立花響です。ギャレオンの咆哮が聞こえたとき、私はもう一度だけ立てると思いました。
デュランダルは回収班へ渡しました。ハイパーモードも解除しました。それでも、身体の奥に熱が残っています。視界の端では、いくつもの警告が消えずに点滅していました。
『響くん、現在の状態でのフュージョンには危険がある』
先生の声が聞こえました。
『ギャレオンとの接続で負荷が分散される可能性は高い。だが、戦闘を続けていいという意味ではない。まず接続して、状態を確認する』
「分かりました」
私は顔を上げました。白い獅子が、工場の建物を飛び越えてきます。着地した足元で路面が割れ、大きな顔が私の前へ下がりました。
その向こうで、巨大なゾンダーが腕を持ち上げていました。工場の煙突を取り込んだような腕です。先端が赤くなり、翼さんが避難誘導している道路へ向きました。
「ギャレオン、お願い!」
口が開きました。私は光の中へ跳び込みます。
「フュージョン!」
身体の感覚が広がりました。焼けるようだった熱が、少しずつ遠のいていきます。代わりに、地面を踏みしめる大きな足の重みが伝わってきました。
『接続成功! ガイガー、各部出力安定しています!』
私は腕を上げました。
直後、衝撃が全身を貫きました。ゾンダーの放った砲撃が、交差した腕へぶつかったのです。足が滑り、路面を削りました。
「う、ううっ……!」
『響くん、右へ流せ! 正面で受け続けるな!』
私は身体をひねりました。砲撃が腕をそれ、背後の無人区画へ突き刺さります。爆発の熱が、背中をなでました。
防げた。そう思った瞬間、ゾンダーが走り出しました。見上げるほど大きな身体なのに、速い。私は避けようとして、足をもつれさせました。
巨大な拳が脇腹へ食い込みました。
視界が横へ回ります。建物へぶつかり、壁を崩して、ようやく止まりました。
『ガイガー、右側面に損傷!』
『立花!』
翼さんの声に、私は返事をしようとしました。けれど、息を吸う感覚がうまく戻ってきません。ガイガーの損傷が、自分の身体の痛みと重なっていました。
訓練とは違う。
相手は、こちらが立ち上がるのを待ってくれませんでした。瓦礫の向こうで、また砲口が赤くなります。
『ガオーマシンを発進させろ』
先生の声がしました。別の声が、すぐに続きます。
『長官、実機での最終確認は終わっていません。合体プログラムも――』
『承知している。発進と並行して、確認を続けろ』
私は崩れた壁から身体を起こしました。腕が震えています。それを、もう片方の手で押さえました。
「先生。合体、するんですか」
短い沈黙がありました。
『現状を伝える。ガイガーだけでは、敵の出力を抑えきれない。ガオーマシンが合体すれば対抗できる可能性はある。ただし、成功は保証できない』
シミュレーターで何度も見た警告を思い出しました。接続不良。姿勢制御失敗。負荷超過。画面の中で崩れる、完成する前の身体。
「失敗したら?」
『君も、無事では済まない』
先生は、ごまかしませんでした。
その答えが怖くて、私は足元を見ました。割れた道路の上を、小さな光が走っています。避難車両のライトでした。その後ろで翼さんが立ち止まり、こちらへ来ようとしていました。
「翼さん、来ないでください!」
『立花!』
「そっちを、お願いします。まだ、逃げている人がいるから」
私は立ち上がりました。逃げたい気持ちは消えませんでした。身体を壊したくない。先生に、また手術室で困った顔をさせたくない。そう思いながら、それでも目の前のゾンダーから離れることはできませんでした。
「先生。やります」
『響くん』
「怖いです。でも、ここを通したくないです」
通信の向こうで、誰かが息をのむ音がしました。
やがて、先生が答えました。
『分かった。全員、響くんを支えろ。合体完了まで、ひとつも確認を省くな』
管制室の声が重なりました。進路確認。接続準備。プログラム転送。私ひとりでは動かせないものが、私に向かって集まってきます。
海の方から、轟音が響きました。ステルスガオーが夜空を横切ります。道路を割るようにドリルガオーが現れ、ライナーガオーが敷設された進路を駆けてきました。
ゾンダーの腕が、そちらへ向きました。
私は駆け出しました。今度は足元だけを見ず、身体全体で前へ進みます。腕をつかみ、砲口を空へ押し上げました。光が夜空を焼きます。
「今です!」
『ファイナルフュージョン、承認!』
承認信号が届きました。視界に、手順が開きます。
何度も練習した言葉を、私は叫びました。
「ファイナル、フュージョン!」
緑の光が渦を巻きました。周囲の瓦礫が押し流され、ゾンダーの巨体が後ずさります。私は腕を開き、接続位置へ身体を合わせました。
ドリルガオーが脚部へ。ライナーガオーが胸を貫き、左右の腕を形作る。ステルスガオーが背中へ接続されました。
ひとつ目の接続は成功。
二つ目も、成功。
けれど、右腕の固定信号だけが赤いままでした。
『右肩接続、遅延!』
衝撃が走りました。ゾンダーが光の渦へ腕を差し込んでいます。機体が傾き、接続位置がずれました。
焦って動かそうとすると、ずれはさらに大きくなりました。
『響くん、腕を動かすな!』
「でも、このままじゃ!」
『君が合わせるんじゃない。今は、機械が合わせる時間だ。姿勢を保ってくれ!』
私は歯を食いしばりました。
紙コップを握ったときと、同じでした。壊さないようにと焦るほど、力が入りすぎる。先生の声を聞いて、ひとつずつ確かめる。
足を固定する。肩を開く。右腕を、待つ。
重い音が、身体の奥で響きました。
『右肩ロック! 全機接続、完了!』
胸の中心に、獅子の顔が収まりました。頭部の装甲が閉じ、視界が開けます。
目の前にいたはずのゾンダーを、私はまっすぐ見ていました。
「ガオ……ガイ……ガー!」
声を出すと、その名前が、ようやく自分の身体になったような気がしました。
ゾンダーが拳を振り上げます。私は左腕を前へ出しました。
「プロテクト、シェード!」
光の盾が広がり、拳を受け止めました。重い。けれど、さっきのように身体ごと吹き飛ばされることはありませんでした。攻撃を押し返し、できた隙間へ右腕を向けます。
「ブロウクン、マグナム!」
放たれた拳が、ゾンダーの肩を砕きました。機械の破片が降り注ぎます。敵の身体が傾き、私は一歩前へ出ました。
ところが、砕けた部分から銀色のものが伸びました。落ちた機械を拾い上げ、傷口へ引きずり込んでいきます。
『再生している……!』
「どうすればいいんですか!」
『胴体中央に強い反応がある。核だ。外装を破壊しても、そこを押さえなければ止まらない』
先生の言葉に合わせて、視界に位置が示されました。装甲の奥、小さな光が脈打っています。
そのときでした。
声が聞こえた気がしました。
苦しい。もう嫌だ。誰も、見ないでくれ。
「……中に、誰かいる?」
私の声に、管制室が静まりました。
『生体反応を再解析!』
ゾンダーが両腕を広げました。全身の隙間が赤く光ります。私は後ろを振り返りかけ、やめました。まだ避難は終わっていない。逃げれば、その光が道路へ届いてしまう。
『響くん。両手を組めるかい』
先生の声が、低く響きました。
『左右の出力を合わせ、敵の中心部だけを圧壊する。核を壊さず、外殻から引き抜くんだ』
「……分かりました」
右手と左手を合わせました。二つの力がぶつかり、腕が震えます。自分の身体なのに、押さえているだけで精いっぱいでした。
『出力差、補正します!』
『敵の射線、固定!』
『響、こちらの退避は任せろ!』
みんなの声が聞こえました。私は顔を上げました。
「ヘル・アンド・ヘブン!」
組んだ手の中で、光が固まりました。私は走りました。ゾンダーの放つ熱が、全身へ叩きつけられます。それでも、示された一点から目を離しませんでした。
逃げなかったから、怖くなくなったわけではありません。
怖いまま、私は手を伸ばしました。
「うあああああっ!」
両手が外装へ食い込みました。金属が潰れ、何かが割れる音がします。奥にあった小さな塊をつかみ、私は力を込めて引き抜きました。
次の瞬間、ゾンダーの身体から光が消えました。
崩れ落ちる巨体を押しのけ、私は後退しました。手の中には、赤黒く脈打つ核が残っていました。
『敵機体、活動停止!』
歓声が上がりかけました。けれど、私はそれを聞いていられませんでした。
核の奥で、何かが動いていました。小さく丸まった、人のような影です。
「先生」
私は手を開きました。指が震えていました。
「この人、どうしたら助けられるんですか」
通信から、返事はありませんでした。
先生は知っていたのだと思います。戦いが終わっても、それだけでは救えない命があることを。
その夜、私たちは初めてゾンダーを倒しました。
けれど、手のひらに残ったひとりを助ける方法は、まだ誰も持っていませんでした。
最後まで読んでくださりありがとうございます。今回、とうとう3年ぶりの8話にてようやくガオガイガーにファイナルフュージョンしました。
そして、現在、護くん(ラティオ)的、存在がいない為、浄解ができず、ヘルアンドヘブンを使ったことによる凱同様のリスクも当然存在している為、次の話では大変なことになっているかもです。よろしくお願いします。
ラティオ的存在の候補
-
キャロルの先祖
-
エルフナイン
-
オリキャラ