東方桃神伝   作:春鯉

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 桃太郎のモデル、吉備津彦命。本名桃子が幻想郷に幻想入り!霊夢に会ったり、鬼と戦ったり、魔理沙と弾幕ごっこをしたり、人里に行ったり。そんな中で異変が起こり?……


東方桃人伝

 

 桃子は眠る中、下が痛いことに気がついた。うっすら目を開けると地面の上に寝ていた。一気に意識が覚醒して起き上がる。そこは神社だった。左を見たら鳥居があり、右を見れば階段がある。寝相が悪かったら階段から転がり落ちていたかもしれないと思うと桃子はギョッとした。桃子は立ち上がり、境内の中に入った。ここがどこか聞かなくては。スニーカーが石造りの地面を踏む。賽銭箱までやってきたが、パーカーをまさぐってお金がないことに気がついた。

 

「あら?外来人かしら」

 

 神社の中から巫女さんが出てきた。外来人?外国人?桃子は私も彼女と同じく日本人なのだが?と思った。

 

「ここがどこだか分かる?」

 

「どこって……いや分からない」

 

 質問の真意は分からないが、桃子は素直にそう応えた。

 

「そう。立ち話もなんだし、中に入って」

 

 そう言うと巫女は桃子の答えも聞かず、中に入ってしまった。こうなれば中に入る他ない。桃子はスニーカーを脱ぎ、賽銭箱の横から階段を登っていく。木の板が軋む。居間までやってくると巫女はお茶の準備を済ませていた。桃子はお茶が置かれた位置に座る。

 

「ここは幻想郷」

 

「幻想郷?ここは……異世界なのか?」

 

「いいえ、あなたがいた外の世界と繋がってはいる。ただ博麗大結界によって隔離されているの」

 

 巫女はお茶を飲みながら煎餅を摘む。桃子はそれらに手を付けない。

 

「その結界を管理しているのが私、博麗霊夢。博麗の巫女よ。そして巫女のもう一つの仕事が妖怪退治」

 

「妖怪?」

 

「そう。神、妖怪、幽霊などの神秘。幻想郷は外の世界で忘れ去られた者の楽園なのよ。ま、そういうのがやらかした時にぶっ飛ばすのが私の仕事」

 

 桃子は納得する。何故私がここにいるのか。そして声を抑えてこう聞いた。

 

「妖怪……鬼もいるのか?」

 

「?まぁ、もちろんいるけど?」

 

 霊夢は困惑していたが、暢気にお茶を啜る。私がやること……やるべきことは決まった。桃子は決意した。

 

 "次の瞬間、桃子は居間の障子を蹴破って境内に向かう"

 

 そして鳥居の前で突っ立っている鬼に向かって右拳で殴りつけた。

 

「いやぁ、こんな殺気は久しぶりだ」

 

 小柄な鬼は拳を手のひらで受け止め、笑う。踏ん張った足が地面を削る。桃子は拳を引いてかかと落としを決める。鬼は消え去り、地面が抉れるのみだった。いや消えたのではない。後ろから来る拳を掴み取り、投げ飛ばす。鬼は飛ばされたが、無事着地する。桃子は間合いを詰めようとした。

 

「何やってんのよ!」

 

 しかし後ろから聞こえる霊夢の声に桃子の足が止まる。それでも鬼は見据えたままだ。

 

「いきなり殴りかかってきたんだよ〜」

 

 鬼は情けなさそうに笑ってそう言った。桃子はギリッと歯軋りをして呻いた。

 

「鬼ならば当然だろう」

 

「ちょっと!外来人!萃香……鬼のことは私に任せてくれればいいから戦闘態勢をやめて!」

 

 桃子は霊夢の発言の中で鬼の名前を聞き咎めた。

 

「萃香?鬼を名前で呼んでいるのか?あなたは信用できない。私が殺る」

 

「いいねぇ。久しぶりの殺し合いだ」

 

 萃香も戦闘態勢に入る。

 

「萃香も殺し合いに乗ろうとするな!二人ともいい加減にしろ!!」

 

 霊夢は叫んだ後、スペルカードを発動する。

 

霊符「夢想封印」

 

 色鮮やかな弾幕が放たれる。桃子は避けながら鬼へと間合いを詰めようとしたが、弾幕が追尾してくる。方向転換して霊夢に近づこうとしたが、その前に追いつかれた。桃子に弾幕が当たり、地面に倒れる。体が動かない。萃香も同じように避けていたが、結局追いつかれた。霊夢は倒れた桃子に近づき、見下ろしなが

らこう聞いた。

 

「鬼と戦おうとするなんてあなた、普通の外来人じゃないわね?」

 

「……"桃太郎"鬼退治の伝説を持つ現人神だ。本来の名は桃子」

 

 倒れながらの名乗りなど格好がつかない。

 

「妖怪と闘うにしても幻想郷のルールがあるのよ。郷に入れば郷に従え。ちゃんと守ってもらうからね」

 

「……はい」

 

 

***

 

 

「それじゃあ、私が模擬戦の相手をさせてもらうぜ!」

 

 スペルカードシステムの説明を受け終えた頃、博麗神社に来訪があった。彼女の名は霧雨魔理沙。普通の魔法使い。魔法使いは普通じゃなかったはずだがと桃子は常識を振り返ったが、それは外の世界のものだ。幻想郷は昔妖怪が跋扈していた頃の感覚に近いなと桃子は思った。それはさておき、"弾幕ごっこ"の模擬戦をやることになったのだ。

 

魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 魔理沙は箒に乗り、上空から星の形をした弾幕が降ってくる。桃子は神社の石畳を走り抜けて避ける。次は桃子のスペル。

 

家臣「留玉臣命(とめたまおみのみこと)

 

 桃太郎のモデルと謳われる吉備津彦命の家臣である。鳥飼であり、雉のモデルでもあるとか。桃子は雉を召喚し、魔理沙にけしかける。

 

「くっそ、鬱陶しいな。なら!」

 

彗星「ブレイジングスター」

 

 箒が物凄い勢いで直進してくる。走ってもとても避けられない。

 

家臣「犬飼健命(いぬかいたけるのみこと)

 

 今度は犬のモデルとなった家臣。桃子は犬に跨り、斜め左に駆けた。箒は方向転換しようにもスピードが速すぎて曲がりきらない。

 

「ふっ、これで決めてやるぜ!」

 

恋符「マスタースパーク」

 

 迫り来る光に桃子は咄嗟に刀を抜こうとしたが、手は空を掴む。刀はない。その事に気がついた時には光を受けていた。

 

 

***

 

 

「よし!私の勝利!」

 

「いたた」

 

 ガッツポーズを決めている魔理沙に対し、桃子はよっこらせと立ち上がる。

 

「……弾幕ごっこで刀を使うことはできるか?」

 

 桃子は霊夢の方を向いて聞きにくそうにこう聞いた。外の世界で刀は使えないからこその低姿勢である。しかし考えてみれば魔法を使うくらいなので、刀も危険度で言えば同じなのだから使えない道理がない。そのことが頭から抜けていた。

 

「えぇ、使えるわよ」

 

 お茶ならあるわよとでも言うような軽さで肯定され、桃子は一瞬驚く。しかし次の瞬間にはこう聞いた。

 

「どこか刀を作れるところはあるだろうか?」

 

 霊夢と魔理沙は視線を合わせる。そして霊夢はニヤリと笑ってこう言った。

 

「いい鍛治職人を知ってるわ。その近くに人里もあるし、ちょうどいい。人里に行ってみましょう」

 

 そして二人は地面を蹴ると空で浮遊した。魔理沙は箒に乗っている。

 

「あー……ここの人たちは空を飛べるものなのか?」

 

 桃子が遠慮がちにそう聞くと霊夢はふわふわと浮いたままこう言った。

 

「普通の人間は飛べないわ。でもあなたは現人神で弾幕ごっこもできたでしょう?それなら飛べることもできると思うんだけど……」

 

 桃子は試しに地面を蹴ったが、ただジャンプしただけとなった。もちろん桃子は人の域を超えているので、ジャンプで霊夢たちと同じ高さまで到達する。しかし重力を受けて地面に落ちてしまう。

 

「私は能力で飛んでるから他のやつらがどうやって飛んでるかなんて分からないわよ」

 

 博麗霊夢、空を飛ぶ程度の能力を持っている。

 

「私だって魔法で飛んでるから現人神がどうやって飛ぶかなんて知らないぜ」

 

 霧雨魔理沙、魔法を操る程度の能力を持っている。ちなみに能力に関しては自己申告制である。

 

「早苗にでも聞きに行く?」

 

「空が飛べないのに守矢神社まで行くのか?妖怪の山を登って?」

 

「無理ね」

 

「だよな」

 

 二人でこそこそと話をする。それが終わると霊夢はこう言った。

 

「徒歩で人里まで行きましょう」

 

 

***

 

 

「ここが人里……」

 

 桃子は一昔前の街並みが広がっていて驚いた。川沿いに柳がある街など今の時代ではそうそうない。

 

「それにしても徒歩で神社から人里に行くのは大変だな。参拝客が来ないのも納得だぜ」

 

 魔理沙は霊夢の方を見ながらニヤニヤと笑っている。

 

「いい運動になるじゃない」

 

「それじゃあ、なんだ?これからは人里まで徒歩で行くのか?」

 

「……」

 

 桃子にはよく分からない話だったが、霊夢の黙りを見てやっぱり徒歩で神社と人里を行き来するのは嫌なんだなと思った。かくいう桃子も人里から神社に行くのは階段が大変そうだなとは思っていた。

 

「何か必要な物があったら人里で買うといいわ。今日は刀を作らないとだし、人里の詳しい案内は省くけど」

 

 霊夢は桃子の方を向き、そう言って話を逸らした。

 

「さほど大きいわけでもないからな。適当に歩いてれば大体分かるようになる」

 

 魔理沙からそんなアドバイスを受けながら桃子は人里の中を抜けた。

 

「寺……?」

 

 目的の場所は確実に寺だった。桃子は鍛治職人がこんなところにいるのか?と訝しんだ。

 

「神社と並ぶ妖怪寺だけどな」

 

「ここは全ての者を受け入れますから人も大歓迎ですよ?」

 

 魔理沙の後ろに女性が立つとこう言った。桃子はこんな髪のグラデーションは中々見ないと感嘆していた。

 

「聖、小傘はいる?」

 

 この女性は聖。そして鍛治職人が小傘という名前なんだろうと桃子は見当をつけた。しかしもしや……

 

「えぇ、墓場にいると思いますよ。ところでそちらの女性は?」

 

「今日幻想入りした外来人よ。厳密には現人神だっけ?とにかく小傘に彼女の刀を作ってもらおうと思ってね」

 

「なるほど。私は聖白蓮です。何か困ったことがあればいつでもいらっしゃってください」

 

 聖の言葉に桃子は笑顔を返したが、少しぎこちない。ある疑惑が頭の中で浮かんだからだ。そしてその疑惑は当たることになる。

 

「小傘!」

 

 霊夢が墓場までやってきて大きな声を出す。墓石の影からはみ出した紫色の傘が見える。

 

 "出てきたのは唐傘お化けだった"

 

 桃子の驚愕を他所に霊夢が話を進める。

 

「小傘、刀を作ってもらえないかしら?」

 

「刀?それは私の専門外だよ」

 

「あんた、鍛治できるじゃない」

 

「鍛治と刀鍛冶は別物。ちゃんと刀鍛冶の職人に作ってもらった方がいいよ。人里にいたと思うけど?」

 

「そうなの?桃子、それでもいい?」

 

 そう言って霊夢が振り向いた時、桃子は上の空だった。

 

「桃子?」

 

「あ、あぁ。それでいいよ」

 

 名前を呼ばれて桃子は急いで頷いた。あぁ、良かった。刀を妖怪に作ってもらうわけにはいかない。だってその刀は……

 

 

***

 

 

 人里の刀鍛冶によって桃子の刀が作られ、桃子はひとまず人里で暮らすようになった。職を探すために人里を歩いていると事件が起こった。

 

「妖怪が出たぞ!怪鳥だ!急いで博麗の巫女を呼んでこい!!」

 

 人里の男性がそう叫びながらこっちにやってくる。桃子は男性が来た方に向かって駆け出した。道の傍にある柳が揺れる。騒ぎが大きいところに行けば自然と怪鳥が目に入ってきた。黒い烏が大きくなったような姿をしていた。桃子は真っ向から怪鳥に突っ込んでいった。正面には鋭い鉤爪。これはまずいかと思われた。しかし……

 

 "桃子は一瞬のうちに跳躍し、空中でくるりと回って怪鳥の背中を刀で斬りつけた"

 

 バタリと怪鳥の巨体が地面に倒れ込む。桃子が鞘に刀をカチっと仕舞うと周りから歓声が上がった。

 

「こりゃすごい!あんたは恩人だよ!あともう少しで店が吹っ飛ばされるところだった!ぜひこれを持っていってくれ!」

 

 ある男性は店から商品を持ってきた。それは桃色の羽織だった。ここは呉服屋のようだ。桃子がまだ現代の服を着ているのを見かねてだろう。

 

「ありがとう」

 

「それを言うならうちも……」

 

 わらわらと人が集まってくる。桃子は人々に感謝される中である決意をした。刀をギュッと握りしめる。そして桃子は妖怪退治をして人里で暮らすようになった。

 

 

***

 

 

 桃子は人里で刀を作ってもらい、人里で暮らすようになった。霊夢が知っているのはそこまでだった。いつものように境内を箒で掃除しているとスキマから紫が現れた。何しに来たんだと言う暇もなく、紫からある事件が告げられた。

 

「霊夢、一人の人間によって妖怪が意味もなく殺されているわ。異変よ」

 

「それのどこが異変なのよ。妖怪退治なんてよくあることでしょ」

 

「いいえ。妖怪が襲うより前に妖怪を探し出して殺し尽くす……そういう妖怪退治よ。これは幻想郷のルールに反するわ」

 

 珍しく真剣な表情の紫に霊夢も背筋を正す。

 

「それでも……私は人間の味方よ」

 

「あなたは人と妖のバランサー。幻想郷のバランスが崩れそうになったら例え敵が人間でも戦う。これは人間にとっても危ういことよ。妖怪と人間が真っ向から争い合うことになれば……どうなるか?分かっているでしょう?」

 

「分かった、分かったわよ。異変解決のために動けばいいんでしょ」

 

 霊夢は紫に背を向けて神社の中に向かう。異変の時の道具を出してくるためだ。

 

「よろしくね」

 

 紫は笑みを浮かべながらそう言うとスキマに消えていった。

 

 

***

 

 

 霊夢はいつも通り手探りで空を飛び始めた。巫女の勘はよく当たる。適当に飛んでいれば異変の元凶のところにたどり着ける。今回も同じだった。妖怪の山までやってくると何やら天狗達が騒がしい。侵入者が天狗を斬り殺しているようだ。異変の元凶。幻想郷の妖怪の中でも比較的強い天狗を殺せる。しかしその事実に怯むような霊夢ではない。迷いなく騒ぎが大きい方へ進んでいく。そこには……

 

 "桃子がいた"

 

 前見た時は外来人といった格好をしていたが、今は桃色の羽織を着ている。そして刀を手に持つ姿はよく馴染んでいた、あるべき姿に戻ったように。

 

「何をしているの?」

 

 霊夢が声をかけると天狗達も桃子も動きを止めた。しかしどちらも油断は無い。

 

「妖怪を倒しているだけだ」

 

 桃子の妖怪に対する殺意は大きく、鋭い。これ以上戦えば天狗が死ぬ。それを感じ取り、霊夢はこう言った。

 

「ここは私が相手をするわ。天狗達は引いて」

 

 桃子を見据えながら天狗達は撤退していく。桃子は霊夢の方を見上げた。

 

「同じ人でありながら何故止める?」

 

 霊夢を見る桃子の目に敵対心はあるが、殺意はない。やはり人間の方が殺し合いにはならなさそうねと霊夢は思った。

 

「それは……」

 

「おっと霊夢に先を越されたか」

 

 霊夢が話そうとしたところで魔理沙が箒に乗ってやってきた。二人は紅葉で染まる木々の上を飛び、桃子は斜面にいる。地理的には桃子が不利だ。

 

「まだ戦ってないな。よし!私にリベンジするか?強者はいつでも挑戦を受け入れるぜ」

 

「そうか」

 

 それは空を飛ぶのではなく、地を蹴る跳躍だった。桃子は一瞬で魔理沙の高さまで来て、刀を振り下ろした。しかし魔理沙は空でも移動ができ、桃子は身動きが取れない。魔理沙が刀を避けたら桃子には次手が繰り出せない。その隙を逃す魔理沙ではない。

 

魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 空から落ちている桃子に星の雨が降る。攻撃が避けられないなら壊す。桃子は刀を振り、周りの星を砕いていく。桃子は見事被弾することなく、地面に降りた。だがその着地の瞬間を狙われる。

 

恋符「マスタースパーク」

 

 今から動いても避けられない。桃子はそう悟り、正面を向く。刀に手をかけ……

 

 "マスタースパークを斬った"

 

 マスタースパークが真っ二つに割れる。もちろんマスタースパークの先にいるのは撃った本人である魔理沙。その衝撃波で魔理沙は吹っ飛ばされた。ここまで戻ってくるのには時間がかかるだろう。霊夢は目を細めてこう指摘した。

 

「さっきの技はスペルカードとして宣言しなくてはならないくらいの大技よ。スペルカードルールに則って戦う気はないようね」

 

「……」

 

 桃子は無言で肯定した。霊夢は御札を繰り出す。桃子はそれを木々の間を縫うように避け、霊夢の方に向かう。しかし後ろから御札が追尾していると分かると振り向いて大量の御札を刀で斬った。御札は切られると効力を失うようだ。

 

 "だが桃子は霊夢に背を向けている"

 

 霊夢はそこに針を叩き込んだ。桃子の前にはまだ御札が残っている。しかも後ろから針。避けるにしても御札には追尾があり、斬るために間合いを詰めているのでここで走り出してもすぐに追いつかれる。かといって前後の弾幕を捌ききることなど……

 

 "桃子は舞うように回転しながら前後の弾幕を捌ききった"

 

 スペルカードルールでは反則になる程の回避不可能弾幕を捌いたので、霊夢は決定打に欠けると思った。その一瞬の思考の間に桃子は跳躍し、霊夢のところまで来ると峰打ちを繰り出した。霊夢はほとんど勘でスペルを宣言した。

 

「夢想天生」

 

「は?」

 

 無敵状態となった霊夢に峰打ちがすり抜ける。その驚愕の間に後ろから迫った御札に被弾した。

 

 

***

 

 

 桃子が目を覚ますと結界が張られており、落ち葉のベッドから起き上がれない。体感的に気絶していたのはほんの少しだったはずだ。その間にこれほどの結界を張られるとは。

 

「何故だ……」

 

 桃子は霊夢を見上げて呟く。

 

「何故私を殺していないんだ!?」

 

「あなたが人間だからよ」

 

 ヒュっと桃子は息を呑んだ。グラグラと揺れる信念に桃子は胸の内を吐き出した。

 

「"なら……人間を鬼と称し、殺した私は何になるんだ!?"」

 

 吉備津彦命は吉備国に住みつく鬼、温羅(うら)を退治した、めでたし、めでたし。否、吉備津彦命は天皇の子、皇子として吉備国を平定するよう命じられた者。ならば鬼と称して殺していたのは……

 吉備津彦命に先天的な鬼、妖怪を見る目などなかった。桃太郎伝説が伝わり、神として祭り上げられ、現人神となった時に初めて妖怪を見ることができるようになった。退治する力を得た。そして気がついたのだ、自分が殺してきたのは鬼ではなかったのだと。

 

「いや、いや!例え人であろうと殺す。妖怪と恐れられるものは皆殺す!それがたとえ何であれ!それが、それが人々の望みなのだから!」

 

 正体が何であれ、人々が退治を願うものは全て殺す。それだけを思って桃子は生きてきた。それに縋るしかなかった。"人里の人々は妖怪に恐怖した。だから殺さねばならぬ"と思ったのだ。

 

「なら"人々のために妖怪を生かして"おいてもいいでしょ。天災、飢饉、疫病。人里を脅かす全てを妖怪は守ってくれる。まぁ、妖怪にとって大事な生命線だからでしょうけど。それでも人里の人々にとって利益があるのよ」

 

「あぁ、そうか」

 

 自分は倒された。ということは人々はそれを望んでいたということ。人々が幻想郷のあり方を認めるならば私が認めない道理はない。

 

 こうして桃子は新参らしく異変を起こし、幻想郷に受け入れられた。

 

 

***

 

 

EXTRA

 

「人里にいる限り、妖怪は手出ししてこないからねぇ。たまに低級の妖怪が入り込むけど、わざわざ戦いにいくなんてそんな危ないことしなくてよかったのに……」

 

「ご心配をおかけしました」

 

 翌日。桃子は大家のおばあちゃんからそう言われた。

 

「うんうん、生きててよかったよ」

 

「えぇ、博麗の巫女に助けていただきまして。賽銭を投げに行かなくては」

 

 むしろ私が天狗を皆殺しにするところだったとは桃子は言わない。

 

「博麗神社は遠いよ?大丈夫かい?」

 

「低級の妖怪相手ならば問題ありませんよ」

 

「それは……そうだろうね」

 

 おばあちゃんは怪鳥騒ぎの件も聞いているので、納得した。博麗神社に賽銭を入れるのも目的の一つだが、それはおまけだ。博麗神社での用事は……

 

「妖怪の山に行って天魔に謝罪するわよ」

 

 神社の境内で霊夢からそう告げられる。天魔とは天狗の長である。今回の一件で天魔から呼び出されたのだ。

 

「あぁ……」

 

「天魔がもしあなたを許さなかったら私でも止めることはできない」

 

 妖怪が許さない、それはつまり死を意味している。

 

「私はそれだけのことをした。覚悟している」

 

 桃子は決死の覚悟で霊夢と共に妖怪の山に向かった。

 

 

***

 

 

「ハッハッハッハッハ!天狗を殺した人間など久方ぶりだ」

 

 まるで客人をもてなすような好待遇に二人は唖然とする。座敷には膳が並び、豪華な食事が用意される。上座におわす天魔は豪放磊落に笑っている。

 

「さぁ、食べよ、食べよ。毒は入っておらん。天狗ともあろう者が人間をそんな方法で殺したりせん」

 

 天魔はただの酔っ払いかのように酒盃をグビっと呷る。しかし言葉の端々に威圧感、威厳を感じる。中々の御仁だと思いながらもそれで気後れする桃子ではない。桃子は焼き魚を一口食べた。

 

「美味しい……」

 

 思わず言葉を漏らす。上品な脂が乗っていて至極の逸品だ。

 

「だろう?酒もどんどん飲め」

 

「……そこまで頂くわけには」

 

「酒は苦手か?」

 

 あちらが聞いているのに有無を言わさないその声音で桃子は気がついた。ある程度酔った上での本心を見たいのだと。私に隠さなくてはいけないことなどない。桃子はそう思い、返事をした。

 

「いえ、お酒は好きです。未成年は飲んではいけないという法律もなさそうですし、お言葉に甘えて頂きましょう」

 

 隣の霊夢がグビグビと酒を呷るのを桃子は流し見た。そして宴会が始まった。

 

「さて……」

 

 お酒も進んだ中で天魔は言葉を発する。本題に入ると感じた桃子は背筋を伸ばす。

 

「本来ならば同胞を討たれた仇を取るべきだが……こちらとしても鬼と戦うような御仁と戦いたくは無い。そちらに戦う意思がないのならばこちらも攻撃することはないと誓おう。だが……」

 

 天魔は眼光鋭く桃子を睨みつける。

 

「もしまた天狗に手を出せばこちらも本気で殺しにかかる、よいな?」

 

「はい。そちらが人を襲わない限りは私も攻撃はいたしません。此度の件は本当に申し訳ございませんでした」

 

 桃子は手を付き、土下座する。しかしこれほどの殺気を受けてなお、条件をつけることは忘れない。

 

「うむ、ならば良い」

 

 こうして桃子は天狗と和解し、一件落着となった。

 

 

***

 

 

 桃子と霊夢が立ち去ったのち、天魔は虚空に話しかけた。

 

「で、いるんだろう?」

 

 天魔の目の前、スキマから"八雲紫"が現れる。

 

「あら、分かっていたの?」

 

「そのくらい分かる。"事前にお主から天狗が数人犠牲になると聞いたんだからな"」

 

 八雲紫は桃子が天狗を殺すであろうことを分かっていた。だから事前に天魔に言い含めておいたのだ。仇を討つために桃子を殺しにかからないようにと。そう、八雲紫は知っていたのだ。それどころか……

 

「桃太郎伝説はまだ外の世界で忘れ去られていないだろう。"お主が幻想郷に桃子を招き入れたな?"」

 

 「ふふっ、どうかしら?」

 

 八雲紫は曖昧な返事をする。天魔も聞き出せるとは思っていないのか深追いしない。だが幻想郷に招き入れることができる人物などそういない。天魔は八雲紫の仕業だと確信していた。

 

「"怪鳥騒ぎを起こせば"妖怪の山と謳われるここを襲いに来ると分かっていたわけだ。やめてほしいものだな」

 

「あら、やめてほしいなら事前に伝えた時にそう言えばいいのに」

 

「言えばやめてくれるのか?まぁ、いい。こちらとしてもあの桃太郎と繋がりができたのはありがたい。あちらは天狗に負い目がある。いざとなれば要求を聞いてもらって……」

 

 天魔は顎に手を添え、ニヤリとほくそ笑んだ。天魔には天魔の思い描いている未来がある。しかし天魔は八雲紫に顔を向け、睨みつける。

 

「ただ儂は儂がそう考えることも想定の上でこのことを仕組んだ貴様が腹立たしいというだけだ」

 

「悲しいわ」

 

「白々しい。彼女を連れてきて一体何を考えているのやら」

 

 その問いには答えず怪しげに微笑んで、神隠しの主犯はスキマの中に消えていった。

 

 

 




〈作者の独り言〉
 シリーズ名の東方桃神伝とサブタイトルの東方桃人伝はわざとね。いやぁ、構想から8ヶ月は経ってる。やっとできたぁ!!東方は私の原点にして頂点。二次創作したかったんだよね!
 後書きということでぶっちゃけるとこの話、霊夢が主人公なんだよね。幻想郷に入ってきた新参が異変を起こして霊夢が解決する。東方のテンプレだよ。そして暗躍するのは私の推し、紫様!これがやりたかった!

ー2023.12/19ー
 EXTRAの最後を直しました!自分の中で紫様はこんなに事情を喋らない、もっと企みを持たせるだろ!って解釈違いが起こったので、修正しました。曖昧な終わり方になっちゃうけど、紫様はこういう感じだと思うんです!
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