セキエイ学園。
カントー地方北西部に広がるセキエイ高原に建ち、少し離れた場所にあるポケモンリーグ本部が運営している教育機関。
各地方に点在するトレーナーズスクールと同じくポケモントレーナーにとって必要な知識や実技を学ぶ場所であるが、違う点があるとすればそれは全寮制である事と入学時に相棒ポケモンを1匹貰える事。
学園内で相棒ポケモンと共に過ごし、生活の中で楽しく学び、夢を見つけてもらう事を教育理念とした、比較的新しい学園である。
◯
「やっと着いたな~」
「うん……!」
学園の正面にある駐車場から離れ、モンスターボールの像を中心に据え置いた門の前で学園に着いた事を実感する俺とリコ。リコはどうか分からないが、イッシュ地方からカントー地方まで飛行機で半日、それからトキワシティで一泊した俺にとってはなかなかの長旅だった。
「ここで見つかるといいな……」
「ん?」
「ううん、何でもないよ」
「そうか?じゃあ、中に入ろうぜ」
リコの小さな呟きは分からなかったものの、たぶん自分に対する意気込みか何かだったんだろう。俺も、ポケモン達も……強くなる為に何が必要か見つけられればいいんだけどな。
▽
セキエイ学園は裏側にバトルコートやポケモンと過ごす為の広場があり、その周囲を生徒達が住む寮が囲んでいた。当然男子寮と女子寮に分かれており、俺とリコはお互いの寮へと続く分かれ道の前で立ち止まった。
「じゃあ、次に会うのは明日の入学式だね」
「だな」
セキエイ学園の寮は同じ学年の人と相部屋になるらしく、つまりこれからお互いルームメイトと会う事になるのである。ルームメイト同士の自己紹介や荷物の整理、他にも寮の説明などがある事を考えると、今日またお互いに会うのは難しいという答えに行き着き、ここで別れの挨拶をしたというわけである。
「それじゃ、また明日な」
「うん。また明日」
キャリーケースを転がしながら女子寮への道を進んでいくリコを見送り、俺も男子寮へと続く道を歩き始めた。
一体どんな相手が俺のルームメイトになるのか。話や趣味が合いそうな人だったらいいけど、そうじゃなかったら気まずくなるなぁ、と期待と不安それぞれ半分ずつといった気持ちで俺は男子寮を目指したのであった。
▽
──────そんな気持ちだったんだけどなぁ。
「あ~……そもそもルームメイトがいないってマジかよ……」
男子寮に着き、寮母さんから説明を受け、指定された番号の部屋へと向かおうとした俺に掛けられた言葉はこうだった。
『キョウヤさん、もう一つ大事な事がありました。実は今年入学した男子生徒の人数が奇数でして』
『男子寮には3人部屋がなくて……残念ですがキョウヤさんにはお一人で部屋を使っていただく事になってしまうんですが……』
『あっ!で、でも転校生さんや部屋を変えたいという生徒さんがいれば、キョウヤさんの部屋を優先的に紹介して──────』
……まぁ、そういう事がこの先あるとしてもしばらくは1人であの部屋を使わないといけないって事に変わりはないんだよな。言われる直前にもしかしたらカントー地方の俺が知らないポケモンについて話せるかもとか思っただけにショックがでかい。
「……いないもんはしょうがないか」
ルームメイトがいなくても、生徒は沢山いるんだ。だったらそいつらと仲良くなって、ポケモンの話をしようじゃないか。
そう思いつつ、荷物の整理が終わって暇だった俺は男子寮の外へと足を伸ばしてみる事にした。もしかしたらバトルコートや広場に誰かいるかもしれないと思ったんだが、どうやら当たりだったらしい。
「いろんなポケモンがいるなぁ」
オオタチの毛並みをブラッシングする女子生徒やラッタの前歯を磨く男子生徒、ロゼリアにじょうろで水を与える女子生徒などそれぞれが思い思いに過ごしている。
バトルコートではゴーリキーとエーフィを連れた2人の男子生徒がポケモンバトルを始める準備をしており、その様子を見ている生徒達も少なからずいた。俺も立ち寄って見てみようとすると、コートの近くにあるベンチに見知った相手がいる事に気付いた。
「よっ、リコ。さっきぶりだな」
「え?あっ、キョウヤ。うん、また会っちゃったね」
ついさっき、もう今日は会えないだろうと思って別れたのに、まさかこんなすぐに会えるとはな。俺がその事に内心笑ってると、彼女の隣に座ってる女子生徒が俺をまじまじと見てる事に気付いた。個性的なお団子頭とルーズソックス、チラリと見える八重歯が特徴的な女子生徒だが、もしかしてリコのルームメイトだろうか。
「リコ!誰々このかっこいい人!?もしかしてリコの彼氏とか?」
「へっ!?ち、ちち、違うよ!?そ、そんなんじゃなくて……えーっと……!」
バス停での出来事を思い出したのか慌てふためくリコ。俺との関係を彼女に説明しようとするが、なかなか出てこないらしく考えるように黙りこんでしまった。バス停からここまで一緒に来ただけの関係とはいえ、普通に友達でもいいような気がするけど。
「……と、友達?のキョウヤだよ」
「そこはちゃんと友達って言い切ろうぜ……?」
「ご、ごめん!男の人の友達って初めてだからよく分からなくて!」
まぁ、どこからが友達なのかってのはよくあるよな。俺は会って話をしたらそれはもう友達でいいんじゃないかなって思ってるけど。
「んじゃ改めて。リコの友達のキョウヤだ、よろしく」
「あたしはアン!リコと同室なんだ。よろしくね!」
やっぱりそうか。アンが握手を求めて手を差し出してきたので握ると、上下に何度も振られる。豪快な性格だなとは思うけど、リコにとってはこの位がいいんじゃないだろうか?悪そうな人じゃないみたいだし。
「友達って事はキョウヤもパルデア地方から来たの?」
「いや、俺はイッシュ地方から来たんだ。リコとはここに来る前にバス停で会ったんだよ」
「イッシュ地方か~!あたし、一回行ってみたいんだよね!」
アンと自己紹介を終えると、丁度バトルコートにいる男子生徒達も準備が終わったらしい。バトルに出すポケモンはそのままゴーリキーとエーフィのようでお互いに戦闘の構えを取っていた。
「いくぞ!ゴーリキー、“ばくれつパンチ“!」
「ゴーリキッ!」
ゴーリキーが両手に力を溜め、自分のコートから飛び出していく。エスパータイプのエーフィに効果はイマイチな上、命中率も低い“ばくれつパンチ“。特性がノーガードなら必中だが違うならその確率はおよそ1/2、しかし当たれば確実にこんらんさせられて戦いを有利に出来る。
「エーフィ!“リフレクター“!」
「フィッ!」
もちろん当たれば、だが。
額の玉が輝き、エーフィの目の前にサイコパワーで作られた虹色の壁が張られる。正面から放たれたゴーリキーの“ばくれつパンチ“はその壁に阻まれ、勢いよく弾かれたのであった。
「エーフィ、そのまま“サイコキネシス“!」
体勢を直したゴーリキーだったが、その隙を突かれて体はエーフィのサイコパワーにより持ち上げられていく。ただかわすのではなく、敢えて出した“リフレクター“はエスパータイプに弱いゴーリキーにこの技を当てる為の準備だったんだろう。男子生徒の素早い指示とエーフィの身軽さが相まった結果か。
「フィッ!」
「リキッ!?」
容易に浮いたゴーリキーの体はエーフィの掛け声と共に勢いよく地面に叩きつけられた。どうやらその一撃を以てしてゴーリキーはダウンした様子である。
……あの“ばくれつパンチ“を考えもなしに指示したんならともかく、何かしら秘策でもあったんなら見てみたかったんだけどな。勝負が決まってしまった以上、しょうがないか。
「凄いね今の技!2人共見てた!?エーフィの“サイコキネシス“!」
「うん!」
まぁ、2人は過程よりも最後の決め技に興奮してるみたいだが。でもこれまで何度もポケモンバトルをしてきた身として、熱くなるのは十分に分かる。
「…………」
「どうした、リコ?急に心配そうな顔して」
「えっ?う、ううん、何でもないよ」
「そうか?」
まだ出会って短い間だが、どうやらリコには度々考え込む癖があるらしい。何を考えてるのかは分からないが、言ってくれれば相談に乗るんだがな。
「ねっ!明日の入学式が終わったらいよいよだね!」
「……いよいよ?」
「決まってるじゃん!相棒ポケモン、だよ!」
「……っ!」
相棒ポケモン……あー、確か新入生には学園から相棒ポケモンが1匹贈られるんだっけか。俺はもうポケモンを連れてるからあまり意識してなかったな。そっか、だからどの生徒もポケモンを1匹しか連れ歩いてないのか。
「そういえばそうだったな」
「そういえばって……キョウヤは相棒ポケモンが貰えるの嬉しくないの?」
「いや、俺はもうポケモンを連れてるんだ。だから学園にはここに推薦してくれた知り合いを通して、俺には必要ないって伝えてあるんだ」
だから入学が決まった時から何度かあるっていう面談も1回だけだったからな。面談は推測するに、新入生にどんなポケモンが合うかを学園が判断する為のものだろう。何度か行うのも、1回だけじゃどんな生徒か把握できないからだと思う。
「へ~、そうだったんだ!ねぇねぇ、ならキョウヤは旅とかした事ある?バトルは?ジムに挑戦とかした事ある!?」
「どれもあるぞ。だからポケモンバトルにはそれなりの自信があるぜ」
「じゃあさ、相棒ポケモンを貰ったらあたしにバトルを教えてよ!リコも一緒にどう!?」
俺以外の新入生にとって相棒ポケモンが貰えるってのは、俺がアララギ博士からポケモンを貰える事が決まったあの頃と同じ気持ちなんだろうな。凄い楽しみで、でも自分にトレーナーが務まるのかという少しの不安があるんだよな。
「えっと……じゃあ、お願いしようかな?」
「分かった。俺で良ければ後で教えてあげるよ」
しかし……どうやらまた何か考え事をしていたようだな、リコは。話の流れ的に相棒ポケモンについてだろうか?
「不安か?相棒ポケモンを貰うのが」
「あ……うん。ずっとドキドキが止まらなくて……敢えて考えないようにしてたんだけど……」
そうだよなぁ。一体どんなポケモンが自分の相棒になるのか。その相棒と一緒にこの先やっていけるのか。確かに色々な不安はあると思う。
「でもそれって、言い換えれば相棒ポケモンを大事に想ってるって事だろ?どうでもいいんだったらそもそも楽しみも不安もないからな。その気持ちがあるんだったら、きっと大丈夫だ」
「あたしも凄い楽しみだけど、不安はあるよ?でもさ、ついに自分だけのポケモンが持てる!って思うと不安なんてどっかにいっちゃうんだよね~」
ころころと笑うアン。彼女だけに当てはまらず、親や知り合いがポケモンを連れ歩いてる姿を見て羨ましそうにしたり、いつかは自分もと夢を見る子供は多い。だからこそいざ貰えるとなると、それまで溜め込んできた嬉しさが抑えきれないんだろう。
「うん……ありがとうキョウヤ、アン。なんだか少し心が軽くなった気がする」
「なら良かった」
「ほんと、明日が楽しみだね!……あっ、そうだ!あたしとリコが相棒ポケモン貰ったら、みんなで見せあいっこしようよ!もちろんキョウヤのポケモンも!」
まぁ、俺は別に構わないけど。
「明日でいいのか?なんだったら今すぐにでも出せるけど」
「えっ!?う~ん……いや、やっぱいい!楽しみは明日に取っときたいし!ねっ、リコ!」
「あ、うん。そうだね」
その後、面談はどうだったとか、近寄ってきたヒトカゲと少し触れ合ったりして、気付いたトレーナーが迎えに来たのを頃合いに俺達は寮へ戻るのだった。
「あれ?今思ったんだけどキョウヤ、ルームメイトはよかったの?あたし達と喋ってばっかだったけど」
「ふっ……俺は余り物なんだとさ」
「余り物?…………あっ」
「あー……ま、まぁ、あたし達もちょくちょく電話するから!そんな気落とさないで!ね?」
▽○
(今日は初めてばっかりの1日だったなぁ。初めてのカントー地方のポケモン、初めての相部屋、初めての男の人の友達……あんな事になっちゃったのはちょっとまだ恥ずかしいけど……)
今朝のバス停での出来事を未だ引き摺ってるリコはそれも含め、前向きになったとはいえ明日への期待と不安からなかなか眠れなかった。仕方なく勉強机の上で今日あった事をスマホロトムに日記として残しながら眠気が来るのを待つ事にしたのだ。
(2人共、優しくて良かったなぁ。だけどまた誰かに何考えてるのか分からない、なんて言われないようにしないと…………あれ?そういえば)
────どうした、リコ?急に心配そうな顔して
────不安か?相棒ポケモンを貰うのが
(……初めてだったかも。自分を分かってもらえたのって)
いつも掛けられていた言葉ではなく、いつもとは逆の言葉。気持ちをうまく言葉に表せない、引っ込み思案な自分の事を少しでも理解してくれた人がいた事に、リコは静かに嬉しさを感じるのだった。
セキエイ学園→セキエイ高原→ポケモンリーグ本部が近くにある、といつ理由からセキエイ学園の運営はポケモンリーグ本部がしているという設定です。
アン、可愛いのにアニメ第1話でほぼ出番終了してしまったので、なるべく本作では今後も出番を多くしたいです!