レッツゴージャスティス!   作:ジャスティス仮面

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No.5「入学初日の大試練」

 実用性重視の黒一色のシンプルな衣装。

 首には無造作に巻かれた捕縛布、無精髭に乱れた長髪は見る者に小汚い印象を与える。

 極端なまでに合理性を重視する彼の名はイレイザー・ヘッド。

 本名、相澤消太。個性は、抹消。目で捉えた相手の個性を無効化する。

 今年の雄英高校ヒーロー科1年A組を担任教師である。

 

 彼は時間の無駄を極端に嫌っている。

 合理的に物事を進める為に個性のみならず、入学式やガイダンスと云った行事すらも抹消し、個性把握テストを実施する為にグラウンドの使用許可の申請を出した。そして申請が受理される迄の数分間、持ち込んだ寝袋の中で睡眠を貪る。

 そんな嫁を取ったら喧嘩待ったなしの合理男に校長の根津が話しかける。

 

「相澤君、少し良いかな?」

 

 相澤は身動ぎするだけで返事をしなかった。

 流石は入学式の挨拶なんて聞くに値しないと唾棄にした男である。

 根津は、思い詰めるように自らの髭を弄った後、パチンと指を鳴らした。

 天井に敷き詰められたパネルのひとつが開いた。

 空いた穴から金タライが出現し、相澤の顔を目掛けて落下する。

 

 ガァン! と小気味良い音が響いた。

 

「……なんでしょう?」

 

 額を赤くした相澤が寝袋に入ったままの芋虫姿で上半身を起こす。

 

「心根真純って子なんだけど、ほんの少しで良いから気遣ってくれないかな?」

 

 その彼の言葉の真意が掴めず相澤は、

「それは、どういう意味で?」と一瞬の間を置いた後で問い返す。

 贔屓しろ。という話なら断るが、

 そんな話を今更、彼が自分にしてくるとは思えなかった。

 

「あの子は今まで数え切れない程の無茶をして来たみたいだからね」

 

 それは彼女の実技試験の映像を見るだけで分かる。

 しかし、どうにもそれだけが理由ではなさそうだ。

 

「少し注意深く見てくれるだけで良いんだ」

 

 そう言って彼は、申請書に許可の判子を押したものを返した。

 それ以上に、何も語るつもりはないらしく、

 豪華な椅子に踏ん反り返って、パソコンを操作する彼に相澤は溜息を零す。

 

「合理性に欠けている」

 

 と彼は、許可状を片手に校長室を後にする。

 

 

 ふわり、と欠伸をするとピョコンと頭から獣耳が生える。

 私、為人影狼の個性は、人狼。ふとした拍子に個性が暴発し、狼の耳や尻尾が生えたりする。今のように。油断すると生えた尻尾がスカートを捲り上げてしまう事もあるので、難儀な個性だと気を付けなければいけなかった。

 いそいそと頭に生えた獣耳を両手で畳んで元に戻す。

 教室の後ろの方では、机の上に両足を置いた爆豪に眼鏡を掛けた優等生が絡んでいる。机を製作者方に申し訳ないと思わないのか、等と優等生っぽいことを宣っていた。煽り返す爆豪から視線を外し、指定された席に腰を下ろす。

 そのままボケッとしていると一人、また一人と教室に入ってくる。

 

 これから先、クラスメイトになる人間の顔を横目に眺めていると、

 一際に強い血の臭いを纏った人間が、教室に足を踏み入れる。

 

 小柄な少女だ。彼女について、ある程度の話は聞いている。

 心根真純、暗黒街の英雄。140センチメートルにも満たない身体、小学生と言われても信じてしまいそうだ。そんな彼女に制服だけが浮いた透明の子が話しかける。何を話しているのかまでは分からない。パタパタしていた獣耳を、改めて両手で畳んで、彼女の一挙一動を観察する。

 足音がしない、布擦れの音も小さかった。

 透明人間と素っ気ない態度で挨拶を交わした彼女は、真ん中の一番前にある席に腰を下ろす。すると今度は右隣の少女と会話を始める。ちなみに私の席は一番左で一番前の席になる。

 すん、と鼻を鳴らす。

 まだ教室の出入り口付近から人の臭いがする。

 

「お友達ごっこがしたいのなら余所へ行け」

 

 見れば、廊下で寝袋に入った不精髭の男が寝転がっていた。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

 この男の名前は知っている。

 イレイザー・ヘッド、アングラ系ヒーロー。

 今は雄英高校の教師を務める。

 

 その彼が此処に居るという事は、

 つまり、彼が私達に担任なるということだ。

 

「早速だが、体操着を着てグラウンドに出ろ」

 

 抹消ヒーローは入学式やガイダンスすらも抹消し、個性把握テストの実施を強行する。

 

 

「入学式は!?」

「ガイダンスは!?」

 

 体操服に着替えた生徒達に今日の講義内容を伝えれば、

 麗日お茶子と大兎転狐の二人が声を荒げた。

 ヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間ないよ、と一蹴する。

 理不尽を言っている自覚はある。

 しかしヒーローとしてやっていくには、三年間という年月は、余りにも短い。

 限られた時間的猶予を有効的に活用するには、

 今から意識改革が必要だ。

 

「仲月、来い」

 

 手に持っていた英単語カードをポケットにしまった彼女は「はいはーい」と皆の前に歩み出る。

 トップワンの顔を知っている者は新入生の中にも知られていたようで騒めいた。頭の回転が早い者は「先輩だよな?」と口にする。今言ったのは切島鋭児郎、実技試験2位。騒がしくなった新入生共にトップワンこと仲月光牙は後ろを振り返って、人差し指を口元に当てる。

 しんと静まり返ったのを確認し、俺は計測器の付いたソフトボールを放り投げる。

 

「思いっ切りな」

「りょーかい!」

 

 仲月は笑顔で敬礼した後、先輩として良い見本にならないとね。と頭上にソフトボールを放り投げる。

 頂点に達し、落下するボール。それに合わせて、仲月の全身が強く発光した。何かを蹴飛ばす衝撃音、気付いた時には、円の中でドロップキックを放った後の姿勢を取る仲月の姿がある。遥か遠くから、バシュッと微かな音が聞こえた。ソフトボールは運動場の端にあるサッカーゴールの中に叩き込まれていた。

 測定距離は300メートル程。思いっきり、と言ったのに遊び心を隠さない仲月に舌打ちを零す。

 

「そんな怖い顔をしないでくださいよ。ヒーローにはユーモアが必要だってサー・ナイトアイも言っていましたよ?」

「思いっきりと言ったはずだが?」

「やだなあ、私が思いっきりやったら円からはみ出ちゃいますよ」

 

 全力でやりました、と彼女は告げる。

 さておいて、彼女に求めていた役割は満たしている。

 俺は新入生の方を振り返って────

 

「なんだこれ、すげー面白そう!」

「パッと光ったかと思えば、ボールがサッカーゴールに入ってたぜ!」

「個性が思いっきり使えるんだ! 流石、ヒーロー科!!」

 

 ──嗚呼、此奴らの意識はまだ弛んでいるようだ。

 

 今から一か月後に開催される雄英体育祭の後には職場体験が待っている。

 職場体験には、ほとんど危険はないが、それでも凶悪なヴィランと遭遇する可能性はゼロではない。ヴィランは未熟だからと待ってはくれない、ヴィランは未成年だからと容赦してくれない。

 職場体験には、命を失う危険が伴っている。そうでなくともだ。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

 自然災害、大事故。身勝手な敵達。

 何時どこから来るか分からない厄災、日本は理不尽に塗れている。

 いざという時に力がないでは話にならない。

 理不尽は今、この場でも起こり得るかも知れないのだ。

 

「そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」

 

 時間はない、一刻一秒が惜しい。あの時もっと努力していれば、では遅過ぎる。

 元よりヒーロー制度とは既存の警察組織では太刀打ちできない個性犯罪に対抗する手段として生まれたものだ。故にヒーローの活動には人命が付き纏う事が多い、故にヒーローに失敗は許されない。

 ヒーローとして生きていく以上、力が足りなかった。は言い訳としては最低だ。

 

「これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける」

 

 Plus Ultra(プルス ウルトラ),全力で乗り越えて来い。

 

 

 某所、某秘密基地。数ある部屋の一室にて。

 少女趣味を極めたような内装に可愛らしい動物のぬいぐるみが敷き詰められている。

 ゆるふわなベッドの上にペタンと女の子座りをする金髪の少女が一人、今はキャミソールにショーツを履いているだけだ。目の前に置いたピンク色のノートPCには、これまた可愛らしいステッカーがこれでもかと貼られている。キーボードとタッチパッドを操作し、雄英高校の公式サイトにある合格通知の番号を確認した少女は、ひとつ溜息を零す。

 

「無事に侵入完了っと、……意外と行けるものね?」

 

 雄英高校の入学試験を受けさせる際、先ず問題になったのが学力である。

 親友の力も借りて、組織総出で受験対策を行った。その甲斐あって組織の偏差値は爆上がりとなり、彼女自身も高校卒業認定試験に一発で受かる事と相成った。

 やれば頑張れば、出来るものである。

 

 まあ、あの子の場合は個性が強いのもある。

 個性が見込まれた分だけ、筆記試験の点数に目を瞑って貰えた可能性も考えられる。

 それだけ今の社会は、個性を重要視していた。

 

「それでも、まあ、御褒美くらいは考えてあげないとね」

 

 通販サイトを開いて、鼻歌交じりにキーワードを入力する。

 御褒美の他に自分用の嗜好品も購入。お気に入りの保湿クリームが切れかけていたのを思い出し、追加で商品カートに入れる。マニキュアを塗るのが好きだ。誰かに見せるつもりもないのだけど、爪を綺麗に塗れると気分がよくなる。

 注文を確定した後、ノートPCをパタンと閉じた。

 身の丈ほどもある鮫のぬいぐるみをギュウッと抱き締めて、そのままベッドに寝転んだ。

 

「元気にしてるかしら? 大丈夫かしら? 友達できたかしら?」

 

 ベッドの上で悶える少女の姿は、姉が少し年の離れた妹を気遣う姿によく似ていた。

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