レッツゴージャスティス! 作:ジャスティス仮面
私、大兎転狐は心根真純を観察する。
真純は昨日、個性把握テストを終えた後、誰とも会わず家に帰ってしまった。
それがなんだか悔しかった私は、もっと真純の事を知りたくなり、今日一日、彼女の動向を観察する事に決める。そう決めたのだが、昼休憩。何処かに足を運ぶ真純の後を付けていたはずなのに見失ってしまった。
それで今は実技試験仲間である葉隠透と一緒に机を囲んでいる。
「結局、真純ちゃんって謎が多いんだよね」
透の弁当にある卵焼きに手を伸ばす。
醤油の辛い味を期待してみれば、砂糖を使った甘い味。まるで卵焼きをケーキにしたような味に目を瞬かせた。美味しい、とは思うのだけど、それよりも期待した味とは違った衝撃の方が大きかった。ちなみに私と透が今日、弁当になっているのは、雄英高校に格安で栄養バランスの取れた食事を提供してくれる食堂がある事を知ったのが、つい先程の事になるからだ。
B組の角取ポニーと泡瀬洋雪は知っていた、ガイダンスで説明を受けていたようだ。
おのれ、相澤。許すまじ。
「個性もよく分からないとこあるし、家で何をやってるかも知らない!」
「まあ、それはお互い様じゃない?」
透が私の弁当からウインナーを取った。
彼女の言っている事は正しい。今はまだ入学式の翌日で皆の事なんて分かるはずもない。
こうやって仲良く話をしている透とだって、
お互いの事は何も知らないのだ。
しかし、それでも私はもっと真純ちゃんの事が知りたいのだ!
知って、もっと仲良くなりたいのだ!
「私達の仲に隠し事はなし!」
「まだそこまでの仲じゃないと思うんだけどね〜」
でもまあ、と透は自分の弁当に入っていた唐揚げを頬張る。
「隠し事されているのは、気分よくないよね!」
「そうだそうだ! 裏でコソコソしている真純ちゃんの秘密を暴くのだ!」
「隠れ兎同盟の結成だ~!」
ハイタッチを交わして笑顔を突き付け合った。
透の顔は、私には見えないけど今、笑顔なのは分かる。
真純だって悪いのだ。
トイレで着替えるし、何も言わずに帰っちゃうし!
それが相手のプライバシーを侵害しても良い理由には、ならないのだけど、
気になるものは気になるのだ、だって友達だもん!
「という訳で透ちゃん、服を脱いで!」
ええ、と透の引き気味の声が聞こえる。
「でも、たぶんだけど、意味がないと思うよ」
「なんで?」
「実技試験の時、真純ちゃんが私のことを見失うことがなかったから」
目に見えていなくても相手の居場所が分かるみたい、と透が自信なく告げる。
そんなまさか、という想いはある。だけど、考えてみると今日、真純の後を追いかけていた時も廊下を曲がった先で急に姿を消したのだ。あれって、もしかすると彼女が私の存在に気付いたからだった可能性もある。
兎も角だ。
今日の午後はヒーロー基礎学。制服からジャージに着替える時間があるはずだ。
「そういえば透ちゃん、いくら個性の為といっても皆の前で裸になるのって恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくないって事はないのだけど、まあ見えないから良いかなって」
それに、と透が続ける。
「外で真っ裸になるのって結構、気持ち良いんだよね」
「ええ……」
どうやら私は
意図せず別の
「あ、なんか変な事を考えてるよね! 違うから、そういう意味じゃないから!」
「そうだよね~、違うよね~?」
「絶対に信じてない!!」
必死になる透の様子にケラケラと笑い声を上げる。
そんな事をしている間に午後の授業の時間が近付いて来たようで、
少しずつクラスメイトも戻って来る。
その中に真純も居て、
彼女は私を一瞥し、小さく笑みを浮かべた。
……あれって追跡していたのバレてるよね?
冷や汗を流す私の事なんて露知らず、
真純は何食わぬ顔で自分の席に腰を下ろすのだ。
◇
程なくして、
「わーたーしーがーッ!」
威勢の良い声と共に教室のドアが開け放たれる。
「普通にドアから来たッ!!」
と意気揚々と部屋に入って来たのはオールマイトだ。
彼は午後の授業であるヒーロー基礎学を担当する教師。あのオールマイトが本当に俺達の先生なんだ、と誰もが知る世界的なヒーローの生の姿に誰もが色めき立った。
私、大兎転狐はホークスのファンだ。
しかし間近に見るオールマイトに感動を覚えないはずがなかった。
教壇の前に立ったオールマイトは私達に向けて、早速だが、と宣告する。
「今日はコレ、戦闘訓練!!」
オールマイトがリモコンのスイッチを入れる。
すると教室の壁から棚が迫り出した。
棚には、幾つもの鞄が並べてある。鞄には番号が振られていた。
これが私達の
入学前に送った個性届と要望に沿って作られた代物、
それが今、この場でオールマイトの手から私達に贈られた。
オールマイトから受け取った鞄の重みが、
「恰好から入るってのも大切な事だぜ少年少女! 自覚するのだ、今日から自分は──」
ヒーローなのだ、という自覚を植え付けられた気がする。
鞄に入っていた私の衣装は、手品師を模した燕尾服が基になっている。
首元にはネクタイの代わりに蝶ネクタイ、入れ替えの個性が暴発しないように白い手袋を嵌める。
そして要望に出していないのにシルクハットには兎の耳が付けられていた。
鞄の底には一枚のメッセージカード、デザイナーからの言伝のようだ。
「えっと、なになに……内側はワイシャツにするよりもバニースーツにした方が絶対に良いと思います?」
メッセージカードは破いてゴミ箱にポイした。
よく見ると、ズボンには兎の尻尾が付いている。
背中から見た時、燕尾服の裾の割れ目からチラチラと兎の尻尾が見える仕組みになっているようだ。
どうやら私を担当したデザイナーは変態らしい。
後で担当を変更して貰う必要がある。
意を決する私に手袋と靴だけ姿になった透が「かわい~!」って言ってくれたから、
一先ず、留飲を下げる事にした。
次、お色気要素を足した時には問答無用で担当を変えて貰います。
「そういえば、真純ちゃんの事は良いの?」
「あっ!」
自分の戦闘服に意識を持っていかれて完全に忘れていた。
案の定、女子更衣室に真純の姿はない。
また勝手に一人で先に行った! と私が憤ると更衣室の扉が開けられる。
もう既に着替え終わった真純が立っていた。
真純の衣装は膝の下まで隠れるトレンチコートにテンガロハットの組み合わせだった。
下はズボンに革靴、両手には白い手袋を嵌めている。
そんな衣服を小柄な彼女が着ているので、
まるで小学生が背伸びして、大人の恰好をしているみたいで可愛かった。
その真純が、スンと鼻を鳴らして私の傍まで歩み寄る。
あと数歩で接触する至近距離、真純は眉間に皺を寄せて私の衣服を見つめ始めた。
視線を上下に何度も往復させる彼女に、なんだか気恥ずかしくなってくる。
「えっと……やっぱり変?」
いたたまれなくなって問い掛けた。
違うよ、と彼女は首を横に振る。
「変じゃないよ、ちゃんと似合ってる」
可愛いよ、と真純が間近に微笑んだ。
胸が、キュンと来た。彼女が浮かべた笑顔は年相応に可愛らしかった。
笑顔を作り慣れていないのか、
はにかむ仕草になっていたのがなお良かった。
「ところで」
真純が透の方を振り返る。
「ちゃんとした服を着てるの?」
「これが私の個性を生かしたヒーロースーツなんだ」
透は胸元に手を添えて、堂々と答えてのけた。
真純は訝しげに透の事を睨み付けて、右手の手袋を外しながら透の方に歩み寄る。
そして、むんず、と的確に透の胸を掴み取った。
「きゃっ!」
「やっぱり服を着てないじゃん」
駄目だよ、と真純は透の身体をペタペタと触りながら続ける。
「ちょっと、そこは……っ!」
「下も着けてないね。お腹も冷えるし、良い事ない。もっと自分の身体を大切にしないと」
「やあっ! やめ……んッ!」
「ねえ? ちゃんと話を聞いてる? 実技試験の時は前準備もなかったから仕方なかったよ。世の中には18禁なんて呼ばれているヒーローも居るのは知ってるけど、透ちゃんも露出ヒーローって呼ばれたいの?」
「ま、真純ちゃ……んあっ! 手ぇ! 手を止め……!」
「人間、堕ちるのは早いけど、元に戻るには時間がかかるんだよ? 分かってる? 私、そういう人をたくさん見て来てるんだ。そういう人達って大抵、騙されるか、そうするしか生きられなかった人達なんだけど、透ちゃんは違うよね? ねえ、聞いてる?」
「き、聞いて……からっ! ……強く、しな……いッ!!」
「真純ちゃん!!」
冗談では済まなくなってきたので、真純を透から引き剥がした。
荒い呼吸が聞こえる。私に両腕を取られた真純は、不貞腐れた顔で透を睨み付ける。
しかし真純は大きく溜息を零し、私の拘束を振り払った。
「とにかく裸は駄目、コスチュームを申請し直した方が良い」
真純は自分の着ていたトレンチコートを脱いで、透に突き出した。
「とりあえず、これを着ておいてよ」
「えっ、でも……」
「良いから早く、何もないよりもまし」
おずおずとコートを受け取る透を見届けて、
「先に行ってる」と真純は不機嫌なまま更衣室を出て行ってしまった。
更衣室に取り残された私と透。
透は、受け取ったコートを見つめながら静かに口を開いた。
「真純ちゃんって優しいね」
「うん」
「真純ちゃんって小さいよね」
「うん?」
透がトレンチコートに袖を通し、気恥ずかしそうに身を捩らせた。
「私って今、裸で他人のコートを着ているんだよね?」
「まあ、うん……」
「裾が短くて、激しく動いたら捲れちゃいそうなんだよね」
「う、うん……」
透は生唾を飲み込み、意を決して口を開いた。
「私、今、ちょっと目覚めちゃいそうなんだけど……」
「アウトだよ!!」
後日、透の髪を培養し、
加工して作った新しい戦闘服が届けられる。
この一連の流れで一つ、
私が気になって仕方ない事がある。
透の胸を掴んだ時の真純の手が、
私が想像する以上に大きなモノを掴んだ形をしていた事だ。
自分の胸に触れる。
ないなりにある、その程度のサイズだった。