボヴィランが建造物を破壊するのを見た。

 アイコンタクト、真純と視線が交錯した。

 その瞬間、彼女がロボヴィランの攻撃を誘発させる事で私の為の武器を用意してくれたのを理解する。

 左手で瓦礫を握った。右手に握り締めた小石をロボヴィランの上空に放り投げて、丁度良い位置で瓦礫と入れ替える。

 ジャスト! ロボヴィランが瓦礫に潰されて、行動を停止する。

 

「やった! これで1ポイント!」

 

 会場内の誰よりも早くにポイントを獲得できた。

 彼女を組めた事を感謝し、勇気を出して話しかけた自分を褒め称える。

 

「さあ次に行くよ。私達は3人チーム、他よりも三倍のヴィランを倒す必要があるからね」

 

 喜ぶのも束の間、真純はもう次のロボヴィランに向かって駆け出していた。

 出来るだけ、三人が均一のポイントになるように動き回る。数を重ねる度に連携は向上し、手際よくヴィランを退治していけた。

 そして、私のポイントが10に達した頃、それは現れる。

 

 圧倒的脅威、超大型のロボヴィラン。

 ポイント0の倒す必要のないステージギミック。ビルよりも巨大なヴィランが地響きを上げて、街を破壊する。こんなのを前にしたら逃げ惑うしかない。無意識に私と透が背を向けた時、真純だけが武骨な巨体を睨み付けていた。

 倒す必要はない、でも真純は逃げなかった。

 

「誰かがアレを止めなきゃいけない」

 

 街にはまだ暴れているヴィランがいる、救援すべき誰かが居る。

 そんな人達が思う存分に力を振るう為には、誰かがアレの注意を引き付ける必要があった。

 そのような貧乏籤を、わざわざ私達が引く必要なんて、何処にもない。

 そう考えた時、真純が私を見て、優しく目を細めた。

 

「行って、貴女には貴女の出来ることがある」

 

 この瞬間、私は彼女の共闘相手から外された事を察した。

 庇護対象に成り下がった事を悟る。それが悔しいと思う事はなかった。

 私が感じたのは、

 彼女に一人で戦う事を決意させた自分の不甲斐なさだ。

 

「違うよ」

 

 と震える足で前に出る。

 雄英高校の門を潜る時に自分の足で踏み出せなかった一歩を今、此処で。

 歯を食い縛り、私よりも遥か先を走る真純の隣に並び立った。

 

「わ、私のやるべきことは此処にあるんだ!」

 

 決意を固めて、震える身体で圧倒的な脅威と対峙する。

 

「私も残る」

 

 透明人間の透が私達の間に割って入った。

 視界には見えないけど、ちゃんと居るのが分かるように。

 私と真純の肩に手を乗せる。

 

「だって私達、三人でチームなんだよね?」

 

 顔は見えないけど、彼女が笑顔を浮かべている事は分かった。

 

「お前達バカかよ! あんなのを相手に逃げなくてどーすんだよ!!」

 

 泣きながら叫ぶのは、小学生程の身長しかない真純よりも小柄な少年だった。

 

「あんなもん、どうしようもないだろうが! 一緒に逃げようぜ、オイラ達はオールマイトじゃないんだッ!!」

 

 今すぐに逃げ出しても良いのに、

 わざわざ声をかけてくれる所に彼の善性が垣間見えた。

 逃げるのが最善。

 だけど今、逃げるともう二度とヒーローを目指せない気がした。

 半ば、意地で圧倒的脅威に立ち向かうと決めたのだ。

 

「ああバカかよ、お前達は真正のバカだな?」

 

 やばいって、やばいって、と呟きながら現れたのはバンダナを付けた男だ。

 青褪めた顔を片手で覆いながら覚束ない足取りで歩み寄って来る。

 

「だが、女を置いて逃げる俺は、もっとヤベぇ!」

 

 パンパンと両手で頬を叩き、恐怖を吐き捨てるように息を思いっきり吹き出した。

 

「俺の名前は、泡瀬洋雪! お前ら、ちゃんと勝算はあるんだろうなあっ!?」

 

 今にも泣き出しそうな声で私達に並び立った。

 

「バカ野郎! ポッ出が粋がってんじゃねえんだよ! そんな事をされたら……オイラは……オイラだけが逃げたら恰好悪いだろうがァーッ!!」

 

 そして葡萄頭の少年が泣きながら前に出る。

 恰好良いよ。と私が弾力のある彼の頭を撫でてあげれば、赤らめた頬で泣き止んでくれた。

 これで五人だ、迫り来る脅威を前に五人で構えを取る。

 

「泡瀬君、オイラ君。君達の個性を端的に教えてくれない?」

「オイラはオイラって名前じゃない、峰田実だ!」

「俺の個性は溶接、触れたモノ同士を分子レベルで結合できるんだ」

「あ、頭から粘着性の高いボールをもぎもぎする!」

「そう、なら後は機動力…………」

 

 真純は、チラリと私を見た。

 確かに私の能力なら相手を送り出すことも出来るけど、マーキングを付けられるのは二つまでだ。

 転送できる数には、限りがあった。

 

Have a nice day(ごきげんよう).どうして逃げ出さないのデス?」

 

 頭に角を生やした少女が、自らの角に乗って空を翔けて来る。

 

「逃げ出せない理由がありマス? いいえ、違いますネ。戦うつもりでーす」

 

 少女は上空より私達を見下して、腕を組みながら告げる。

 

Don't steal a march on me(抜け駆けは禁止デス).私にも一口噛ませなさい」

 

 超大型ヴィラン討伐隊に角取ポニーが合流を果たす。

 

「これで六人だね」と葉隠透が告げる。

「なあ、オイラ達は何をすれば良いんだ!?」と峰田実が泣き喚く。

「役割もだが、先ずはチーム名じゃないか?」と泡瀬洋雪が強がりを口にする。

「それって今、考えることデス?」と角取ポニーが溜息を零す。

「気合は入るかもね」と私、大兎転狐が苦笑した。

 

 私を含めた五人の視線を受けて「じゃあ」と心根真純が面倒そうに告げる。

 

「アベンジャーズって事で」

 

 了解! と五人の揃った声が演習場に響き渡った。




Q.ヒーロー大好きっ子が最もテンションが上がるヒーローチームといえば?
A.アベンジャーズ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。