レッツゴージャスティス!   作:ジャスティス仮面

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No.8「屋内戦闘訓練」

 昼飯時。中庭で一人、食事を摂っている生徒を見かけた。

 これが普通科や経営科の生徒であれば、気に留める事もなかったかも知れない。

 

 しかし一人で食事を摂っているのが、

 自身(ワン・フォー・オール)の後継者である緑谷出久と同じクラスの女の子であり、

 それが暗黒街の英雄と呼ばれた心根真純であれば、

 声を掛けずには居られなかった。

 

 私、八木俊典(オールマイト)は自作の弁当を片手に職員室を出る。

 中庭に出て、直ぐベンチに座る心根少女を見つける事が出来た。

 しかし彼女の手元に弁当箱はなく、一個のゼリー飲料が握られているだけだった。

 ゼリー飲料を一口吸っては口を離し、大きく息を零す。

 そして数十秒のインターバルを取って、もう一口、ゼリー飲料を啜った。

 

 もごもごと口を動かしてから喉を鳴らす彼女の姿を見て、

 オール・フォー・ワンと戦った直後、胃を全摘した時のことを思い出す。

 修行もなしに食事を摂るだけで苦痛に思う日が来るなんて、

 若い頃は考えても居なかった。

 

「隣、良いかな?」

 

 私が弁当を片手に問い掛ける。

 彼女は私を一瞥した後、座る位置を横にズラしてくれた。

 私の姿を見ても特別に意識する事もない彼女の姿は、

 なんだか見ていて新鮮だった。

 失礼するよ、と彼女の隣に静かに腰を下ろす。

 

「………………」

「………………」

 

 沈黙が、重い。何か、話せる話題がなかった。

 話したい事はあるにはあるが、ヘビーな話を最初に突っ込みたくない。

 学園生活についての悩み? 初日に聞く事ではない。

 

「き、君は、どうしてヒーローを目指す事になったんだい?」

 

 苦し紛れの質問、心根少女は特に感情を見せることもせず素っ気なく答える。

 

「プロヒーローになって、何が変わるのかいまいち分かりません」

「ん~?」

「だって、私って気に入らない相手を片っ端から叩き潰して来ただけですし」

 

 えっと、と彼女が心持ち真面目な顔で私を見上げた。

 

「面倒な手続きが増えるのとヒーローに追いかけ回されるのって、どちらが面倒なのでしょうか?」

「……暗黒街と同じことをするなら私が君を追いかけ回すよ?」

「見た目が小学生の女の子を追いかけ回す男性ヒーローの絵面って最低だと思いませんか?」

 

 明日の朝刊に乗ります。と彼女は飲料ゼリーを口に付ける。

 

「それだけでは、午後の授業は持たないぞ」

「小食なので、あまり多くは食べられないので」

「だから君は、そんなに小さなままなのか」

「おかげで強くはなりました」

 

 私一人では倒せない相手ばかりでしたけど、と彼女が付け加える。

 暗黒街の英雄は一人ではない。しかし、そのほとんどがヒーローなのかヴィランなのか分からないような連中ばかりであり、終始、ヒーローとして活動し続けていたのが心根真純だった。だから彼女が暗黒街の活躍における名声のほとんどを持って行く結果となっている。と警察関係者から話を聞いた。

 彼女の個性は、戦闘能力的には、ほとんど無個性と一緒なのだ。

 初めて暗黒街に足を踏み入れた時、まだ小学生だった彼女が(ヴィラン)を叩き潰してきた。と考えるよりも現実的な話だ。

 

「ミルコさんとも手合わせした事がありますよ」

「……んん?」

「ヴィランを相手にしてる時に乱入されて、なんか襲われちゃいました」

 

 酷いですよね、と心根少女が口先を尖らせる。

 

「それで、どうなったんだい?」

「逃げました。全力で捕まえに来るのって大人げなくないです?」

 

 彼女は同意を求める目で、ジッと私を見つめて来る。

 

 なんとなしに覚えている事がある。

 プロヒーローでも避ける暗黒街に足繁く通い詰めたヒーローが居る。理由は単純なもので傷だらけの少女を見つけたが保護できず逃げられてしまった。それ以後、彼女は幼い少女を保護する為に暗黒街に何度も足を運んでいる。

 結果として一人の少女を保護したが、それは彼女が探していた少女ではなかったらしい。

 

 心根少女が、チラリと手元のスマホを覗き見る。

 気怠そうに立ち上がり、私を見た。もうすぐ講義の時間です、と言った。

 腕の時計を見る。あと五分まで講義の時間が迫っていた。

 心根少女は、私に御辞儀し、一言ポツリと呟いた。

 

「何処かで聞いた事のある声なんだけど……」

 

 首を傾げる少女に私は、思わず通り過ぎた彼女の背中を見た。

 これでも平和の象徴として活躍してきた自負がある。日本に生きる誰よりも知名度が高い自覚もあった。

 しかし少女は私の姿を見て、私が誰なのか見当が付いていないようだった。

 驚愕し、唖然とする私を、知ってか知らずか、

 彼女は少しふらついた足取りで教室へと向かった。

 

 

「始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 入試でも使った市街地を模した演習場にある5階建てのビル。

 その地下にあるモニタールームに1年A組の生徒が集められている。

 

「今回は、屋内での対人戦闘訓練だ!」

 

 狡猾な敵は屋内に潜む、統計でも屋外よりも屋内の方が凶悪な敵の出現率が高い。

 今回は、ヴィラン組とヒーロー組に分かれて、2対2の屋内戦。状況設定は、ヴィランが屋内に隠した核兵器をヒーローが処理をしようとしている。ヒーロー組の勝利条件は、ヴィラン組の捕縛。もしくは核兵器の回収だ。ヴィラン組の勝利条件は、ヒーロー組の捕縛。もしくは制限時間まで核兵器を守り通す事である。

 そして、コンビは籤で決められる。

 

 オールマイトの抱える箱に空いた丸い穴。

 私、大兎転子が穴に手を入れて、引いたボールにはIの一文字が書かれていた。相方には全裸にコートの葉隠透、隠れ兎同盟は継続に「イェイ♪ イェイ♪」と二人でハイタッチにロータッチを繰り返す。そうしている間にも他の生徒がボールを取り、その流れで本日の戦闘相手もオールマイトによる籤で決められた。

 以上をまとめたものが、以下になる。左がヒーロー組で、右がヴィラン組だ。

 

A班   ~第一戦~   C班

[麗日お茶子・緑谷出久 VS  心根真純・八百万百 ]

H班   ~第二戦~   I班

[ 蛙吹梅雨・常闇踏陰  VS  大兎転子・葉隠透 ]

E班   ~第三戦~   L班

[ 青山優雅・瀬呂範太  VS  障子目蔵・峰田実 ]

B班   ~第四戦~   F班

[ 砂藤力道・轟焦凍  VS  尾白猿夫・為人影狼 ]

D班   ~第五戦~   K班

[玉手川蹴子・口田甲司 VS  飯田天哉・爆豪勝己 ]

J班   ~第六戦~   G班

[切島鋭児郎・芦戸三奈 VS  上鳴電気・耳郎響香 ]

 

 何故か戦闘訓練に同行している2年A組の仲月光牙は、

 万が一に備えて、英語の参考書を片手にビルの外で待機している。

 ちなみに制服のままだった。

 

「それでは行ってくるよ」

 

 トレンチコートを透に預けたままの真純はワイシャツにサスペンダーを付けた姿になっていた。

 首から下の肌に露出はなく、テンガロハットを目深く被っている。彼女の相方になる八百万の身長は170センチメートルを超えており、140にも満たない真純が横に並べば、まるで大人と子供のようだった。「八百万ママ……これがヤオヨロッパイの新境地……」と身を震わせる葡萄頭から目を背けて、二人が部屋を出て来るのを見送る。

 そして対戦相手である緑谷出久と麗日お茶子も彼女達に続いた。

 

「俺が、潰してやりたかった……」

 

 舌打ちを零したのは爆発頭の爆豪勝己。

 彼と緑谷の間にも因縁があるようだった。

 

 

 核兵器の設置場所は4階の中央を避けた西側の大部屋、階段から最も遠い位置にある部屋だ。

 場所を提案したのは今回、私の相方になる心根真純。麗日の物を浮かせる個性を考えると窓際は避けたいが、緑谷が個性把握テストで見せたパワーで壁を破壊してくる可能性も十分に考えられる。5階にしなかったのは、麗日が個性で屋上に先回りした時の可能性を考えての事、初めての戦闘訓練という事もあり、今回は奇を衒わず、安牌の4階最奥に核兵器を設置する。

 まだ開始の合図が出るまで少し時間が残っている。

 

「簡単な武器なら用意できますわ」

 

 鋼精神。個性把握テストでは、人並み程度の身体能力しか見せなかった。

 しかし仮にも実技試験を突破した合格者。戦闘能力が皆無、という事はないはずだ。

 彼女の戦闘スタイルが分からない以上、作戦を組み立てる事も出来ない。

 ポケッとしながら窓の外を見上げる彼女の横顔。

 推薦入学者である私が引っ張らないと思い始めた頃に、

 それじゃあ、と漸く彼女が口を開いた。

 

「拳銃は出せる?」

「……え?」

「あ、うん、冗談だよ。冗談」

 

 コホン、と彼女はわざとらしく咳を立てる。

 

「テーザー銃……いやガスガンでも良いのだけど……」

「……射撃の経験がおありで?」

「ハワイで親に習いました」

 

 言って彼女は、私から目を背ける。

 嘘を言っている事は明白だった。

 

「あまり複雑な機構のものは即興では作り出せません」

「閃光弾とかも難しそうだね」

 

 うん、と頷いた後に彼女は続ける。

 

「スプレー缶にライター程度なら許されると思う?」

「……もう少し穏便に行きましょう」

「う~ん、なんだかね~」

 

 心根が困ったようにはにかんでみせる。

 

「出来る事が多過ぎると悩んじゃうなって」

 

 と彼女は言った。

 器用貧乏とも受け取れる言葉だったけど彼女は、

 

「なんでもできる」

 

 生気の薄い目を私に向けて、力強く頷いた。

 その彼女の言葉には、不思議と実感が込められていた。

 

 

 母親に作って貰った全身緑色の戦闘服。

 オールマイトを模した覆面を被り、訓練開始の時間を待った。

 まだ中では僕達を行く手を妨げる準備が行われているはずだ。

 隣には、麗日さん。

 女性慣れしていない僕にって、この二人きりの時間というのは、

 否応なしにも意識する。

 

「建物の見取り図……覚えないとねコレ」

 

 出来るだけ彼女のパッツンスーツから目を背けるつもりで見取り図を凝視する。

 

「相澤先生と違って罰とかないみたいで安心したよ」

 

 にへらと笑う麗日の横顔を流し見する。

 また除籍宣告みたいな話にならなくてよかった。そういう事をオールマイトがするとは思えないけども、完全に安心するのも危険だ。何が起こるのか分からないのが雄英高校。今日の結果を聞いた相澤先生がまた何かの罰を課すかも知れないし、オールマイトの前で不甲斐ない姿を見せる訳にもいかなかった。

 何よりも、負けたくない相手がいる。

 今はまだ敵わない、僕なんかよりも何倍も凄い奴がいる。

 だから、僕は今日、負けたくない。

 僕は変わったんだ。と言いたいから本気で勝利と取りに行く。

 

「その為には麗日さんの力が必要だ」

「ん、なに?」

「僕の力と麗日さんで勝ちに行こう」

「…………」

 

 僅かな間。滑ったかな、と考えた頃、

 麗日がパアッと明るい笑顔を見せたかと思えば、

 当然だよ。と両手で僕の手を取った。

 

「コンビじゃん! 頑張ろう!」

 

 母親以外では初めてかも知れない異性の手の感触。

 手袋越しだったけど、その柔らかさと力強さは伝わって来た。

 自分が、耳まで顔が赤くなるのを感じて、

 僕は、慌てて手を離し、相手が待つビルの方へと振り返った。

 

「先ずは窓からビルの中に入ろう」

「侵入だね! スパイみたい!」

 

 ギュッと両手を握り締めて意気込む麗日の姿もまた麗かに可愛かった。

 

 窓の鍵は開いていた。

 出来るだけ音を鳴らさないように慎重に窓を潜り抜ける。

 中は死角が多い、周囲を警戒する。

 罠は勿論、奇襲を仕掛けて来る可能性もあった。

 ワン・フォー・オールはまだ威力の調整が出来ないので、

 対人使用は出来ない。

 

 頭をフルで回せ、屋内の狭い中での戦いの記録を思い出せ。

 

「いくら訓練用といっても殺風景だと思わない?」

「うん、確かにそうだね。でも、個性を使った訓練の為だから……」

 

 麗日さんの、声じゃなかった。

 慌てて振り返った時、一本背負いで投げられた麗日さんの背中が目の前にあった。

 避け切れず、彼女に巻き込まれる形で地面に倒れる。

 仰向けになる麗日さんの足を押し退けて、見たその先に、

 テンガロハットを被った小柄な少女が、

 僕達を見下ろしている。

 

「ヴィラン的な名乗り口上っていまいち分からない」

 

 まあ何時も通りでいっか。と彼女はポケットに手を入れて、緩やかに口を開く。

 

「私が来た」

 

 だから、と彼女は僕達を見る。

 

 

 ピシッ、

 

 と、

 

 心が軋む、音がした。

 

 

「──────ッ!?」

 

 瞬間、僕の本能が悲鳴を上げる。

 

 

 

 それまで考えていた全てが消し飛んだ。

 ハイライトを失った瞳の奥底から、めらりと揺れる漆黒の意思。

 小学生程にしか見えない小柄な少女。

 その身から放たれる膨大な迫力に身が竦んだ。

 世の中には知ってはいけない何かがある。

 この威圧感、この存在感。悪意はなく、凶悪だった。

 ヘドロ事件の時の敵とは桁が違っている。

 

「……う……っぷッ…………!」

 

 まるで覗いてはいけない深淵の覗いているかのようで────

 

「……ごめん、ヴィランっぽくやり過ぎた」

 

 ──それが入り口のほんの一部にしか過ぎない事を、

 否応なく理解させられた。

 

「ぶはあっ!! げほっ、ごほ! ……はあ、はあっ!!」

 

 大きく息を吐き出した、呼吸をする。

 肺に酸素を取り込んだ。

 あの一瞬、睨まれたあの瞬間、呼吸が止まっていた。

 

「まあ、うん。このまま勝っても誰の為にもならないと思うからさ」

 

 彼女はポケットから手を抜いて構えを取る。

 

「来て良いよ。あえて言う必要もないけど、なんでもありだ」

 

 先程まで感じた威圧感はない。

 しかし、少し前まで小柄な少女にしか思えなかった彼女の身体は、

 何故か見上げる程に大きく感じられた。

 

 まるで見越し入道を前にした旅人の気分だ。

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